行政書士の独立は難しいって本当?
結論から言えば、行政書士が独立することは難しく、簡単なことではありません。
行政書士として独立するには、法律の知識以外にもさまざまなスキルが必要だからです。さらに、顧客とのつながりがなければ独立しても継続が難しくなってしまいます。
行政書士として独立し、順調に経営を続けていくためには、開業する前の入念な準備が必須です。
独立行政書士の平均年収
行政書士の年収に関しては公的な統計データがないため、はっきりとした平均額はわかっていませんが、一般的に独立している行政書士の年収は300〜1,000万円と言われています。かなりバラつきがあるため、一概に「いくら稼げる」と断言はできません。
同じ独立行政書士であっても働き方や得意としている分野、顧客の数などは異なります。特に独立行政書士の場合は会社員ではなく完全な自営業であるため、人によって収入に差が出てくるのです。
独立開業までの流れ
行政書士として開業するためにはいくつかの手続きが必要です。ここでは実際に行政書士として独立開業し、業務を開始するまでの流れを具体的にご紹介します。
独立開業費用を踏まえて必要な資金
行政書士に限った話ではありませんが、独立開業するにあたって、さまざまな費用がかかります。行政書士試験に合格しても、この資金が用意できなければ独立して事務所を立ち上げることはできません。
ここでは行政書士として独立するための資金についてご紹介します。
・行政書士の登録費用
独立開業にあたって、最初に必要となるのが行政書士会への登録費用です。行政書士として業務を行うためには、日本行政書士会連合会と各都道府県の行政書士会への登録が必要となります。この際、都道府県行政書士連合会に入会金と登録手数料を支払います。
登録にかかる費用は都道府県によって異なりますが、約20〜30万円前後です。
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・備品代
行政書士としての業務を行うためにはさまざまな備品を用意する必要があります。主に以下の備品が必要です。
- パソコン
- スキャナー
- プリンター
- 電話
- FAX
- インターネット機器
- 事務用デスク
- 応接机やカウンター
事務所では行政書士としての書類作成だけでなく、事務所で顧客と打ち合わせを行うケースもあります。事務所の規模や仕事の進め方などによっても異なりますが、来客に対応できる最低限の準備が必要です。
・事務所の賃貸料
自宅の一室を事務所にすることも可能ですが、事務所を別で設ける場合には、賃貸費用が必要になります。賃貸契約などの際に発生する主な費用は以下の通りです。
- 敷金
- 礼金
- 賃貸料(家賃)
独立して多くの顧客を集めることを考えると立地も重要な要素ですが、その分賃貸料の相場も高くなります。事務所を借りる場合は「独立後、どのくらいの売上を確保できそうか?」を事前に考えてから選ぶことが必要です。
なお、仲介する不動産会社などによっては別で費用が発生することがあるので、事前に確認してください。
行政書士開業の手続き(おおまかな流れ)
行政書士開業のおおまかな流れは次のとおりです。
- 事務所所在地と事務所名を決める
- 都道府県行政書士会への登録申請書類を作成する
- 事務所ホームページや名刺、開業挨拶状などを用意する
- 都道府県行政書士会に書類を提出する
- 登録証授与式に参加する
- 税務署に開業届を提出する
差別化を図るため、専門分野を掲げよう
たしかに、行政書士が取り扱うことのできる業務は多岐にわたりますが、そもそも行政書士の数が多いため、「なんでもやります」ではなかなか仕事が舞い込んでくることはありません。
そこで、他の行政書士との差別化を図り、依頼者が仕事を頼みやすくするために、「この分野は誰にも負けない」と胸を張って言える、あなたの専門分野を決めましょう。
ちなみに行政書士の掲げる専門分野としてポピュラーなのは、①建設・産廃、②運輸・交通、③外国人在留資格、④風俗営業、⑤法務・会計、⑥会社法、⑦遺言・相続、⑧著作権などです。
もちろん、ここに掲げたものに限らず、また複数の分野を掛け合わせることで、他の行政書士が持たない付加価値を作り出すことも可能です。
【あわせて読みたい】行政書士の年収は?稼げる業務や収入・給料アップの方法を徹底解説
仕事が入ってきたら
あなたの地道な営業努力が実を結び、ついに初の仕事依頼がやってきました。
せっかく入ってきた初仕事、次につなげるためにも「絶対に失敗できない」と肩肘張ってしまうのはわかりますが、何もかもすべてが上手くいくわけではありません。
失敗できないからとガチガチになるより、わからない部分はクライアントに聞きながら、柔軟に対応して仕事を進めていきましょう。
失敗の経験も含めての初仕事です。失敗は次に活かせばいいので、「誠意のある人だな」とクライアントに評価してもらえるような仕事をしましょう。
開業するメリット
行政書士として独立開業することには多くのメリットがあります。ここでは中でも代表的なものをピックアップしてご紹介します。
自分のペースで仕事ができる
行政書士が開業するメリット1つ目は、自分のペースで仕事ができることです。
