
行政書士とは、官公庁に提出する書類の作成や代行、権利義務・事実証明に関する書類作成を行う国家資格です。
1万以上の書類を取り扱い、法律系国家資格の中でも行政書士は受験資格の制限がなく独学でも合格しやすいという特徴があります。
司法書士や社会保険労務士などと比較すると合格のハードルが低く、人気の資格のひとつです。
行政書士の仕事内容、魅力、資格取得方法、試験概要、登録手続き、ダブルライセンス、将来性まで、これから資格取得を目指す方のためにわかりやすく解説します。
行政書士とは?資格の概要と八士業
行政書士は、「八士業」の一つで、公益性の高い業務を担います。八士業には以下が含まれます。
- 弁護士
- 弁理士
- 司法書士
- 税理士
- 社会保険労務士
- 土地家屋調査士
- 海事代理士
- 行政書士
行政書士の主な業務は、官公庁に提出する書類の作成、権利義務や事実証明に関する書類の代行、許認可申請のサポートです。戸籍や住民票を必要に応じて請求できる権限を持ち、社会に欠かせない存在です。
独占業務の強み
行政書士には「行政書士法」で定められた独占業務があり、他者が代行できない業務を行えます。
- 官公署提出書類の作成・提出
- 権利義務・事実証明に関する書類作成
- 許認可申請に関する不服申立て書類の作成(特定行政書士のみ)
ただし、税務書類の作成(税理士の独占業務)など、他の法律で制限される業務は除外されます。
行政書士法によって定められた独占業務とは?
弁護士や司法書士、税理士などと同様、行政書士にも独占業務があります。許認可申請や事実証明、権利義務関係など、取り扱える書類の数は1万点以上。書類作成のプロと…
弁護士や司法書士、税理士などと同様、行政書士にも独占業務があ…
行政書士の主な仕事内容
行政書士の業務は多岐にわたり、書類作成、手続代理、相談業務が中心です。
書類作成業務
- 官公署提出書類(例:許認可申請書)
- 権利義務・事実証明書類(例:契約書、遺言書)
- 不服申立て書類(特定行政書士のみ)
手続代理業務
- 書類の官公署への提出代行
- 許認可に関する聴聞・意見陳述の代理
- 会社設立や相続手続きのサポート
相談業務
顧客のニーズをヒアリングし、書類作成や手続きを提案。企業の開業相談や法務アドバイザーとしての役割も担います。
特定行政書士
4日間の研修を受けた行政書士は「特定行政書士」として、不服申立てや審査請求の代理を行えます。専門性を高め、業務範囲を広げる選択肢です。
今注目の特定行政書士とは?一般の行政書士との違いは「不服申立…
「特定行政書士」とは行政書士法改正に伴い、特定の研修を受けることで行政不服申立てに係る手続の代理を行うことができるようになった行政書士の名称です。行政書士の…
「特定行政書士」とは行政書士法改正に伴い、特定の研修を受ける…
こうして見ると、行政書士ができる仕事の範囲としては少ないように見えるかもしれません。
しかし、「行政書士が作成可能な書類の種類は1万種類を超える」ともいわれており、許認可に関する書類(専門性の求められる業務を開業するために、開業することについて行政に許しを得るための書類のことです)だけでも、以下のように多彩です。
- 宅建業免許登録
- 旅館営業許可
- 飲食業許可
- 産業廃棄物収集運搬業許可
- 貸金業登録
- 医薬品販売業許可
- 一般貨物自動車運送事業許可
- 古物商許可
(ほんの一例です)
行政書士として独立・開業するために必ず知っておきたい資金や手…
行政書士は受験資格の制限がなく、独立開業しやすいメリットがあるため人気のある資格です。さまざまなスタイルで働ける職業ではありますが、これから行政書士を目指す…
行政書士は受験資格の制限がなく、独立開業しやすいメリットがあ…
ひろがる行政書士の職務領域
代筆屋、代行というイメージがつきものの行政書士でしたが、代理人としての職能がある程度確立されつつあります。
相談しやすい身近な法律家として、それぞれの興味関心・得意領域を組み合わせることで、その道のスペシャリストとしての存在感を発揮できるでしょう。
遺言行政書士
遺言書の作成業務自体は弁護士や司法書士なども行うことができます。
