一言でいえば、社労士は「人の専門家」です。従業員の労働条件や社会保険の管理など、企業の人事労務管理を行います。
一方、税理士は「税金の専門家」です。納税方法のアドバイスや申告書の作成などを行うのが仕事です。
社労士と税理士の具体的な違いを以下の表にまとめました。
比較項目 | 社労士 | 税理士 |
仕事内容 | 労働社会保険の手続き
労務管理の相談指導 年金に関する相談 紛争解決手続きの代理(※特定社労士のみ) 補佐人の業務 |
税務業務
会計業務 その他の業務 |
独占業務 | 企業や個人事業における人事労務管理業務 | 税務業務 |
働き方 | 社労士事務所や一般企業に雇用されて働く
開業して自分で事務所を構えて働く |
税理士事務所や一般企業に雇用されて働く
開業して自分で事務所を構えて働く |
年収 | 約460万円 | 約680万円 |
それぞれの項目を詳しく紹介していきます。
▼社労士の仕事内容
社労士の主な仕事内容には、以下の5つがあります。企業の人事労務管理をサポートする業務が中心です。
仕事内容 | 例 |
労働社会保険の手続き | 法改正に対応する手続き、各種助成金の申請など |
労務管理の相談指導 | 雇用管理、人材育成、人事、賃金、労働時間など |
年金に関する相談 | 加入期間や受給資格の確認など |
紛争解決手続きの代理(※特定社労士のみ) | 裁判によらない解決 |
補佐人の業務 | 弁護士とともに裁判に出頭して意見陳述 |
【あわせて読みたい】社労士の資格とは?仕事内容・なるには・難易度・受験資格・活かし方まで
▼税理士の仕事内容
一方、税理士の仕事内容は以下の3つがあげられます。企業の税金に関する業務が税理士の主な仕事内容です。
仕事内容 | 例 |
税務業務(独占業務) | 税務書類作成、税務代理、税務相談 |
会計業務(税務業務に付随して依頼されることが多い) | 会計帳簿への記帳や財務諸表(決算書)の作成 |
その他の業務(能力や経験次第でできるようになる) | 経営コンサルティング(経営計画・財務戦略)、相続・事業承継、IPO、M&A、国際税務など |
「独占業務」とは、資格所有者のみが独占的に行える業務のこと。資格所有者以外は、業務に携わることが法律で禁止されています。
▼社労士の独占業務
社労士の独占業務は、企業や個人事業における人事労務管理業務であり、社会保険労務士法第2条に定められています。
たとえば、企業が従業員を採用した際の社会保険や労働保険の手続きを代行する業務があげられます。就業規則や賃金規程など、行政機関に提出する書類の作成及び提出代行も社労士の独占業務です。
【あわせて読みたい】社会保険労務士の独占業務とは?
