行政書士試験の合格を独学で目指す場合、どのような点に注意すべきでしょうか。 | |
行政書士試験は法律系国家資格の中でも難易度の高い部類に入る資格試験ですが、「学習計画の管理」「学習の優先順位をつける」「過去問の理解」の3つのポイントをおさえて忠実に実践することで、独学合格は十分に可能です。 |
平均学習時間
行政書士試験の合格に必要な学習時間は、人によって様々です。
まったくの初学者で、法律について勉強したことがない方を想定した場合、どれだけ短く見積もっても平均300時間、多めに見積もって700時間程度の学習時間は必要といわれます。
この数値だけを客観的に見ると、「そんなに勉強しなければならないのか・・・」と肩を落としてしまいそうになりますが、視点を変えましょう。
試験本番のちょうど1年前から勉強を始めたと仮定すれば、学習時間を300時間と見積もっても1日1時間、700時間と見積もっても1日2時間の勉強で、十分に平均学習時間を満たすことができるのです。
もっとも、初学者の場合は特に、学習の内容が重要になってきます。したがってただ漫然と勉強することで学習時間を積み重ねただけでは合格することは難しく、これから説明する3つのポイントをよくおさえた学習が必要になります。
テキストの選び方
入門書編
法律をまったくゼロから勉強する方の場合、過去問を解いたりテキストを読み込んでみたところで、そこに書いてある法律の知識を効率的に吸収することはできません。
まずは「法律とはそもそも何なのか、何のためにあるのか」や「法律的な物事の考え方」を身につけて、法律学習の下地を作りましょう。
1.薄いこと
2.持ち運びしやすいこと
薄い本を繰り返し読む
入門テキストといえども、新しいことを勉強するのですから、一周読んだだけでは、「法律とは?」や「リーガルマインドとは?」といった、法律科目の基礎的な考え方を身につけづらいです。
全体像をつかむためには、「今日は30ページまで、明日は60ページまで、明後日は・・・」と区切った読み方をしていると、前の日に読んだ部分を忘れてしまい、体系的に俯瞰できないからです。
1日、1回の学習で全体を読み通すことのできる、薄いテキストを選ぶべきです。
持ち歩いて隙間時間を活用
仕事や家事でなかなかまとまった時間の取りにくい社会人受験生が勉強時間を作るには、やはり通勤時間などを利用するしかありません。その際にテキストが大きくては、持ち運びが大変ですし、何より勉強する意欲を削がれます。そのため、通勤電車の中でも開いてストレスなく読み進めていけるような、小さいサイズのテキストがおすすめです。
おすすめ入門書は?
これら2つの条件を満たす法律入門書としては、自由国民社から出ている「3日で分かる法律入門」シリーズ『はじめての○○法』が挙げられます。
「3日で分かる」と書いてありますが、何周か読みこなしていくうちに、1日の勉強時間で十分読み通すことができるようになります。
テキスト編
残念ながら、入門書を読むだけで試験に合格することは困難です。
次のステップでは、条文や判例の具体的な知識の折り込まれた、基礎知識インプット用のテキストが必要です。
インプットのために望ましいテキストの条件は、
「過去問で多く出題される知識をより多く含んだテキスト」
テキスト選びのポイントは、「法律の森」に迷い込まないこと
ただし、ここで注意点があります。「行政書士試験は大部分において法律学の試験であり、学習範囲は(本質的には)無限定である」ということです。
試験科目のうち配点の高い行政法や民法を取ってみても、それだけを研究してお金を稼ぐ「研究者」という職業が存在します。
それほどまでに法律学は深く、広いのです。
しかし、先ほど述べた300時間とか700時間という学習時間で行政書士試験に合格するためには、そうした深遠な法律学の世界に迷い込んでいる暇は一切ありません。
そこで、「民法」や「行政法」の試験だからといって、大学教授が執筆されている『民法』『行政法』などのタイトルのついた重厚な研究書を読むことはおすすめしません。本番で役立つ知識を効率よく身につけるためには、大手資格予備校の出版するテキストがおすすめです。
大手資格予備校は当然ながら膨大な過去問のデータを分析し、出題傾向、すなわち毎年どのような判例や条文が出題されているかを把握しているので、その出題傾向に沿ったテキストを作っているはずだからです。
過去問・予想問題集編
市販の過去問集には大きく分けて2つのタイプがあります。「出題年度別」と「出題範囲別」です。
たとえば民法について、平成28年度、平成27年度、平成26年度、・・・のような順番で問題が掲載されていれば「出題年度別」で、総則、物権、担保物権、債権、・・・のような順番であれば「出題範囲別」です。
