令和3年7月4日(日)に令和3年度の司法書士試験(筆記試験)が実施されました。
昨年と同様にコロナ禍での実施でしたが、今年は例年通りの日程で行われました。
まずは、令和3年度の司法書士試験を受験された皆様、お疲れさまでした。
ここでは、令和3年度(2021年度)の筆記試験について感じたことをお伝えするとともに、今回の試験傾向から令和4年度(2022年度)の対策を検討していきたいと思います。現在、令和4年度(2022年度)の試験に向けて勉強中の方もご参考にしていただければ幸いです。
第1問~第3問の憲法と第24問~第26問の刑法は、すべての選択肢の正誤がわからなくても、基本的な条文・判例の知識から正解を導くことができた問題だと思われます。合格レベルにある方ですと、全6問を得点できたという方も多いのではないかと思われます。
民法は、第4問~第15問まで、つまり民法総則と物権・担保物権からの出題につきましても、すべての選択肢の正誤は分からなくても、基本的な条文・判例の知識から正解を導くことができた問題だと思われます。私自身、第1問目から順に解いたのですが、第15問目まで『基本的な問題ばかりで、今年の午前の部の基準点は上がるのではないか』と考えながら解いていました。
続いて、第16問~第19問の債権法では、2019年以降に改正された規定をもとにした出題が目立ちました。
そのため、第16問~第19問では得点できなかった受験生が多かったことが予想されます。
しかし、スタディングの講義の中で紹介した知識から解答を導くことができた問題でしたので、講義で紹介した知識が正確に入っていた方ですと、全4問とは言わなくても2~3問は得点できたのではないかと思います。
第20問と第21問は、親族法からの出題でしたが、基本的な条文の知識で正解を導くことができた問題です。
第22問と第23問は、相続法からの出題でした。
第23問の遺言執行者に関する問題は、2019年以降に改正された規定からの出題でした。
第23問も得点できなかった受験生が多くいたことが予想されますが、こちらについても、スタディングの講義で紹介しておりますので、個人的には得点して欲しかった問題ではあります。
第27問、第29問、第30問、第34問は、基本的な知識が入っている方であれば得点できた問題だったと思います。
第28問と第32問は得点できなかった受験生が多くいたことが予想されます。
しかし、第28問の株式等売渡請求に関する知識及び第32問の株式会社の事業譲渡等に関する知識については、スタディングの講義で紹介しておりますので、得点して欲しかった問題です。
第31問、第33問、第35問は、得点できなくてもしょうがないと思います。
昨年と比べると、民法の債権法・相続法、会社法・商法が難しかったと思います。
そのため、昨年よりも基準点が上がることはないと思います。
毎年同じ話になりますが、過去の司法書士試験で出題されている知識以外からの出題があった場合、合格レベルにある受験生でも得点することは難しいです。合格できるか否かは、過去の司法書士試験で出題されている知識が正確かつ横断的に入っているか否かです。
令和3年度の司法書士試験の合格を目指して勉強されてきた方は、試験直前期である5~6月を過ごしてみて、多くのことをこなすことはできないということに気づかれた方も多いと思います。
こなすことができるのは、過去の司法書士試験で出題されている知識と講義で紹介された改正で加わった知識程度だと思います。
勉強をしていると、細かな知識が気になってしまうものですが、まずは過去の司法書士試験で出題されている知識を正確に覚えること、そして横断的に整理することを目指して勉強を進めていくことが大切です。
第1問~第11問までの民事訴訟法、民事保全法、民事執行法、司法書士法、供託法は、過去に出題されていた知識から大きく外れた出題はなかったと思われます。
第12問~第27問までの不動産登記法は、相変わらず細かな知識を問う問題が紛れていました。
しかし、過去の司法書士試験で出題されていないような細かな知識は、多くの合格者も知らないと思います。
細かな知識が問われたことが気になり、過去に出題された知識のみでは足りないのではないかと考える方もいらっしゃいますが、合否は多くの合格者が正確に覚えている知識、つまり、過去の司法書士試験で出題された知識で決まります。
不動産登記法の多肢択一式は、記述式を解くために必要となる知識よりも、より細かな先例の知識等が問われます。
しかし、より細かな先例の知識等を理解しつつ覚えるためには、記述式で問われる知識の理解が必要となりますので、記述式の対策をしつつ、多肢択一式の過去問を通して、より細かな先例の知識等を身につけるようにしましょう。
不動産登記法よりは得点しやすかったのではないかと思います。
商業登記法の多肢択一式で必要とされる知識については、記述式の対策で身につく知識で解答を導き出せる問題が多いので、記述式の対策を通して多肢択一式対策の知識を身につけていくようにしていけばいいと思います。
民事訴訟法~供託法については、時間をかけることができないためか、過去の司法書士試験で出題された知識以外の知識を入れ込もうとする受験生は少ないような気がします。
一方、不動産登記法と商業登記法については、出題数が多いことと、実際に試験で細かな知識が問われることが多々あることから、細かな知識を入れ込もうとする方もいます。