▼税理士の独占業務
税理士の独占業務は、税務業務です。確定申告書などの書類を作成する税務をはじめとした、税金に関する業務があげられます。税務の手続きや計算などに関する相談を受け、アドバイスを行うことも税理士の独占業務です。
▼社労士の働き方
社労士の資格を活かした働き方としてもっとも一般的なのは、社労士事務所・社労士法人で働いたり、独立開業したりすることです。
顧問先企業の従業員の雇用や退職に伴う各種手続き、給与計算、助成金活用のサポートなどを行います。
このほか、一般企業(人事・総務などの部署)、弁護士事務所、会計事務所などで働くことも可能です。
▼税理士の働き方
税理士は、税理士法人・税理士事務所や会計事務所に勤務する、あるいは独立開業するのが一般的な働き方です。
顧問先企業に対し、税務代理や税務書類作成といった独占業務のほか、財務諸表や帳簿の作成、経営コンサルティングなどを行って経営のパートナーとして寄り添います。
このほか、一般企業に就職する選択肢もあり、財務・経理部門で活躍し、専門性を高めていけばCFO(最高財務責任者)も目指せます。
また、金融業界にも活躍の場があります。
▼社労士の年収
令和元年(2019年)分の厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」では、社労士の平均年収は約460万円です。
社労士事務所や一般企業に雇用されて働く場合、男女で大きな差はなく、勤続年数によって年収が上がっています。
同調査によると、男性は40歳、女性は35歳以降で調査全体の平均年収を超えていきます。
開業をした社労士の場合は、数億稼ぐ事務所や数百万しか稼げない事務所などピンキリです。
【あわせて読みたい】社労士の年収は?男女別・年齢別データや開業して活躍する方法を解説
▼税理士の年収
「令和3年賃金構造基本統計調査」によると、公認会計士・税理士の平均年収は約658万円となっています。
1,000人以上の従業員を抱えている税理士事務所では、平均年収が1,000万円を超えています。
※同調査は公認会計士と税理士を分けずに1つの項目としているため、税理士のみの平均年収ではありません。
【参考】政府統計の総合窓口(e-Stat)「賃金構造基本統計調査」
次は、社労士と税理士の試験について比較します。社労士の試験と税理士の試験で、どちらの方が難易度が高いのか気になる方もいるでしょう。
結論からお伝えすると、一般的には、税理士試験の方が難易度が高いとされています。
税理士試験のほうが難易度が高いとされる大きな理由は、社労士は1年の勉強期間で目指せる一方で、税理士は最終的な合格まで一般的に数年かかることです。
社労士試験と税理士試験では、合格までの流れが大きく異なります。
社労士試験は「試験を1回受けて、合格か不合格か」という形であるのに対し、税理士試験に完全合格するまでの流れは、「1年から複数年かけて受験し、合計5科目に合格する」という形が一般的です。
たとえば1年目に2科目、2年目に2科目、3年目に1科目合格すれば、3年目に試験合格となります。
もちろん社労士には一発勝負の難しさがありますが、正しい努力をすれば1年程度の勉強でストレート合格することは十分可能です。
「合格までにかかる期間」という点で社労士のほうが難易度が低いといえます。
前述したように、社労士試験と税理士試験では試験の仕組みが大きく異なります。
このため合格率を単純に比較することはできませんが、それぞれの試験の実態を知る参考データとして近年の合格率を記載しておきます。
▼社労士の合格率
社労士の合格率は6〜7%程度です。
令和4年度までの過去10年の合格率の推移を見ると、高い年で9.3%、低い年で2.6%となっています。
【あわせて読みたい】社労士の合格率は 6〜7% 合格率が低い3つの理由と正しい勉強法を解説
▼税理士の合格率
年度により多少のバラツキはありますが、いずれの科目も10〜20%程度で推移しています。
▼社労士の試験内容
社会保険労務士の試験科目には、大きく分けて「労働関係科目」と「社会保険関係科目」の2種類があります。
上記のような科目が、「選択式試験」と「択一式試験」の2つの試験で出題されます(労働保険料徴収法は択一式試験のみ)。
選択式試験と択一式試験は、それぞれに合格基準点が定められていて、両方とも合格基準点を満たすことで社労士試験合格となります。
どちらか片方が基準点に乗らなければ、合格にはなりません。
