社労士試験合格後は「登録」手続きで社労士になる
冒頭で述べたとおり、社労士試験に合格しても、その日からすぐに社労士になれるわけではありません。
社労士としての業務を行うには、
試験合格
↓
2年以上の実務経験もしくは事務指定講習の修了で登録要件を満たす
↓
全国社会保険労務士連合会の名簿登録・各都道府県社会保険労務士会に入会
という手続きが必要で、これらが完了してはじめて社労士として独占業務(※)を行うことができます。
※:資格所有者のみが独占的に行える業務のこと。資格所有者以外は、業務に携わることが法律で禁止されています。
社労士試験合格後は「登録しない」選択肢もある
一方、上記の手続きは、試験合格後に必ず行わなければならないわけではありません。
すぐに社労士業務を行わない場合は、「すぐには登録しない」という選択肢もあります。
社労士試験は、一度合格すれば「合格者」としての資格に有効期限はありません。
そのため、合格してから何年後に登録しても問題はないのです。
社労士として登録すると、実際に業務を行っていなくても、社労士会の会費など資格を維持するための費用が発生します。
そのため、社労士の資格を活用して業務を行う予定がないのであれば、資格の維持費が負担になってくるでしょう。
たとえば、サラリーマンをしながら将来のために資格を取得しておきたいと考え、働きながら社労士試験に合格したとします。
しかし「現職を今すぐ離れることはできないから、社労士資格を活かして転職・独立するのは2〜3年後にしたい」という場合は、実際に転職・独立に向けて動き出すタイミングで登録・入会を行うほうが、金銭的負担は少ないです。
また「試験勉強で得た知識は業務で使うが、独占業務をおこなうわけではない」といった場合も登録・入会の必要性は低いでしょう。
社労士試験に合格した後は、「今は登録しない」という選択肢もあることを知っておきましょう。
社労士試験合格後の流れ
社労士試験合格後、手続きを行うことによって正式に社労士として業務を行うことができるようになります。
試験合格後の流れは、具体的には以下のとおりです。
(1)実務経験のない人は「事務指定講習」を受講
(2)社会保険労務士連合会の名簿に登録
(3)各都道府県の社会保険労務士会に入会
これらのステップを踏むことによって、正式に社労士と名乗ったり、名刺に社労士と記載できるようになります。
それでは具体的にそれぞれのステップの内容について詳しくご紹介します。
実務経験がない人のための「事務指定講習」とは
社労士試験に合格しても、実際に社労士として働くためには所定の実務経験が必要です。
具体的には社会保険労務士法第3条1項で「労働社会保険諸法令事務について2年以上の実務経験」または「厚生労働大臣がこれと同等以上の経験を有すると認めるもの」が社労士となるための要件とされています。
この実務経験の代わりとなるのが事務指定講習です。実務経験がない方であっても、この講習を受講・修了すれば社労士としての登録が可能となります。
講習の内容は以下で詳しくご紹介しますが、「通信指導過程」と「eラーニング講習または面接指導過程」の2つに分けられており、費用は7万7,000円(税込)です。
講習を終えると修了認定を受けることができます。修了証に有効期限はないため、講習を受けたからといってすぐに登録しなければならないというわけではありません。
事務指定講習の内容
事務指定講習は「通信指導過程」と「eラーニング講習または面接指導過程」の2つに分けられています。
▼講習の流れ
1. 通信指導課程
通信指導過程では、雇用保険・労災保険などに関する届け出・給付手続きなど、社労士が実際に行う業務について学びます。
教材が自宅に届き自学し、内容をインプットするだけでなく課題の提出も必須です。
受講期間は、2〜5月の4カ月です(令和5年開催分の場合)。
提出すべき課題は非常に多いため、余裕をもった学習スケジュールを立てておき、期限内にすべて提出することがポイントとなります。
2. eラーニング講習または面接指導課程
eラーニング講習では、講師による講義を受けます。
