相続ではどんな問題が起きる?
相続とは、被相続人の財産や権利などを相続人に引き継ぐ手続きのことです。被相続人(亡くなった人)から相続人に引き継ぐためにさまざまな手続きが行われます。
まず相続人に関してですが、配偶者や子ども、両親や兄弟姉妹が該当します。配偶者は相続人として選出され、その次に最も優先順位の高い方が相続人に選ばれます。
配偶者を除く相続人の優先順位は、以下のとおりです。
- 被相続人の子ども・直系卑属
- 両親・祖父母の直系尊属
- 兄弟姉妹
被相続人の関係者全員が相続人になれるわけではないためご注意ください。また、相続の対象となるものにはプラスとなる財産のほか、負の遺産も含まれます。
以下の表は、相続されるプラスとマイナスの財産の例をまとめた表です。
プラスの財産 |
マイナスの財産 |
・現金や預貯金
・家や土地 ・自動車や美術品 ・借地権や借家権 ・有価証券(株式・投資信託) ・ゴルフ会員権や慰謝料請求権などの権利 |
・借金(ローンやクレジットカードなど)
・債務(未払いの家賃や税金など) ・固定資産税 |
相続される財産には金銭のみならず不動産なども含まれるため、不動産の分割方法や評価の方法などで問題が起きやすい傾向にあります。
加えて、相続人同士で仲が悪かったり財産の使い込みが発覚したりして問題が生じることもあります。借金や債務なども相続されるため、プラスの財産のみが引き継がれるわけでないことを把握しておきましょう。
相続の手続きで行政書士ができること
行政書士が相続の手続きをする際、どのようなことができるのでしょうか?ここでは、行政書士ができることについて詳しく解説します。
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遺言書作成のサポート
行政書士は、遺言書を作成する際のアドバイスやサポートができます。遺言書は、生前の自身の財産を誰に相続させたいかを記載した文書のことです。
もし作成した遺言書に不備があると、作成者の意思と違った相続になる可能性があります。トラブルを防止するためにも、行政書士が専門家としてアドバイスすることが大切になります。
ただし、自筆証書遺言と秘密証書遺言は被相続人が、公正証書遺言は公証人が作成するものです。そのため、行政書士が自ら遺言書を作成することはできません。
遺言書を作成する際の指導やサポート、公正証書遺言・秘密証書遺言作成時の証人役を担うことはできますが、作成そのものはできないためご注意ください。
遺言の執行や執行者になること
遺言書が確認された場合、遺言内容の執行には執行者が必要になります。執行者は遺言書にて指定された人や委託された第三者に指定された人、家庭裁判所で選ばれた人が担当できるため、行政書士も場合によって執行可能です。
そもそも遺言内容の執行は、遺言書にある以下の内容に関しての手続きを指します。
- 相続分の指定
- 遺産の分割方法の指定
- 相続人の廃除
要件さえ満たせていれば誰でも遺言の執行者になることは可能です。ただし、手続きが複雑で難しいといった理由から行政書士にサポートを依頼する方も少なくありません。
また、遺言書の検認(相続人に対し遺言の存在とその内容を知らせるとともに、遺言書の偽造・変造を防止するための手続き)自体は行政書士が携われないためご注意ください。遺言書の検認は、家庭裁判所を介して行われており、書類作成に関しても認められていません。
相続人調査
相続の手続きを行う際、誰が相続人になるのかを確定させる必要があります。行政書士は、相続人が誰になるのかを調査することが可能です。
相続人調査では被相続人が死亡した際、戸籍資料をもとに出生から調査して相続人に漏れがないかを確認します。前妻との間の子どもや養子縁組をしており、家族が認知していない相続人がいる可能性があるためです。
また遺産の分割協議は、相続人が全員参加して行わなければなりません。そのため、新たな相続人ができるとそのたびに協議を行う必要があります。
そのほか戸籍謄本は、市町村役場に請求することで入手可能です。本籍を移動していない場合は一度で入手できますが、複数個所に移動している場合はすべての市町村で入手しなければならないため手間がかかります。
行政書士は、被相続人の出生から死亡までの情報を収集し、正しく相続人を確定させるための調査が可能です。
遺産分割協議書の作成
相続人で遺産分割協議をした後は、誰が財産を相続するかなどの情報を書面にまとめて遺産分割協議書を作成する必要があります。行政書士は、遺産分割協議書の作成も可能です。
遺産分割協議書があれば、後になって相続人同士でのトラブルが起きるのを回避できます。また、財産の名義変更や貯金の払い戻しなどの手続きにも使用できます。
協議書の書式に決まりはないので、相続人自身で手書き・パソコンなどで作成が可能です。各相続人が実印で捺印して印鑑証明書を添付すれば遺産分割協議書として効力を発揮します。
ただし、十分に要件を満たせていなければ銀行や法務局、税務署などに協議書として認められない可能性があります。そのため、行政書士が必要な要項を満たした遺産分割協議書の作成を代行することがあるというわけです。
