第159回 日商簿記1級検定 出題内容と普段からできる対策
スタディング 簿記1級担当講師
商業簿記・会計学担当寺尾 芳樹 講師
大手インターネット予備校にて、長年日商簿記1級~3級の教材開発を担当。代表書籍に「合格これ1冊」シリーズがあり、累計10万部を超えるヒットとなる。 |
工業簿記・原価計算担当神原 大二 講師
20年以上にわたり、簿記の受験指導にあたってきたベテラン講師。教室講義やビデオ講義の講師はもちろん、テキストや問題集等の教材開発を担当し、数千名以上の合格者を輩出。 |
商業簿記
丁寧に解けば部分点を積み上げることができる
在外支店を中心とする総合問題が出題されました。
在外支店はややマイナーな論点の印象はありますが、137回、147回と出題されており、それが今回また出題される形となりました。
問題を見た瞬間に「嫌だな」と感じられた方も多かったのではないでしょうか。
この手の問題の対処法は1つです。
「委縮したらダメ。何が何でも部分点を取りに行く!」というメンタリティを持つことです。
実際、本問も蓋を開けてみれば決して難しい問題ではありませんでした。
実態は外貨建取引が多めの総合問題ですので、丁寧に解けば、部分点を積み上げるのはそう難しくはない問題です。
また、本支店会計に関する難しい処理はさほど要求されておらず、2級での本支店会計の学習を土台にして、1級講座での基本的な内容をしっかり身につけておけば対応できる内容でした。
会計学
解き方の丸暗記ではなく、会計処理を理屈から考えて
大問が2題の構成でした。総じて、理解を伴った計算演習を普段からしっかり行っているかを問う良問揃い、という印象を受けました。これは会計学の出題のトレンドです。
第1問は文章の正誤判断の問題です。
難しくはないのですが、読む量が多いため、素早い判断が要求されます。モタつかずに判断するためには、普段から会計処理を理屈から考えて行っていることが重要です。解き方の丸暗記では足をすくわれかねません。
第2問は、理論的な理解と計算を織り交ぜて問う融合問題でした。
分配可能額の問題は「のれん等調整額」による制限まで問われており、正答率が低くなりそうな印象を受けました。ただし、面白い論点でもあります。
スタディングの1級コース内でもしっかり扱っていたので、今回受験された受講生の方にとってはアドバンテージになったのではないでしょうか。
今回のような問題をある程度「解きやすい」と感じられたかが、日頃、質の高い学習を行えているかどうかの1つの指標になるように思います。
工業簿記
日頃の計算練習と問題条件チェックでミスをなくしていく
標準原価計算からの出題でした。
計算のボリュームは少し多めでしたが、2級の知識だけで解答できる箇所が複数あり、全体としては決して難問ではありません。
具体的には、標準原価計算と工程別総合原価計算を組み合わせた問題で、仕掛品勘定の金額、原価差異の分析、標準原価計算制度に関する〇×問題が出題されました。
今回の中心的な内容の正常仕損が生じる場合の原価標準の設定については、1級コース内でもしっかり扱っているため、十分高得点が狙える内容です。
ただし、2級の学習でもそうであったように、ちょっとしたケアレスミスが芋づる式に大きな失点につながる内容でもあります。
日頃の計算練習から、問題条件などを入念にチェックしてから計算に入ることを意識しましょう。
原価計算
学習内容の理解の次に、短時間で解答するテクニックを身につけて
大問3問の構成で出題されました。
大問が1問出題されるケースと比べると、通常、各問の難易度は下がるので、受験生にとっても取り組みやすい出題形式です。
この傾向は今後も続くと予想しています。
具体的には、第1問が穴埋め問題などの理論問題、第2問が標準原価計算(歩留差異・配合差異の計算)、第3問が事業部制(内部振替価格など)という出題でした。
配点の8割程度を第2問と第3問が占めると予想されますが、いずれも1級コース内でもしっかり扱っているため、十分高得点が狙えます。
上記の工業簿記と合わせると、時間との勝負という面が強いという試験でした。
学習内容の理解が第1段階、そのうえで短時間で解答するテクニックを身につけることが第2段階として必要です。
簿記1級は3・2級に比べ、範囲も広く、難易度は上がりますが、3・2級の学習の延長線上にあることは変わりありません。
3・2級と異なるのは、1科目でも10点未満をとってしまうと、不合格ということです。
だからこそ、これから1級を目指す皆さんには、受験の日までに完璧でなくても4科目を完走する勉強を心がけてほしいと思います。
難問奇問に時間をかけず、基本の論点を理屈からしっかり理解し、早く解けるように練習を積んでいくのが、スムーズな攻略法です。
皆さんの挑戦を応援しています!