日商簿記各級の試験概要(初級・3級・2級・1級)
日商簿記には、初級・3級・2級・1級という4つの級があります。受験資格は特になく、誰でも、どの級からでも受験することが可能です。
順番に初級から受けるのも1つの手ですが、学生や社会人が就職活動やキャリアに生かす目的で勉強するなら、3級からスタートするのが一般的です。
以下、日商簿記各級の試験について詳しく解説します。
初級
まずはもっとも難易度の低い「初級」についてです。
日商簿記初級は、簿記のなかでも初心者向けの基礎的な内容を中心としており、「ビジネスの基礎知識の1つとして簿記の基本を理解しておきたい」といったニーズに適した試験になっています。そのため、専門性の高い決算処理などは含まれません。
「初級」は、もともと日商簿記で実施されていた「4級」が廃止されたあと、2017年にスタートした試験です。かつての4級試験は合格率が30%程度でしたが、近年の初級の合格率は50~65%程度と合格しやすい試験になっています。
日商簿記初級試験の概要は、以下のとおりです。
試験時間 | 40分 |
試験方式 | ネット試験 |
試験会場 | ネット試験施行機関 |
合格基準 | 100点満点で70点以上 |
受験料 | 2,200円(税込) |
初級の試験は、商工会議所が認定したネット試験施行機関で行われます。会場のスケジュールさえ空いていれば好きなタイミングで受けられるため、効率よく学習を進めて早期の合格を目指すことも可能です。
関連記事:日商簿記検定(3級・2級・1級)の概要と筆記試験・ネット試験の違い
「ビジネスパーソンとして簿記の基本だけは押さえておきたい」という方には初級の受験がおすすめです。
3級・2級・1級
1級~3級は従来通り実施されています。それぞれの試験内容や合格率などを見ていきましょう。
3級 |
2級 |
1級 | |
試験科目 | 商業簿記 | 商業簿記+工業簿記 |
商業簿記・会計学・
工業簿記・原価計算 |
特徴 |
企業経理の基礎スキルや、
確定申告に利用される
青色申告書類の
作成スキルが身に付く。 |
財務諸表の作成だけでなく、
記入数字がどんな意味を持つか理解
することで、正しい活用スキルが学べる。
経営内容も把握できる。
|
商業簿記や工業簿記の応用は
もちろん、会計基準や会社法などの
法的知識を理解し、経営分析に
つなげるスキル獲得に役立つ。
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時間 | 60分 | 90分 |
合計3時間
※商業簿記・会計学90分
工業簿記・原価計算90分
|
合格基準 | 100点満点中70点以上 |
2科目合計70点以上
※商業簿記60点満点、工業簿記40点満点
|
合計70点以上
ただし、1科目ごとの得点で40%(10点)
以上取る必要がある。
|
なお、2021年6月からは試験の作問の仕方自体が大きく変わりました。統一試験もネット試験と同じようにサーバーに登録された問題が、抽出される形式で作られます。
大問ごとの出題される論点は決まっていて、その論点の中に問題のパターンが登録されています。
問題は出題区分に含まれるものすべてが登録されていますが、奇抜な問題が作られることはなくなるようです。
いずれの試験も、「科目ごとに何点以上で合格」と設定されており、相対評価でなく絶対評価で合否が決まることから、努力した分、報われる試験制度となっています。
もちろん、上級になるにつれ、試験内容も難しくなり、合格認定される確率も低くなるという傾向です。
しかし、1級取得ともなれば、経営管理や経営分析に関するスキルが磨かれると同時に、公認会計士や税理士などの国家資格チャレンジへの弾みにもなり、挑戦する価値は十分あると言えます。
関連記事:簿記の試験制度
日商簿記各級の試験日程と方式(統一試験・ネット試験)
ここでは、日商簿記各級の試験日程と方式について解説します。
まず、2023年度統一試験のスケジュールは以下のとおりです。3級・2級は年3回、1級は年2回の実施となっています。
試験日 |
対象級 |
2023年6月11日(日) | 1級・2級・3級 |
2023年11月19日(日) | 1級・2級・3級 |
2024年2月25日(日) | 2級・3級 |
なお、試験の方式については級によって以下の違いがあります。初級はネット試験のみです。
級 |
試験方式 |
初級 | ネット試験 |
3級 | 統一試験・ネット試験 |
2級 | 統一試験・ネット試験 |
1級 | 統一試験 |
新型コロナウイルス感染症対策として、2020年12月14日より3級、同21日より2級にもネット試験が導入されました。
