スタディング 司法書士講座
講師 山田 巨樹
令和5年7月2日(日)に令和5年度の司法書士試験が行われました。
まずは、受験された皆様、お疲れさまでした。
ここしばらくはコロナ禍での受験で試験中のマスクの着用が必須でしたが今年は、試験中のマスクの着用は任意となり、多くの方はマスクを外して試験を受けられているようでした。
早速ですが、令和5年度の司法書士試験について感じたことを述べさせていただきます。
憲法は、第1問~第3問とも基本的な知識で正解を導ける出題でした。
第4問~第15問まで、つまり民法総則と物権・担保物権からの出題は、昨年と同様、すべての選択肢の正誤は分からなくても、基本的な条文・判例の知識から正解を導くことができた問題だと思われます。令和5年度の特徴としては、まず、第10問の肢ウで改正されたばかりの所在等不明共有者に関するの知識が問われてたということです。もっとも、肢ウを知らなくても正解は出せる問題でした。
次に、担保物権では、抵当権からの出題が第11問の肢オのみでした。そして、第11問で留置権、第12問で先取特権、第13問で質権、第14問で根抵当権が問われており、譲渡担保権の出題がなかったことです。もっとも、譲渡担保は不動産登記法の記述式で問われていました。
続いて、第16問~第19問の債権法については、基本的な条文及び判例からの出題だったと思います。第19問の委任に関する問題は令和2年4月に施行された規定からの出題でしたが、、当然におさえておかなければならない条文の知識からの出題だといえます。講義やテキストで扱っている知識で解けます。
第20問と第21問は、親族法からの出題でした。第20問の養子の問題は、基本的な条文の知識で正解を導くことができた問題です。第21問の未成年後見に関する問題は、少し細かい知識が問われているともいえますが、講義でもテキストでも扱っている条文レベルの出題です。
第22問と第23問は、相続法からの出題でした。第22問は見た瞬間に捨て問だと判断すべき問題です。過去問で問われた知識及び基本的な条文及び判例・先例の知識を徹底的に覚えこんでおくことで、瞬時に捨て問か否かを判断することができるようになります。そして、すぐに捨て問だと判断できると、その分の時間を他の問題の検討に使うことができます。23問の遺言の問題は、基本的な知識で解けます。
刑法については、第24問の刑法の適用範囲の問題は捨て問だと判断していいと思います。この点は、他の合格レベルにある多くの受験生も捨て問だと判断されたのではないかと思います。一方、第25問と第26問は、基本的な条文・判例からの出題でしたので、解けて欲しかった問題です。
そして、肢オが正しいとなると、肢アは発起設立に立って考えるのかもしれないとの判断で解答を出し、次の問題に進むことが得策です。
その他の問題ですが、第32問を除き、基本的な条文の知識からの出題でした。第31問は「判例の趣旨に照らして」という出題でしたが、条文からの出題である肢ア~肢エの判断で回答を出せた問題でした。
もっとも、条文の知識からの出題も、条文を単に覚えれば解けるかといえばそうではなく、条文のどの部分がどのように問われるのかを把握しながら身につけておかなければ問題は解けるようにはなりません。そのため、条文の知識からの出題の方が他の受験生と差がつきやすいといえます。
対策としては、過去問を通して出題箇所を把握しながら知識を身につけ、確実に得点できるよう仕上げておく必要があります。
昨年と比べると、全体的に少し難易度が上がったと思います。基準点は昨年よりも1~2問分は下がるのではと思っています。
毎年同じ話になりますが、過去の司法書士試験で出題されている知識以外からの出題があった場合、合格レベルにある受験生でも得点することは難しいです。合格できるか否かは、多くの受験生が正答する基本的な問題で失点しないことです。そして、それを実現するには、過去の司法書士試験で出題されている知識が正確かつ横断的に入っているか否かです。
令和5年度の司法書士試験を受験された方は、試験直前期である5~6月を過ごしてみて、多くのことをこなすことはできないということに気づかれたのではないでしょうか。こなすことができるのは、過去の司法書士試験で出題されている知識と講義で紹介された改正で加わった知識程度だと思います。勉強をしていると、細かな知識が気になると思いますが、まずは過去の司法書士試験で出題された知識を正確に覚えること、そして横断的に整理することを目指して勉強を進めていくことが大切です。
司法書士法及び供託法は、昨年同様、過去に出題されていた知識から大きく外れた出題はなかったと思われます。
第12問~第27問までの不動産登記法は、昨年と同レベルくらいかと思います。つまり、多くの出題は過去問の知識が正確に入っていることで、そこから正解を導くことができる問題ばかりだったと思います。
もっとも、不動産登記法の問題の肢をひとつひとつ見ていくと、細かなから出題されているものもあります。受験生の心理としては、過去に出題された知識のみでは足りないのではないかと考えてしまいがちです。しかし、繰り返しになりますが、合否は多くの合格者が正確に覚えている知識、つまり、過去の司法書士試験で出題された知識で決まります。
不動産登記法の多肢択一式は、記述式を解くために必要となる知識よりも、より細かな先例の知識等が問われます。しかし、より細かな先例の知識等を理解しつつ覚えるためには、記述式で問われる知識の理解が必要となりますので、申請書の雛形の書き方を学習することを通して理解を深めつつ、多肢択一式の過去問を通して、より細かな先例の知識等を身にけるようにしましょう。
昨年と同レベルだと思いました。過去問の知識と会社法の基礎知識で正解を導ける問題が多い印象でした。