定時出社やサービス残業といった会社特有の縛りにとらわれず、あなたの生活スタイルに合わせた自由な働き方が実現できます。
もちろん、自営業である以上仕事の責任はすべて自分が負うことになるので、会社でいう残業のようなものをしなければならない場面は多々ありますが、カフェや自宅などに場所を移して仕事をこなすことも可能です。
定年退職がない
行政書士が開業するメリット2つ目は、定年退職がないことです。
行政書士には定年がなく、何歳まででも働けます。また、実績と信頼は働いた年数に応じて積み重なっていくものなので、長年のキャリアと信用、スキルを活用した安定的な収入が望めるでしょう。
セミナーや講演、出版による自己実現ができる
行政書士が開業するメリット3つ目は、セミナーや講演、出版による自己実現ができることです。
行政書士として仕事をこなし、実務家としての専門性を磨いていると、あなたの積んできた経験を書籍として出版したり、セミナーを開催してみないかとの声がかかることもあります。こうした個人活動の収益化は、会社員にはなかなか難しいものです。
また、こうした活動は収入アップの手段としてだけではなく、自己実現にもつながります。
開業するデメリット
行政書士としての独立開業には多くのメリットがありますが、その一方でデメリットもあります。ここでは具体的に行政書士が開業するデメリットをご紹介します。
最初の仕事を取ってくるまでのハードルが高い
行政書士が開業するデメリット1つ目は、最初の仕事を取ってくるまでのハードルが高いことです。
独立開業する際にはウェブサイトを立ち上げたり、名刺や開業挨拶状を配るなどして、事務所の宣伝活動に努めても、残念ながら最初から行政書士としての仕事がたくさん転がり込んでくることはないのが実情です。
もっとも、最初の仕事をどうにか受注し、その仕事を完遂すれば、そこに「この人に任せれば安心できる」という信頼が生まれます。信頼が生まれればまた次の仕事が入ってきやすくなるので、やはり「はじめが肝心」ということになります。
通常業務と事務所経営の両立が大変
行政書士が開業するデメリット2つ目は、通常業務と事務所経営の両立が大変なことです。
行政書士は実務家であると同時に事務所の経営者です。ただ与えられた仕事をこなして収入を得るだけというわけにはいかず、事務所の経費や各種税金に関する業務も同時にこなしていかなければなりません。
ただし、行政書士としての仕事がある程度軌道に乗り、金銭的余裕が生まれてきたら、事務所スタッフを雇う、税務を税理士に外注するなどの方法により、事務所経営の負担を相当程度緩和することができるでしょう。
収入減のリスクと常に隣り合わせ
行政書士が開業するデメリット3つ目は、収入減のリスクと常に隣り合わせなことです。
常に上司から仕事を割り当てられる会社員と異なり、行政書士は自分で仕事を取ってこなければなりません。仕事が取れなければ即、自身の収入が減ることを意味します。
そのようなことにならないために、人脈作りや宣伝活動を怠らないことが大事です。また、早いうちから「これだけは他の行政書士には負けない!」という、あなた自身の専門分野を見つけ、実務能力に磨きをかけておくことで、他の行政書士との差別化を図ることが出来、その専門分野の仕事が舞い込みやすくなります。
独立行政書士に向いている人
行政書士として独立するにしても、向き不向きがあります。ここではまず独立行政書士に向いている人をご紹介します。
失敗してもすぐ解決策を見出せる人
独立行政書士に向いている人1人目は、失敗してもすぐ解決策を見出せる人です。
独立開業する上で失敗はつきものです。行政書士試験に合格して資格を取得できても、すべての業務を完璧にこなせるようになるわけではありません。
独立するのであれば、失敗してもすべて自分でフォローする必要があります。失敗をいつまでも引きずるのではなく、気持ちを切り替えて解決策を見いだし、行動に移せるタイプの人ほど独立行政書士に向いていると言えます。
人とのコミュニケーションが苦にならない人
独立行政書士に向いている人2人目は、人とのコミュニケーションが苦にならない人です。
行政書士のメイン業務は書類の作成や各種手続きなどの代行なので、事務作業がほとんどというイメージを抱いている方も多いかもしれません。しかし、依頼を受けるためには顧客とコミュニケーションを取ってニーズを汲み取り、信頼を勝ち取る必要があります。
また、行政書士として仕事を獲得するためには、積極的な営業活動も欠かせません。
このような行政書士の業務の特性から、人とのコミュニケーションが好きな方、もしくは苦にならない方ほど独立行政書士に向いていると言えます。
自分で考えて行動できる人
独立行政書士に向いている人3人目は、自分で考えて行動できる人です。
会社員の場合、上司や先輩などから指示を受けて業務を進めるというケースがほとんどです。行政書士の場合も行政書士事務所や法務事務所などで働くのであれば、上司の指示に従って仕事をすることになるため、あまり自分で考える必要はありません。
しかし独立開業するのであれば基本的に上司などから指示を受けることはなく、すべて自分で考えて行動する必要があります。事務所の経営状況や、業務量などを確認しながら自分で優先順位を付けて臨機応変に行動することが求められるのです。
