簿記の減価償却とは|定額法と定率法の違いや、仕訳・計算方法を解説

簿記における減価償却は、重要でありながらも初心者には難しいテーマの1つです。
また、仕訳や計算の方法もいくつか種類があるため、混乱してしまう方もいるでしょう。

本記事では、簿記における減価償却の考え方や仕訳・計算の方法をまとめて解説します。
簿記の資格取得を目指している方や、簿記の知識を実務に活かしたい方はぜひ参考にしてみてください。

簿記の減価償却とは

ここでは、簿記における減価償却とはどのような処理なのか、またどのような効果をもたらすのか、順番に解説します。

減価償却の役割を理解すれば、仕訳の流れもわかりやすくなるはずなので、しっかり押さえておきましょう。

減価償却とは

減価償却とは、帳簿上の固定資産(減価償却資産)の価値を経年劣化に合わせて減少させ、当年の価値減少分を費用として計上する処理のことです。

例えば、企業が所有する車両やパソコンなどは永久に使えるものではなく、使っているうちに必ず劣化して価値が減少していきます。

車を売却するときには、購入から日が浅いほど高く売れ、日が経つほど安くなることをイメージするとわかりやすいでしょう。

こうした資産価値の減少をルールに則って見積もり、帳簿価額から減らす処理を減価償却と呼びます。

また、帳簿価額から減らした金額のみをその年の費用として計上するため、資産の使用期間にわたって購入費用の負担を分散させることが可能となります。

その年ごとに減価償却を行うことで、資産価値や費用を適切に帳簿に反映できるのです。

経営や財務の状態を適切に把握したり、費用や利益の数値を安定させたりするためには欠かせない処理だといえます。

減価償却がもたらす効果

減価償却を行うことで、経年劣化を反映した現在の資産価値を正しく把握できます。

また、費用の計上を使用期間にわたって分散させられるため、以下のような効果が得られます。

  • 収益と費用の対応関係が適正になる
  • 所得税・法人税の支払いを一定に保てる

▼収益と費用の対応関係が適正になる

減価償却を行うことで、収益と費用の対応関係を適正化できます。

簡単にいえば、収益が発生したタイミングでそれにかかった費用をきちんと計上できるということです。

減価償却をしない場合、費用の発生が購入した年のみに偏ることとなり、収支のバランスが悪くなります。

例えば、製品を製造するための機械を購入したとします。

購入費用をその年度に全額経費として計上してしまえば、購入初年度の利益は大幅に減少することとなり、場合によっては赤字に転落するかもしれません。

また、翌年以降は機械を使用しているにもかかわらず一切の費用がかからないこととなります。

減価償却を行えば、機械の購入費用を使用期間にわたって年度ごとに分割して計上し、各年度の収益・費用の関係を適正化できるのです。

▼所得税・法人税の支払いを一定に保てる

前述の通り、減価償却がなければ、資産を購入した年度にのみ多額の費用が発生し、翌年以降は費用が発生しないことになります。

その結果、個人であれば所得税、法人であれば法人税の金額が大きく上下することになります。

購入年度においては多額の費用が発生するため、利益を圧迫することで税金の支払いが少なくなるでしょう。

一方、翌年以降は購入費用の負担がないため、多くの利益が生まれることとなり、税金の支払いが増えてしまいます。

トータルで見れば支払う税金に大差はないかもしれませんが、企業経営において資金繰りは非常に重要です。

減価償却を適切に行えば年度ごとの税金の支払いを一定に保ちやすいため、安定した経営には欠かせないでしょう。

減価償却に登場する用語一覧

減価償却の処理をする際には、いくつかの専門用語が登場します。

ここでは、以下5つの用語について解説します。

  • 取得原価
  • 耐用年数
  • 帳簿価額
  • 残存価額
  • 減価償却累計額

取得原価

取得原価とは、減価償却の対象となる固定資産を得るためにかかった費用の合計金額です。

固定資産そのものの価格だけではなく、引き取りにかかった運賃や設置費用、購入手数料などの付随してかかった費用も取得原価に含まれます。

耐用年数

耐用年数とは、減価償却の対象となる固定資産が継続して使用できるとされる年数です。

