主任講師 山田 巨樹
令和6年7月7日(日)に令和6年度の司法書士試験が行われました。
まずは、受験された皆様、お疲れさまでした。
早速ですが、今年度の試験について感じたことを述べさせていただきます。
憲法は、第1問~第3問とも基本的な知識で正解を導ける出題でした。
第4問~第15問まで、つまり民法総則と物権・担保物権からの出題は、昨年と同様、すべての選択肢の正誤は分からなくても、基本的な条文・判例の知識から正解を導くことができた問題だと思われます。
この中で気になったのは、第8問です。
相隣関係からの出題でしたが、見たことがない知識が問われていたと感じた方もいたかと思います。
しかし、肢エで比較的新しい改正に関する出題ではありますが、講義で紹介済みの知識ですし、肢オもできればおさえておいて欲しい知識ではあります。
そして、肢エと肢オの正誤の判断ができれば正解を出せる出題でした。
もっとも、この問題は間違う可能性のある問題かもしれないとも思いました。
続いて、第16問~第19問は債権法からの出題でした。
第16問の詐害行為取消権からの出題は捨ててもいい問題だと思いました。
第17問は保証からの出題でしたが、出題頻度のあまり高くない条文からの出題でした。
講義の復習をしっかりなさっていた方は、肢ア、肢イ及び肢オの判断ができた結果、正解することができたのかなと思いました。基本的な条文及び判例からの出題だったと思います。
第18問の贈与ですが、肢ウはすぐに正誤の判断がつくと思います。
肢オも講義で設例を使って説明をしていたそのままが出題されていたため、正解して欲しい問題でした。
第19問は民法上の組合からの出題でしたが、その肢も基本的な知識なので、正解して欲しい問題でした。
第20問と第21問は、親族法からの出題でした。
第20問は補助からの出題で、肢アと肢イは正誤の判断がついたかと思います。
そして、肢エは後見監督人の欠格事由は基本知識ですから、そこから考えると正誤の判断がつき、正解できたと思います。第21問は扶養からの出題でした。肢アは平成17年第22問肢エで出題済み、肢イは民法880条からの出題で、この2つの肢の正誤が分かれば正解できる問題でした。
第22問と第23問は、相続法からの出題でした。
第22問は遺言からの出題で、肢ウと肢エは基礎知識であり、この2つの肢の正誤が分かれば正解できる問題でした。
第23問は特別の寄与からの出題でした。比較的新しい改正からの出題ではありますが、肢アの正誤の判断はついたと思います。
そこで、肢イと肢ウの検討になるわけですが、特別寄与料が請求できるのは、「被相続人に対して無償で療養看護その他の労務の提供をしたことにより被相続人の財産の維持又は増加した場合」なので、生活費の援助をしていたケースである肢ウでは、特別寄与料は請求できないと判断できると思います。
刑法については、第26問の毀棄及び隠匿の罪に関する問題は、解けなくてもしょうがないかと思いました。
一方、第25問と第26問は解けて欲しかった問題です。
第27問~第34問が会社法からの出題でしたが、概ね、基本的な条文の知識からの出題でした。
第35問は商行為からの出題でした。肢ア、肢ウ、肢エは基礎知識であり、これらの肢から正解を出せたと思います。
昨年と比べると、民法で近年の改正に関する出題がいくつかなされていたことと、親族・相続が例年より難しかったこと等から、全体的に少し難易度が上がったと思います。合格基準点は昨年よりも1問分は下がるのではと思っています。
毎年同じ話になりますが、過去の司法書士試験で出題されている知識以外からの出題があった場合、合格レベルにある受験生でも得点することは難しいです。合格できるか否かは、過去の司法書士試験で出題されている知識が正確かつ横断的に入っているか否かです。
令和6年度の司法書士試験の合格を目指して勉強をしてきた方は、試験直前期である5~6月を過ごしてみて、多くのことをこなすことはできないということに気づかれたのではないでしょうか?こなすことができるのは、過去の司法書士試験で出題されている知識と講義で紹介された改正で加わった知識程度だと思います。勉強をしていると、細かな知識が気になるところかと思いますが、まずは過去の司法書士試験で出題されている知識を正確に覚えること、そして横断的に整理することを目指して勉強を進めていくことが大切です。