細かな知識を覚えられるのであれば、それでいいのですが、それによって過去の司法書士試験で問われている知識が抜けてしまうようではよくありません。
午後の部の不動産登記法、商業登記法の択一の対策では、いきなり細かな先例を覚えていくのは得策ではありません。
まずは、記述式の学習を通じて、不動産登記法及び商業登記法の基本的な仕組みを理解し、基本的な知識を身につけることが大切です。
基本的な仕組みの理解と知識が身につけば、細かな先例も覚えやすくなっていますし、知らない先例が出た場合も、解答を導き出せる場合も増えてくるからです。
スタディングの司法書士講座をご受講の方は、スマート問題とセレクト過去問を解けるようにすることは当然として、解説を覚えるくらいまで繰り返すようにしてください。これにより、過去に出題されている知識はしっかりと身につきます。
そして、このレベルになりますと、自ずと何をすべきか分かっていると思いますので、各自で足りないと思うところの学習を進めていけば大丈夫です。
各々記述式の問題を解くに際して、解答手順を確立されていると思います。
私は、以下ををさっと行い、各問で検討すべき【事実関係】と資料を確定し、解答を作成していきます。この手順は、毎年変わりません。
さらに、私が上記の手順で問題を確認していく中で、心がけていることは、「名義変更」に注意すること、法人が出てきた場合は「利益相反取引」を疑うことです。この点については、記述式講座の中でもお伝えしています。
「名義変更」は実務でも重要ですし、司法書士試験でも頻繁に出題されていますし、「利益相反取引」についても頻繁に出題されているからです。
実際に、令和3年度の試験でも「名義変更」と「利益相反取引」が問われていました。「名義変更」を抜かしてしまうと、実務では取り下げになってしまいますし、申請件数を間違えてしまうため、大きな原点になることが予想されます。
では、簡単にですが、各設問を検討していきたいと思います。
問1については、会社の履歴事項全部証明書が資料としてある場合は、商号と本店のチェックが必要です。
名義変更が必要な場合があるからです。
ポイントは、商号変更と本店移転は1件の申請情報で申請できるということです。
問2についても、債務者について商号変更と本店移転が必要となります。
この点に気づけば、あとは「会社分割による債務者の変更」と「共同根抵当権分割譲渡」は素直に解答していくことになります。
問3については、こちらも素直に「債権の範囲」及び「債務者」の変更登記の申請情報を作成することになります。
問4は、私の場合、答案用紙のチェックをした際に、『利益相反取引について書かせるのではないか?』と予想を立てましたが、問題文を読み進めていくうちに、その通りだと確信しました。ある不動産の所有者が法人の取締役を兼ねているケースは、試験でも頻繁に問われています。
記述式で重要なのは、大枠を外さないことです。
大枠を外さないという意味では、令和3年度の試験のポイントは、「名義変更」と「利益相反取引」ということになります。
そして、「名義変更」と「利益相反取引」は過去の司法書士試験でも頻出ですので、過去問をしっかりと検討された方は、気づくことができたのではないかと思います。
各々記述式の問題を解くに際して、解答手順を確立されていると思います。
私は、以下ををさっと行い、各問で確認すべき資料を確定するとともに、各問の解答を作成していきました。
では、簡単にですが、各設問を検討していきたいと思います。
問1については、株主名後管理人の設置と新株予約権の発行は、事例に合わせて覚えていた雛形を書き写す作業をしました。
また、登記記録を見て、「会計監査人」がいる場合は、自動再任を確認する作業が必要となりますが、これも雛形を覚えるに際して設例を通して学習している方は気づけたのではないかと思います。
問2については、株式の譲渡制限に関する規定の変更に伴い、「公開会社になる」という点に気づけたか否かがポイントでした。
それにより、役員等の任期が満了するため、変更登記が必要となるからです。
株式の譲渡制限に関する規定が「廃止」された場合に「公開会社になる」ということに気づけても、「株式を譲渡により」を「普通株式を譲渡により」と変更することで「公開会社になる」と気づけなかった方もいらっしゃたと思います。
問3については、「支配人の選任」ができないことは、基礎知識なので、すぐに気づけたのではないかと思います。
過去の試験でも、令和3年度の出題とは異なりますが、「支配人に関する手続き」が【登記することができない事項】として問われています。
毎年お伝えしておりますが、来年度以降の司法書士試験を目指す方は、まずは、設例を通して基本的な雛形を覚えることと、雛形に関連する知識を覚えることです。
その後は、令和3年度から平成20年度の過去問を何度も繰り返して知識を身につけることと、資料の読み方などを学んでください。
これだけで合格するために必要な知識は十分身につきます。
山田 巨樹 プロフィール
1974年山口県生まれ。明治大学法学部法律学科卒業。司法書士試験合格後、1998年から大手資格学校にて司法書士試験の受験指導を行う。教材制作、講義、受講相談、質問回答など司法書士の受験指導に関わるあらゆる業務を担当。多くの合格者を輩出する。 |