社労士資格と公務員の相性がいい3つの理由
社労士の資格と公務員は非常に相性がいいこともあり、公務員として働きながら社労士を目指すという方も少なくありません。社労士と公務員の相性がいい理由は次の3つです。
- 公務員の仕事に社労士の知識が役立つ
- 社労士への転職で公務員時代の経験を活かせる
- 公務員は社労士試験の一部免除制度を使える(公務員特例)
それぞれの理由について詳しくご紹介します。
公務員の仕事に社労士の知識が役立つ
理由の1つ目は、公務員として働き続けるうえで社労士の知識が役立つことです。
公務員の仕事には、医療保険、介護保険、年金など社労士業務と関連する分野が多く、資格取得で得られる知識を仕事に活かしやすいです。
特に転職を考えておらず公務員を続けるつもりの方も、「知識を増やしてもっとキャリアアップしたい」と考えるのであれば、社労士試験に挑戦することには多くのメリットがあります。
社労士への転職で公務員時代の経験を活かせる
理由の2つ目は、社労士へ転職する場合に公務員時代の経験を活かせることです。
一般的に、転職では実務経験がある人のほうが選考で有利になることが多いと言えます。
雇用先にとって、元公務員の社労士は、実務経験がまったくない人よりも即戦力として活躍することを期待できる存在でしょう。
なお、社労士試験の合格者の中には、毎年一定の割合で公務員の方がいます。
令和5年度(2023年度)の合格者の職業別の割合を見ると、公務員は9%で、会社員と無職に次いで3番目の多さでした。
▼令和5年度(2023年度)の合格者(職業別)
【参考】厚生労働省「第55回社会保険労務士試験の合格者発表」
公務員は社労士試験の一部免除制度を使える(公務員特例)
理由の3つ目は、公務員として一定の実務経験があれば一部免除制度を利用することができることです。
社労士試験は、合格率が4〜7%程度と難関の国家試験です。
試験科目が非常に多いため、合格に必要な勉強時間は1,000時間程度と言われています。
そんな社労士試験では、「労働社会保険法令に関する施行事務」に所定の期間従事した人に対し、一部科目の受験を免除する制度があります。
この免除の対象者に、公務員が含まれています。
社労士試験は10科目が出題され、科目ごとに設けられた合格基準点を1科目でも下回れば不合格となります。
つまり、出題範囲が広いうえ手も抜けないないのが、社労士試験の難しさです。
しかし、一部の科目が免除されれば、残る科目の勉強により多くの時間を割くことができます。
主な免除資格のうち、「国または地方公共団体の公務員」については「労働社会保険法令に関する施行事務に従事した期間が通算して10年以上になる方」と定められています。
(※免除される科目については、のちほど詳しく解説します)
ちなみに、国または地方公共団体の公務員以外の主な免除資格は下記のとおりです。
- 厚生労働大臣が指定する団体の役員・従業者(免除指定講習を修了)
- 社会保険労務士・社会保険労務士法人の補助者(免除指定講習を修了)
- 日本年金機構の役員・従業者
- 全国健康保険協会の役員・従業者
※いずれも所定の業務内容・従事期間の条件を満たし、「免除指定講習」を修了した人が該当。
公務員特例の免除者の合格率・難易度
社労士試験で公務員特例による免除制度を使うと、実際に合格しやすくなるのでしょうか?
近年の社労士試験における公務員特例の免除者の合格率を計算してみたところ、受験者全体の合格率よりも高くなっていました。
年度 | 全体の合格率 | 公務員特例の免除者の合格率 |
令和5(2023) | 6.4% | 15.4% |
令和4(2022) | 5.3% | 16.0% |
令和3(2021) | 7.9% | 17.4% |
令和2(2020) | 6.4% | 12.8% |
令和元(2019) | 6.6% | 13.6% |
平成30(2018) | 6.3% | 12.5% |
公務員特例で免除される科目
社労士試験の公務員特例によって免除される科目について、代表的なものをピックアップして紹介します。
いずれも当該業務に従事した期間が通算10年以上である人が対象です。
免除科目 | 免除資格者 | |||||
種別 | 従事した業務 | |||||
労働基準法及び労働安全衛生法 | 国家公務員 | 労働基準法、労働者災害補償保険法または労働安全衛生法の施行事務 | ||||
労働者災害補償保険法 | 国家公務員 | 労働基準法または労働者災害補償保険法の施行事務 | ||||
雇用保険法 | 国または地方公共団体の公務員 | 雇用保険法または職業安定法の施行事務 | ||||
労働保険の保険料の徴収等に関する法律 | 国または地方公共団体の公務員 | 労働保険の保険料の徴収等に関する法律の施行事務 | ||||
健康保険法 | 国または地方公共団体の公務員 | 健康保険法の施行事務 | ||||
厚生年金保険法 | 国または地方公共団体の公務員 | 厚生年金保険法の施行事務 | ||||
国民年金法 | 国または地方公共団体の公務員 | 国民年金法の施行事務 | ||||
労務管理その他労働及び社会保険に関する一般常識 | 国または地方公共団体の公務員 | 厚生労働省の所掌事務に属する行政事務 |
より詳しく知りたい場合は、下記ページで確認できます。
【参考】社会保険労務士試験オフィシャルサイト「試験科目の一部免除資格者一覧 」
免除された科目の点数(免除加算点)
では、社労士試験の公務員特例で免除される科目の点数はどうなるのでしょうか?
