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寺尾講師が考える「簿記ができる人」の頭の使い方

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【スタディング 簿記講座】

寺尾講師が考える「簿記ができる人」の頭の使い方

簿記1級講座受講生からいただいた以下のご質問について、寺尾講師にお答えいただきました。

寺尾先生が「学生の頃、簿記が得意な人の考え方を参考に勉強したら、解けるようになった」と仰っていました(※)が、具体的にどういう考え方なのでしょうか?

※寺尾先生の学生時代のエピソードは、「講師メッセージ」よりご覧いただけます。

寺尾先生の考える「簿記ができる人」の頭の使い方は、以下の3つだといいます。

  1. 簿記は実学なので、内容は具体的で、難しいはずがないと考えている
  2. 簿記を勉強する際は、暗記より理解に重点を置く
  3. 複式簿記は貸借が一致する前提であることを利用して考えている

ここからは3点のそれぞれについて、寺尾講師の詳しい解説をご紹介します。

実学なので難しいはずがないと考えている

第一に学習と向き合う際の頭の使い方として、「簿記は実学なので、内容は具体的で、難しいはずがないと考えている」点が挙げられます。

(「実学」の定義は複数ありますが、ここでは「実用的な学問」として考えてください)

実際に経理や財務の実務で行われていることを勉強しているわけですから、それほど難しいはずがないのです。

もし簿記の内容が闇雲に難しいものであれば、経理実務に支障をきたしているはずです。

これが例えば大学入試の数学などであれば、答えを見ても理解するのに時間が掛かるような難問を出題することも可能でしょうし、実際に毎年そういう難問を出す大学もあると思います。

しかし、実学である簿記においてそのような難問を出題しても、それはナンセンスということになってしまいます。

それは簿記が実務で普通の人が日常的に行っていることを題材にしているからです。実学なので机上の空論では意味がありません。

簿記の問題を難しくしようとすれば、分量を増やすか、数字の単位で引っ掛けるか程度になりがちなのはこのためです。

そして、難しいはずがないのですから、簿記の問題は時間さえ掛ければ必ず解けるはずです。

そういうスタンスで臨めば、問題を前に委縮することはなくなりますし、得意意識(あるいは攻めの意識)を持って解きにかかれます。

勉強に限らず何事もそうですが、「いける」「絶対にやれるはず」と思えるような場合には、だいたい上手くいくのではないでしょうか。

モチベーションに関する最近のはやり言葉に「自己効力感」「セルフ・エフィカシー」というものがありますが、まさにこれにあたると思います。

簿記の問題は数学の難問や難解な文章の読解問題などと違い、「解けるに決まっている」と強気に望んで良いし、そのメンタリティこそが大切という点です。

それが勉強へのモチベーションを高め、自信を持って思考することにつながります。

勉強する際は暗記より理解に重点を置く

2点目に、簿記の内容をインプットしていく際に重視すべき頭の使い方として、「暗記より理解に重点を置く」があげられます。

例えば、大学入試などの勉強では、教科の特性により勉強法はざっくり次の2つに分けることができるかと思います。

1. 暗記系の勉強法

日本史の年号の丸覚えや、英単語をひたすら詰め込むことで点数が伸びるようなケース。

単に知識を思い出して解く教科に有効。

2. 理解系の勉強法

数学や現代文などで点数を伸ばすケース。

解き方・思考法を理解して、それを問題に当てはめて解く訓練をするような教科に有効。

英語であれば、英文読解の練習は理解系の勉強法で取り組むものだといえます。

この手の話を調べると、暗記と理解とでは使っている脳の部位も異なっているそうです。(右脳を使ったり、左脳を使ったりというような感じ)

そして結論からいうと、簿記は明らかに理解系の勉強法が有効な教科です。

人は勉強していると、無意識で頭を切り替えながら、暗記系と理解系の学習法を選択しています。

簿記の場合、学習を進めると新しい勘定科目が出てくるので、つい暗記系の頭の使い方が有効だと錯覚しがちです。

さらに怖いのは、「自分の得意な頭の使い方」や「好きな頭の使い方」を行いがちということです。

ここで選択する勉強法を間違えると、だいたい簿記が苦手になってしまいます。

つまり、暗記系の勉強法が得意、もしくは好きな人ほど、簿記の勉強でつまずきやすいのです。

恥ずかしながら、私は無意識的に暗記に重点を置いた頭の使い方をして、つまずいたタイプでした。

一方、理解に重点を置いて勉強している人ほど簿記が得意になりやすく、ふだん「暗記が苦手だ」と言っている人に限って、簿記は得意になることが多いのです。

というわけで、簿記の勉強をするときや簿記の問題を解くときは、理解することに重点を置いた頭の使い方を心がけるべきです。

簿記の勉強をする時は、算数の文章題を電卓を使いながら解くくらいのスタンスがちょうど良いかも知れません。

ちなみに、「暗記」という言葉は人によって指しているところが異なるというのも、私が周囲の人を観察していて興味深いと感じたところです。
私の指す「暗記」とは、電話番号を無理やり暗記するような、理解など伴わずに反復して記憶力だけに頼って頭に叩き込むような力技です。
一方、簿記に適性のある人は、理解に重点を置いた頭の使い方を自然にしています。私にしてみれば、それは「暗記」ではなく「理解」しているという所感なのですが、本人はそれを「暗記」と捉えていることがありました。