税法上の耐用年数は資産の種類ごとに定められており、会計上の減価償却の計算も基本的に税法上の耐用年数で行うのが一般的となっています。

帳簿価額

帳簿価額とは、取得原価から計上済みの減価償却費を控除したもので、現在の資産価値を表します。

減価償却を重ねることで、帳簿価額も徐々に減少していきます。

購入した車両やパソコンなどは年数を経ることで劣化が進むため、現在の価値になるよう減価償却によって帳簿価額を調整する必要があるのです。

残存価額

残存価額とは、減価償却の対象である固定資産において、耐用年数が経過したあとに残る資産価値のことです。

固定資産は、耐用年数がすぎたからといって突然使えなくなるわけではありません。

耐用年数を経過して価値が減少したとしても、まったく価値がなくなるわけではないのです。

そのため、耐用年数経過後に残る価値を残存価額として設定しておく必要があります。

減価償却累計額

減価償却累計額は、資産の購入後からこれまでに計上した減価償却費の合計金額です。

後述する「間接法」によって減価償却の仕訳を行う場合、減価償却費をそのまま資産から減少させるのではなく、「減価償却累計額」として集計する方法をとります。

減価償却の仕訳・計算方法

減価償却の仕訳方法には「直接法」と「間接法」、計算方法には「定額法」と「定率法」があります。

それぞれの考え方やメリット・デメリットを押さえておきましょう。

直接法と間接法

減価償却の仕訳方法には、直接法と間接法の2種類があります。

▼直接法

直接法とは、固定資産から減価償却費を直接差し引く仕訳方法です。

固定資産の価値の減少や現在の資産価値が一目でわかるのが特徴です。

一方、そもそもの取得原価や減価償却の累計額を瞬時に把握することはできません。

▼間接法

間接法とは、固定資産の価値を直接減らすのではなく、減価償却累計額として計上することで資産とは別に減価償却の合計金額を算出する仕訳方法です。

直接法とは異なり、取得原価とこれまでの減価償却累計額を確認できるのが特徴です。

一方、現在の資産価値を把握するには取得原価から減価償却累計額を差し引く必要があります。

なお、日商簿記3級では間接法のみが出題範囲ですが、日商簿記2級では直接法も出題範囲に含まれます(記事執筆の2025年7月時点)。

参考:商工会議所の検定試験「簿記検定試験出題区分表

定額法と定率法

減価償却の計算方法には、定額法と定率法の2種類があります。

▼定額法

定額法とは、毎年同額の減価償却費を計上する計算方法です。

定額法の計算式は以下の通りです。

減価償却費=(取得原価 − 残存価額)÷ 耐用年数

残存価額を除いたうえで、減価償却の対象となる金額を単純に耐用年数で割ることで算出します。

▼定率法

定率法とは、固定資産の未償却残高(=取得原価-減価償却累計額)に一定の償却率を掛けることで減価償却費を計算する方法です。

計算式は以下の通りです。

減価償却費 =未償却残高×償却率

未償却残高が掛け算の対象になるため、初年度の減価償却費がもっとも大きく、年数が経過するごとに徐々に小さくなっていくのが特徴です。

なお、日商簿記3級では定額法のみが出題対象となっており、定率法の出題は2級からとなります。

定額法での減価償却の仕訳を解説

ここでは、日商簿記3級でも出題される「定額法での減価償却の仕訳」について解説します。

資産を期首から所有している場合と期中に取得した場合で計算方法が異なるため、それぞれの仕訳方法をご紹介します。

  • 期首から所有している資産
  • 期中に取得した資産

期首から所有している資産

期首から所有している資産は、期末まで1年間にわたって使用したことになります。

減価償却で1年分の価値を減少させるため、通常通り耐用年数で割ることで減価償却費を求めます。

減価償却費 =(取得原価 − 残存価額)÷ 耐用年数

例えば、前年度に購入済みの車両について減価償却を行う場合、取得原価が1,200,000円、耐用年数が6年、残存価額が0円とすると、減価償却費は以下の通りです。

(取得原価 1,200,000円-残存価額 0円)÷耐用年数 6年=減価償却費 200,000円