財産調査や遺産目録の作成
相続の手続きをする際、相続人の調査をした後は財産の調査を行う必要があります。行政書士は、財産調査に関しても担えるのが特徴です。
相続の財産は、以下のように多くあります。
- 預貯金
- 不動産
- 自動車
- 有価証券
- 債務
- 生命保険金
- 死亡保険金
上記のようにプラスやマイナス含めて相続財産はさまざまな種類があります。そのため、相続人が認識していなかった財産が後から見つかることも少なくありません。
その際、相続財産の調査を行わないと相続税の申告が必要で追徴課税されたり借金が見つかってトラブルが生じたりすることもあります。だからこそ、行政書士が財産調査を請け負って相続財産を正確に洗い出すことが必要です。
また行政書士は、遺産目録に関しても作成できます。遺産目録は、預貯金や有価証券、不動産や自動車といった財産の内容を調査して一覧にしたものです。
遺産目録があると遺産の分割協議や相続の手続きをスムーズに進められます。行政書士がより見やすく分かりやすい遺産目録を作ることで、相続人同士での協議がよりスムーズに進むでしょう。
相続関係図の作成
相続人の調査をした後、結果をもとに相続関係図を一覧表にします。行政書士は、相続関係図の作成に関しても従事可能です。
相続関係図があると、相続関係を整理しやすいのがメリットです。手続きに関わる人数や家族関係などを説明図にすることで把握しやすくなります。
相続関係が複雑になると連絡が漏れるといったトラブルを生じる可能性もあるため、相続関係図はスムーズに手続きを進めるうえで大切といえるでしょう。
また、行政書士は法定相続情報一覧図の作成も可能です。法定相続情報一覧図は、法務局の認証が入った相続人の一覧図のことを指します。
行政書士が相続関係図や法定相続情報一覧図を作成することで、より簡単に手続きを進めやすくなります。
戸籍取得
相続の手続きをする際、相続人が誰になるのかを確定させる必要があることを前項で解説しました。その際に必要となるのが戸籍の取得です。
被相続人が結婚を機に新しい戸籍に変更されたなど、戸籍がずっと同じままではないケースがあります。また、戸籍の改製がある際は改製前の戸籍も取得しなければなりません。
そのため、戸籍の取得は簡単そうで非常に手間のかかる作業といえます。
- 戸籍謄本ってそもそも何?
- 出生から死亡まで揃っている情報ってどこで確認するの?
- 本籍地が分からない場合はどうしたらいい?
相続の際に上記のような疑問を抱く方はいるでしょう。その際、必要な書類を揃えるより前に情報を集めることが必要になります。
行政書士がいれば、相続人は書類収集以外の手間を軽減することができます。
銀行預金の相続手続き
被相続人の口座は、金融機関が死亡を知ったタイミングで凍結されます。その際に解約手続きなどが必要ですが、行政書士は解約手続きの代行が可能です。
銀行預金の相続手続きには「戸籍謄本」と「各相続人の印鑑証明」が必要です。手続き自体は複雑で難しいというわけではありませんが、手続きを平日の昼間に求める金融機関も存在します。
そういった際、中々時間が取れず手続きを進められないといった相続人は少なくありません。記入漏れや記載内容に不備があった場合を考慮して行政書士に依頼を任せる相続人もいます。
そのため、銀行預金の相続手続きを請け負った場合は、必要な準備物を速やかに揃えてスムーズに手続きを進めることが大切です。
株式の名義変更手続き
行政書士は、株式の名義変更に関する手続きも請け負えます。名義変更手続きは、相続する株式が上場株式か非上場株式かによって内容が異なるのが特徴です。
相続する株式が上場株式の場合、証券会社に連絡が必要です。株式を被相続人から相続人の口座に移すことになるので、証券口座がない場合は口座を作ることから始めなければなりません。
一方で非上場株式の場合、証券口座を作ったり証券会社に連絡したりする必要はありません。発行元の会社に直接に連絡して、株主の名義の書き換えを依頼するだけで手続きは終わります。
また、2009年1月5日以降に保有した上場株式は、すべてペーパーレスで管理されています。そのため、電子化期限までに手続きされていない株券に関しては手続きが複雑になる傾向があります。
こういった場合にも行政書士が手続きを代行して、正しく相続するためのサポートを行います。
自動車の名義変更手続き
相続した財産の中に自動車がある場合、相続人は自動車の名義変更が必要です。行政書士は、自動車の名義変更手続きに関しても依頼を受けられます。
相続された自動車を手放す場合でも名義変更は必要です。以下の準備物を揃えて手続きを進めなければなりません。
- 相続の関係が分かる戸籍謄本
- 車検証
- 車庫証明書
- 各相続人の印鑑証明
上記の内容を揃えて運輸支局に提出することで名義変更の手続きは完了します。
相続の手続きで行政書士ができないこと
行政書士が相続手続きでできることを解説してきました。一方で、行政書士が相続の手続きでできないことにはどういったものがあるのでしょうか?
