行政書士の業務のひとつである「補助金・助成金申請代行」とは?
行政書士にはさまざまな仕事があります。行政書士の業務というと官公署に提出する書類の作成というイメージが強いかもしれませんが、個人や法人などが国や自治体などから受けられる補助金や助成金受取の申請代行も重要な業務のひとつです。
ここではまず、補助金・助成金について詳しくご紹介します。
補助金とは
補助金とは、企業や個人事業主などがその事業を行っている期間中に支払った経費の中から、特定のものについて事業終了後に補助されるお金です。補助金を受け取るためには申請が必要で、事業終了後の確定検査を受けてはじめて補助されます。
補助金は要件を満たしていれば必ず受けられるわけではなく、申請の内容の審査で評価が高い順に補助されるという形になります。
助成金とは
助成金も補助金と同じく、企業や個人事業主などの事業にかかった経費の一部として補助されるお金のことを指します。こちらも補助金と同様に事業終了後の確定検査を終え、認められたら受け取れます。
助成金は要件を満たして適切に申請をすればほとんどの場合受け取ることができるため、補助金に比べてより受け取りやすいメリットがあります。
補助金・助成金申請代行は行政書士の独占業務?
結論から言えば、補助金や助成金の申請代行は行政書士の独占業務というわけではありません。他の士業でも補助金・助成金の申請代行業務が可能です。
中には行政書士が代行できない補助金・助成金もあります。もし行政書士が代行を行えない補助金や助成金の申請代行をすると、違法行為になってしまうため注意が必要です。
他に補助金・助成金申請代行ができるのは誰?
前述の通り、補助金や助成金の申請代行は行政書士の独占業務ではありません。他の資格保有者、士業の方も同様に申請代行を行うことができます。
行政書士以外で、補助金・助成金申請代行業務を行える資格・職種は以下の通りです。
- 中小企業診断士
- 社会保険労務士(社労士)
- 公認会計士
- 税理士
これらの資格を有していれば、企業や個人の補助金・助成金申請代行を業務として行えます。
行政書士の補助金申請業務の流れ
補助金や助成金の申請にはいくつものステップがあり、複雑な部分も少なくありません。だからこそ、書類作成や各種申請のスペシャリストである行政書士に申請の代行業務を依頼する方がたくさんいます。
補助金や助成金の申請代行の具体的な流れは以下の通りです。
- 顧客の求める申請内容を確認する
- 申請書を作成・提出する
- 審査を受ける
- 補助事業の書類を管理する
- 報告書を作成・提出する
- 補助金・助成金の交付を受ける
それぞれのステップについて詳しくご紹介します。
顧客の求める申請内容を確認する
まずは顧客の求める申請内容をしっかりと確認します。
補助金や助成金を受け取るためには、一定の要件を満たす必要があります。
補助金によって条件や金額だけでなく用意しなければならない書類も異なるため、顧客が求める申請内容を確認しつつ、適切なアドバイスを行わなければなりません。
申請書を作成・提出する
補助金や助成金の内容を確認したら、期日内に申請書などの必要書類を作成して提出します。
一般的な補助金や助成金の申請に必要な書類は主に以下の通りです。
- 応募申請書
- 事業計画書
- 経費明細書
- 事業要請書
この他にもいくつかの書類を作成したり、取り寄せたりしなければならないケースもあるため、前もって入念な準備を行います。
申請書は認定支援機関や各種支援拠点などに提出します。一般的な申請可能期間は1ヶ月前後で、毎年2月〜6月頃に募集が行われています。
審査を受ける
申請書類の提出が終わると審査が行われます。
この期間は基本的に「待ち」なので特にすることはありません。審査が完了し、採択事業者として決定されると事務局から決定通知が届くので、次は実際に補助金や助成金を受け取るための交付申請の手続きを行います。
交付申請までに受け取る書類は以下の通りです。
- 選定結果通知書
- 補助金交付規程
- 交付申請書
受け取った交付申請書に必要事項などを記入して、経費の相見積もりなど必要書類と併せて再度提出を行います。
交付申請が認められたら交付決定通知書が届き、事業の開始という流れになります。
補助事業の書類を管理する
事業が開始されたら、領収書や証拠書類などをすべて保管し、管理するのが行政書士の役割となります。
また、事業開始後に何らかの変更せざるを得なくなった場合、そのまま勝手に変更して事業を進めるのではなく、計画変更申請を提出して許可を得る必要があります。申請せずに変更すると補助や助成を受けられなくなる可能性もあるため、注意が必要です。
