民法改正の理由とは
民法は明治29年(1896年)の制定以来、一度も改正されることなく取引社会の大きな基盤として機能してきました。しかしこの120年間、日本を取り巻く社会環境は激変し、経済構造も多様化・複雑化をみせています。裁判所の判例や法解釈がいくつも生まれ、それらは時代とともにビジネス事務の世界で定着し、気がつくと私たち庶民の生活に大きく影響している点も見逃せません。基本的なルールの概念が曖昧にされ、法的に何が正しいのか見えにくい部分もあります。
また、明治の時代につくられた民法の条文が難解で、言い回しも独特であるため、専門家以外の国民一般にはなかなか理解しづらい実情も、重ねて問題視されていたのです。
この変化の波に対応するには、取引ルールの大きな基盤である民法を時代に合わせて変更する必要があります。そこで、政府は2009年10月から有識者を集めて民法改正に関する審議をスタート。2015年2月に法制審議会民法(債権関係)部会が要綱案を決定します。「国民に広く理解されやすい民法」を目指してさまざまな検討が加えられ、翌月に法案が提出されます。2017年5月26日、「民法の一部を改正する法律」が成立。取引社会における新しいルールがようやく誕生したのです。
改正部分は、主に債権関係
明治の頃と比べ様変わりした日本社会と経済の現状に合わせるべく、このたびの法改正では債権関係を中心に以下の4点が改正されました。
消滅時効
権利を行使しなければその効力は失われるとする消滅時効。旧法では業種ごとに異なった短期の時効を廃止し、原則として「知ったときから5年」に統一。時効期間の判断で無用な混乱や認識の不一致を生み出さない取引環境の醸成を図ります。
法定利率
長らく市場の低金利状態が続いても、民法で決められた法定利率は5%と不動のままでした。これでは利息や遅延損害金の額が一方的に高額となるだけでなく、市中金利との乖離が進んで不健全な取引を助長することにつながりかねません。そこで、法定金利を年5%から年3%に引き下げたうえ、将来的に市中金利が変動した場合それに対応できる仕組みが法律に盛り込まれました。
保証
これまで誰でも簡単になることを許してきた保証人制度についても、一部改良が加えられました。安易に保証人になったことで、想定外の多額債務を背負わされた当事者の事例が多いことを踏まえ、極度額設定の義務化や特別事情(主債務者の死亡など)における根保証の打ち切りなどを定めました。また、事業用融資で経営者以外が保証人になるケースでは、公証人の意思確認を必要とする新制度を導入しています。
約款
不特定多数を相手に、画一的な内容で契約を交わす取引に用いられる「定型約款」。これに関する規定を新設しています。契約時に定型約款の内容を相手方に表示していれば、その内容が認識されていなくても合意形成が認められますが、信義則(民法1条2項)に反して相手方の利益を大きく毀損する条項については、無効にできます。
司法書士試験への影響は?
司法書士試験を受験される予定の方にとって、気になるのが、「民法改正はいつから試験に反映されるのか?」ということでしょう。民法改正の施行日は、2020年4月1日です。司法書士試験は、基本的に試験が行われる年度の4月1日時点における有効な法令に準じて行われます。その慣例にもとづけば、改正法が反映されるのは2020年度からと予想されます。
ちなみに、2018年度における司法書士試験は、法務省から「平成30年(2018年)4月1日現在において施行されている現行の民法にもとづいて解答すること」と発表がありました。改正による出題の変更がある際は、法務省から何らかのプレスリリースがあるはずですので、法務省HPの掲載情報にはなるべく目をとおしておくのがよいでしょう。