しかし、書類作成に対しピンポイントで高度の専門性を有する行政書士が、他士業に比べ安価かつ迅速に業務を引き受けられることから、遺言書の作成は行政書士に依頼する方が多いです。
遺言書にも検認を要しない公正証書遺言や、内容を秘密にしたまま作成できる秘密証書遺言など、種類は多々あります。民法の親族法・相続法の知識が役に立つ局面です。
相続専門行政書士
遺言書の作成だけではなく、その後の相続業務についても、行政書士が仕事として携わることのできる範囲が広いです。
相続放棄や不動産の名義変更手続などを行うことはできませんが、士業ネットワークを使ってそうした業務を行うことのできる士業を紹介したり、行政書士にできることは少なくありません。
相続に関する相談を受け、相続人の範囲や金額、行うべき手続などをアドバイスすることになります。ここでも、民法の親族法・相続法に関する知識が活きてきます。
遺言・相続のその先は、資産運用コンサルタントとしてのサービス提供も
今後地域によっては不動産価値が低下していくと予想される中で、非収益物件が相続の対象となることも少なくありません。
- 現金化できれば分割し相続したい。
- できれば生家を手放したく無いが、住む家族はいない。
- 山が相続の対象となっているが、管理できず、この山を収益化する方法はないだろうか。
などなど、さまざまなニーズが考えられます。ご遺族の方のその次の生活を創り出す上で、ワンストップで最適解を導き出せる専門家は重宝されるかもしれません。
中小企業専門行政書士
行政書士は、会社の設立や業務の許認可に関する法的な手続を行うことができます。
それだけではなく、M&Aや知的財産の活用など、中小企業の法務も複雑多様化が進む昨今では、行政書士が中小企業の経営・法務のコンサルタントとして活躍することが求められつつあります。
現に、中小企業の事業承継や資金調達、知的財産法務を専門として掲げる行政書士も増えています。
受験勉強で培った民法や会社法の知識を下地に、さらに貪欲に実務感覚を磨いていくことで、あなたの行政書士としての業務領域はどんどん拡がっていくことでしょう。
行政書士の魅力とメリット
行政書士資格は、キャリアアップや独立開業に多くのメリットをもたらします。
独立開業のしやすさ
行政書士資格を取った方の多くが選ぶ道が、「独立開業」です。独占業務を持つため、事務所開設のハードルが低いです。自宅を事務所にし、PCや電話があれば開業可能。
自分の手で立ち上げた事務所はいわば自分の城であり、活動の拠点です。理念も事業方針も営業戦略も、休みの日や報酬などもすべて自分に決定権があります。努力次第で高収入も目指せます。
自分が築き上げたお城をどのようにして大きくしていくかという期待感と楽しみは、企業戦士では味わえない心情かもしれません。
社会貢献とやりがい
行政書士は書類作成のプロといわれますが、それはつまり、「さまざまな事情から書類が作成できない人に代わって必要な手続きを代行してくれる」専門家ともいえるのです。
例えば、行政書士の業務の中には「帰化申請」「滞在許可申請」「残留延長申請」など外国人を相手とするサービスがあります。
日本に住む外国人が帰化を望んだり、滞在延長を希望したりする場合、膨大な数の書類を集めて必要事項を記載し、入国管理局に提出しなければなりません。行政書士などの専門家がサポートすることで、彼らは気持ちよく日本での生活を続けられるのです。
就職・転職に有利
行政書士試験合格の実績や、資格の保有は、一般企業へのアピールとしても有効です。
一定の法律知識をもっていると評価する企業も多数ありますので、法務部、総務部などへの転職、就職、キャリアアップの可能性が広がります。また、企業に勤めながら、安定した環境でステップアップしていくことも期待できます。
年齢に縛られない
行政書士試験の受験には年齢制限がありません。幅広い年齢の方に活躍のチャンスがあります。
例年、合格者で40歳以上の方の割合は、4割以上に及び、働きながら合格された方も少なくありません。独立開業すれば定年もありません。
行政書士に向いている人はどんなタイプ?
