一言でいえば、社労士は「社会保険と労務に関するプロフェッショナル」、FPは保険、資産運用、税金といった「暮らしのお金の専門家」。
では、社労士とFPの違いについて、項目別に詳しく見ていきましょう。
資格 | 社労士 | FP |
取り扱う分野 | 社会保険・労務 | 暮らしのお金 |
仕事内容 | 社会保険や労務に関する各種手続きなど | 個人・法人の資産形成・運用などのアドバイス |
独占業務 | あり | なし |
働き方 | 就職、独立開業 | 就職、独立開業 |
社労士は正式名称が「社会保険労務士」で、その名のとおり社会保険と労務が専門分野です。
具体的には次のようなものを取り扱います。
▼社会保険:国の制度
※医療保険・介護保険・年金を「(狭義の)社会保険」、労災保険・雇用保険を「労働保険」と呼ぶこともある。
▼労務:企業の制度・ルール
社労士が業務で携わる範囲はとても広く、企業と労働者が安心して活動できる環境を守る重要な仕事であることがわかります。
一方、FPが取り扱う分野は暮らしのお金全般です。
具体的には家計管理、老後の生活設計、教育資金、社会保険、住宅資金、資産運用、保険など、個人のお金に関するさまざまな相談を受け付けます。
FPはどの級でも上記のような分野を取り扱いますが、難易度が高い級ほどより専門的な知識が求められます。
社労士とFPは、年金など社会保険に関する専門性を有する点が共通しています。
社労士の主な仕事内容には、次のようなものがあります。
社労士の仕事は、顧客から相談を受けるだけでなく、書類作成・申請などの代行も行います。
下記のような役所と交渉して手続きを行います。
一方、FPは個人や法人からの相談の受付やアドバイスなどが中心となります。
「教育費の負担が増えたので、住宅ローンの借り換えで負担を減らしたい」「老後に備えて投資で資産形成をしたい」「会社の事業のために銀行から資金調達したい」といった顧客の希望に対し、それぞれの状況に応じた最適な提案を行います。
独占業務とは、資格所有者のみが独占的に行える業務のことです。
資格所有者以外は、業務に携わることが法律で禁止されています。
社労士以外で独占業務がある代表的な職業は、弁護士、司法書士、税理士などです。
社労士には社会保険労務士法第2条で定められた独占業務があります。
社労士の業務は1号業務から3号業務に分類され、このうち1号業務と2号業務が社労士の独占業務です。
▼1号業務【独占業務】
▼2号業務【独占業務】
▼3号業務
【あわせて読みたい】社会保険労務士の独占業務とは?
一方、FPはどの級にも独占業務はありません。
つまり、暮らしのお金に関する相談業務はFP資格がない人が行っても問題がないということになります。
ただ、現実的には、体系的な知識を身につけるためや、専門知識があることを証明するためにFP資格を取得する人が多いと言えます。
一般的に「FP」という言葉が指すのはファイナンシャルプランナーの関連資格や資格保有者の総称で、資格の種類としては全部で5つあります。
このうち国家資格は「FP技能士(ファイナンシャル・プランニング技能士)」1〜3級の3つです。
今回は、最上級のFP1級(1級ファイナンシャル・プランニング技能士)に注目しながら、社労士と比較していきます。
FP1級は社労士と同じく難関資格ですが、ダブルライセンスを実現できれば大きな強みとなります。
特に独立開業を考えている人にとっては、同業者との違いを打ち出す際に役立つでしょう。
まずはそれぞれの難易度について、合格率や勉強時間を比較します。
▼社労士試験の合格率
社労士試験の合格率は6〜7%程度で、年度によって多少のばらつきがあります。
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
令和6(2024)年 | 43,174人 | 2,974人 | 6.9% |
令和5(2023)年 | 42,741人 | 2,720人 | 6.4% |
令和4(2022)年 | 40,633人 | 2,134人 | 5.3% |
令和3(2021)年 | 37,306人 | 2,937人 | 7.9% |
令和2(2020)年 | 34,845人 | 2,237人 | 6.4% |
令和元(2019)年 | 38,428人 | 2,525人 | 6.6% |
平成30(2018)年 | 38,427人 | 2,413人 | 6.3% |
▼FP1級の合格率
FP1級を取得するにはいくつかのルートがありますが、今回は学科・実技ともに「きんざい(一般社団法人金融財政事情研究会)」が実施する試験を受験するルートについて合格率を見ていきます。
まず、学科試験(きんざい)の合格率は10%程度で、難易度が高い試験となっています。
年・月 | 受検者数 | 合格者数 | 合格率 |
2024年5月 | 4,340人 | 736人 | 16.95% |
2024年1月 | 5,226人 | 456人 | 8.72% |
2023年9月 | 5,023人 | 653人 | 13.00% |
2023年5月 | 4,831人 | 170人 | 3.51% |
2023年1月 | 6,146人 | 638人 | 10.38% |
2022年9月 | 5,347人 | 657人 | 12.28% |
2022年5月 | 6,192人 | 582人 | 9.39% |
2022年1月 | 7,958人 | 531人 | 6.67% |
2021年9月 | 7,134人 | 930人 | 13.03% |
一方、実技試験(きんざい)の合格率は85%程度と非常に高くなっています。
年・月 | 受検者数 | 合格者数 | 合格率 |
2024年6月 | 554人 | 458人 | 82.67% |
2024年2月 | 698人 | 614人 | 87.96% |
