日商簿記1級試験の難易度について、以下の項目に沿って解説します。
日商簿記1級試験の概要は、下表のとおりです。
試験科目 | 商業簿記・会計学、工業簿記・原価計算 |
試験時間 | 商業簿記・会計学:90分、工業簿記・原価計算:90分 |
合格基準 | 70%以上(ただし、1科目ごとの得点は40%以上) |
試験日程 | 年2回(6月・11月) |
受験料 | 7,850円(税込) |
日商簿記1級の試験は「商業簿記・会計学」と「工業簿記・原価計算」の2つに分けられ、各90分で実施されます。
合格するためには、全体で70%以上の得点を取得しながら、1科目ごとの得点も40%以上を満たす必要があります。
商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算という4つの科目は、それぞれ配点を25点として出題される傾向にあるため、各科目で10点以上をとることが合格のための最低条件です。
関連記事:日商簿記1級の難易度や必要な勉強時間は?取得するメリットや科目別攻略法も紹介
日商簿記1級の難易度・合格率について、2級・3級と比較しながら確認してみましょう。
以下は、近年の日商簿記各級の合格率です。
級 | 回(実施年月) | 合格率 |
1級 | 第162回(2022.11.20) | 10.4% |
第161回(2022.6.12) | 10.1% | |
第159回(2021.11.21) | 10.2% | |
第158回(2021.6.13) | 9.8% | |
第157回(2021.2.28) | 7.9% | |
2級 | 第162回(2022.11.20) | 20.9% |
第161回(2022.6.12) | 26.9% | |
第160回(2022.2.27) | 17.5% | |
第159回(2021.11.21) | 30.6% | |
第158回(2021.6.13) | 24.0% | |
3級 | 第162回(2022.11.20) | 30.2% |
第161回(2022.6.12) | 45.8% | |
第160回(2022.2.27) | 50.9% | |
第159回(2021.11.21) | 27.1% | |
第158回(2021.6.13) | 28.9% |
出典:簿記 商工会議所の検定試験「受験者データ」
回によってバラつきはあるものの、日商簿記1級の合格率は10%前後、2級の合格率は15~30%前後、3級の合格率は40~50%前後といわれています。
関連記事:日商簿記検定(3級・2級・1級)の概要と筆記試験・ネット試験の違い
日商簿記1級の試験では、2級でも出題される商業簿記・工業簿記に加えて、会計学・原価計算が独立した科目として出題されます。
そのため、より高度で専門的な知識が問われる試験だといえます。
そのぶん、合格すれば大企業での複雑な経理業務にも対応できるスペシャリストとして、多くの企業で重宝されるでしょう。
簿記1級の合格に必要な勉強時間の目安は、簿記2級レベルの知識があることを前提として、400〜600時間です。
1日2時間勉強できるとしても1カ月で60時間であるため、7~10カ月程度はかかる計算になります。
日商簿記1級は6月・11月の年2回しか試験が実施されないため、試験日程から逆算してしっかりと学習スケジュールを組みましょう。
ただし、上記は通信講座やオンライン講座、スクールなどを利用して効率的に学ぶことを想定しています。
独学で挑戦する場合は出題傾向や頻出ポイントをつかむのに時間がかかるため、さらに多い500~700時間を想定しておく必要があります。
日商簿記1級の出題範囲は非常に広いため、効率よく着実に合格を目指すなら講座を利用するのがおすすめです。
関連記事:簿記合格に必要な勉強時間とは|3級・2級・1級それぞれの難易度とあわせて解説
日商簿記1級の独学合格は、不可能ではないものの非常に難易度が高いといえます。
2級と比較しても、会計学や原価計算が独立して出題されるなど、より専門的な内容が問われます。
独学では「何をどの順番で学ぶべきか」「どのテーマにより多くの時間を割くべきか」といった学習のポイントがわからず、非効率的な学習になりがちです。
また、学んだ内容を誤って認識していたとしても、自分で間違いに気づきにくい点もデメリットだといえます。
さらに、2級・3級であれば試験日程を比較的自由に選べる「ネット試験」が導入されていますが、1級は年2回の「統一試験」のみです。