過去問・予想問題集を選ぶなら、「出題範囲別」です。
「出題年度別」よりも知識の定着率を効率よく確認できるからです。
行政書士試験は国家資格ですが、国家資格全体の傾向として、同じ知識を問う問題でも、出題する角度を変えて問題を出してきます。
そのような、「角度を変えて聞かれる問題」が出たときに、既存の知識で正解を導くためには、同じ出題範囲でどのような問題がこれまで聞かれたかを知る必要があります。そのために、出題範囲別に整理された過去問集を使いましょう。
ただし、試験本番の予行演習的に、自分が本番で何点取れるかのシミュレーションとして過去問を利用する場合には「出題年度別」を使うべきであることは言うまでもありません。その場合には、行政書士試験研究センターのホームページでは「出題年度別」過去問のデータを無料で提供していますので、チェックしてみてください。
六法編
行政書士試験で出題される法律科目は限られており、細かい法律が載った『六法全書』などを用いて勉強する必要はありません。
六法を選ぶときには、『ポケット六法』『デイリー六法』などの、軽くて持ち運びのしやすい標準的な六法がおすすめです。
行政書士合格の秘訣
使うべきテキストが分かったところで、独学合格のための3つのポイントをご説明します。
学習計画を達成できる自己管理
独学の場合、学習スケジュールを自分自身で立てる必要があります。そして最初に意気込んで立てた学習計画が、仕事や子育てなどとの兼ね合いで消化が難しくなるという事態が生じることは多々あります。
やはり人間はもともと意思がそこまで強くないもので、「今日は勉強をやめておいて、その分は明日やろう・・・」などと言って、未来の自分に勉強を押し付けてしまう受験生は多いです。
そうしたことを繰り返して、なかなか勉強が習慣化しない結果、学習計画が消化不良のまま試験本番を迎えてしまうことになりがちです。
そうならないためには、最初の学習計画を立てる段階で、ムリのない計画を立てることです。
先ほどご紹介した平均勉強時間を、あなたの生活リズムを考慮しながら1日1日に割り振っていくことで、ムリのない学習計画を立てられます。
また、通勤時間などの「隙間時間」での勉強を習慣化することによって、勉強時間を稼ぐこともできます。
毎日の勉強が苦にならないものにするための自己管理として、生活リズムを考慮した学習計画を立てましょう。
まずはテキストを回すことを優先、理解は後からついてくる
独学の場合、「テキストを読んでも理解できない部分」が生じることは珍しくありません。先ほども述べたとおり、法律学の本質的な勉強範囲は無限にあるので、分からない部分が生じることはある意味で当たり前のことなのです。
なかなか合格しない受験生は、この分からない部分について、あれこれテキストや研究所を読み込んでいくうちに、「法律学の森」に迷い込んでしまいます。出題されることのない部分にまで勉強が及んでしまい、結果として点数が伸び悩むのです。
受験生として本来必要なはずの「真面目さ」が、かえって足を引っ張ってしまうことになります。
では、このような事態にならないためにはどうすべきでしょうか。
行政書士試験は、実務家登用試験です。実務家として働くのならこれは知っておかないといけない、という知識だけが出題されるはずです。
そうであれば、誰も知らない、理解できないような知識を熟知している必要はなく、最低限テキストに書いてある基本的ポイントを確実におさえておけばOKです。そのために、テキストを読んでも分からない部分は付箋でも貼っておいて、まずはテキスト全体を何度も読み通すことを優先させましょう。全体を読み通し、学習がある程度進んだ後で付箋を貼った部分をもう一度読むと、意外とすんなり理解できてしまうものです。
過去問の徹底理解
行政書士試験に限らず、資格試験において誤解されがちなことが1つあります。
それは過去問の使い方です。「本試験では過去問と同じ問題はどうせ出ないのだから、過去問は本番の予行演習として直前期に手をつけるべきだ」として、過去問に触れることを後回しにするというものです。
こうした過去問の使い方は誤りです。先ほども述べたとおり、本試験では、過去問で聞かれたことのある知識がまったく出ないのではなく、角度を変えて聞かれるのです。そのため、テキストを読みすすめること(インプット)に併行して、過去問を使って問題演習をする(アウトプット)ことで、「自分の頭の中の知識の形」と、「実際に試験で出てくるような知識の形」が近くなっていき、最終的には試験本番で形を変えて出てきた問題にも対応できるようになるのです。
過去問を活用し、完璧に近い形で解けるようにすることは、行政書士試験突破の必須条件です。過去問集の解説を読み込んで、徹底的に理解するようにしましょう。