2023年9月 | 196人 | 157人 | 80.10% |
2023年6月 | 737人 | 625人 | 84.80% |
2023年2月 | 754人 | 649人 | 86.07% |
2022年9月 | 474人 | 401人 | 84.59% |
2022年6月 | 742人 | 638人 | 85.98% |
2022年2月 | 1,119人 | 961人 | 85.88% |
2021年10月 | 1,341人 | 1,142人 | 85.16% |
【参考】金融財政事情研究会「試験結果」
社労士試験は年1回ですが、FP1級はきんざいの試験を受験する場合、学科・実技ともに年3回のチャンスがあります。
▼社労士の勉強時間
社労士の合格に必要な勉強時間は、500〜1000時間程度と言われています。
一般的に1年間の勉強で合格を目指す人が多く、1年で1,000時間を確保するには1日あたりの勉強時間は単純計算で3時間弱となります。
しかし、働きながらであっても合格を目指すことが十分可能で、実際に合格者の多くは仕事をしながら難関を突破しています。
▼FP1級の勉強時間
FP1級の合格に必要な勉強時間は、600時間程度と言われています。
ちなみに、FP2級の合格には150〜300時間程度、FP3級の合格には80〜150時間程度を要するとされています。
試験の難易度や対策について考える上で、試験範囲も重要なポイントのひとつとなります。
社労士とFP1級では試験範囲にもかなりの違いがあるため、しっかりと比較した上でどちらを受験するのか検討する必要があります。
ここではそれぞれの試験範囲についてご紹介します。
社労士試験の試験範囲(科目)は、大きく分けて労働関係科目と社会保険関係科目の2つです。
社労士試験は出題範囲が非常に広く、さらに科目ごとの合格基準点が設定されているため、全科目からまんべんなく得点できるように準備しておくことが合格するための最大のポイントとなっています。
各科目の傾向と対策は、こちらの記事で解説しています。
【あわせて読みたい】社会保険労務士(社労士)の短期合格に向けた各科目別傾向と対策
試験はマークシート方式のみで、選択式試験と択一式試験の2つの形式の両方で合格基準を満たすことで試験に合格となります。
【あわせて読みたい】社労士の試験内容・科目一覧!合格基準・合格率や短期合格のコツも解説
FP1級を目指すいくつかのルートのうち、先ほどと同様に学科・実技ともにきんざいの試験を受験する場合で説明します。
▼学科試験の試験科目と試験範囲
学科試験は、基礎編(マークシート方式・50問)と応用編(記述式・5題)で構成されています。
応用編では、提示された設例課題に関する穴埋め問題や計算問題が出題されます。
ちなみに、学科試験の試験科目はFP2級と3級も同じですが、求められる知識の細かさが異なります。
▼実技試験の試験科目と試験範囲
実技試験は面接で、設例課題が提示され15分ほど検討の時間が与えられたのち、口述試験が行われます。
【参考】金融財政事情研究会「ファイナンシャル・プランニング技能検定 試験科目及びその範囲」
資格試験を検討するうえで必ず事前にチェックしておきたいのが、受験資格です。
社労士とFP1級の受験資格について解説します。
社会保険労務士試験には受験資格が定められています。受験資格は、大きく分けると次の3つです。
これら3つは、さらに細かく全部で16のコードに分けられています。この16のコードのうち、1つでもあてはまれば受験資格として認められます。
※大きく分けた3種類のうちどれか1つにあてはまればOKです。たとえば「学歴と実務経験の両方が必要」といったことはありません。
【あわせて読みたい】社労士試験の受験資格をわかりやすく解説!高卒者が受験資格を得る方法も
FP1級を目指すいくつかのルートのうち、これまでと同様に学科・実技ともにきんざいの試験を受験する場合で説明します。
FP1級は、学科試験と実技試験にそれぞれ受験資格が設けられています。
▼学科試験の受験資格
受験資格を得るには、いずれか1つを満たさなければならず、FP業務の実務経験が必須です。
すでにFP業務に従事している方であれば、比較的簡単に受験資格を得ることができるとも言えます。
▼実技試験の受験資格
こちらは前述の学科試験に合格すれば受験することができます。
また、必ずしも学科試験に合格しなくても、国際的なFP資格であるCFP資格を取得することなどでも受験資格の要件を満たせます。
ちなみに、FP2級の受験資格は次のとおりです(学科試験、実技試験の別なし)。
▼FP2級の受験資格
こちらは1級とは違い、FP3級に合格していれば実務経験は不要です。なお、FP3級については特別な受験資格は設けられておらず、誰でも受験が可能です。
社労士とFPはダブルライセンスの相性がいい組み合わせの1つです。
試験範囲のうち年金など社会保険に関する分野が共通しているので、2つ目の資格に向けた学習ではその分野の勉強をスムーズに進めることができるでしょう。
また、資格を取得して仕事をしていくには、強みや専門分野を持っておくことが重要です。
社労士資格にプラスしてFPを取得できれば、「不動産や投資など幅広い分野の知識を踏まえたアドバイスができる」「年金と相続についてセットで相談を受け付ける」といった活用ができるでしょう。
なお、社労士とのダブルライセンスにおすすめの資格は、次のようなものもあります。
詳しくはこちらの記事で解説しています。
【あわせて読みたい】社会保険労務士と相性のいい資格って何?
今回は社労士とFPについてさまざまな点を比較しました。最後にポイントをおさらいします。
資格を組み合わせて保有すると、より高い価値を提供できる人材になれます。
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