社会保険労務士資格をどう活かす? 独立・開業編

社会保険労務士 渡部裕之
社会保険労務士の独立開業後、いかに案件を獲得するかが肝心です。その具体的な流れやメリットや開業のリスクを分析しました。


社会保険労務士資格を取得後すぐに独立開業を考えているのですが、その具体的な流れについて教えてください。
他の士業に比較すれば社会保険労務士資格での独立開業の手続はそう難しくはありません。肝心なのは、独立後いかに案件を獲得するかです。開業してすぐに仕事が入ってくることはなかなかないので、まずは独立開業のメリットとデメリット、双方をしっかり認識しておきましょう。


社会保険労務士には社会保険労務士法で定められた独占業務があり、労務管理の専門家として国家資格が付与されていますので、独立開業することが可能です。もちろん、開業すれば自然と顧客が集まるわけではありません。今回は、社会保険労務士の開業について考えていきたいと思います。


社会保険労務士で独立開業すること

社会保険労務士で独立開業するということは、言うまでもなく事業主になるということですので、全て自己の裁量で事務所運営をしていくことになります。そこには様々な形での「自己責任」が伴います。

経営費用面について

社会保険労務士試験に合格したのみでは、直ぐに独立開業することは出来ません。実務経験2年(※全国社会保険労務士会連合会主催の事務指定講習を受講することで代替可能)を経て、社会保険労務士名簿に登録することにより独立開業することが出来ます。登録費用は全国一律ですが、事務所を構える都道府県社会保険労務士会への入会費用は異なります。ここでは東京都社会保険労務士会を例にご説明します。

登録手続き 登録免許税 30,000円 (収入印紙) 登録手数料 30,000円
入会手続き 入 会 金 50,000円 年 会 費 96,000円


合計206,000円を、登録・入会申請前に納付及び収入印紙を購入し、準備する必要があります。

登録申請に必要な書類関係は、次のとおりです。

・社会保険労務士登録申請書

・社会保険労務士試験合格証書の写し

・従事期間証明書又は事務指定講習修了証の写し

・住民票の写し(※原本提出。取得後3ヶ月以内のものでマイナンバーの記載がないもの)

・顔写真

・戸籍抄本(※合格証書又は従事期間証明書(事務指定講習修了証)と氏名が異なる場合のみ必要)

社会保険労務士としての登録・入会費用に加えて、自宅以外で開業するのであれば事務所家賃やレンタルオフィス料、HP開設費用や名刺、事務所パンフレット作成費用、PCや事務机、椅子などのオフィス用品購入費用、備品費などが必要となります。全て事業としての必要経費となりますので、自己資金で準備をするか、開業者向けの低利融資を受けるなどして準備をすることになります。


顧客獲得について

社会保険労務士として独立開業するに当たり、一番苦労するのはやはり顧客獲得についてです。顧客獲得の方法につき、以下ご紹介します。

■友人・知人からの紹介

親しい友人からの紹介や、前職で築いた人脈などから紹介を受け顧客獲得する方法です。紹介する側も社会保険労務士としての専門分野が明確な方が、紹介しやすいと思いますので、先行して自己ブランディングが必要となります。

■他士業からの紹介

税理士や弁護士、司法書士、行政書士、中小企業診断士などから紹介を受ける方法です。前職からの繋がりや、異業種交流会、経営者交流会などを通じて知り合い、紹介を受けます。ここでも紹介しやすいように、専門分野のブランディングが活かされます。

■営業

HPを通じての営業や、事務所周辺地域における地道な営業などの他、労務管理関係や助成金セミナー(※厚生労働省系の助成金申請業務は、社会保険労務士の業務とされています。)を開催しての顧客獲得方法となります。その他、ハローワークで公開されている求人票を活用しての営業方法もあります。公開されている求人票には、様々な労働条件が明示されていますので、自分が得意とする業種などターゲットに、労務管理の観点からアプローチする方法です。


仕事の進め方について

様々な方面から紹介を受けたり、営業手法が功を奏して顧客を獲得した際には、いよいよ社会保険労務士として仕事をスタートすることになります。社会保険労務士の仕事には、スポット業務として労働保険・社会保険の手続き業務や、就業規則の作成・改訂手続き業務、個別労務相談、厚生労働省系の各種助成金申請業務などを受託する場合がありますが、会社や個人事業主と労務顧問契約を結び、顧問先の労務管理業務に長いスパンで関わっていくケースもあります。事務所維持の観点から、労務顧問契約を多く受託することで定期的な収入を確保することができ、経営面での安定に繋がります。

もちろんスポット業務としての受託、又は労務顧問契約としての受託など、契約形態にかかわらずに依頼を受けた業務を誠実に遂行することは、社会保険労務士としての職責及び職業倫理上強く求められています。独立開業して仕事をしていく上では、進捗管理や成果物の納品等全てが自己責任で進めていかなければなりませんので、大変な部分もある反面、大きなやりがいがあるのも確かです。


独立開業するメリット・デメリット

社会保険労務士として独立開業することによるメリット・デメリットについて、お伝えします。

メリット

  • 生涯現役で仕事をすることが出来る。
  • 自分の好きなペースで仕事をすることが出来る。
  • 専門分野を確立して仕事をすることが出来る。
  • 頑張り次第で高収入を得ることが可能となる。
  • 異業種などの広い人脈構築が出来る。

デメリット

  • 事務所の経営責任を全て負うことになる。
  • 収入減のリスクと常に隣り合わせである。
  • 病気や怪我等による人員の代替が出来ない。

社会保険労務士開業の手続(おおまかな流れ)

社会保険労務士の事務所開設の流れは次のとおりです。

・事務所所在地を決定し、事務所名も決める

・都道府県行政書士会への登録申請のため、書類を作成する

・事務所ホームページや名刺、開業挨拶状などを用意する

・社会保険労務士会に書類を提出する

・税務署に開業届を提出


まとめ

社会保険労務士として独立開業することは、大きな可能性を秘めています。今後AIの導入が益々隆盛となり、業務面でのオートメーション化が進むにつれて、社会保険、労働保険等の事務手続きの効率化が図られていくことは必然ですが、利便性が向上していく中においても、業務に精通した専門家の関与が必要なことには変わりありません。社会保険労務士は労務管理の唯一の国家資格者として、労働保険、社会保険の適正な運用、適切な労務管理を通じての良好な労使関係構築に寄与することが期待されており、独立開業後においても自己研鑽に積極的に取り組んでいくことによって、専門家としての立場を確立し、可能性を拡げて社会に貢献出来る仕事を行う事が出来ます。

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