行政書士になるには
行政書士とは、法律の知識を持って個人や企業・組織などに代わって各種書類作成や手続きなどを行う仕事です。ここではまず、行政書士になるための3つの方法について詳しくご紹介します。
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行政書士試験に合格する
最も一般的なのは、年に1度行われている行政書士試験に合格する方法です。詳しくは後述しますが、行政書士試験には受験資格の制限がないため年齢や学歴などを問わず受験でき、合格すれば行政書士の資格を取得できます。
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公務員として所定の期間勤務する
公務員には行政書士になるための優遇措置が用意されています。
具体的には高卒以上の公務員では17年、中卒の場合は20年の行政事務の実務経験があれば試験を受けることなく行政書士の資格を得ることができます。
行政書士試験を受けるよりも時間がかかる方法ではありますが、すでに公務員としてある程度の期間働いている方にとっては大きなメリットです。実際に公務員が退職後に行政書士として独立するというケースも少なくありません。
行政書士資格が付随する他資格を取得する
行政書士資格が付随している他の資格を取得すると、登録だけで行政書士資格を取得できるケースがあります。具体的には以下の資格を取得していれば、行政書士試験を受けることなく資格取得が可能です。
- 弁護士
- 弁理士
- 公認会計士
- 税理士
ただし、これらの資格はいずれも行政書士試験より難易度が高いため、最初から行政書士を目指す方にとってはあまり現実的ではありません。最短ルートで行政書士を目指すのであれば、このルートは除外して考えてよいでしょう。
行政書士試験取得後はどうする?
前述の通り、行政書士の資格を取得するためには3つの方法があります。しかし、「試験に合格する」「公務員としての実務経験を積む」「行政書士が付随する資格を取得する」だけですぐに行政書士になれるわけではありません。
実際に行政書士として仕事を始めるためには、必要な手続きがいくつかあります。ここでは行政書士の資格取得後に必要な手続きをご紹介します。
(1)日本行政書士連合会に所属する
行政書士として働くためには「日本行政書士連合会」に登録・所属する必要があります。まずは、都道府県の行政書士会に書類を提出します。
登録に必要な書類は以下の通りです。
- 行政書士登録申請書
- 履歴書
- 誓約書
- 本籍地の記載された住民票(提出日前3カ月以内に発行されたもの)
- 身分証明書(提出日前3カ月以内に発行されたもの)
- 顔写真(提出日前3カ月以内に撮影されたもの)
その後、申請書は「日本行政書士連合会」へと送られ、審査が行われます。
審査に通過すれば晴れて行政書士として働くことができます。都道府県によって前後しますが、登録時には約20〜30万円の費用が発生することも頭にいれておきましょう。
(2)行政書士事務所に勤務する
行政書士として登録が完了すれば、すぐに事務所を立ち上げて独立することも可能です。しかし、いきなり独立するよりも行政書士事務所や法務事務所などに就職して実務の経験や人脈などを広げたほうが、その後の独立もよりスムーズになるでしょう。
(3)独立して自分の事務所を構える
行政書士の資格取得を目指す方の多くは将来的な独立を目指しているかと思います。行政書士試験に合格して資格を取得し、登録が完了すればその時点で独立して自分の事務所を構えることができます。
事務所を新規開設する場合、場所と事務所名を決めて都道府県行政書士会への登録申請を行います。その後、登録証が発行されるので授与式に参加し、税務署に開業届を提出すれば行政書士としての仕事を受けられるようになります。
行政書士の主な仕事内容
行政書士は企業などのビジネスだけでなく、個人で暮らしに関するさまざまな書類の作成や届出など、身近な業務に携わることもあります。
ここでは行政書士の主な仕事内容について、代表的なものをピックアップしてご紹介します。
書類作成業務
行政書士の仕事としてもっとも代表的なものは書類作成業務です。具体的には以下のような書類の作成を行います。
- 官公署に提出する書類
- 権利義務または事実証明に関する書類
- 許認可等に関する審査請求
- 契約などに関する書類
行政書士が作成できる書類の種類は1万以上もあります。
手続代理業務
各種書類を作成するだけでなく、さまざまな手続きの代理業務も行政書士の重要な仕事です。作成した書類を官公署などに提出することに加え、相続に関する複雑な手続きを一部請け負うこともできます。
代表的なものとして以下のものが挙げられます。
- ビジネスの面では会社の設立
- 業務を行うための許認可に関する手続きの代理業務
相談業務
行政書士は身近な法律の専門家として、顧客のさまざまな相談を受け付けることもあります。顧客の悩みや要望などをヒアリングして、必要な書類作成や手続きなどを提案も行います。
顧客の多くは法律や各種手続きについての知識がなく、どうすればいいのかわからないというケースも多くあります。そのため、顧客に寄り添ってニーズを把握し、必要な書類作成や代理業務などを提供することも行政書士の大切な業務のひとつです。
行政書士の平均年収はどのくらい?