対策が足りずに不合格になってしまえば次のチャンスは半年後になるため、より確実に合格を目指す必要があります。
もちろん独学のほうが費用は抑えられますが、その結果不合格が続いてしまえば本末転倒です。
高度な専門知識を問われる日商簿記1級は、通信講座やオンライン講座、スクールなどを活用し、効率的なカリキュラムに沿って対策を進めることをおすすめします。
関連記事:日商簿記1級・2級・3級は独学で合格可能?それぞれの目安勉強時間や勉強法も解説
難易度の高い日商簿記1級ですが、取得すれば以下5つのメリットがあります。
日商簿記1級の資格を所持していると、就職・転職を有利に進められます。
日商簿記1級は高度な経理・会計の知識が問われる資格として広く認知されているため、とくに経理部門において即戦力とみなされ、高い評価が受けられるでしょう。
難関資格であるだけに、履歴書に記載することで周囲と差別化を図れるうえ、資格取得のために継続して勉強できる努力家であることもアピールできます。
また、簿記の知識はビジネス全般に生かせるため、総合職採用においても評価につながりやすいです。
関連記事:簿記資格取得のメリットとは?資格の取り方や難易度、独学が可能なのかも解説
日商簿記1級の資格は、昇進・昇給につながりやすい点もメリットです。
経理部門なら、簿記の資格試験を通して身につけた知識をそのまま生かせるため、適切な会計処理を任せられる人材として評価が高まります。
特に、管理職は正しい知識をもとに判断を下すことが求められるため、客観的なスキルの証明となる日商簿記1級を持っていれば、昇進にもつながりやすいでしょう。
また、企画・営業などその他の部門においても、簿記の知識を生かすことで自社や取引先、競合他社の経営状況を的確に分析したうえで適切なアクションがとれるため、評価につながりやすくなります。
さらに、企業によっては日商簿記の取得に対して資格手当が設けられている場合もあります。
日商簿記1級を取得すると、税理士試験のうち「税法に属する試験科目」の受験資格が得られます。
スペシャリストとしてさらなるステップアップを目指す方にはうれしいメリットでしょう。
税理士試験の「税法に属する試験科目」の受験資格としては、学識・資格・職歴・認定という4種類があり、いずれかを満たさなければ受験できません。
日商簿記1級は「資格」に該当するため、受験が可能となります。
なお、「会計学に属する試験科目(簿記論・財務諸表論)」については、令和5年度試験より受験資格がなくなり、誰でも受験可能になりました。
「簿記論」は日商簿記1級の試験範囲と重なる部分があるため、培った知識の多くを生かせる科目です。
日商簿記1級の資格は、大学受験・推薦で有利に働くこともあります。
推薦入試の際、難易度の高い日商簿記1級を取得していることで高評価につながる可能性があるのです。
実際に、全国で90以上の大学が入試において日商簿記資格の取得者を優遇しています。
参考:商工会議所の検定試験「入試で優遇される大学」
大学入学共通テストでも、数学の選択科目に「簿記・会計」があり、選択すれば日商簿記の知識を活かして受験することが可能です。
ただし、こちらは2024年までとなる見込みです。
さらに入学後も、大学によっては日商簿記の資格を単位として認定する場合もあるため、単位取得の面でもメリットとなります。
日商簿記1級の知識は、独立や資産形成といった場面でも役立ちます。
起業して独立した場合、経営状況やビジネスの収益性を正確に把握できるほか、経理業務は自身で行えるため、外注コストがかかりません。
また資金調達などの際には、簿記の知識を活かした的確な説明が可能です。
投資や不動産購入といった資産形成においても、高度な簿記の知識があれば投資先の財務諸表や物件の評価状況を的確に分析できるため、有利に働くでしょう。
多くのメリットのある日商簿記1級ですが、ほかの難関資格に比べるとどの程度難しいのでしょうか。
日商簿記1級と以下の資格を比較し、難易度を解説します。
米国公認会計士(USCPA)は米国各州が認定する会計士資格で、世界的に認知されています。
合格に必要な勉強時間は1,200〜1,500時間ほどとされており、1日3時間休みなく勉強しても400日、つまり1年以上はかかります。
日商簿記1級の合格に必要な勉強時間は500~600時間であるため、米国公認会計士(USCPA)は簿記1級よりも難易度の高い資格といえるでしょう。