事務処理スキルが高い人
行政書士の主な業務内容は、書類作成代行と許認可申請代行です。それらの業務をこなすには、膨大な数の書類を処理しなければなりません。そのため、行政書士の職務を全うするには事務処理スキルも大きく問われます。
行政書士が扱う書類は特に、公的書類や個人情報がかかわる秘密度の高いものが多いため、丁寧かつ慎重に扱わなければなりません。誤字脱字がないことはもちろん、混同や取り違え、記載漏れなどを起こせば顧客に大きな損害を与えることになります。
その一方でスピード性も重視されるため、求められる事務スキルのレベルは高いと考えてよいでしょう。
コミュニケーション能力が高い人
行政書士の仕事は言わばサービス業でもあります。高度な法律知識を駆使して、悩みを抱える依頼者の相談に乗らなければなりません。依頼者の元に駆け付けて悩みを引き出しつつ、一緒に問題を解決していく顧客目線が大切となります。
依頼者の話を丁寧にヒアリングするには、分かりやすく説明する力と聞く力が求められます。
行政書士と他士業の違い
行政書士と司法書士の違い
行政書士は大まかに言うと、官公庁に提出する許認可等の書類の作成やその手続きの代理、権利義務又は事実証明に関する書類の作成、そして、これらの書類を作成する上での相談業務が挙げられます。
司法書士は登記または供託に関する手続きの代理、裁判所への訴状や告訴状の作成、簡易裁判所での代理人業務などがあります。
どこよりもわかりやすい、行政書士と司法書士の違い。仕事内容と…
法律系の資格の中でも、行政書士と司法書士はとくに混同されやすい2つです。いずれも国家資格であり、法律に関わる専門職として注目されていますが、実は業務内容や試…
法律系の資格の中でも、行政書士と司法書士はとくに混同されやす…
行政書士と社会保険労務士の違い
社会保険労務士(社労士)は企業などの組織における人事や労務管理などをサポートする職業です。人事や労務問題に関するスペシャリストであり、企業に対して問題点の指摘や改善策の提案などを行うことができます。また、医療保険や年金制度に関する相談や手続きなども行います。
同じく法律系の士業ではありますが、主に書類の作成や手続きの代行などが中心となる行政書士とは異なり、企業や組織などに働きかけ、アドバイスすることがメインとなります。
共通する点としては事務所を立ち上げて独立・開業することができる点と、役割は違うものの企業などに対して専門知識を持つコンサルタント的な立場として関われる点が挙げられます。
行政書士と税理士の違い
税理士は税に関する専門職です。具体的には個人や法人などの納税者の代理として各種税の申請や申告書類の作成や手続きなどを行うことができます。具体的には確定申告の際に税務署に提出する書面の作成や、相続時に発生する相続税申告書などの作成・提出なども税理士の独占業務です。
単に税金関係の書類作成や手続きの代行をするだけでなく、税務に関するアドバイザーとしての役割も担っています。所得税や法人税、相続税対策などで顧客から相談を受けることも多いため、税務の知識のみでなくコミュニケーション能力なども求められる仕事です。
書類の作成や提出の代行をする点は行政書士と共通していますが、税理士は特に税務に特化した職業となっています。
ちなみに、税理士の資格を取得すると同時に行政書士資格も得られます。そのため、登録を行うことで行政書士としての業務も可能です。
行政書士になるには
行政書士資格を取得するには、以下の3つの方法があります。
1. 行政書士試験に合格
年に1回の試験に合格する最も一般的なルート。独学や通信講座で対策可能です。
行政書士試験の試験科目。過去問から見えてきた科目別の傾向と対…
行政書士は年齢や学歴に関係なく、誰でも挑戦できる国家資格。独立・開業をしやすいという特徴もあり、多くの人が憧れる資格の一つです。しかし、その合格率は約10%…
行政書士は年齢や学歴に関係なく、誰でも挑戦できる国家資格。独…
2. 公務員としての実務経験
高卒で17年、中卒で20年の行政事務経験があれば、試験免除で資格取得可能。公務員からの独立を目指す方に適しています。
3. 付随資格の取得
以下の資格保有者は、登録のみで行政書士資格を取得可能:
- 弁護士
- 弁理士
- 公認会計士
- 税理士
ただし、これらの資格は行政書士試験より難易度が高いため、純粋に行政書士を目指す場合は非現実的です。
行政書士試験の概要
行政書士試験は、資格取得の最短ルートです。以下、試験の詳細を整理します。
行政書士試験の試験科目。過去問から見えてきた科目別の傾向と対…
行政書士は年齢や学歴に関係なく、誰でも挑戦できる国家資格。独立・開業をしやすいという特徴もあり、多くの人が憧れる資格の一つです。しかし、その合格率は約10%…
行政書士は年齢や学歴に関係なく、誰でも挑戦できる国家資格。独…
受験資格
年齢・学歴を問わず、誰でも受験可能。
試験科目と出題形式
試験は筆記試験(択一式、多肢択一式、記述式)で、以下の科目から出題されます。
| 試験科目 | 出題形式 | 問題数 | 配点 | 出題形式 配点 | 試験科目 配点 | |
| 法令等科目 (244点) | 基礎法学 | 5肢択一式 | 2問 | 4点 | 8点 | 8点 |