ネット試験は、商工会議所に認定されたネット試験施行機関で受験します。予約さえ取れれば統一試験を待たずに受験できるため、3級・2級を早く取りたい方にはおすすめの試験方式です。
会場によって休業日や定員数が異なるため、予約の際には注意が必要です。また、受験前にはネット試験と筆記試験(統一試験)の違いも押さえておきましょう。
関連記事:日商簿記検定(3級・2級・1級)の概要と筆記試験・ネット試験の違い
日商簿記各級の受験者数と合格率(初級・3級・2級・1級)
日商簿記検定は、年間約55万人が受験する日本最大級の資格試験です。それぞれの級について、受験者数と合格率を確認してみましょう。
初級
日商簿記初級には統一試験がなく、ネット試験のみです。年度別の受験者数と合格率は以下のとおりです。
期間 |
受験者数 |
合格率 |
2022年4月1日~2023年3月31日 | 3,353名 | 61.5% |
2021年4月1日~2022年3月31日 | 3,644名 | 64.2% |
2020年4月1日~2021年3月31日 | 3,988名 | 63.1% |
2019年4月1日~2020年3月31日 | 4,284名 | 59.4% |
2018年4月1日~2019年3月31日 | 4,182名 | 57.9% |
2017年4月1日~2018年3月31日 | 4,167名 | 53.8% |
出典:簿記 商工会議所の検定試験「受験者データ」
過去5年間の合格率はおおむね50~65%程度となっています。先述のとおり、初級が導入される前まで実施されていた4級試験の合格率は30%前後でした。
ビジネスパーソン全般を対象とした試験として、日商簿記初級はチャレンジしやすい資格になっているといえます。
3級
日商簿記3級には、統一試験とネット試験があります。それぞれの受験者数と合格率は以下のとおりです。
【統一試験】
日程 |
実受験者数 |
合格率 |
【164回】2023年6月11日 | 26,757名 | 34.0% |
【163回】2023年2月26日 | 31,556名 | 36.5% |
【162回】2022年11月20日 | 32,422名 | 30.2% |
【161回】2022年6月12日 | 36,654名 | 45.8% |
【160回】2022年2月27日 | 44,218名 | 50.9% |
【159回】2021年11月21日 | 49,095名 | 27.1% |
【158回】2021年6月13日 | 49,313名 | 28.9% |
【157回】2021年2月28日 | 59,747名 | 67.2% |
出典:簿記 商工会議所の検定試験「受験者データ」
【ネット試験】
期間 |
受験者数 |
合格率 |
2023年4月~2023年6月 | 47,903名 | 42.3% |
2022年4月~2023年3月 | 207,423名 | 41.2% |
2021年4月~2022年3月 | 206,149名 | 41.0% |
2020年12月~2021年3月 | 58,700名 | 41.0% |
出典:簿記 商工会議所の検定試験「【日商簿記検定試験(2級・3級)ネット試験】受験者データを掲載しました」
日商簿記3級の合格率は40〜50%前後となっています。初級よりは下がるものの、きちんと学習すれば簿記初心者でも十分合格を狙える難易度です。
なお、統一試験158・159回の合格率が低いのは、試験方式の変更と出題区分の改定によるものと考えられます。
2級
日商簿記2級にも、統一試験とネット試験があります。それぞれの受験者数と合格率は以下のとおりです。
【統一試験】
日程 |
実受験者数 |
合格率 |
【164回】2023年6月11日 | 8,454名 | 21.1% |
【163回】2023年2月26日 | 12,033名 | 24.8% |
【162回】2022年11月20日 | 15,570名 | 20.9% |
【161回】2022年6月12日 | 13,118名 | 26.9% |
【160回】2022年2月27日 | 17,448名 | 17.5% |
【159回】2021年11月21日 | 22,626名 | 30.6% |
【158回】2021年6月13日 | 22,711名 | 24.0% |
【157回】2021年2月28日 | 35,898名 | 8.6% |
出典:簿記 商工会議所の検定試験「受験者データ」
【ネット試験】
期間 |
受験者数 |
合格率 |
2023年4月~2023年6月 | 22,438名 | 39.5% |
2022年4月~2023年3月 | 105,289名 | 37.1% |