同じ行政書士であっても年収にはかなりのバラつきがあり、一概にどのくらい稼げると断言することはできません。また、行政書士の平均年収は統計調査されたことがないこともあり、収入がわかりにくい職業でもあります。
行政書士の年収は300〜1,000万円と言われています。行政書士には「独立開業」「行政書士・法務事務所に勤務」「副業」などさまざまな働き方があることから、公表される年収にバラつきが出てしまいます。
行政書士として年収をあげるには、スキルアップや営業に力を入れることに加えて、ダブルライセンスや専門分野に特化するといった方法が挙げられます。
ダブルライセンスにおすすめの資格
行政書士の資格だけでも十分に稼げますが、他の資格を取得することでさらに仕事の幅を広げて収入アップを狙うことができます。行政書士とのダブルライセンスを目指すにしてもさまざまな資格の選択肢があります。
ここでは行政書士とのダブルライセンスにおすすめの資格をご紹介します。
宅地建物取引士
行政書士の代表的な仕事のひとつとして、遺言書の作成や相続手続きの代理が挙げられます。相続問題においては不動産の管理や売却などが絡むケースが多いことから、さまざまな不動産業務が行える宅地建物取引士(宅建士)の資格があると行政書士の業務に有利になります。
行政書士資格とは専門分野が異なることもあり、試験対策の面ではそれほど相性がいいわけではありません。しかし、行政書士試験と比較すると合格率は高く、受験のハードルはそれほど高くないという点もダブルライセンス向きです。
司法書士
司法書士は行政書士と同じく法律系の国家資格のひとつです。仕事の内容も各種書類の作成や公的な手続きの代理など行政書士と重なる部分が多く、相性のいい資格だと言えます。試験科目や出題形式も似ているため、試験対策の相性の良さもポイントです。
試験の難易度は行政書士よりもさらに高いですが、合格すれば登記や供託などにおいて独占業務も持ち、さらには訴訟業務の一部なども行えるため、できる業務の幅が広がります。
社会保険労務士
社会保険労務士とは、社会保険や労働問題、人事などの手続きや事務などを専門的に行うことができる資格です。健康保険や年金、雇用保険などに関する相談や事務などが主な仕事となります。
書類の作成や手続きの代理など、行政書士に近い部分もあります。行政書士として働きながらさらに労働問題や人事といった手続きなどの仕事の幅を広げたいという方におすすめの資格です。
特に企業に対して行政書士資格のみの場合よりも、より深くサポートすることができるので高い専門性をもって企業コンサルタントとして活躍したい方にもぴったりです。
行政書士資格を取るメリットとは
行政書士資格を取得することにはいくつものメリットがあります。ここではメリットの中から代表的なものをピックアップして詳しくご紹介します。
資格を活かして独立開業できる
行政書士資格を取るメリット1つ目は、資格を活かして独立開業できることです。
書類作成や各種手続き代理などの独占業務を持つ資格なので、独立のハードルがかなり低くなります。
また行政書士として事務所を構えるために必要な設備などもそれほど多くないため、他業種の企業を立ち上げる場合よりもコストを抑えることができるという点もポイントです。パソコンや電話などがあれば仕事はできるため、自宅を事務所としての開業もできます。
就職や転職に有利
行政書士資格を取るメリット2つ目は、就職や転職に有利なことです。
行政書士資格は法務事務所や法律系事務所などに就職する上でも有利になります。一般企業では内部行政書士は認められていないものの、法律に関して専門的な知識を持っていることの証明となるため、法務部勤務などにおいては有利になるでしょう。
就職に有利なこともあり、法律系の事務所や一般企業などで働きながら将来的な独立のための実務経験を積んだり、ダブルライセンスによるステップアップを目指したりできる点もポイントです。
年齢に縛られず挑戦できる
行政書士資格を取るメリット3つ目は、年齢に縛られず挑戦できることです。
資格の中には厳しい受験資格が設けられており、挑戦のハードルが高いものも少なくありません。一方、行政書士試験には受験資格の制限がありません。年齢や学歴など関係なく挑戦できるので、今からでも行政書士を目指すことができます。
行政書士試験は一般的に難関と呼ばれており、合格率も10%前後と決して高いとは言えません。しかし、独学でも十分に合格を目指すことができるため、コストを抑えながら資格の取得を目指したいという方にとっても魅力的です。
行政書士の仕事に役立つスキルとは?