結論から述べると、次のとおりです。
- 免除科目は「満点」でカウントされるわけではなく、毎年、所定の計算方法で決定される「免除加算点」が付与される。
- 免除加算点の計算には選択式と択一のそれぞれの「総得点の合計基準点」が用いられていて、これは毎年変動する。
以下で詳しく解説していきます。
社労士試験の合格基準点
まず、前提知識として社労士試験の仕組みと合格基準点について説明します。
社労士試験は、午前中に行われる選択式試験と午後に行われる択一式試験という2つの形式の試験で構成されていて、試験に合格するには両方とも合格基準点を満たす必要があります。
▼社労士試験の合格基準点
出題形式 | 満点 | 合格基準(原則) |
選択式(5点×8科目) | 40点 | 合計28点以上かつ各科目3点以上 |
択一式(10点×7科目) | 70点 | 合計49点以上かつ各科目4点以上 |
合格基準点は、原則として総得点の7割(選択式は40点中28点、択一式は70点中49点)です。
さらに、総得点の合格基準点のほかに科目ごとの合格基準点も定められています。
このため、科目のどれか1つだけでも科目ごとの合格基準点を下回っている場合、総得点が基準点を超えていても不合格になってしまいます。
以上が原則ですが、ほぼ毎年、試験の難易度に応じて総得点あるいは科目ごとの合格基準点を引き下げる調整が行われるため(救済制度)、正確な合格基準点は年によって変動し、試験後に確定します。
【あわせて読みたい】実際の社労士試験の問題はどんなもの?試験範囲と合格基準も解説
社労士試験の免除加算点
では、公務員特例で免除された科目の点数(免除加算点)の計算方法について見ていきましょう。
試験の公式サイトにて、下記のような計算式が示されています。
選択式の免除科目の配点 総得点の合格基準点 ÷ 40点(満点) × 免除となる科目の満点 択一式の免除科目の配点 総得点の合格基準点 ÷ 70 点(満点) × 免除となる科目の満点 【出典】社会保険労務士試験オフィシャルサイト「免除加算点」
具体例として、令和5年度(2023年度)試験において雇用保険法の科目免除を受けた場合について計算してみましょう。
同科目の満点は選択式5点、択一式7点で、この年度は選択式・択一式とも救済科目なしです。
▼選択式の雇用保険法の点数(合格基準点が総得点26点以上、各科目3点以上の場合) 26点 ÷ 40点 × 5点 = 3.25点 小数第2位を四捨五入し、3.3点 ▼択一式の雇用保険法の点数(合格基準点が総得点は45点以上、各科目4点以上の場合) 45点 ÷ 70点 × 7点 = 4.5点
これらの点数が雇用保険法の点数となります。
注意点としては、免除科目に満点が加算されるわけではないため、免除を利用せず受験した方が得点が高くなる可能性もあることが挙げられます。
得意科目は免除を受けずに受験したほうが、得点を稼げて合格にプラスとなりやすいでしょう。
こういった注意点も頭に入れた上で、免除を受けるかどうかを検討してみてください。
公務員特例の免除の手続き
社労士試験の公務員特例では、条件を満たしていても自動で科目免除が適用されるわけではありません。
免除を受けないという選択肢もあるため、希望するのであれば事前の手続きが必要となります。
公務員特例の事前確認の方法と申請方法について解説します。
事前確認
科目免除を受けることができるかどうかは、試験センターに一年中いつでも問い合わせ可能です。
社会保険労務士オフィシャルサイトで用意されている様式と送付状を使い、試験センターに送付すると、通常は1週間以内に電話で回答してもらえます。
【参考】社会保険労務士試験オフィシャルサイト「受験資格・免除資格の事前確認」
申請方法と審査結果
科目免除の申請は受験申し込みと同時に行います。所定の様式の「実務経験証明書」を1部用意し、提出することで審査を受けることができます。
免除申請審査の結果は受験票とは別に郵送で届きます。
なお、免除を受ける科目は一度決定されると変更できません。
【参考】社会保険労務士試験オフィシャルサイト「試験科目の一部免除申請方法・結果通知」
高卒者は公務員の実務経験で受験資格が得られる
公務員と社労士の相性がいい理由は、この記事の冒頭ですでに述べましたが、高卒者にとっては公務員の実務経験によって受験資格が得られるという面もあります。
社労士試験の受験資格の要件は、大きく分けて「学歴」「実務経験」「試験合格(所定の国家試験)」の3つがあり、いずれか1つを満たせば受験可能です。
一般的に「学歴」で受験を申し込む人が多いのですが、最終学歴が高校卒業の場合は「学歴」で受験資格を得ることができません。
一方「実務経験」においては、公務員としての実務経験を活用することができます。
国または地方公共団体の公務員として行政事務に相当する事務に従事した期間が通算3年以上であれば受験資格を得られます。
【あわせて読みたい】高卒者が最短で社労士受験資格を得るには?学歴・実務経験を満たす方法も
【参考】社会保険労務士試験オフィシャルサイト「受験資格について」
公務員から社労士になれないケースもある
すでにご紹介した通り、公務員と社労士は相性がいいため、公務員から社労士への転職を目指すという方も少なくありません。
しかし、公務員から社労士になれないケースもあるため注意が必要です。
具体的には公務員として懲戒免職を受けた場合で、3年間の欠格期間があります。
この期間は社労士になることができません。特殊な例ではありますが頭に入れておくようにしてください。
【参考】e-Gov法令検索「社会保険労務士法(昭和四十三年法律第八十九号)」
まとめ
今回は社労士資格と公務員の関係について詳しくご紹介しました。それではポイントをおさらいします。
- 社労士資格は公務員を続ける上でも転職する場合も活用しやすい
- 公務員は社労士試験の一部免除制度を使える(公務員特例)
- 公務員特例の免除者の合格率は全体の合格率よりも高い
- 得意科目の場合、免除を利用しないほうが高得点がとれる場合もある
社労士資格は公務員と相性がよく、試験においても有利になる可能性があります。
現在公務員として働いている方はキャリアアップや転職に備えて社労士試験にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。