面接指導課程は、名称に「面接」という単語が入っていますが、一般的に想像される面接のような形式ではなく、こちらも講義です。
原則としてeラーニング講習を受講し、受講環境がない場合は面接指導課程を受講することになります。
ここでは実例などを元にしてより実践的な講義を受けることができます。
講師は実際に活躍する社労士なので、実務について直接話を聞くことができる貴重な機会です。
令和5年開催分の場合、e-ラーニング講習は7〜9月の指定期間のうちいつでも受講可能で、1科目3時間です。面接指導課程は10月下旬に東京にて4日間開催されます。
▼講習の科目
- 労働基準法及び労働安全衛生法
- 労働者災害補償保険法
- 雇用保険法
- 労働保険の保険料の徴収等に関する法律
- 健康保険法
- 厚生年金保険法
- 国民年金法
- 年金裁定請求等の手続
【あわせて読みたい】社会保険労務士(社労士)の事務指定講習について解説
社労士の登録の種類
事務指定講習の修了後は、全国社会保険労務士連合会の名簿への登録と各都道府県の社会保険労務士会への入会というステップへと進みます。
▼社労士の登録申請の流れ
【出典】全国社会保険労務士会連合会「社労士の登録申請について」
具体的な流れとしては、まずは各都道府県の社会保険労務士会に登録申請書類を提出します。
ここで受付と審査が行われ、問題がなければ全国社会保険労務士連合会で審査と社会保険労務士名簿・証票が作成されます。
こうして登録が完了すると、3週間程度で証票が発行されます。これで正式に社労士としての業務を行うことができるようになります。
社労士の登録には以下の4種類があります。その中からどのように業務を行うのかを選択してください。
- 開業社会保険労務士(開業)
- 社会保険労務士法人の社員(社員)
- 勤務社会保険労務士(勤務)
- その他の社会保険労務士(その他)
▼開業社会保険労務士(開業)
開業社労士とは、開業して事務所を設置して社労士として働くスタイルになります。
事務所の規模は問わず、自宅事務所で1人で業務を行う場合も、大規模な事務所を設置して複数人を雇って業務を行う場合もいずれも開業社労士にあたります。
▼社会保険労務士法人の社員(社員)
社会保険労務士法人を設立し、社会保険労務士事務を行う社労士を言います。
社労士法人の社員とは、いわゆる会社員のような「(社労士法人に)雇われて働く人」という意味ではありません。
社労士が業務を組織的に行うために立ち上げた法人の「社員(出資者)」という位置付けです。
▼勤務社会保険労務士(勤務)
勤務社労士とは、上記とは異なり、出資者ではなく社労士事務所などに雇用されて業務を行う場合の区分です。
この分類の場合あくまで勤務先の名前で社労士としての業務を行うことになります。そのため、自分自身で独自に顧客と契約して業務を行うことはできません。
▼その他の社会保険労務士(その他)
「その他」で登録した社労士は、社労士としての業務を行うことはできません。
しかし連合会や社労士会が実施する研修などへの参加できるので、学びや人脈形成の機会が得られるというメリットがあります。
たとえば会社員で社労士試験に合格したが、社労士業務を扱わない部署に配属されている場合などに利用される区分です。
社労士の登録費・入会費・年会費
全国社会保険労務士連合会の登録費用は以下のとおりです。
- 登録免許税 :30,000円
- 登録手数料 30,000円
各都道府県の社労士会の入会金・年会費は、登録の種類などによって異なります。たとえば東京都社会保険労務士会の場合は以下のとおりです。
▼開業社労士または社労士法人社員
- 入会金:5万円
- 年会費:9万6,000円
▼勤務社労士
- 入会金:3万円
- 年会費:4万2,000円
【参考】全国社会保険労務士会連合会「社労士の登録申請について」
社労士合格後の仕事
社労士試験に合格し、登録まで完了すればいよいよ本格的に業務を行うことができます。
ここからは具体的に社労士としてどのような働き方があるのかをご紹介します。
就職・転職
社労士の資格を持っていることによって以下のような就職先の選択肢があります。それぞれの特徴について詳しくご紹介します。