ここでは、相続の手続きで行政書士ができないことをご紹介します。
相続税の申告
行政書士が携われない業務に相続税の申告があります。
相続税の申告をはじめ、税務関係の業務は税理士の独占業務となるためです。そのため、相続税の申告や準確定申告といった業務は、行政書士だけでなく司法書士や弁護士であっても関与できません。
相続税は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10カ月以内に税務署に申告して納税することが義務付けられています。もし相続人同士で争いがあったり、共同相続人の中に連絡が取れなかったりする場合においては別々に提出することも可能です。
ただし、相続する財産が相続税の発生基準を下回る場合、申告は必要ありません。
相続放棄の申述
相続放棄の手続きは、司法書士か弁護士しか携われないため、行政書士が手続きに関与することはできません。相続放棄とは、相続財産に借金などのマイナスの財産がある際、相続人としての位置を放棄する手続きのことです。
相続放棄の手続きをする際、家庭裁判所に必要書類を提出して受理されることで申請が完了します。
相続放棄をするかどうかの相談も含めて行政書士は関わることができません。相続放棄の申述書に関しても作成できないためご注意ください。
遺産分割調停
遺産分割調停は、相続人の間で遺産の分割について話合いがまとまらない場合に家庭裁判所へ申し立てて行う調停・審判の手続きのことを指し、弁護士が関与する範囲となります。
争いのある遺産分割協議
遺産の分割協議が行われる際、何事もなく終えられるのが一番ですが、場合によっては相続人同士で揉める可能性があります。そういった際、行政書士が代理人として交渉や仲裁を請け負ったりすることはできません。
争いのある遺産分割協議に関与できるのは弁護士のみです。行政書士を含め、司法書士なども携わることはできず、関与すると弁護士法違反になります。
不動産の相続登記
戸籍関係書類の取得や、登記申請書の作成と提出など、不動産の相続登記に関しては、法務局を介して行う手続きで司法書士や弁護士が携わります。
法律面でのサポート
相続に関する手続きの中で法律が関与する場合、行政書士は対応できません。法律に関する部分は、弁護士の専門分野であるためです。
例えば相続関係で弁護士に相談される内容としては、以下のようなものが挙げられます。
- 遺産の分割でもめている・もめる可能性が高い
- 被相続人の預貯金の使い込みがある
- 被相続人に借金がある
- 遺言書で遺留分を阻害されている
- 自分の相続分だけ不当に少ない
もし行政書士や司法書士が法律相談を受けた場合、弁護士法違反に該当し罰則が適用される恐れがあるためご注意ください。
行政書士が相続の手続きで得られる報酬は?
ここまでで、行政書士が相続の手続きでできることとできないことをご紹介しました。では、相続の手続きによって得られる報酬はどのくらいなのでしょうか?
日本行政書士連合会の統計調査では、令和2年度の報酬額について以下の情報を公開しています。
業務内容 |
報酬額の平均 |
遺言書の起案・作成指導 | 68,727円 |
遺産分割協議書の作成 | 68,325円 |
相続人・相続財産の調査 | 63,747円 |
相続分なきことの証明書作成 | 38,405円 |
遺言の執行手続き | 384,504円 |
行政書士の報酬額の表を見ると、相続の手続きで得られる報酬額は50万円前後です。
ただし、財産の総額や相続人の数によって報酬額が異なります。手続きの難しさも関係するため、複雑な手続きが多ければ必然的に報酬額も増えるでしょう。
また、前項で解説したとおり、一部の業務に関しては行政書士では取り扱えません。そのような場合は、司法書士など他の士業に取り次ぐといった対応ができます。
行政書士と司法書士のできることの違いについては後述します。
相続手続きで、行政書士と司法書士ができることの違いは?
