社労士試験の一般常識(労一・社一)とは
社労士試験において「一般常識」と言うと、次の2科目を指します。
- 労務管理その他の労働に関する一般常識(労一)
- 社会保険に関する一般常識(社一)
一般常識の配点
社労士試験は「選択式試験」と「択一式試験」の2つで構成されており、労一と社一はいずれの試験でも出題されています。
試験形式ごとの配点は、下記のとおりです。
試験形式 | 労一 | 社一 |
選択式(40点) | 5点 | 5点 |
択一式(70点) | 5点 | 5点 |
試験科目全体を俯瞰すると、各科目がまんべんなく出題されていることがわかります。
労一や社一は、出題数が特別に多い科目というわけではありません。
一般常識の出題内容
「一般常識」という言葉の印象から親しみやすい印象を受けるかもしれませんが、社労士試験の一般常識とは
「労務管理や社会保険に関して一般人が備えている常識を覚えておけばいい」という単純な話ではありません。
これらの科目で出題されるのは、次のような内容です。
- 主な科目以外の労働・社会保険に関する法律
- 国内における労働や雇用、社会保険に関する最新知識(白書・統計)
以下、それぞれについて解説していきます。
法律
労一と社一の出題範囲となる主な法律は、具体的には下記のとおりです。
▼労一
労働組合法、労働関係調整法、労働契約法、労働時間等設定改善法、個別労働関係紛争解決促進法、パートタイム・有期雇用労働法、最低賃金法、賃金支払確保法、中小企業退職金共済法、男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、次世代法、女性活躍推進法、労働施策総合推進法、職業安定法、労働者派遣法、若者雇用促進法、高年齢者雇用安定法、障害者雇用促進法、職業能力開発促進法、求職者支援法
▼社一
社会保険労務士法、国民健康保険法、高齢者医療確保法、介護保険法、船員保険法、児童手当法、確定拠出年金法、確定給付企業年金法・支援法・社審法
労一は20程度、社一は10程度の法律が出題範囲であり、これだけ見ても「一般人が備えている常識」とは異なることがわかります。
白書・統計
一方「最新知識」とは何かというと、直近に発表された厚生労働白書、労働経済白書、労働に関する統計、社会保障費用に関する統計などです。
これらは毎年もしくは数年単位で更新され、社労士試験での出題もその内容を反映した最新のものになります。
つまり、一般常識対策は過去問での勉強だけでは対応できず、最新の白書や統計データをチェックして知識を獲得しておく必要があるわけです。
白書については、試験では基本的に前年度の白書が出題範囲となります。
これらは厚生労働省のWebサイトで公開されています。
統計データについては、総務省のWebサイトで公開されています。
【参考】厚生労働省「白書、年次報告書」
【参考】総務省統計局「労働力調査」
一般常識対策が難しい理由
社労士試験の一般常識対策が難しいのは、まずは先ほど見たとおり出題範囲が非常に広いことです。
範囲の広さに対して配点は他の科目と同じなので、法律を細かく勉強しようとすると効率が非常に悪くなります。
また、先ほど「白書や統計データをチェックする」と述べましたが、これらもボリュームが非常に大きいため、実行するのはそう簡単なことではありません。
たとえば労働経済白書は約400ページ、厚生労働白書は約500ページにもおよびます。
ただでさえ広範囲から出題される社労士試験の勉強中に、白書をすべて丁寧に読みこむといった作業は現実的ではないでしょう。
一般常識を「捨てる」のはアリ?
