社会保険労務士(社労士)と労務管理士の違い
まずは、社会保険労務士(社労士)と労務管理士の違いをまとめた下記の一覧をご覧ください。
資格名 |
社会保険労務士(社労士) |
労務管理士 |
資格の種類 |
国家資格 |
民間資格 |
仕事内容 |
人事労務管理 |
労働者・人材の適正な管理 |
活かし方 |
独立開業・企業内活用 |
企業内活用 |
資格取得方法 |
社会保険労務士試験 |
公開認定講座 通信講座 書類審査 Web資格認定講座 (上記いずれかの方法で取得) |
合格率 |
6〜7%程度 |
データなし |
受験資格 |
「学歴・実務経験・国家試験合格」 における16のコードの中から1つ該当 |
20歳以上であれば、性別・学歴・職業・経歴は不問 |
独占業務 |
あり |
なし |
最大の違いは、国家資格の社労士には社会保険労務士法に定められた独占業務があることです。
労働社会保険に関する申請書・届出や、労働社会保険法令に基づく帳簿書類作成などは、前出の法律に基づき社労士でないと行えない決まりがあります。
つまり、社労士にはできる仕事でも労務管理士にはできない仕事があるということです。
もし、上記を労務管理士が行えば法律に違反します。都道府県の社労士会の中には、2つの資格の違いについて注意喚起をしているケースもあるため、覚えておくと良いでしょう。
【参考】熊本県社会保険労務士会「社会保険労務士は何をしてくれるの?」
【参考】宮崎県社会保険労務士会「ご注意ください!労務管理士と社会保険労務士は全く関係ありません!」
では、それぞれの違いについて、次章より詳しく解説していきます。
労務管理士とは
労務管理士とは、一般社団法人「日本人材育成協会」が認定する民間資格です。労働基準法や労務管理における専門的知識を習得し、人事や労務分野で活かされています。
労務管理士の資格を取得するということは、「法令を遵守し、従業員の採用から退職までの一連の就業管理を行う能力がある」と評価されたことになります。では労務管理士の仕事内容や受験資格等、詳しく解説していきましょう。
【参考】一般社団法人 日本人材育成協会「資格試験受験に関して」
仕事内容
「労務管理」とは、「労働者・人材の有効活用」を意味します。下記に、労務管理士が関わる具体的な仕事内容をまとめました。
- 労働者の募集・採用
- 配置
- 異動
- 教育訓練
- 人事考課
- 昇進・昇給
- 賃金や労働時間の管理
- 退職
これらの一連の流れを適正に管理する事が、労務管理士の仕事と言えるでしょう。
また、労務管理の仕事は「労働基準法」「男女雇用機会均等法」「育児介護休業法」「パートタイム労働法」など、様々な法律の規制下にあります。これらを守りながら、企業の信頼を高めることが労務管理士として重要です。
社労士と混同しがちな労務管理士ですが、社労士の独占業務である「1号業務(手続き代行)」と「2号業務(帳簿作成)」は行えませんので、覚えておきましょう。
活かし方
労務管理士は、企業の中で活用することを目的とした資格です。「独立開業」を目的としていない点が、社労士とは異なります。
資格取得方法
労務管理士の資格取得方法は大きく4つあります。それぞれ簡単に解説していきます。
▼公開認定講座
全国主要都市で順次開催される「公開認定講座」に参加し、資格を取得する方法です。公開認定講座で実施される資格認定試験に合格すれば、労務管理士の資格を得ることができます。
▼通信講座
所定の通信研修(基礎課程)を履修することで、到達度試験を受けることができます。この試験に合格すれば、「公開認定講座」の資格認定試験合格と同等とみなされ、労務管理士の資格が取得できます。
▼書類審査
経歴と課題論文による審査方法です。労務管理に関する実務経験が最低3年以上ある証明(経歴書または在職中場合は事業所の職務証明)と、労務管理士資格取得者からの推薦が必要です。上記を揃えた上で、協会審査委員会で審査を行い、資格の合否が判断されます。
▼Web資格認定講座
所定の研修(基礎課程)をeラーニングで履修することで、インターネット上で資格認定試験(Web資格認定試験)を受験することができます。通信講座と同様に、試験に合格すれば労務管理士の資格が取得できます。
合格率
合格率は公表されていません。しかし前項で説明したとおり、労務管理士の資格は公開認定講座や通信講座を通じて知識を習得した後、その内容に基づいた試験に合格することで取得できます。
特に公開認定講座では、専任講師が労務管理の基礎・基本から最新の法律知識までを直接指導してくれるため、真摯に学べば合格難易度は決して高くありません。
受験資格
20歳以上であれば、性別・学歴・職業・経歴問わず、誰でも受験することが可能です。
社会保険労務士とは
社労士とは、厚生労働省が管轄する国家資格です。資格を取得することで、企業経営にとって最も重要な「人」に関するエキスパートとして活躍することができます。
では具体的な仕事内容や、資格の取得方法など、詳しくみていきましょう。
仕事内容
社労士とは、企業における人事労務管理をサポートする専門職です。仕事内容は多岐にわたりますが、例えば「人事・労務管理全般に関する問題点を指摘し、改善策を企業に助言する」「少子・高齢化社会の影響を受ける医療保険や年金制度についての相談」などが挙げられます。
活かし方
社労士は、独立はもちろん企業の中で労働関係法令の専門家としてのキャリアをつめます。また、年金や医療、介護保険の専門家としての需要も高まっています。
▼企業内でのキャリアアップ
専門スキルの保持をアピールすることで、労務・人事関連部署でのキャリアアップが目指せます。また、専門性を活かしたプロジェクトの推進メンバーへの抜擢も考えられるでしょう。現在他部署勤務で、総務・人事部門への異動を希望する場合には、その後押しにもなります。
▼就職・転職