| 憲法 | 5肢択一式 | 5問 | 4点 | 20点 | 28点 | |
| 多肢選択式 | 1問 | 8点 | 8点 | |||
| 行政法 | 5肢択一式 | 19問 | 4点 | 76点 | 112点 | |
| 多肢選択式 | 2問 | 8点 | 16点 | |||
| 記述式 | 1問 | 20点 | 20点 | |||
| 民法 | 5肢択一式 | 9問 | 4点 | 36点 | 76点 | |
| 記述式 | 2問 | 20点 | 40点 | |||
| 商法 | 5肢択一式 | 5問 | 4点 | 20点 | 20点 | |
| 基礎知識 (56点) | 一般知識 | 5肢択一式 | 1問以上 | 4点 | 4点以上 | 56点 |
| 行政書士法等 行政書士業務と 密接に関連する 諸法令 | 5肢択一式 | 1問以上 | 4点 | 4点以上 | ||
| 情報通信・個人情報保護 | 5肢択一式 | 1問以上 | 4点 | 4点以上 | ||
| 文章理解 | 5肢択一式 | 1問以上 | 4点 | 4点以上 | ||
| 全合計点 | 300点 | |||||
*注:問題数・配点は年度により変動する可能性があります。
合格基準
行政書士試験の合格基準は、以下の3つの要件を全て満たす必要があります。
いずれか一つでも基準点を下回ると、足切りとなり不合格になります。
- 法令等科目:122点以上(244点満点中)
- 基礎知識科目:24点以上(56点満点中)
- 試験全体:180点以上(300点満点中)
勉強法のポイント
独学での合格も可能ですが、合格率は約10%と難易度は高め。動画講義や問題集を活用し、効率的な学習計画を立てましょう。
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資格取得後の手続き
試験合格後、以下の手続きを経て行政書士として働けます。
1. 日本行政書士会連合会への登録
都道府県行政書士会に申請し、審査を経て登録。必要な書類は以下の通り。
- 行政書士登録申請書
- 履歴書
- 誓約書
- 住民票(発行3カ月以内)
- 身分証明書(発行3カ月以内)
- 顔写真(撮影3カ月以内)
審査期間は1~2カ月。登録料・入会金は約20~30万円(都道府県により異なる)。
2. 実務経験の積み重ね
行政書士事務所や法務事務所で勤務し、経験や人脈を構築。パラリーガルとして働く選択肢もあります。
3. 独立開業
自宅や小規模事務所で開業可能。開業届を税務署に提出し、登録証の授与式を経て業務開始。
行政書士の平均年収
行政書士の年収は300~1,000万円と幅広いのが特徴です。独立開業、副業、事務所勤務など働き方により異なります。スキルアップや専門分野の特化、ダブルライセンスで収入向上が期待できます。
行政書士の年収は?稼げる業務や収入・給料アップの方法を徹底解…
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行政書士の将来性
行政書士を目指す上で気になるのが「行政書士の仕事に将来性はあるのか?」ということです。
行政書士を取り巻く環境として、まず挙げられるのが各種申請や手続き方法の簡略化です。ネットなどで気軽に行えるようになったこともあり、行政書士に依頼する必要性が低くなりつつあるのは事実です。
とはいえ、依然として複雑な手続きが必要な申請なども多いため、行政書士の仕事が完全になくなることはないでしょう。
これから行政書士として生き残っていくためには、特定の分野に特化したり逆により幅広い業務をこなしたりすることで、顧客の信頼を勝ち取ることが重要となります。詳しくは後述しますが、ダブルライセンスで別の資格を取得すると可能な業務の幅を広げることができます。
行政書士とダブルライセンスのおすすめ資格
以下の資格は、行政書士の業務範囲を広げ、収入アップに繋がります。
| 司法書士 | 登記・相続業務を強化。 |
| 税理士 | 税務知識で開業支援を充実。 |
| 社会保険労務士 | 人事・労務問題に対応。 |
| 宅建士 | 不動産関連の相続業務に有利。 |
| 中小企業診断士 | 経営コンサルタントとして活躍。 |
| FP | 相続や事業継承の金融アドバイス。 |
行政書士と社会保険労務士、ダブルライセンスはメリットだらけ!
行政書士に加え、社会保険労務士を保持するダブルホルダーも少なくありません。それほど、ふたつの資格は相互作用性が高く、独立開業や営業戦略に役立てられる部分があ…
行政書士に加え、社会保険労務士を保持するダブルホルダーも少な…
行政書士に必要なスキル
以下のスキルが業務に役立ちます。
- コミュニケーションスキル:顧客のニーズを的確に把握。
- 事務処理スキル:大量の書類を正確かつ迅速に処理。
- 経営スキル:独立開業時のマーケティングや資金管理。
まとめ
行政書士は、受験資格の制限がなく、独立開業しやすい国家資格です。書類作成や手続代理を通じて社会に貢献し、努力次第で高収入も目指せます。
試験概要を把握し、効率的な学習で資格取得を目指しましょう。