相続の手続きを行う際、場合によってさまざまな士業の方に依頼することがあるでしょう。その際、行政書士とよく似た資格に司法書士があります。
同じ書士の仕事ですが、それぞれの仕事でどのような違いがあるのか把握しておくことが大切です。ここでは、行政書士と司法書士のできることの違いを詳しく解説します。
司法書士の代表的な業務内容
司法書士は司法書士法に基づいた国家資格で、合格すると法律関係に関する専門的な知識を有した法律家として従事可能です。不動産の登記をはじめ、会社設立や役員変更などに伴う登記の申請、裁判所や検察庁、法務局などに提出する書類の作成といった幅広い業務に携われます。
具体的な業務内容に関しては以下のとおりです。
業務内容 |
詳細 |
不動産関係の登記 | 司法書士が登記の申請を代理する。不動産登記とは、不動産に関する権利関係を公示すること。 |
商業・法人の登記の申請 | 商業登記の申請に関して代行したり、会社の経営者に対して法律上の手続きのアドバイスをしたりする。 |
裁判所や検察庁、法務局などに提出する書類作成 | 裁判に関する書類作成の代行業務のこと。認定司法書士の場合は、一部の裁判に関して本人の代理人として活躍できる |
企業法務 | 企業の活動を支えるための法務アドバイザーを担う。日常の法務に関してのアドバイスや争いを事前に防ぐための予防法務、事業承継などに関して携わる。 |
成年後見事務 | 認知症や障がいを抱えた方に対して本人の代行として財産管理や契約を実行する業務のこと。 |
財産管理業務 | 他人の事業の経営や財産の管理・処分に携わる業務のこと。亡くなられた方名義の銀行口座の解約や株式の名義変更などを請け負う。 |
遺言・相続業務 | 相続手続きをサポートする。各種手続きや遺言執行者としての役割を担う。 |
企業経営支援業務 | 他人の事業に関して経営や代理を行う。事業の承継や再生支援などに携わる。 |
司法書士と行政書士の仕事内容は細かなところで異なりますが、どちらも手続きをスムーズに進めるためのサポートを行う点で共通しています。司法書士に関しても、相続の手続きにおいて必要な存在といえるでしょう。
行政書士と司法書士ができること・できないことの違い
先ほど、司法書士ができることについて解説しました。では、行政書士の従事できる内容とはどこが違うのでしょうか?
以下の表は、行政書士と司法書士のできることとできないことの違いをまとめたものです。
相続の手続き |
行政書士 |
司法書士 |
相続人調査 | できる | できる |
相続財産調査 | できる | できる |
遺言書の作成 | できる | できる |
相続登記 | できない | できる |
裁判所に提出する書類作成
(相続放棄申述書など) |
できない | できる |
官公庁への書類提出 | できる | できない |
表を見ると、行政書士と司法書士でできたりできなかったりする仕事が細かく違うことが分かります。そのため、相続に関する登記に関しては、行政書士と司法書士が連携して対応することがあります。
互いにできないことを補い合うことで、よりスムーズに手続きを進められるというわけです。
ただし、相続税の申告や家庭に関する争いに関しては行政書士や司法書士では関与できません。税務は税理士、争いごとに関しては弁護士の業務範囲であるためです。
相続の手続きを行政書士が行うメリット
相続の手続きを行政書士が行うメリットとして、以下の2つが挙げられます。
- 相続人の負荷軽減
- 依頼主の費用を抑えられる
それぞれのメリットについて詳しく解説します。
相続人の負担軽減
相続の手続きを行政書士が行うことで相続人の負担を軽減できます。相続人の負担を軽減することで相続の流れをスムーズに進めることが可能です。
例えば相続人がすべての手続きを行う場合、遺産分割協議書の作成や財産調査などさまざまな内容を自分たちで行わなければなりません。結果、相続人の調査が不足していたり手続きに不備があったりしてトラブルが生じることもあるでしょう。
行政書士であれば、相続の手続きを代わりに行うことでトラブルを未然に防ぎ、相続人の負担を軽減できます。
依頼主の費用を抑えられる
行政書士の依頼相場は、弁護士などと比較して安く設定されています。そのため、依頼主の費用を比較的抑えられるのが特徴です。
例えば遺言書作成の場合、弁護士に依頼する場合の費用は10万円〜20万円が相場とされています。一方で行政書士の場合、遺言書作成ではなくサポートのみとなりますが、6万円〜7万円で依頼を受けるケースが多いです。
まとめ
本記事でご紹介した行政書士が相続手続きでできることについて、ポイントをおさらいしておきましょう。
- 相続の手続きでは不動産の分割方法などで問題が起きやすい
- 行政書士は遺言書作成のサポートや遺言の執行、相続人の調査など幅広く携わることが可能
- 税務や法律関係に関しては税理士や弁護士の業務なので行政書士は携われない
- 行政書士が相続の手続きで得られる報酬は30万円~50万円が相場
相続において、行政書士は幅広い手続きに対応できるため、活躍する場面は多いでしょう。
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