社労士試験で出題される労働基準法とは
労働基準法は労働者に関する基本法です。労働者が安心して働けるように、労働条件の最低基準について憲法25条(生存権)の規程を受けて定められています。
社労士試験における労働基準法は、労働關係科目の中で最も基礎となる科目であり、最初に学ぶべき科目です。
労働基準法の出題傾向
労働基準法の出題傾向の最大の特徴は、法律の条文以外に「通達」と呼ばれる行政の内部文書や、過去の判決の実例である「判例」から出題されるケースが多いことです。
単に知識として法律の条文を丸暗記するだけではなく、通達や判例を通してしっかり理解する学習が求められます。
労働基準法の問題数・科目の合格基準点
社労士試験は「選択式試験」と「択一式試験」という2種類の形式で構成されていて、労働基準法はいずれの形式においても「労働安全衛生法(※)」とセットで出題されています。
※労働安全衛生法:労働基準法から安全衛生に関する項目のみを抽出し、一個の法体系にまとめた法律。
労働基準法の問題数と科目の合格基準点は次のとおりです。
▼選択式試験
問題数:全5問。労働基準法(小問3つ)+労働安全衛生法(小問2つ)。
科目合格基準点:3点以上。小問は1問1点なので、最低3問は正解する必要がある。
▼択一式試験
問題数:全10問。労働基準法(小問7つ)+労働安全衛生法(小問3つ)。
科目合格基準点:4点以上。小問は1問1点なので、最低4問は正解する必要がある。
社労士試験に合格するには、選択式試験と択一式試験の両方をクリアする必要があります。
これら2つの試験はいずれも、総得点だけでなく科目ごとの点数にも合格基準点が設定されていて、たとえ総得点が合格基準点を満たしていても、合格基準点に満たない科目が1つでもあれば不合格となります。
労働基準法の救済
社労士試験の難易度は、年により多少のバラつきがあり、難易度が高い年は科目ごとの合格基準点が引き下げられることがあります。これが社労士試験の救済制度です。
近年の社労士試験では、ほぼ毎年のように救済が実施されています。
しかし、労働基準法では救済がほぼ行われていません。救済の対象となったのは平成23年度(2011年度)の選択式試験が最後です。
救済に期待することなく、確実に合格基準点を獲得できるように学習しておきたい科目です。
そもそも、いずれの科目においても、救済があるかどうかは試験が終わるまでわかりません。最初から救済をあてにせず、すべての科目で合格基準点がとれるように準備しましょう。
労働基準法の勉強方法
では、社労士試験に向けて最初に学ぶことになる労働基準法を、どのように勉強すればいいのでしょうか。ポイントとなるのは以下の2点です。
- 条文を正確に理解する
- 100%を目指して深入りしすぎない
条文を正確に理解する
労働基準法の勉強をする上で最初のポイントとなるのが、条文を正確に理解することです。
単に条文を覚えるのみでなく、その内容をしっかりと理解することが重要です。それぞれの条文の役割や内容はどうなっているのか、各条文の対象者はどんな人を指しているのか、等を確認しながら丁寧に理解を進めてください。
労働基準法に限りませんが、法改正があった場合は、新しい情報へのアップデートも必須です。常に最新の情報をチェックすることも重要となります。
100%を目指して深入りしすぎない
労働基準法は、勉強すればするほど得点が取れるようになる科目ですが、あまりに細かい部分まで深入りしすぎてしまうのはNGです。
なぜなら、社労士試験は科目数が多く、しかも前述のとおり全科目に合格基準点が設定されているため、1科目だけに注力することよりも、苦手科目を作らないこと、全科目でまんべんなく得点できることのほうが大事だからです。
合格する人の勉強方法には、共通点があります。それは、個別の論点について100%まで完璧に仕上げることをせず、「過去問で7割くらい正解できればOK」といったようにある程度で切り上げることです。
資格試験は、問題を100%正解できなくても、合格基準点を越えさえすれば合格できます。
特に社労士試験においては、科目全体や試験範囲全体でのバランスをとることが成功の秘訣です。
労働基準法の勉強も、まずは重要度が高い頻出論点を優先的に固めることを意識しましょう。
労働基準法の頻出論点
スタディングでは50年分の過去問を分析した上でテキストを作成しています。その中から労働基準法を初めて勉強する人がまず理解すべき最重要項目の一部をピックアップしました。