社労士の資格保有者が在籍する企業は少なく、多くの企業では労務管理や社会保険については社外の専門家に外注しています。そのため社労士資格は強い武器となり、特に総務・人事部門への志望の際は、アピール材料として活用することできます。
▼独立開業
現在、社労士を必要とする中小企業は、全国に約650万社あるといわれています。そのうち独立開業する社労士が受託する事業所は約60万社に過ぎません。需要の多い職種のため、独立開業もしやすい資格といえるでしょう。
また、高齢化社会が進むと同時に、年金アドバイザーへのニーズも高まっています。そのため、年金の専門家という活躍の道も開けます。
資格取得方法
まず、例年8月に年1回行われる社労士試験に合格することが必要です。社労士試験は全問マークシート形式で、「選択式試験」と「択一式試験」があります。この2つの試験でそれぞれ合格基準点が獲得できれば合格です。
ただ、合格しただけではまだ社労士ではありません。試験合格後、全国社会保険労務士会連合会名簿に登録し、都道府県社会保険労務士会に入会しなければなりません。
しかし、全国社会保険労務士会連合会名簿に登録するには「実務経験が2年以上あること(合格前の勤務も期間も含める)」もしくは「事務指定講習の受講」が必要です。
事務指定講習は、通信指導課程(4月間)とeラーニング講習または面接指導課程(4日間)の組み合わせで実施します。それぞれの課程を修了すると、名簿への登録が可能となります。
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合格率
社労士試験の合格率は6〜7%程度です。
受験資格
主な受験資格のくくりとして「学歴」「実務経験」「国家試験合格」の3つがあります。そこからさらに細かく16のコードに分けられており、16のコードのうち、1つでもあてはまれば受験資格として認められます。
【あわせて読みたい】社労士試験の受験資格をわかりやすく解説!高卒者が受験資格を得る方法も
社会保険労務士になるには
では、社労士になるためには、どのような勉強をどの程度行えばいいのでしょうか。社労士試験の難易度をはじめ、勉強時間や勉強方法など、詳しく解説します。
資格取得方法
前述のとおり、社労士の合格率は6〜7%程度です。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
令和4(2022) | 40,633人 | 2,134人 | 5.3% |
令和3(2021) | 37,306人 | 2,937人 | 7.9% |
令和2(2020) | 34,845人 | 2,237人 | 6.4% |
令和元(2019) | 38,428人 | 2,525人 | 6.6% |
平成30(2018) | 38,427人 | 2,413人 | 6.3% |
平成29(2017) | 38,685人 | 2,613人 | 6.8% |
平成28(2016) | 39,972人 | 1,770人 | 4.4% |
なお、他の主要な法律系資格の合格率は下記のとおりですので、下記の中では司法書士に次ぐ難易度の高さといえるでしょう。
- 司法書士:4〜5%程度
- 行政書士:9〜10%程度
- 宅建士:15〜17%程度
勉強時間
社労士の合格に必要な勉強時間は、500〜1,000時間程度といわれています。資格スクールや通信講座を利用すれば、独学よりも効率的に学べますが、それでも500時間は確保する必要があるでしょう。
独学で合格できる?
社労士資格の取得には、「独学」「資格スクール」「通信講座」という3つの勉強方法があります。独学は経済的負担を抑えて勉強できるのが魅力ですが、社労士は独学合格が難しいといわれています。
それには以下3つの理由があります。
- 試験範囲が広い
- 科目ごとに合格基準点がある
- 最新の法改正情報が必要
それぞれ解説していきましょう。
▼試験範囲が広い
試験科目に挙げられる8つの法律はもちろん、多くの受験生にとって高いハードルとなるのが「労務管理その他の労働に関する一般常識」と「社会保険に関する一般常識」です。この科目の中に多くの法律・制度・知識が含まれるため、試験範囲はかなり広範囲となります。
▼科目ごとに合格基準点がある
社労士試験には「選択式試験」と「択一式試験」がありますが、特に基準点に厳しいのが選択式試験です。1科目5点満点のうち基本的に3点以上の得点が必要です。1科目でも落としてしまうと不合格になるため、得意不得意を作らず、満遍なく知識をつけなければなりません。
▼最新の法改正情報が必要
社労士試験の範囲にある法律や制度は、頻繁に改正が行われます。社労士試験は例年4月に官報公示されますが、試験にはその公示日時点で施行されている内容が出題されるため、情報のアップデートが必要です。
【あわせて読みたい】社労士の独学は難しい!それでも独学したい人に最適な勉強方法とは?
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社労士試験に合格するためには、幅広い法律知識を習得し、最新の法改正や時事問題も把握しておかねばなりません。そのため、手当たり次第の詰め込み式勉強では非効率です。
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まとめ
社労士と労務管理士の違いについて、仕事内容や資格取得方法などを比較しながら解説してきました。
- 社労士は「国家資格」で、労務管理士は「民間資格」
- 社労士には独占業務があり、労務管理士より活躍の幅が広く、資格としての希少価値も高い
- 社労士試験は正しい方法で確実に対策することが必要。労務管理士は試験なし
社労士と労務管理士では、資格取得後に活躍する場所が異なります。そして、社労士にしかできない仕事も多数あります。自身が目指したい姿を考慮した上で、社労士と労務管理士のどちらの資格を取得するべきか、ぜひ吟味してみてください。