民事訴訟法は、昨年と異なり、今年は過去問の知識で正解を導くことができる問題ばかりでした。
第6問の民事保全法は、昨年と同様、過去問の知識で正解を導くことができる問題でした。
第7問の民事執行法は、民事執行における債務者の財産状況の調査からの出題でした。
実務ではとても重要な規定であり、改正で加わった規定ではありますが、講義で紹介した申立権者及び要件を押さえておけば、肢ア、肢ウ、肢エの正誤の判断をつけることができ、正解を導けたと思います。
もっとも、第7問は解けなくてもしょうがないとも思いました。
司法書士法及び供託法は、昨年同様、過去に出題されていた知識から大きく外れた出題はなかったと思われます。
第12問~第27問までの不動産登記法は、昨年と同レベルくらいかと思います。
つまり、多くの出題は過去問の知識が正確に入っていることで、そこから正解を導くことができる問題ばかりだったと思います。
もっとも、不動産登記法の選択肢をひとつひとつ見ていくと、細かな知識がとられていることもあります。そのため、細かな知識が問われたことのみに気を取られ、過去に出題された知識のみでは足りないのではないかと考える方がいます。
しかし、毎年お伝えしていますが、合否は多くの合格者が正確に覚えている知識、つまり、過去の司法書士試験で出題された知識で決まります。
毎年同じ話をしていますが、不動産登記法の多肢択一式は、記述式を解くために必要となる知識よりも、より細かな先例の知識等が問われます。
しかし、より細かな先例の知識等を理解しつつ覚えるためには、記述式で問われる知識の理解が必要となりますので、記述式の対策をしつつ、多肢択一式の過去問を通して、より細かな先例の知識等を身につけるようにしましょう。
昨年と同レベルだと思いました。過去問の知識と会社法の基礎知識で正解を導ける問題が多い印象でした。
商業登記法の多肢択一で必要とされる知識ですが、記述式の対策で身につく知識で多肢択一式も解答を導き出せる問題が多いので、記述式の対策を通して知識を身に着けていくようにしていけばいいと思います。あとは、会社法の知識が前提となっていますので、商業登記法の勉強をしつつ、併せて該当箇所の会社法の勉強もするようにしていただければと思います。
午後の部につきましては、全体的には昨年と変わらないのではないかとの印象です。ただ、今年は記述式の配点が140点になりますから、記述式でしっかりと得点できる人を合格させたいとの考えから、基準点を例年よりも1~2問程度下げる可能性もあります。
午後の部の民事訴訟法から供託法の対策ですが、出題数があまり多くないことから、多くの時間をかけて勉強することはできないと思います。そのため、過去に出題されている知識をしっかりと覚えるという作業に徹していただければと思います。
午後の部の不動産登記法、商業登記法の択一の対策では、いきなり細かな先例を覚えていくのは得策ではありません。まずは、記述式の学習を通じて、不動産登記法及び商業登記法の基本的な仕組みを理解し、基本的な知識を身に付けることが大切です。そして、基本的な仕組みの理解と知識が身につけば、細かな先例も覚えやすくなっていますし、知らない先例が出た場合も、解答を導き出せる場合も増えてくるからです。
スタディングの受講生の方は、スマート問題とセレクト過去問を解けるようにすることは当然として、解説まで覚えるくらいまで繰り返すようにしてください。これにより、過去に出題されている知識はしっかりと身につきます。そして、このレベルになりますと、自ずと何をすべきか分かっていると思いますので、各自で足りないと思うところの学習を進めていけば大丈夫です。
各々記述式の問題を解くに際して、解答手順を確立されていると思います。
私は、
①問1~問5を読む
②(設例)を読み、各問との対応関係を確認する
③答案用紙のチェック
④(答案作成にあたっての注意事項)の確認
⑤別紙1と別紙2の登記事項証明書の確認
をさっと行い、(設例)で示された【事実関係】と資料を確定し、解答を作成していきます。
この手順は、毎年変わりません。
さらに私が上記の手順で問題を確認していく中で、心がけていることは、「名義変更」に注意することです。