貸借が一致する前提を利用して考えている

最後に実際に問題を解くときの頭の使い方についてです。

簿記が得意な人は「複式簿記は貸借が一致する前提であることを利用して考えている」という点が挙げられます。

この考え方を徹底すれば、混乱した時でも「とにかく貸借を一致させればいい」という頭で対処できますし、ケアレスミスも減らせます。

この考え方には、複式簿記とは「取引があり、それを仕訳すると不思議なことに貸借が一致する」のではなく、「貸借が一致することを前提にして、貸借それぞれに取引を当てはめるように仕訳すると、不思議と必ず辻褄があう」という感覚が根底にあります。

「不思議と辻褄があう」というのも、単に原因と結果に分けているだけで、必ず辻褄はあうようになっているので、実は不思議でも何でもないのです。

これは、この複式簿記という記録ツールの構造に目を向けると容易にわかります。

記録ツールの中心にあるのはB/Sです。そして、取引の原因と結果は、B/Sの借方と貸方に分けて記録されます。したがってB/Sでは必ず貸借は一致します。

このB/Sのうち、純資産の部の当期純利益を細かく見たものがP/Lで、ここで「収益」と「費用」が出てきます。当期純利益の+を「収益」、-を「費用」に置き換えただけです。

さらに、『現金預金』勘定を細かく見たものがC/Sですし、B/S純資産の部全体を詳細に示したものがS/Sです。

このようにB/S以外は全て、B/Sを中心にした詳細な表とみることができます。

したがってB/Sの貸借が一致するのであれば、それ以外の財務諸表においても必ず貸借は一致することになります。

ちなみにこの話は講義[22章 キャッシュ・フロー計算書の基礎]の冒頭でも触れています。(負債の部の各勘定を細かくみたものに付属明細表というものもありますが、これは試験範囲外です)

複式簿記という記録ツールはシンプルかつ万能で、必ず貸借が一致するのですから、取引を考えていて混乱した時でも、「貸借は必ず一致する」という法則を前提に仕訳していけば、パズル感覚で解いていくことができます。

「もしかしたら貸借が一致しない取引が存在するかも?」ということは絶対にありません。

なぜなら、最初から貸借が一致していることが前提だからです。

このように、ある種、複式簿記に全幅の信頼をおいているからこそ、取引内容にピンとこない場合でもパズルを解く感覚で問題が解けたり、仕訳ができるともいえます。

この考え方も、実は非常に重要です。

少し話の切り口を変えますと、複式簿記は、会社の経済活動(=取引)を記録する言語であり、その文法自体は前述したように超シンプルなものといえます。

そして、ある言語からある言語に直すことを「和訳」「英訳」などと言いますが、複式簿記という言語に直すことが「仕訳」であるのも、単なる偶然ではないかも知れません。

取引を考えるときは、我々はまず日本語の文章で考え、その内容をイメージして、次にそれを複式簿記という言語に翻訳するように仕訳を行っているといえます。

ここで、簿記が得意な人ほど、後半の「仕訳」という作業よりも、その前段階の「取引をしっかり日本語で考え、どういうものか納得する」作業に自然と重きを置いています。

それさえしっかりできていれば、あとは必ず貸借が一致するので、そうなるように仕訳するのは簡単です。

このように、複式簿記という言語はシンプルで貸借が必ず一致する記録ツールなので、信用してパズル感覚で使ってよしということです。

そして何より取引を日本語レベルでしっかり理解してイメージするということが重要です。

余談になりますが、我々の住む世界において因果の関係は切っても切り離せないという話は、天才数学者フォン・ノイマン博士がこの世を去る間際に神父さんと交わした会話の逸話でも出てきます(この世の創造に関する話)。私はその話を聞いて「貸借一致の原則と同じだなぁ」などと考えてしまいました。お時間のあるときに検索されると面白いかも知れません。



まとめ

本記事では、簿記1級講座担当・寺尾講師の考える「簿記ができる人」の頭の使い方をご紹介しました。ポイントをおさらいすると、以下の通りです。

  • 実務で扱われているのだから必ず解ける・分かるようになるという心構えが大事
  • 面倒でも会社の経済活動をイメージしながら理解して覚えていく勉強法が有効
  • 混乱した時も「必ず貸借は一致する」と前提を思い出して解く

簿記検定は、努力すればするほどそれが得点に反映される、努力が報われる試験です。

スタディングでも毎年多くの合格のご報告をいただいています。

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簿記1級 商業簿記・会計学 講義 担当

寺尾 芳樹 プロフィール

東京都文京区生まれ。お茶の水女子大学附属小学校、芝学園中学校・高等学校を経て慶応義塾大学商学部卒業。
大手インターネット予備校にて、長年日商簿記1級~3級の教材開発を担当。
代表書籍に「合格これ1冊」シリーズがあり、累計10万部を超えるヒットとなる。
楽しく学べるように自身でイラストを描き、「難しく見えるものを楽しく親しみやすく」にこだわった教材開発に定評がある。