行政書士は資格を取得し、登録することによってすぐに仕事を受けることが可能です。とはいえ、実際に行政書士として仕事をするためにはさまざまなスキルも求められます。ここでは行政書士として仕事をする上で役立つスキルをご紹介します。
コミュニケーションスキル
行政書士の仕事に役立つスキル1つ目は、コミュニケーションスキルです。
行政書士として働く上でまず欠かせないのはコミュニケーションスキルです。行政書士の仕事は接客業でもあります。顧客からのさまざまな相談を受け、そこからニーズを把握して必要な書類作成や各種手続きなどを行います。
行政書士は遺言書の作成や相続に関する手続きなど、個人的な悩みやデリケートな問題に関わることもあるため、顧客との信頼関係の構築は重要になります。そのため、高いコミュニケーションスキルが求められるのです。
事務処理スキル
行政書士の仕事に役立つスキル2つ目は、事務処理スキルです。
行政書士は1万種類以上の書類の作成が可能です。これらの書類を作成するために、多くのデータを取り扱うことになります。そのため、必要なデータをしっかりと整理、分類、管理しながら必要に応じて取り出すことができる事務処理スキルが求められます。
書類の作成だけでなく、各種手続きの代行なども行うことになるため仕事をスピーディにこなしていく必要もあります。
経営スキル
行政書士の仕事に役立つスキル3つ目は、経営スキルです。
将来的に自分で行政書士事務所を立ち上げて独立するのであれば、経営スキルも求められます。行政書士は独占業務を持つ国家資格ではありますが、黙っていてもどんどん仕事が舞い込んでくるわけではありません。
行政書士事務所で独立するためには、マーケティングや営業、さらには資金調達や管理といった総合的な経営スキルは欠かせません。また、将来のことを見据えて専門性を高めるといった具体的な戦略を立てる能力も必要です。
行政書士試験概要
行政書士の資格を取得するための3つの方法の中で、もっとも一般的なのは行政書士試験に合格することです。多くの方にとって、行政書士を目指す上での最短ルートとなります。これから行政書士試験に挑戦するのであれば、まずは試験の概要を知ることが大切です。
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行政書士試験に受験資格の制限はある?
行政書士試験には受験資格の制限はありません。年齢や学歴など不問で誰でも受験することができます。年齢を問わずチャレンジできるという点も行政書士の魅力です。
試験科目は憲法・民法・行政法・商法などの法例や、政治経済・社会などの一般常識から計60問が出題されます。
試験の方法は筆記試験のみ。択一式が中心ですが、一部で記述式の問題も含まれます。
試験科目の詳細は以下の通りです。
「法令等」
- 基礎法学
- 憲法
- 行政法
- 民法
- 商法
「基礎知識」
-
一般知識
-
行政書士法等行政書士業務と密接に関連する諸法令
-
情報通信・個人情報保護
-
文章理解
試験科目 |
出題形式 |
出題数 |
満点 |
|
法令等 | 択一式 | 5肢択一式 | 40問 | 160点 |
多肢択一式 | 3問 | 24点 | ||
記述式 | 3問 | 60点 | ||
計 | 46問 | 244点 | ||
基礎知識 | 択一式 | 5肢択一式 | 14点 | 56点 |
合計 | 60問 | 300点 |
※問題数と配点は試験実施年度ごとに変わる場合があります。当該受験年度の正確な配点を保証するものではないため、あくまで目安として捉えてください。
配点はこのようになっており、合格基準は以下の通りです。
- 法令等科目が122点以上
- 基礎知識科目が24点以上
- 試験全体で180点以上
これらをすべて満たしてはじめて合格となります。
最後に令和5年度の行政書士試験の詳細をご紹介します。試験は、例年11月の第2日曜日に実施されます。
試験日 | 令和5年11月12日(日)13時〜16時 |
申込期間 | 【郵送】令和5年7月24日〜令和5年8月25日(消印有効) |
【インターネット】令和5年7月24日〜令和5年8月22日17時 | |
受験手数料 | 10,400円 |
合格発表 | 令和6年1月30日 |
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まとめ
行政書士について詳しくご紹介してきましたので、ここでは特に押さえておきたいポイントをおさらいしておきましょう。
- 行政書士は法律系国家資格のひとつで独立・開業しやすい資格のひとつである
- 行政書士になるための方法は「行政書士試験の合格」「公務員としての実務経験」「行政書士の資格が付随する資格の取得」の3つ
- 宅地建物取引士や社会保険労務士とのダブルライセンスによってさらに業務の幅を広げることができる
行政書士は難関資格のひとつですが、メリットも多く、独学で合格を目指すこともできます。
まとまった勉強時間を確保できなくても、スキマ時間などをうまく活用して合格を目指すことも可能です。
場所や時間を選ばず勉強できる「スタディング行政書士講座」を利用して、行政書士の資格取得にチャレンジしてみてはいかがでしょうか。