試験は筆記試験のみで、面接のような口述試験はありません。試験時間は選択式試験が80分、択一式試験が210分です。
各科目の問題数は、以下の画像のとおりです。
▼社労士試験の合格基準
試験形式 | 満点 | 合格基準点(原則) |
選択式(5点×8科目) | 40点 | 合計28点以上
かつ 各科目3点以上 |
択一式(10点×7科目) | 70点 | 合計49点以上
かつ 各科目4点以上 |
社労士試験では、選択式と択一式それぞれの総得点の合格基準に加えて、科目ごとの合格基準も定められており、どちらかが基準に満たなければ不合格になります。
また、年度ごとの試験の難易度に合わせて特定の科目の合格基準点を引き下げて補正する制度(救済)もあります。
社労士試験の難しさは、科目ごとに合格基準点が設けられており、1科目でも基準を下回ると不合格になる点です。
また、税理士とは異なり、科目合格の制度がなく、翌年の受験でのアドバンテージがないことも、合格率が低くなっている理由の1つです。
▼税理士の試験内容
税理士試験は、11科目中5科目に合格すれば試験合格となります。1回の試験で5科目すべてに合格する必要は無く、複数年にわたって科目合格を重ねていくことができる科目合格制をとっています。
たとえば1年目に2科目、2年目に2科目、3年目に1科目合格すれば、3年目に試験合格となります。
科目は完全に自由に選べるわけではなく、「必須科目」「選択必須科目」「選択科目」から定められた科目数に従って選びます。
いずれの科目も記述式で、試験時間は1科目あたり2時間です。
科目の種類 | 必須・選択 | 科目 |
会計科目 | 【必須科目:2科目】
必ず合格する必要がある |
簿記論
財務諸表論 |
税法科目 | 【選択必須科目:1〜2科目】
いずれか1科目は必ず合格する必要がある (2科目とも選択でもOK) |
法人税法
所得税法 |
〃 | 【選択科目:1〜2科目】
いずれかを選択して合格する |
相続税法
消費税法 or 酒税法 固定資産税 国税徴収法 住民税 or 事業税 |
▼税理士試験の合格基準
各科目の合格基準は「満点の60%」とされていますが、実際は上位10〜15%が合格する相対評価による競争試験と言えます。
これは試験年度ごとの問題の分量や難易度の変動による不公平が生じないための仕組みです。
税理士試験の難しさは、出題範囲がとにかく広く、勉強量が多いことです。
問題数が多く、解答の速度と正確性を両立する力や、捨てる問題を見極める力が求められます。
また、ほとんどの科目で出題される税法の理論に関する問題は、理論の暗記があいまいでは太刀打ちできない難易度です。
勉強しやすい科目、得意科目などを選び、自分で受験のプランニングをするといった工夫が必要な試験です。
▼社労士試験の解答形式
社労士試験は、選択式試験も択一式試験もマークシート形式となっています。
選択式試験は、各問題の文章中に5つの空欄があり、選択肢の中から適切な語句を選択します。
択一式試験は、問題に対する解答を5つの選択肢から1つ選ぶ五肢択一式です(例:正しいものはどれか、正しいものはいくつあるか、など)。
▼税理士試験の解答形式
税理士はマークシート形式ではなく、記述式です。
ほとんどの科目は計算問題と理論問題(例:~について説明しなさい、など)で構成されています。
科目によっては理論問題で求められる記述量が非常に多く、記憶力や文章力以前の「文字を書くスピード」も合格に必要な要素となってきます。
ダブルライセンスとは、2つの資格を保有することを指します。
今回紹介している社労士と税理士は、ダブルライセンスの相性がいい資格です。
ここでは、なぜ社労士と税理士の相性がいいのか、年収や将来性も含めて紹介します。
社労士と税理士の相性がいい理由は、税務・会計業務と労働保険・社会保険業務の関連性が高いからです。
社労士や税理士の顧問先は中小企業が多く、税務や会計、労働保険や社会保険などの業務をまとめて相談してくることもあります。
しかし税務・会計は税理士の独占業務であり、労務・人事業務は社労士の独占業務なので、資格がないと対応できません。
このような理由から、税務会計や労務関係の業務をまとめて引き受ける手段として、ダブルライセンスの相性が良いです。
特に独立開業をした社労士または税理士の場合、受注できる業務の幅が増えるのでダブルライセンスがおすすめです。
【あわせて読みたい】社会保険労務士と相性のいい資格って何?