公認会計士は、企業の監査業務を行う会計の専門家で、資格取得までに必要な勉強時間は3,000~5,000時間ほどといわれています。
公認会計士試験に合格するには、会計に加えて監査論や企業法、租税法なども学ぶ必要があるなど学習範囲が圧倒的に広く、日商簿記1級よりも難易度が高いことは明らかです。
日商簿記1級を取得した人が、次のステップとして公認会計士を目指す例もあります。
税理士は、税務書類の作成代理や税務相談に応じる税務のスペシャリストです。
税理士試験の合格に必要な勉強時間は2,500~3,000時間が目安で、日商簿記1級取得に要する勉強時間よりも長く、税理士は簿記1級よりも難易度の高い資格だといえます。
日商簿記1級を取得すれば、税理士試験のうち「税法に属する試験科目」の受験資格を得られることや、「会計学に属する試験科目」である簿記論に知識を生かせることから、税理士受験のためのステップとして位置づけられることも多いです。
FP技能検定とは「ファイナンシャル・プランニング技能検定」の略で、クライアントの資産に応じた貯蓄・投資などのプランの立案、相談対応に必要な技能を証明する国家資格です。
FP1級はFPの最上位資格であり、2級・3級よりも高度な知識が要求されます。
FP1級の取得には450〜600時間程度の勉強時間が必要とされており、日商簿記1級と同程度の勉強量で合格が目指せます。
社労士は労働や社会保険の専門家で、労務関連の書類作成や書類提出代行、労働関係紛争の解決手続きの代理などを行います。
社労士合格に必要な勉強時間の目安は800〜1,000時間ほどとなっており、日商簿記1級よりも必要な勉強時間が長く、難易度の高い資格だといえます。
中小企業診断士は経営コンサルタントとして唯一の国家資格であり、企業をさまざまな角度から診断し、成長戦略の策定や実行のためのアドバイスをします。
中小企業診断士の合格に必要な勉強時間は1,000時間程度が目安となっており、日商簿記1級の2倍程度の時間がかかることからも、より難易度は高いといえるでしょう。
ここからは、よく比較される日商簿記1級と税理士(簿記論)に絞って、試験の概要や難易度の違いを解説します。
「日商簿記1級と税理士試験の簿記論はどちらが難しいのか?」、簿記や税務のスペシャリストを目指すうえで気になる人は多いはずです。
受験者心理として、各資格試験の難易度の差は興味があるところでしょう。
ここでは、気になる日商簿記1級と簿記論の違いについて、どちらを目指すべきかが自己判断できるよう、丁寧に説明します。
▼一般的には税理士(簿記論)のほうが難しいとされる
一般的には、日商簿記1級と比べて税理士の簿記論のほうが難しいと考えられています。
以下、日商簿記1級と税理士の簿記論について、試験日程や合格率、出題内容などさまざまな観点で比較します。
▼日商簿記1級と税理士(簿記論)の違い
日商簿記1級と税理士(簿記論)は、試験範囲が重なり、同じ「簿記」を扱う試験ということからよく比較されますが、細かく見ていくとそれぞれ違いがあります。
まずは、2つの試験の違いをさまざまな切り口で並べてみました。
ここから見えてくることがないか検証してみましょう。
【日商簿記1級と簿記論(税理士試験)の比較】
日商簿記1級 | 簿記論(税理士試験) |
誰でも受験できる | 誰でも受験できる(令和5年度試験より) |
年2回試験(6月・11月) | 年1回試験(8月) |
合格率10%前後 | 合格率15%前後 |
受験者数:約1.7万人/年(2回合計) | 受験者数:約1万人/年 |
事実上の相対試験(競争試験) | 事実上の相対試験(競争試験) |
受験者層の中心は簿記2級に合格した人と公認会計士試験に向けて学習している人 | 従来の受験者層の中心は簿記1級合格者、学識資格がある人、実務経験がある人(令和5年度からの受験資格廃止により、今後変わる可能性あり) |
理論問題がほぼ必ず出る(理論に関して正誤を選択する問題や理論にのっとった計算により空欄を補充する問題であり、暗記によって文章を記述するものではありません) | 理論問題はほぼ出ない( 財務諸表論があるため) |
簿記1級では超難問が出題されるのは稀 | 税理士試験では解けない問題・超難問が出題されることもある |
簿記1級は原則すべての問題を解く試験 | 税理士試験は「解かない・後回しにする」問題が存在する試験 |