報告書を作成・提出する
事業が予定通りに完了したら、その内容や経費などをまとめた報告書を作成し、報告を行います。
補助金受取前に受け取る書類は以下の通りです。
- 補助(助成)金額確定通知書
- 請求書様式
予定通りに正しく事業が実施されたことが確認されてはじめて補助金を受け取ることができます。
補助金・助成金の交付を受ける
ここまでの手続きが完了し、正式に補助金・助成金の交付が決定したら、補助金・助成金の交付を受け取ります。
行政書士が取り扱う主な補助金申請業務の具体例
行政書士はさまざまな補助金申請業務を行うことができます。ここではより具体的に行政書士が申請代行を行うことができる補助金、助成金をご紹介します。
現在、行政書士が取り扱うことができる主な補助金・助成金は以下の通りです。
- IT導入補助金
- 革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金
- 小規模事業者持続化補助金
- 事業再構築補助金
それでは具体的にそれぞれの補助金について解説します。
IT導入補助金
IT導入補助金はその名の通り、ITツールの導入を支援する補助金です。パッケージソフトの本体費用、クラウドサービスの導入や初期費用などがこのITツールに含まれます。
A類型では補助額は30〜150万円未満、B類型は150〜450万円以下で、補助率はいずれも2分の1です。
近年では業界を問わずITの導入は欠かせなくなっています。その一方で、企業や事業者としてITツールを本格的に導入するとなればコストがネックになってしまいがちです。そんな事業者を支援することを目的とした補助金です。
▼対象者
対象者はこれからITツール導入を予定している中小企業・小規模事業者など
革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金
革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金は「ものづくり補助金」とも呼ばれ、生産性向上のための革新的なサービス開発、または試作品の開発などのための設備投資を支援することを目的とした補助金です。
設備投資は中小企業や小規模事業者にとって大きな負担となります。革新的なアイデアを持っていてもこの設備投資がネックとなって実現できないケースもあります。こういった問題を解決するための制度となっています。
補助額は100〜1,000万円で補助率は中小企業は2分の1、小規模事業者は3分の2です。
▼対象者
ものづくりに関する設備投資を行う中小企業、小規模事業主
小規模事業者持続化補助金
小規模事業者持続化補助金とは、経営難となった事業者が経営を見直して継続的な経営を行うための計画を作成した上で、その計画実現のための補助金です。
通常枠、賃金引上げ枠、卒業枠、後継者支援枠、創業枠、インボイス枠など複数の細かい枠にわけられており、それぞれ条件や補助上限額なども異なっています。それぞれの補助上限額と補助率は以下の表にまとめています。
類型 | 通常 | 賃金引上げ | 卒業 | 後継者支援 | 創業 | インボイス |
補助上限 | 50万円 | 200万円 | 200万円 | 200万円 | 200万円 | 100万円 |
補助率 | 2/3 | 2/3〜3/4 | 2/3 | 2/3 | 2/3 | 2/3 |
▼対象者
継続的な経営を行うための計画を作成した小規模事業者
事業再構築補助金
中小企業などが新型コロナウイルスの影響による社会的な大きな変化に対応するための資金を支援することを目的としているのが事業再構築補助金です。
社会の大きな変化に対応するための新分野開拓、事業や業種の転換、事業編成といった大胆な事業再構築に必要な費用の補助、助成を行います。
補助金額の上限や補助率は従業員数によって異なりますが、大規模賃金引上げ枠で従業員数が101人以上であれば最大で1億円の補助が受けられるため、ある程度の規模の企業にも対応できる助成金制度です。
▼対象者
事業の大規模な再構築を行う中小企業
行政書士が補助金・助成金申請代行業務を行う上での注意点
行政書士が補助金や助成金の申請代行を行う際にはいくつかの注意点があります。具体的には以下の点が挙げられます。
- 行政書士が厚生労働省管轄の補助金助成金申請代行を行うと違法になる
- 事業計画を綿密に記載する
- 必ず補助金・助成金が受け取れるとは限らない旨を説明する