具体的には、過去の出題回数が6回以上の頻出論点で、いずれも労働基準法を学ぶうえでもっとも基礎的な内容となっています。
今回は、頻出論点が特に多い下記の項目について解説します。
- 総則
- 労働契約
- 賃金の支払
- 労働時間・休憩・休日
総則
- 総則ではまず、労働条件の最低基準である労働基準法の考え方を理解し、同法の適用を受ける範囲と適用除外についておさえておきましょう。労働基準法の適用除外においては家事使用人(家事一般に使用される労働者)が頻出です。
- 保護されるべき労働者、規制される使用者については、それぞれの定義を覚えておきましょう。
- 労働者派遣は、労働者派遣法に基づき「派遣先」における指揮命令者も「使用者」となることがあります。ひっかけ問題に注意しましょう。
- 労働条件の基本原則では、男女同一賃金の原則の趣旨(「賃金」についてのみ規定したものである点など)、公民としての権利(公職の選挙権及び被選挙権など)が頻出です。
- 労働条件の基本原則で禁止されていることでは、賠償予定の禁止(賠償請求との違いに注意)、前借金相殺の禁止、強制貯金の禁止(任意貯金は禁止されていない)をまず頭に入れておきましょう。
労働契約
- 労働基準法違反の契約に関する問題は出題頻度が高くなっています。違反となる労働条件を定めた労働契約を無効とする強行的効力と、無効となった部分を基準で補充する直律的効力を理解することが大切です。
- 労働基準法違反で無効となる条件は基準に達しない労働条件のみであり、有利な部分まで無効となるわけではありません。ひっかけ問題に注意しましょう。
- 労働条件の明示においては、絶対的明示事項と相対的明示事項について正しく理解することがポイントです。また、明示の方法についても頻出。
- 労働契約の終了では解雇制限が特に多く出題されています。労働契約期間の満了と解雇制限の関係なども頻出のため、正しく理解することが大切です。
- 労働契約の終了に関しては解雇予告、そして即時解雇が可能な解雇予告の例外、そして解雇予告の適用除外が頻出のため、条件を含めて勉強しておくことが重要なポイントとなります。
- 退職関係では退職時証明書の法定記載事項、金品の返還などが頻出です。
賃金の支払
- 賃金の支払いでは、まずは賃金に関する定義から学ぶ必要があります。平均賃金の算定事由発生日は必ずおさえます。
- 賃金の支払いに関しては通貨払の原則、また通貨払の例外の条件などがよく出題されています。
- 賃金に関しては直接払の原則、全額払の原則などについての理解も必須です。例外となる条件などについても出題されるケースが多いため、あわせて学習しておく必要があります。
- 非常時払に関してはその定義、特に非常の場合の条件などについて出題されることがあります。
- 休業手当に関しては、基本的な情報や定義、条件、そして使用者の責に帰すべき事由についても出題されることが多いため、それぞれ深い理解が必要です。
労働時間・休憩・休日
- 労働時間・休憩・休日については、まず適用除外について正しく理解することが大切です。除外者はもちろんのこと、適用除外の範囲などについても条文のみでなく、その仕組みや基本的な考え方なども含めて学んでおく必要があります。
- 労使協定の締結当事者については、過半数労働組合がない場合の過半数代表者に関する問題が多く出されています。
- 労働時間に関しては、その定義はもちろんのこと、法定労働時間やその特例などについても過去に多く出題されています。その他にも時間計算、変形労働時間制についてや、フレックスタイム制の採用の要件などについても理解が必要です。
まとめ
今回は、社労士試験において特に重要な科目である労働基準法について解説しました。ポイントをおさらいします。
- 労働基準法は他の科目の基礎になる部分でもあるため、最初に勉強すべき科目。
- 労働基準法は労働安全衛生法とセットで出題され、選択式試験では3点以上、択一式試験では4点以上が必要。
- 労働基準法の勉強は、条文を正確に理解すること、100%を目指して深入りしすぎないことが重要。
社労士試験の学習を始める方のほとんどは、労働基準法から学び始めることになります。一番最初の科目である労働基準法で学習のペースを掴むことができると、今後の科目の学習にも弾みがつきます。
決して難しい科目では無いので、気負わずに今回の記事で紹介した頻出論点を参考に学習を始めてみてください。
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