そのため、自分で考えて行動できる人ほど独立行政書士に向いていると言えます。
貯蓄がある人
独立行政書士に向いている人4人目は、貯蓄がある人です。
どんなに優秀な行政書士であっても独立開業してすぐに多くの仕事が舞い込んでくるわけではありません。最初はまったく仕事が来ない可能性もあります。当然収入も安定しないので十分な貯蓄がある人、あるいは別の収入がある人も独立行政書士に向いています。
収入が不安定な期間は能力や努力などによっても差がありますが開業から1〜2年ほどはまったく依頼が来ないという可能性も否定できません。そのため、最低でも1年以上は収入がなくても生活できる程度の貯蓄を目安にあらかじめ用意しておくことが重要です。
独立行政書士に向いていない人
ここからは独立行政書士に向いていない人の例をご紹介します。
人とのコミュニケーションが苦手な人
独立行政書士に向いていない人1人目は、人とのコミュニケーションが苦手な人です。
行政書士として働く上で、人とのコミュニケーションは避けることができません。事務仕事も多いですが、必ず顧客と繋がるため接客業とも言えます。そのため、人とのコミュニケーションが苦手な人は独立行政書士にはあまり向いていません。
特に、事務作業だけに没頭したいという方や、できるだけ人と話したくない、関わりたくないという方にとって行政書士の仕事は苦痛に感じられる可能性があります。
失敗を恐れてなかなか踏み出せない人
独立行政書士に向いていない人2人目は、失敗を恐れてなかなか踏み出せない人です。
独立開業すれば最初は誰でも失敗するものです。しかし、独立すれば誰も助けてくれません。
失敗を糧にして自分で意思決定をし、行動する必要があるので、失敗を恐れてなかなか踏み出せない人はあまり独立行政書士に向いているとは言えません。
リスクを考えて行動することは経営者にとっては必要なことですが、失敗を恐れすぎてしまうとせっかくのチャンスを逃してしまう可能性があるでしょう。
誰かに指示してもらわないと不安な人
独立行政書士に向いていない人3人目は、誰かに指示してもらわないと不安な人です。
指示待ちタイプの方も独立行政書士には向いていません。基本的に独立行政書士は誰かに指示されることなく自分で判断して行動する必要があるので、誰かから指示を受けないと行動できない方は、独立して仕事をするのは難しいでしょう。
仕事の進め方だけでなく、経営方針も全て自分で決定し、そして自分で責任を負う必要があります。そのため、誰かに指示してもらわないと不安になってしまう人は独立すると仕事が苦痛になってしまうかもしれません。
貯蓄がない人
独立行政書士に向いていない人4人目は、貯蓄がない人です。
独立直後はどうしても顧客が少ないものです。場合によっては1年以上にわたって依頼が来ないことも考えられます。そうなれば貯蓄を切り崩しながら事務所の維持費や生活費を用意することになるでしょう。
そのため、ある程度の貯蓄がない人は独立行政書士に向いていません。現在貯蓄がないのであれば、ある程度貯めてから開業を目指すことをおすすめします。
行政書士未経験でも独立できる?
行政書士試験に合格し、行政書士会に登録することで誰でもすぐに独立開業は可能です。開業するために一定の実務経験が必要といった要件はないため、実際の業務は未経験であっても独立できます。
しかし、行政書士としての経験や人脈がまったくない状態で独立すると取引先のあてがないため、あまりおすすめできません。また、実務経験がなければせっかく依頼が来ても失敗してしまうリスクが高まります。
独立を目指すのであれば、まずは行政書士事務所や法務事務所で経験を積んで独立するのがおすすめです。
行政書士資格はあなたの可能性を広げるためにある
そもそも、あなたが行政書士資格を取りたいと思った動機をもう一度思い出してみてください。
単に履歴書を彩るために使いたいという方を除いては、行政書士資格を使って独立開業するなり、転職するなりして、仕事の幅を広げる、あるいはやりたい仕事に就くために取得を志したはずです。
そうであれば、自分が行政書士になって行う仕事を「これまでの行政書士がやってきた仕事」に限定して活躍できるフィールドを狭くしてしまうのではなく、「自分の得意・興味関心のある分野の中で行政書士資格とその知識を活かして勝ち残っていけるマーケティング活動」を行っていくことが出来るはずです。
まとめ
最後に、行政書士として独立するためのポイントをあらためておさらいしましょう。
- 独立行政書士の年収は300〜1,000万円と人によってバラつきがある
- 行政書士として独立するためには行政書士会への届出と登録が必須
- 行政書士会に登録する際には20〜30万円前後の費用がかかる
- 行政書士として独立開業するためにはある程度の資金や貯蓄も必要
行政書士は独立開業しやすい資格のひとつですが、メリット・デメリットに加え、人によっては向き不向きもあります。そのため、独立を考えているのであればその両方を頭に入れた上で入念な準備をすることが大切です。
行政書士の資格は独立しなければ活かせないわけではありません。就職や転職などにも有利になるため、キャリアアップのためにも取得する価値がある資格です。
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