時間内に全問解ける | 時間内に全問解けない(ことが普通) |
連結会計が頻出 | 連結会計の出題頻度は高くない |
工業簿記・原価計算が100点満点中50点分出題される | 製造業に関する出題は少ない |
ほかにも違うところはありますが、上記で主な違いを比較してみました。
これらを一つひとつ見て考えると、例えば以下のような難易度の違いがわかります。
こうしてみると、一概にどちらが難しいとは言えないことがわかります。
▼一概にどちらが難しいと言えない理由
ここまで見てきたように、日商簿記1級と税理士(簿記論)を比較しても、どちらが難しいかについて確実なことは言えません。
その理由は、学習内容や試験問題、競争の激しさなど「何をもって難しいとするか」が混同して語られるからでしょう。
そこで少し乱暴なまとめ方をすると、次のような違いがあると考えられます。
どちらの試験も事実上の競争試験であることから、「人より解けないといけない」という点は同じです。
そのため、上記のどちらが自分にとって有利(あるいは不利)なのかによって、その人にとっての難易度が違ってくるのではないでしょうか。
例えば、しっかり勉強した人なら、誰もが解ける問題をより早く正確に解けるため、簿記1級が向いているでしょう。
一方で、個別の論点について深く・細かく勉強するのが得意な人は簿記論が向いているかもしれません。
仮にどちらかが簡単だとしても、どちらも競争試験であるため、ほかの受験者にとっても簡単ということになります。
このように、人によって得意・不得意があるため、結論としては「人によってどちらが難しいかは変わる」とするのが適切でしょう。
日商簿記1級と税理士(簿記論)について、「どちらが難しい?」という議論はそれぞれ自身に当てはめて考える必要があります。
しかし、重要なのはそもそも「どちらを受験するか」でしょう。
その場合、ただ簡単なほうを選ぶのではなく、「資格を取って何をしたいのか」で選ぶべきではないでしょうか。
当たり前ですが、税理士になりたい場合は税理士試験は避けて通れません。
どちらが難しいかに関係なく、簿記論(税理士試験の必須科目)に合格する必要があります。
▼税理士を目指すなら
税理士を目指すなら次のような受験パターンが一般的です。
「税法に属する試験科目」の受験資格の有無によって異なります。
※「会計学に属する試験科目」である簿記論・財務諸表論については、令和5年度分より受験資格が不要になりました。
▼公認会計士を目指すなら
公認会計士を目指す場合、いきなり公認会計士予備校などで勉強することも多いですが、そうでない場合は次のようなパターンが一般的です。
※公認会計士を目指して勉強中の人が力試しとして簿記1級を受けることが多い
▼経理のスキルを磨いてキャリアアップを目指すなら
会社に務めるなかで、経理の知識とスキルを磨いてキャリアアップを目指す方も多いでしょう。
その場合、簿記2級から簿記1級へ進むのが王道です。
大企業には社内税理士も多いですが、社員として将来経営に携わっていきたいということであれば、簿記1級がおすすめです。
通常の会社は税理士と契約して申告などを行っているため、自分が税理士である必要はありません。
それよりも、普段の業務や事業に対して経理の立場で分析したり、会計的・ビジネス的に正確に情報をまとめるスキルを磨いたりするのがよいでしょう。
そのためには、より経理実務に近い簿記1級がおすすめだといえます。
まとめると、日商簿記1級と税理士(簿記論)の難易度と選び方については以下の通りとなります。
▼簿記1級と簿記論はどちらが難しい?
いずれも実質的な競争試験であり、結局「人より点数を取る必要がある」ことは変わらないため、得意・不得意の違いだといえるでしょう。
▼簿記1級と簿記論で悩んだら、最終的に何をしたいのかで決めるべき
本記事では、日商簿記1級の難易度について、合格率やその他の資格との比較をまじえて解説しました。ポイントをおさらいすると、以下の通りです。
日商簿記1級は、経理・会計のスペシャリストとして広く認知されており、就職や転職、キャリアアップにつながる資格です。
オンラインで学べる「スタディング簿記講座」なら、忙しい方でもスキマ時間で学習が可能です。
効率よく日商簿記1級の対策を進めたい方は、ぜひ無料登録をお試しください。
記事一覧へ |
試験の概要や試験に出る各論点の攻略法をわかりやすく解説します。
無料で講義と問題をお試し |