行政書士が厚生労働省管轄の補助金・助成金申請代行を行うと違法になる
行政書士が補助金・助成金申請代行業務を行う上での注意点1つ目は、行政書士が厚生労働省管轄の補助金・助成金申請代行を行うと違法になる点です。
国や自治体などさまざまな機関が補助金や助成金制度を実施しています。その中でも厚生労働省管轄の助成金は社会保険労務士(社労士)の資格がなければ取り扱うことができません。行政書士の資格のみで代行を行うと違法になるため、注意が必要です。
厚生労働省管轄の補助金・助成金の中でも代表的なものは以下の3つです。
- 雇用調整助成金
- 働き方改革推進支援助成金
- 人材開発支援助成金
社会保険労務士(社労士)の資格を保持していなければ、これらの補助金や助成金の申請代行はできません。
事業計画を綿密に記載する
行政書士が補助金・助成金申請代行業務を行う上での注意点2つ目は、事業計画を綿密に記載する点です。
補助金や助成金の交付を受けるには審査に通過する必要があります。その審査に大きく影響するのが事業計画です。
事業計画以外にも書類に不備などがあると審査を受けることができなかったり、時間がかかってしまったりする可能性もあり、顧客に迷惑をかけることになります。そのため、事前に要項を確認した上で顧客としっかり打ち合わせを行い、必要な書類を揃えるようにする必要があります。
必ず補助金・助成金が受け取れるとは限らない旨を説明する
行政書士が補助金・助成金申請代行業務を行う上での注意点3つ目は、必ず補助金・助成金が受け取れるとは限らない旨を説明する点です。
補助金や助成金は必ず受けられるわけではありません。審査に通過して、事業を適切に完了する必要があります。この点を必ず顧客に説明し、理解してもらうことが重要です。
説明が不十分だと、交付が受けられなかった際にトラブルになってしまう可能性があります。そのため、実際に手続きを開始する前に説明する必要があります。
行政書士の補助金・助成金申請代行業務の主な報酬
行政書士の報酬(クライアントが払う手数料)は、法律で定められておらず、行政書士が自由に設定できます。とはいえ相場もあるため、参考までに一般的な手数料をご紹介します。
申請内容 |
平均値 |
最大値 |
最頻値 |
建築業許可申請
(法人・新規・知事宛) |
¥120,458 | ¥346,500 | ¥110,000 |
飲食店許可申請
(深夜・酒類) |
¥87,628 | ¥280,000 | ¥110,000 |
医薬品製造販売許可 | ¥356,000 | ¥600,000 | ¥150,000 |
医療法人設立認可申請 | ¥622,825 | ¥1,500,000 | ¥500,000 |
宗教法人設立 | ¥294,364 | ¥1,100,000 | – |
就業規則の作成 | ¥111,114 | ¥300,000 | ¥100,000 |
契約書の作成 | ¥32,586 | ¥480,000 | ¥30,000 |
在留資格認定証明書交付(居住資格) | ¥112,372 | ¥440,000 | ¥100,000 |
例えば、調剤薬局を作るのに必要な医薬品製造販売許可の手続きの手数料は30万円と言われており、1件あたりの報酬は高額です。高単価なものはそれだけ手続きが複雑で、工数がかかる傾向にあります。
クライアントの求める手続きをスムーズに遂行するためには、複雑な手続きや業務を丁寧に進め、クライアントの求める納期に間に合わせるのが、敏腕行政書士と言えるでしょう。
行政手続きは、10,000種を超え、多岐にわたる法律の知識が必要なことから、クライアントのニーズをしっかりと汲み取り顧客への理解を深めることが必要です。
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まとめ
行政書士の業務は多岐にわたりますが、中でも補助金や助成金などの申請代行は特に重要な業務です。最後に重要なポイントをおさらいします。
- 行政書士は補助金や助成金の代行業務を行うことができる
- 補助金や助成金の申請代行業務は行政書士の独占業務ではなく、種類によっては代行すると違法になってしまうものもある
- 業務を遂行するには顧客と密にコミュニケーションを取り、抜け漏れがないよう慎重に取り組むことが必要不可欠
行政書士は補助金・助成金申請代行業務をはじめ、さまざまな業務を行うことで顧客の役に立てる魅力的な職業です。
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