実際に、令和6年度の試験でも「名義変更」が問われていました。
では、各設問を簡単にですが、検討していきたいと思います。
問1は、民法の出題ですね。付合の理解が問われてました。
また、これに関連して、問2で問われていた代物弁済による所有権一部移転についても平成18年第12問肢3で問われている知識が問われていました。
問2は、令和4年4月1日に申請した登記の申請情報が問われており、(設例)1と対応していることが分かります。
したがって、(設例)1で示されている【事実関係】を中心に検討していくことになります。
問3は、令和6年2月19日に申請した登記の申請情報が問われており、(設例)2と対応していることが分かります。
したがって、(設例)2で示されている【事実関係】を中心に検討していくことになります。
そして、【事実関係】7では、住所移転をしている旨の記載がありますから、前提として「名義変更」が必要なのではと予測しながら問題文を読み進めることが必要となります。
また、別紙6の遺言書の文言が「相続させる。」となっているのですが、受遺者Xが相続人ではないことが分かります。
しかし、このような場合は「遺贈」を原因として所有権移転登記をすることができるということは基礎知識ですから、判断できたかと思います。
問4は、民法940条の規定が問われています。
これは令和5年4月1日から施行された規定ですが、実務上とても重要な規定ですし、おさえていた受験生も多かったと思います。
とはいえ、条文そのまま丸暗記できていたという人も多かったと思いますので、合格レベルにある方でもA~Eの欄をすべて埋められたという方はあまり多くないのではないかとも思いました。
問5は、令和6年7月5日に申請した登記の申請情報が問われており、(設例)3が対応していることが分かります。問6はスタディングの講義で紹介している通り、被相続人が死亡前に住所と氏名を変更しているときは、その住所と氏名の変更についての登記原因及びその日付を併記することが分かればかけると思います(登研665P165)。また、平成31年第15問肢オで出題されている知識でもあります。
各々記述式の問題を解くに際して、解答手順を確立されていると思います。
私は、
①問1~問3を読む
②第37問の最初に書かれている問題文を読む
③答案用紙のチェック
④(答案作成に当たっての注意事項)を確認
⑤別紙1と別紙11の会社の登記記録を確認
をさっと行いました。
問題文の第1段落目が問1に対応、問題文の第2段落目が問2に対応していることが分かるため、問題文で示された別紙等を確認しつつ、解答を仕上げていくことになります。
問3では、登記することができない事項がある場合は第3欄に記載しなさいとの出題がなされているため、登記することができない事項が1つあるんだろうと考えながら問題文を読み進める必要があります。
そして、別紙4の定款で監査役設置会社を廃止する定款変更がなされていることが分かり、その結果、別紙7の(取締役等の会社に対する責任の免除)は登記できないとすぐに判断ができたのではないかと思います。
そのため、他の案件はすべて登記できることを前提に検討していけばいいことが分かるため、比較的解きやすかったのではないかと思います。
毎年お伝えしておりますが、次年度以降の司法書士試験を受験する方は、まずは、設例を通して基本的な雛形を覚えることと、雛形に関連する知識を覚えることです。その後、平成20年度から最新の過去問を何度も繰り返して知識を身につけることと、資料の読み方などを学んでください。
これだけで合格するために必要な知識は十分身につきます。
山田 巨樹 講師 (司法書士・スタディング 司法書士講座 主任講師) 司法書士試験合格後、1998年から大手資格学校にて司法書士試験の受験指導を行う。教材制作、講義、受講相談、質問回答など司法書士の受験指導に関わるあらゆる業務を担当。多くの合格者を輩出する。 その後、大手法律事務所勤務を経て独立し、司法書士事務所を開設。債務整理、相続・成年後見、交通事故、登記など、地元密着型で信頼される事務所として実績を積む。 スタディング 司法書士講座では、長年の指導経験をもとに、短期合格のノウハウを提供している。 |