間接法を使う場合、帳簿価額から直接引くのではなく減価償却累計額として計上するため、仕訳は以下の通りです。

借方に「費用の増加」として減価償却費、貸方に「資産の減少」として減価償却累計額を記入します。

借方貸方
減価償却費200,000減価償却累計額200,000

期中に取得した資産

期中に資産を取得した場合、減価償却の対象期間も「取得日から期末まで」となるため、計算式が異なります。

1年間使用した資産と数ヶ月しか使用していない資産では、劣化の度合いが異なるため、減価償却費も所有期間にあわせて月割で計算する必要があるのです。

期中に取得した資産の場合、減価償却費は以下の計算式で求めます。

減価償却費 =(取得原価 − 残存価額)÷ 耐用年数 × (経過月数 ÷ 12ヶ月)

例えば、10月1日に購入した車両について期末(3月31日)に減価償却を行う場合、取得原価が1,200,000円、耐用年数が6年、残存価額が0円とすると、減価償却費は以下の通りです。

(取得原価1,200,000円 − 残存価額 0円 )÷ 耐用年数 6年 × (6ヶ月 ÷ 12ヶ月)=減価償却費 100,000円

仕訳方法は期首から所有している資産と同じで、間接法を使う場合は以下の通りとなります。

借方貸方
減価償却費100,000減価償却累計額100,000

簿記の減価償却に関するよくある質問

ここでは、簿記の減価償却についてよくある以下3つの質問にお答えします。

  • 簿記3級ではどんな減価償却の問題が出る?
  • 定額法での償却率を使った計算方法は?
  • 残存価額1円とは?除却の際の仕訳の書き方は?

順番に詳しく見ていきましょう。

簿記3級ではどんな減価償却の問題が出る?

日商簿記3級では、仕訳方法は「間接法」、計算方法は「定額法」が出題範囲として指定されています(記事執筆の2025年7月時点)。

そのため、日商簿記3級を受験する場合は間接法と定額法をしっかり理解し、スムーズに計算できるようにしておきましょう。

直接法や定率法については、2級を受験する際に改めて学べばOKです。

定額法での償却率を使った計算方法は?

前述の通り、償却率は定率法での減価償却費の計算に使うものです。

しかし、「1÷耐用年数」という計算によって定額法での償却率を割り出し、計算する方法もあります。

取得原価が1,000,000円の車両について、耐用年数が5年、残存価額が0円とすると、計算は以下の通りとなります。

  • 償却率  :1÷耐用年数 5年=0.2
  • 減価償却費:取得原価 1,000,000円×償却率 0.2=200,000円

元となる考え方は同じであるため、計算結果は前述の定額法の計算式と変わりません。

残存価額1円とは?除却の際の仕訳の書き方は?

残存価額とは、前述の通り耐用年数の経過後に残る資産価値のことです。

税法の改正により、固定資産は残存価額が1円になるまで減価償却が可能となりました。

しかしその結果として、使用されていないにもかかわらず「残存価額1円」として帳簿に残り続ける資産が発生します。

残存価額1円の資産は、除去することで帳簿から取り除くことが可能です。

取得原価が1,000,000円で残存価額が1円となった車両を除却する場合、直接法と間接法それぞれの仕訳は以下の通りです。

▼直接法

借方貸方
固定資産除却損1車両1

▼間接法

借方貸方
固定資産除却損1車両1,000,000
減価償却累計額999,999

まとめ

本記事では、簿記における減価償却の考え方や仕訳・計算の方法をまとめて解説しました。

ポイントをおさらいすると、以下の通りです。

  • 減価償却とは、固定資産の経年劣化に合わせて価値を減少させ、費用を計上すること
  • 減価償却によって、固定資産の購入費用を使用期間にわたって分散させることが可能
  • 収益と費用の対応関係を適正化できるほか、所得税や法人税の金額を使用期間にわたって一定に保ちやすくなる
  • 減価償却の仕訳方法には直接法と間接法があり、日商簿記3級では間接法が出題される
  • 減価償却の計算方法には定額法と定率法があり、日商簿記3級では定額法が出題される

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