社労士試験の一般常識対策は、ここまで見てきたような難しさがあるため、中には最初からあきらめてしまう受験生もいます。
しかし、本気で合格を目指すなら一般常識を「捨てる」ことはできません。
なぜなら、社労士試験はすべての科目に合格基準点が設定されているからです。
1科目でも合格基準点に届かなければ、不合格となってしまいます。
他の科目がどんなに高得点でも、労一や社一が足を引っ張ると試験に合格できないので、社労士試験の中でも対策がもっとも難しい科目とされています。
一般常識のおすすめ勉強法
社労士試験の一般常識は範囲の広さにおいて手強い科目ですが、内容自体はさほど難解ではありません。
出題されやすいポイントだけを勉強すれば、効率よく対策できます。
ここからは出題内容別の対策と、試験形式(選択式試験・択一式試験)別の対策について解説します。
「法律」の対策
一般常識の法律は、出題頻度に関わらず、どの法律も丁寧に勉強しておくことが重要です。
法律からの出題は、択一式試験では2~3点分、選択式試験でも1~3点分が目安なのですが、特に選択式試験では合格基準点に届かず涙をのむ受験生が多いです。
そうならないためにも、主な法律について一度は丁寧にさらっておく必要があります。
中でも労一の法律は、早い時期からおさえておきましょう。
なぜなら、試験直前の時期は白書や統計の最新情報や法改正情報の確認などやることが多くなり、焦りから諦めにつながりやすいからです。
直前期に落ち着いてやるべきことに集中できるよう、先にできることは早めに着手しましょう。
そのうえで、よく出題される法律・テーマには下記があるので、特に意識して学習してください。
▼労一
労働組合法:労働三権、労働組合、不当労働行為
最低賃金法:最低賃金の減額の特例、地域別最低賃金、地域別最低賃金の決定
▼社一
国民健康保険法:目的、保険者、国民健康保険組合の設立、被保険者など
児童手当法:目的、定義、認定、支給、支払など
「厚生労働白書」の対策
厚生労働白書は2部構成となっています。
第1部は年度ごとの特集(たとえば令和4年度は「社会保障を支える人材の確保」)で、社労士に関連するテーマであれば対策が必要です。
第2部は子育て、雇用、年金、医療・介護などに関する最新情報がまとまっているパートです。
このうち社労士試験で対策すべきテーマは下記のとおりです。
- 特集
- 労働環境(労一)
- 女性、若者、高齢者(労一)
- 年金・医療・介(社一)
厚生労働白書は、択一式試験では社一だけに出題されることがほとんどです。しかし選択式試験では近年は労一で出題される傾向も出てきています。
勉強の際はどちらの科目で出題されそうかを意識しながら進めましょう。これは筋トレで鍛えたい部位を意識する感覚と似ています。
「労働経済白書」の対策
労働経済白書も2部構成となっています。
第Ⅰ部の内容は「労働経済の推移と特徴」で、白書の肝となる部分です。
しかし、社労士試験においては平成24年度以降の白書からは出題されていないため、学習の優先順位は低いと考えてください。
近年は第Ⅱ部から出題されているので、こちらを中心に勉強します。
また、労働経済白書は選択式試験で出題されたことはほとんどありません。
択一式試験での出題を想定し、それぞれの選択肢の正誤を正確に判断できるようになることを目指して学習しましょう。
「労働統計」の対策
統計調査には「基幹統計調査」と「一般統計調査」があります。
主な基幹統計調査で重要なのは、下記のような調査です。それぞれに出てくる用語の定義を正確に覚え、増減傾向もおさえておきましょう。
- 労働力統計(労働力統計を作成するための統計調査として労働力調査)
- 就業構造基本調査
- 人口動態統計調査
- 毎月勤労統計調査
- 賃金構造基本統計
一般統計調査に関して出題されやすいテーマには、下記のようなものがあります。
- 就労条件総合調査:週休制、年次有給休暇、変形労働時間制
- 労働組合基礎調査:労働組合数及び労働組合員
「社会保障費用関係統計」の対策
日本の社会保障に関係する統計も出題範囲です。
- 社会保障費用統計(日本の社会保障全体の規模を明らかにする基幹統計)
- 国民医療費の概況
- 年金事業の概況
- 人口動態統計
- 被保護者調査(生活保護に関する調査)
これらの統計資料は新しいデータが毎年公表されています。細かな数値を覚えるのではなく、大きな傾向をつかむことがポイントです。
統計に出てくる金額・数・割合などについて、下記のようなことを整理しながら学習してみてください。
- 1番目、2番目に多い項目はどれか
- 伸び率が目立つ項目はどれか
- 増加傾向か、それとも減少傾向か
選択式試験対策
▼労一・選択式試験対策
社労士試験の全科目の中で特に点を取りにくいとされており、基準点割れに泣く方も多いのが、労一の選択式試験です。
近年は難易度に応じて合格基準点が引き下げられることも多いですが、とにかく基準点である5点中3点は確保できるような準備が必要です。
法律、統計調査、労働経済白書、厚生労働白書をベースに勉強し、目的条文、労務管理、統計に関する知識、判例まで、幅広くカバーしておく必要があります。
▼社一・選択式試験対策
出題されやすいのは法律(出題の中心)、厚生労働白書、費用の流れです。これにプラスして目的条文、法律の沿革もおさえておきます。統計調査はあまり出題されない傾向です。
択一式試験対策
▼労一・択一式試験対策
出題される5問の典型的な構成は、法律が3問、白書・統計調査が2問なので、法律、統計調査、労働経済白書、厚生労働白書の学習が基本です。加えて男女共同参画白書、高齢社会白書、判例の対策をしておきます。
▼社一・択一式試験対策
労一に対し、社一は法律から出題される傾向が顕著です。法律をしっかり対策しておきましょう。このほか、法律の沿革に関する問題が出されることもあるので、学習しておきましょう。
一般常識対策はいつからスタートすべき?