2021年4月~2022年3月 | 106,833名 | 38.1% |
2020年12月~2021年3月 | 29,043名 | 46.6% |
出典:簿記 商工会議所の検定試験「【日商簿記検定試験(2級・3級)ネット試験】受験者データを掲載しました」
日商簿記2級の合格率は15〜30%前後です。工業簿記が含まれるなど試験範囲が3級よりも広く、難易度の高い試験となっています。
1級
日商簿記1級にはネット試験がなく、統一試験のみです。統一試験の受験者数と合格率は以下のとおりです。
日程 |
実受験者数 |
合格率 |
【164回】2023年6月11日 | 9,295名 | 12.5% |
【162回】2022年11月20日 | 9,828名 | 10.4% |
【161回】2022年6月12日 | 8,918名 | 10.1% |
【159回】2021年11月21日 | 9,194名 | 10.2% |
【158回】2021年6月13日 | 7,594名 | 9.8% |
【157回】2021年2月28日 | 6,351名 | 7.9% |
【156回】2020年11月15日 | 8,553名 | 13.5% |
出典:簿記 商工会議所の検定試験「受験者データ」
日商簿記1級の合格率は10%前後です。2級からさらに出題範囲が広く専門性も高いため、合格が難しい試験となっています。
日商簿記各級の勉強時間の目安(3級・2級・1級)
日商簿記の合格を目指すうえで気になるのは、どれくらいの時間勉強する必要があるのかでしょう。
受験者の多い3級以上を対象に、それぞれの合格に必要な勉強時間の目安を紹介します。
簿記検定に合格するまでに必要な勉強時間は一般的に、簿記3級は50~100時間以上、簿記2級は100~200時間以上、簿記1級は500~600時間以上と言われています。
人によって学習スタイルが異なりますが、1日に1時間~2時間の学習時間が確保できるのであれば、簿記3級は2~4カ月、簿記2級は3~6カ月必要となります。
簿記2級合格レベルの知識があり、1日に2.5時間の学習時間が確保できるのであれば、簿記1級は7~10カ月前から勉強を始めるのがベストです。
初めての簿記1級学習であれば、10カ月以上前からじっくり学習を進めた方がよいでしょう。
その人の知識や経験によって勉強時間は異なりますので、あくまで目安として考えましょう。自分に合った学習計画を立てて試験に臨むのが合格への近道となります。
独学の目安時間 | 通学・通信・オンライン講座の目安 | 参考例 | |
---|---|---|---|
簿記3級 | 100~150時間 | 50~100時間 | 1~1.5時間×2~4カ月 |
簿記2級※1 | 150~250時間 | 100~200時間 | 1~2時間×3~6カ月 |
簿記1級※2 | 500~700時間 | 400~600時間 | 1.5~2.5時間×7~10カ月 |
※1:3級合格レベルの知識があることを前提としています。
※2:2級合格レベルの知識があることを前提としています。
日商簿記各級のキャリアへの生かし方(3級・2級・1級)
資格取得を目指すにあたり、将来的にどのように生かせるのかも重要なポイントです。
簿記の知識は会計や経理といった専門的な業務はもちろん、営業やマーケティングなどさまざまな職種に生かせます。
ここでは、日商簿記各級の生かし方を紹介します。
3級
日商簿記において、一般的に履歴書に記載できるのは3級からとされています。
企業によってはプラスの評価となり、就職や転職の際に有利に働くでしょう。
また、3級の勉強をとおして簿記の基本を学ぶことで、ビジネスパーソンにとって必要な会計の知識が身につきます。
会計の知識をもとに経営を分析する力やコスト感覚なども磨けるため、専門職でなくても取得するメリットの大きい資格だといえます。
2級
日商簿記2級を保有していれば、会計や経理の専門知識を有する人材とみなされます。
企業の経営状況についてもより高度な分析が可能となるため、幅広い業界・職種でのキャリアに役立ちます。
1級
日商簿記1級を保有していれば、会計・経理のスペシャリストとして多くの企業から重宝されます。
また、簿記と関連性のある公認会計士や税理士、中小企業診断士といった難関資格への足がかりにもなります。
まとめ
簿記検定の勉強方法も、それぞれのクラスに合わせた勉強方法を取り入れることが重要です。
1級と初級では、出題範囲も全く異なり、難易度の差も歴然です。簿記検定にチャレンジする際は、その種類に応じて個別に対策を立て、必要な学習量・学習期間を確保し、適切な勉強スタイルを選択してください。