社労士と税理士のダブルライセンスについて、年収に関する公的なデータはありません。
ただ2つの資格を保有しているだけでは、(資格手当は支給されるかもしれませんが)年収が大幅に上がることはありません。
それぞれの資格の専門性を有機的に結びつけ、勤務先や顧客に貢献して成果を出すことで、年収アップにつながりやすくなるでしょう。
それぞれの資格の年収については、「社労士と税理士の違いは?仕事を比較」の項目で述べたとおりです。
「社労士と税理士のどちらも気になるけれど、どっちを取得すればいいのだろう?」と迷う人もいるのではないでしょうか。ここではどういった人に向いているのか表にまとめました。
社労士 | 税理士 |
人事労務部門に勤務中の人
定年後も安定して働きたい人 |
税務計算が苦ではない人
経営に携わりたい人 |
▼社労士に向いている人
社労士は社会保険関係諸法令に関する業務を行うため、人事労務部門なら業務に活かしやすく、学習の際も理解が早くなります。
また、定年後に独立して企業の顧問になれば安定して顧問料を得られます。
社労士の業務は企業に不可欠な「ヒト」に関わるものが中心です。
雇用や退職に加え、出産や育児、介護などに関わる業務がなくなる可能性は低く、需要も高いので長く働くことを考えている人に向いています。
▼税理士に向いている人
税理士の業務では、数字で埋め尽くされた書類を使い、正しい税額を計算します。当然、数字に抵抗がなく、計算が得意な人に適しています。
税理士はただ税額を計算するだけではなく、会社全体で効果的な節税対策を提案するのも仕事です。
事業全体を把握し、会社に影響のある業務ができるため、経営に高い関心がある人にもおすすめです。
社労士と税理士の顧客はどちらも中小企業が主な顧客です。
2つの資格の業務は関連性が高く、税理士事務所の中には企業の経理と人事労務管理をワンストップでサポートするところもあります。
そのため、税理士事務所に就職し、人事労務の専門家として働いている社労士もいます。
これから社労士取得を目指す人も、上記のような税理士事務所への就職は労務に関する実務経験から多くのことを学べるでしょう。
ただし税理士事務所で働いたことは、社労士試験の受験資格「実務経験」の要件にはあてはまりません。その点は注意しましょう。
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この記事で注目している社労士と税理士について、関連する他の資格についても少し解説しておきます。
税理士と関連性が高い会計関連資格のひとつに公認会計士があります。
公認会計士は税理士試験が免除されるため、税理士資格も取得しているケースがよくあります。
税理士が税務・会計に関する報告書や提出代行を独占業務にしているのに対し、公認会計士は企業の監査を独占業務としています。
企業が作成した財務諸表や決算書を第三者の立場で確認し、お墨付きを与えることが主な業務です。
公認会計士の働き方には、監査法人で働く、一般企業で働く、独立開業をするといった道があり、活躍の場がさまざまであることは社労士や税理士と同じです。
また公認会計士の年収については、「令和3年賃金構造基本統計調査」では税理士とまとめて1つの項目として調査されており、平均年収は約680万円、1,000人以上の法人で働く場合は年収1,000万円超えも目指せます。
公認会計士になるには、公認会計士試験に合格後、修了考査に合格する必要があります。
修了考査を受験するには、2年間の実務経験と実習補習所での単位取得が必須です。
税理士と同じく、取得難易度が高い資格となっています。
【参考】政府統計の総合窓口(e-Stat)「賃金構造基本統計調査」
司法書士は国家資格のひとつで、法律事務の専門家です。
登記や供託の代理、裁判所や法務局に提出する書類の作成などを独占業務としています。
企業にとっては、創業時の会社設立登記、その後の法務や登記などで頼りになる士業です。
社労士、税理士、司法書士はいずれも会社のバックオフィス業務をサポートしているので、ダブルライセンスで持っていればワンストップでさまざまなサポートを提供できるでしょう。
「令和3年度賃金構造基本統計調査」によると、司法書士の平均年収は496万円となっています。
資格取得には、3,000時間の勉強が必要と言われている難関資格の1つです。
今回は、社労士と税理士について解説しました。
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社労士試験に合格するには、膨大な出題範囲をまんべんなくカバーして、科目合格のない「一発勝負」を制する必要があります。
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