では、ここまでみてきたような一般常識対策は、いつからスタートすべきでしょうか?
社労士試験は「1年で合格を目指す」という方が多いので、1年間の学習スケジュールから考えてみましょう。
▼1年の勉強スケジュール(目安)
時期 | やること |
9〜3月 | 基礎力を養う(出題範囲を2周、「インプット+問題」をセットで学習) |
4〜5月 | 基礎の復習+最新情報の肉付けをする(法改正、白書、統計など) |
6〜8月 | 得点力を高める(答練、模試など) |
社労士試験の勉強は、出題範囲を何周も繰り返し学習して内容を定着させていきます。
最初のステップとして、労働関係科目(6科目)→社会保険関係科目(4科目)の順に全範囲を学習し、3月までに最低2周はして基礎力を養いたいところです。
労一・社一は1~2月頃までには、1周目の学習をやっておきましょう。
なお、個別の科目は下記の図の上から順に学習するのがおすすめです。
一般常識の独学は難しい?
広大な範囲から出題される一般常識(労一・社一)は、学習の効率化が特に重要な科目です。
独学の場合は無駄が多くなりやすいので、本来は他の科目の対策に使えたはずの時間まで一般常識対策が食い潰してしまうかもしれません。
一般常識対策には「出るところだけ学べる」ように作られた講座を活用することをおすすめします。
スタディング社会保険労務士講座では、一般常識の法律、白書、統計について合格までの最短距離で学べるカリキュラムをご用意しています。
過去の出題や近年の傾向をふまえて厳選した内容を、わかりやすい動画講義で効率的にインプットできます。
これひとつで効果抜群
「5つの理由」とは?
スタディング 社会保険労務士講座 |
【スタディング 社労士講座】合格者の声
スタディング 社会保険労務士講座から合格した方々から、一般常識対策について喜びの声や教材活用法が寄せられています。一部をご紹介します。
初年度の試験では択一で50点台半ばの点数を獲得できたものの選択の社一で基準点に1点足らず非常にくやしい思いをしました。 白書・統計については範囲が膨大なことから、覚悟を決めて早苗講師の講義に絞って学習したところ、講義で強調されたポイントが的中、実際にいくつか出題され確実に得点できました。
|
実際試験を受けてみると講義の内容がそのまま出たり、難しい統計や白書もしっかり講義されており、他の教材を使ってない初学者の私でも1発で合格できました。
|
昨年11月よりテキストにて勉強を開始して別会社の模試を受けこのままでは合格できないと思い5月からスタディングにて勉強を始めました。 (中略) 最後の 1週間は選択対策でスタディングの労一、社一のテキストに時間をかけるようにした結果合格基準点を満たすことができました。
|
まとめ
今回は社労士試験の一般常識(労一・社一)について解説しました。
- 主な科目以外の労働・社会保険に関する法律や、白書・統計などから出題される
- 科目ごとの合格基準点があるため、「捨てる」ことはできない
- 出題範囲が非常に広いため、出るポイントに絞った学習が必須
一般常識は多くの受験生が苦戦する科目です。最初から完璧を目指すと範囲の広さにくじけそうになるでしょう。
まずは「最後までやってみる」ことを意識し、復習を繰り返しながら少しずつ穴を埋めていきましょう。