司法書士資格を持つ者だけが携われる独占業務は、司法書士法第3条1号~5号の中で明記されています。
以下、要点だけまとめます。
上記は司法書士にしか認められない業務であり、仮に税理士や行政書士が行えば司法書士法違反行為に相当します。
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司法書士、弁護士、税理士、行政書士はいずれも士業ですが、扱える業務の範囲が異なります。
ただし、一部司法書士と同じ業務ができるケースもあります。
司法書士とそれぞれの資格の違いを見ていきましょう。
司法書士と同じく、税理士にも独占業務があります。
税理士の独占業務と言えば、「税務代理」「税務書類の作成」「税務に関する相談」です。
これらの行為は税理士の独占業務であり、司法書士や行政書士に認められるものではありません。
税理士の中には、司法書士も行える遺産分割協議書の作成代行をする人もいます。
相続に関する業務は、税理士であれば相続税の申告がメインです。
相続不動産の名義変更や相続登記など、登記に関する業務は司法書士に依頼することになります。
行政書士の仕事は、主に官公庁に提出する書類作成や、許可申請に関する代理業務です。
官公庁に提出する書類は、作成代行だけでなく、届出代理も行えます。
司法書士と競合する業務は、遺書の作成代行や遺産分割協議書作成など、相続に関する分野で重なります。
これらは専門家でなくともできますが、複雑な手続きや形式に即した書き方が必要なため、多くの場合は司法書士や行政書士など法律に精通した専門家に依頼するケースが多いです。
どちらに依頼するかは、事務所の信頼度や実績、コスト面など総合的に検討して選ぶのが一般的です。
ちなみに行政書士の資格試験は、司法書士と比べたらそれほど難易度は高くなく、取得しやすい資格です。
行政書士からさらにステップアップを図るため、司法書士試験にチャレンジし、ダブルライセンスを取得する人も多くいます。
弁護士は法律に関するすべての業務を行うことができます。
裁判所に提出する書類の作成、あらゆる訴訟の代理、法律に関する相談など、法的業務であればその範囲に制限はありません。
弁護士以外のものが報酬を得る目的で訴訟事件の弁護行為や異議申立て、それらに関する事務を行い、報酬をもらえば非弁行為と見なされ、厳しく罰せられます。
司法書士の中でも、法務省の認定を受けた認定司法書士は、法律で定められた範囲内のみ訴訟代理業務が行えます。
認定司法書士が訴訟代理を行える裁判所は簡易裁判所に限られ、訴訟額も140万円以下と少額です。
過払い金請求などは事案数が多く、地域によっては弁護士だけで処理できないケースもあります。
認定司法書士は、そうした弁護士人口の構造的な問題をカバーする役割も担います。
士業の資格試験には、受験資格があるものとないものがあります。
司法書士と弁護士、税理士、行政書士の受験資格の有無や、その内容を以下にまとめます。
資格名 | 受験資格 |
司法書士 | なし |
弁護士(司法試験) | 法科大学院修了または司法試験予備試験合格 |
税理士 | 「学識」「資格」「職歴」「認定」の4種類で指定された条件のうち1つ以上を満たす |
行政書士 | なし |
司法書士と行政書士は受験資格がないため、基本的に誰でも受験することができます。
年齢や性別、職歴、学歴、国籍などに関係なく、挑戦できる資格です。
弁護士になるための司法試験には受験資格があり、法科大学院修了または司法試験予備試験合格が条件になっています。
2023年からは要件を満たせば、法科大学院在学中にも受験可能になりました。
法科大学院を卒業する未修コースで3年、既修コースで2年かかります。
また、司法試験予備試験は合格率3~4%前後の難関試験であり、受験資格を得るまでの道のりが非常に長い試験といえます。
税理士は「学識」「資格」「職歴」「認定」の4種類の条件のうち、いずれか1つ以上を満たせば受験できます。
4種類それぞれで指定された条件はやや複雑なので、本記事では割愛します。
詳しくは国税庁の税理士試験のページなどから確認するようにしましょう。
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司法書士、弁護士、税理士、行政書士の試験科目を以下にまとめます。
試験名 | 試験科目 |
司法書士 | 民法、不動産登記法、商法・会社法、商業登記法、民事訴訟法、民事執行法、民事保全法、司法書士法、供託法、刑法、憲法 |
弁護士(司法試験) | <法律基本7科目>
憲法、民法、商法、刑法、民事訴訟法、刑事訴訟法、行政法 <選択1科目> 経済法、国際関係法(私法)、国際関係法(公法)、労働法、知的財産法、環境法、社会保障法、倒産法 |
税理士 | <必修2科目>
簿記論、財務諸表論 <選択3科目> 所得税法、法人税法、相続税法、消費税法又は酒税法、国税徴収法、住民税又は事業税、固定資産税 |
行政書士 | 憲法、行政法、民法、商法、基礎法学、一般知識 |
4つの資格の試験科目はどれも法律という点は共通していますが、法律の種類や科目数は異なります。
また、税理士と司法試験は選択科目がありますが、司法書士と行政書士は選択科目がありません。
税理士は全11科目のうち、5科目に合格すれば取得できます。
ただし、会計学に属する2科目(簿記論、財務諸表論)は必修となっているので、税法に属する科目9科目から、3科目を選択することになります。
