最近よく「特定社会保険労務士」という言葉を耳にします。その意味について教えてください。 | |
「特定社会保険労務士」とは、紛争解決手続代理業務行うことができるようになった社会保険労務士の名称です。社会保険労務士の職域を広げるものとして注目されています。 |
特定社会保険労務士とは
社会保険労務士と特定社会保険労務士との違いは、以下に記載する「紛争解決手続代理業務」を行えるか否かにあります。この業務を行えるのが特定社会保険労務士です。
紛争解決手続代理業務とは?
紛争解決手続代理業務とは、以下の業務になります。
・個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律に基づき、都道府県労働局が行うあっせん手続きの代理
・個別労働関係紛争について厚生労働大臣が指定する団体が行う、裁判外紛争解決手続きにおける当事者の代理(※単独で代理することが出来る紛争 目的価格の上限は120万円)
・男女雇用機会均等法、育児・介護休業法、障害者雇用促進法及び短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(パートタイム労働法。令和2年4月1日からは「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」に改称)
・都道府県労働員会における個別労働関係紛争のあっせん手続き等の代理
・上記の代理業務の中で、紛争相手方との和解交渉及び和解契約の締結代理
上記業務を行う為には、各種労働関連法令や憲法、民法等の個別労働問題に対応するための深い知見と、労務管理に関する実務経験等が必要となります。
個別労働相談の概況?
厚生労働者が発表した「平成29年度 個別労働紛争解決制度の施行状況」によりますと、総合労働相談件数は110万4,758件となり、10年連続で100万件を超え高止まりとなっています。民事上の個別労働紛争相談件数で最も多かったのが、「いじめ・嫌がらせ」の72,067件で、次いで「自己都合退職」38,954件、「解雇」33,269件となっています。労働基準法違反の疑いがある相談内容も198,260件あり、個別労働問題に対する関心の高さがうかがえます。
特定社会保険労務士になるには
特定社会保険労務士になるには、社会保険労務士試験に合格後連合会に登録をして、年1回実施される特別研修を受講後「紛争解決手続代理業務試験」に合格することが必要となります。受講費用として85,000円、紛争解決手続代理業務試験の受験料として15,000円が別途必要となります。特別研修の概要及び、平成30年度の紛争解決手続代理業務試験の受験者数、合格者数は以下の通りです。(※全国社会保険労務士会連合会の会報より抜粋)
特別研修
・中央発信講義(30.5時間)
個別労働関係紛争に関する法令及び実務に関する研修として、DVDを視聴する形態で実施されます。講義は学識経験者及び弁護士等が行います。
・グループ研修(18時間)
個別労働関係紛争における申請書及び答弁書作成の練習として、10人程度がグループを構成し、特定社会保険労務士がリーダーとなってゼミナール形式で行うケース・スタディーに関する研修です。
・ゼミナール(15時間)
紛争解決代理業務を行う上での実践的な能力を涵養することを目的に、ケース・スタディーを中心に申請書及び答弁書の検討、争点整理、和解交渉の技術及び代理人の権限と倫理等について、ロールプレイ等の手法を取り入れて行います。講師は弁護士です。
受験者および合格者
平成30年度の受験者数及び合格者数は、次の通りです。(厚生労働省発表)
・受験者数:911人
・合格者数:567人
・合格率:62.2%
近年の合格率が60%前後で推移していますので、合格率だけを見ると合格しやすい試験との認識を持ちがちですが、受験するのが主に難関の社会保険労務士試験を突破してきた開業社会保険労務士であり、決して安易には捉えられない試験です。晴れて紛争解決手続代理業務試験に合格後、全国社会保険労務士会連合会の社会保険労務士名簿に合格した旨の付記登録がされることにより、特定社会保険労務士を名乗ることが出来ます。
特定社会保険労務士に期待されること
会社や個人事業主と労務顧問契約を結び、日々労務管理業務に従事している社会保険労務士は、会社の人事・労務管理事情を良く把握しています。それに加えて、社会保険労務士会主催の業務研修会や日々の自己研鑽等を通じて、職務に必要な法令の習得にも勤しんでいます。その中でも特定社会保険労務士は、特別研修を受講し専門試験に合格した実績もありますので、主に紛争あっせん制度における代理人業務を通じて、増え続けている個別労働関係紛争の迅速な対応及び、解決に向けた積極的な取り組み等が期待されています。