商業登記法の多肢択一式で必要とする知識は、申請書の雛形の書き方を学習することを通して身にけることができる知識で多肢択一式も解答を導き出せる問題が多いので、申請書の雛形の書き方を学習することを通して知識を身につけていくようにしていけばいいと思います。あとは、会社法の知識が前提となっていますので、商業登記法の勉強をしつつ、併せて該当箇所の会社法の復習もするようにしていただければと思います。
午後の部については、全体的には昨年と難易度は変わらないのではないかという印象です。
不動産登記法と商業登記法は、出題数が多いことと実際に試験で細かな知識が問われることが多々ありますので、細かな知識を入れ込もうとする受験生が多いです。細かな知識を覚えられるのに越したことはありませんが、それにより過去の司法書士試験で問われている基本的な知識が抜けてしまうようのはよくありません。
不動産登記法、商業登記法の多肢択一式の対策は、いきなり細かな先例を覚えていくのは得策ではありません。まずは、申請書の雛形の書き方を学習することを通して不動産登記法及び商業登記法の基本的な仕組みを理解し、基本的な知識を身につけることが大切です。基本的な仕組みの理解と知識が身につけば、細かな先例も覚えやすくなっていますし、知らない先例が出た場合も、解答を導き出せる場合も増えてくるからです。
スタディングの受講生の方は、スマート問題(一問一答)とセレクト過去問を解けるようにすることは当然として、それらの解説まで覚えるくらいまで繰り返すようにしてください。これにより、過去に出題されている知識はしっかりと身につきます。そして、このレベルになりますと、自ずと何をすべきか分かっていると思いますので、各自で足りないと思うところの学習を進めていけば大丈夫です。
各々記述式の問題を解くに際して、解答手順を確立されていると思います。
私は、
①問1~問4を読む
②答案用紙のチェック
③(答案作成にあたっての注意事項)の確認
④別紙1と別紙2の登記事項証明書の確認
⑤問題文の最初の部分及び【事実関係】の確認
をさっと行い、各問で検討すべき【事実関係】と資料を確定し、解答を作成していきます。この手順は、毎年変わりません。
さらに私が上記の手順で問題を確認していく中で、心がけていることは、「名義変更」に注意することです。
実際に、令和5年度の試験でも「名義変更」が問われていました。
また、過去問を検討している方はお分かりかと思いますが、問題文の最初の部分に各問を解いていくにあたって読むべき【事実関係】の指示がなされていますので、基本的にはこれに沿って検討していくことになります。
では、各設問を簡単にですが、検討していきたいと思います。
問1は、別紙3が譲渡担保の解除証書だったので、ビックリされた方もいらっしゃったかと思います。譲渡担保契約が解除された場合、どのような登記申請をする必要があるのかは、実は、多肢択一式の過去問では出題されています。譲渡担保契約が「解除」された場合については、具体的には令和3年第18問肢ウ、平成26年第18問肢オで問われていますし、「弁済」された場合については、平成27年度第20問肢イで問われています。多肢択一式の過去問をやりこんでいる方ですと、登記原因が「年月日譲渡担保契約解除」と書けたのではないでしょうか。
また、【事実関係3】で住所移転した旨が記載されていますが、記述式の過去問をしっかりとやっている方は、これを見で、「名義変更」が必要かもと瞬時に判断できたと思います。なお、「名義変更」については、平成31年度(根抵当権者)、平成29年度(所有権者)、平成28年度(所有権者)、平成26年度(所有権者)、平成25年度(所有権者)、平成21年度(所有権者)、平成20年度(根抵当権者)で問われています。
問2については、多肢択一式の過去問の知識で解答できたと思います。今年は多肢択一式で譲渡担保からの出題がありませんでしたが、記述式で問うてきたなと思いました。
問3で、まず注意が必要だったのは、「乙土地」について「所有権以外の権利の登記」が問われていたということです。そして、連帯債務者の相続による抵当権の変更からの連帯債務者の債務引き受けの抵当権変更は、平成29年度で問われていますし、「及ぼす変更」は、平成22年度で問われています。
問4は、(1)は問2と同様、択一の過去問の知識で解答できたと思います。(2)も多肢択一式の過去問の知識で解答できたと思われますし、講義及びテキストで紹介済みの知識ではあります。
全体としての感想は、譲渡担保の解除をどのように処理するのか以外については、記述式の過去問をやりこんでおくことで対応できたと思いました。
各々記述式の問題を解くに際して、解答手順を確立されていると思います。
私は、
①問1~問4を読む
②答案用紙のチェック
③(答案作成に当たっての注意事項)を確認
④別紙1と別紙8の会社の登記記録を確認
をさっと行い、各問で確認すべき資料を確定するとともに、各問の解答を作成していきました。
そして、問題文をさっと読み終えた感想としては、問題文及び資料が多いなと思いました。それと同時に、登記できない事項を解答させる欄がなかったため、何も考えずに決議されているものはすべて登記すればいいのではないかと思いました。
個々の内容については、例年と同じく、記述式の過去問をしっかり検討しておくことで、書くことのできる内容だったと思います。もっとも、資料が多かったことと、各自で株式数や議決権を算出する作業があったため、時間内に処理するのがとても大変だったのではないかと思いました。そのため、最後まで書ききれなくてもある程度の点数はつくのではないかとも思いました。
山田 巨樹 プロフィール
1974年山口県生まれ。明治大学法学部法律学科卒業。司法書士試験合格後、1998年から大手資格学校にて司法書士試験の受験指導を行う。教材制作、講義、受講相談、質問回答など司法書士の受験指導に関わるあらゆる業務を担当。多くの合格者を輩出する。 |