司法試験の試験科目は、法律基本7科目と選択科目で構成されています。
また、司法試験は、短答式試験と論文式試験の2つに分かれており、短答式試験は択一式で、憲法、民法、刑法の3科目から出題、論文式試験は記述式で、法律基本7科目と選択科目から出題されます。
司法書士、行政書士は試験問題の中にすべての試験科目が網羅されています。
出題数が多い科目と少ない科目があるので、バランスを考えながら学習することが大切です。
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次は司法書士、弁護士、税理士、行政書士の資格試験の合格率の傾向を比較してみましょう。
資格名 | 平均合格率 |
司法書士 | 4〜5% |
弁護士(司法試験) | 30~40% |
税理士 | 10~15% |
行政書士 | 9~10% |
法律系資格の最難関といわれる司法試験の合格率が、もっとも高いことに驚く方もいるでしょう。
そもそも司法試験は受験資格を得るまでに、一定レベル以上の知識を身につけなければいけません。
司法試験を受験している時点ですでにある程度の法律知識を有しているため、そもそも受験生のレベルが高く、合格率も高くなっています。
次に合格率が高い税理士試験は、科目ごとに試験が独立しており、すべての科目で合格基準を超えなければなりません。
科目合格制度を利用して複数年かけて取得を目指すのが一般的です。
一方、司法書士と行政書士の合格率が低いのは、受験資格がないため、受験生の中には最後まで勉強し終わっていない方や翌年の合格を目指して受験している方なども含ませていることが影響していると考えられます。
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「司法書士と弁護士、税理士、行政書士の資格は、どっちが難しいの?」と疑問に思っている方もいるでしょう。
資格試験の難易度は、受験資格や試験科目、試験制度などさまざまな要素が絡み合っているため、一概に難しい・簡単と言えるわけではありません。
ここでは、試験合格までに必要な勉強時間を軸に、それぞれの難易度の目安を比較していきます。
以下の表は、試験合格に必要な学習時間の目安です。
資格名 | 合格に必要な時間 |
司法書士 | 3,000時間程度 |
弁護士 | 予備試験:6,000〜8,000時間程度
司法試験:3,000〜5,000時間程度 |
税理士 | 3,000〜4,000時間程 |
行政書士 | 500〜1,000時間程度 |
司法書士と行政書士は受験資格がないため、純粋に試験合格に要する学習時間を表しています。
司法書士と行政書士の合格に必要な勉強時間を比較すると、司法書士の方が、圧倒的に時間がかかることがわかります。
そのため、まずは行政書士の資格を取得した後に、キャリアアップとして司法書士試験合格を目指す方も多くいるほどです。
一方、弁護士になる過程として司法試験を受けるためには法科大学院を修了するか、司法試験予備試験に合格しなければなりません。
法科大学院を修了するには2〜3年の期間が必要で、その期間も合格に必要な時間に含まれています。
また、予備試験は非常に難易度が高い試験であり、合格までに膨大な時間が必要です。
以上の事情があり、合格に要する時間は個人差が大きい試験といえます。
税理士も国家資格の中で難易度が高く、3〜5年の長期スパンでの合格を目指すのが一般的です。
必修2科目と選択3科目の計5科目に合格する必要があり、科目1つの試験範囲が広いことが、難易度を上げる要因の1つになっています。
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今回紹介した資格の中でも行政書士試験は、司法書士試験と重複している科目が多く、行政書士の資格取得のために勉強した内容を司法書士試験の勉強に生かせます。
また、司法書士のほうが業務範囲が広いため、行政書士と司法書士のダブルライセンスを目指すと業務の幅が広がるでしょう。
例えば、会社設立の場面を考えていきます。
会社設立にあたって必要な定款の作成などの書類作成は、行政書士単独でも請け負えます。
ただし、その次に必要な商業登記への登記申請は司法書士の業務範囲です。
行政書士は登記の申請ができないため、行政書士の資格だけで会社設立が完結できません。
そのため、すでに行政書士の資格をお持ちの方は、司法書士資格を取得すると活躍の場を広げられるでしょう。
実際に行政書士と司法書士の両方の資格を取得して活躍している方も多くいます。
最後に司法書士と弁護士・税理士・行政書士の違いについて、ポイントをおさらいしておきましょう。
なお、司法書士は難易度の高い試験なので、勉強時間はしっかりと確保する必要があります。忙しい社会人の方はスキマ時間を活用することが大切です。スキマ時間を徹底活用したい方は「スタディング 司法書士講座」をぜひチェックしてみてください。
この記事を監修した人 山田 巨樹 講師(司法書士・スタディング 司法書士講座 主任講師) 司法書士試験合格後、1998年から大手資格学校にて司法書士試験の受験指導を行う。その後、大手法律事務所勤務を経て独立し、東村山司法書士事務所を開設。2014年、「スタディング 司法書士講座」を開発。実務の実例を交えた解説がわかりやすいと好評。 |