▼一般企業
一般企業への就職において社労士の資格は強みとなります。近年では労働に関する法令はめまぐるしく改正されています。
それだけに、多くの企業が社会保険や労務関係の知識を持つ人材を求めています。
社労士の資格を持っているということはそれだけ各種保険や労務に関する専門的知識を有することの証明となり、強くアピールすることができます。
▼社労士事務所・社労士法人
社労士の資格をフル活用して仕事をしたいなら、一般企業よりも社労士事務所や社労士法人が適しています。
実務の経験を積めるだけでなく、同業者や関連する士業との人脈構築も期待できます。
将来的に開業を考えている方にとって、魅力的な選択肢となるでしょう。
▼会計事務所・税理士法人
社労士の顧客は主に中小企業です。同様の顧客と接する機会の多い税務・会計などの事務所でも社労士への需要は高くなっています。
税務や会計から労働・社会保険などに関する業務を請け負うこともできるため提供できるサービスの幅が広がります。
▼弁護士事務所・弁護士法人
弁護士事務所においても近年労働問題に関する対応への比重が増えています。
そのため、労務関係の専門家である社労士への需要が高くなっており、弁護士事務所などへの就職においても社労士の資格は強みとなります。
【あわせて読みたい】社会保険労務士資格を就職・転職にどう活かす?
独立開業
社労士は独立開業が可能な資格のひとつです。そのため、働き方として開業も有力な選択肢のひとつです。
仕事のやり方や時間の使い方など、あらゆることを自分で自由に決めていける点が魅力です。努力次第では、雇用されるよりも大きな収入を得られる可能性もあります。
しかし、独立すれば当初は顧客獲得から事務作業まですべて自分で行う必要があるため、やるべきことは多く、責任も重くなります。
また、独立当初は顧客獲得に苦労し、しばらくは収入が不安定な時期が続くでしょう。人脈作りや貯金などを独立前から計画的に進めておくのがおすすめです。
【あわせて読みたい】社会保険労務士資格をどう活かす? 独立・開業編
【体験談】スタディング短期合格&独立開業
「スタディング 社会保険労務士講座」の受講生の中には、未経験から試験に合格し、独立開業を達成した方がいらっしゃいます。
- 実務経験ゼロから仕事を獲得できた方法
- 集客が軌道にのるまで
- 社労士のやりがい
など、独立開業のリアルな体験談をインタビューで紹介しています。
社労士合格後の勉強方法!知識の維持・アップデートは?
社労士試験に合格して、実際に社労士として業務をはじめたとしても、もう勉強しなくてもいいというわけではありません。
法改正が行われれば知識のアップデートも求められます。そこで、ここからは社労士試験合格後の勉強方法をご紹介します。
社労士会で勉強する
各都道府県の社労士会などでは、定期的に社労士としての知識を高め、アップデートするための研修会などが実施されています。
自主研究グループなどが構成されている社労士会もあるため、これらを利用することによってモチベーションを維持しながら勉強することができます。
社労士会のアルバイトで実務経験を積む
実務経験を積みたいのであれば、社労士会でのアルバイトもおすすめです。
各都道府県の社労士会では無料相談会などさまざまなイベントの実施にあわせて、アルバイトが募集されることがあります。
雇用、労働、年金に関するリアルタイムの悩みに対応することで、自己研鑽の機会となるでしょう。
まとめ
今回は社労士試験に合格後の手続きなどについて詳しくご紹介しました。それではポイントをおさらいします。
- 社労士の業務を行うためには、登録などの手続きが必須
- 登録には、一定の実務経験もしくは事務指定講習の修了が必要
- 社労士の就職先は一般企業や社労士事務所のほか、会計事務所、弁護士事務所などもある
- 社労士になったあとも、知識の維持・アップデートが必要
社労士の資格の活かし方はさまざまです。合格後は資格の登録に関する制度や手続きを正しく理解し、自分の臨むキャリアに合わせて資格を活用していきましょう。