有価証券報告書(有報)と事業報告の一本化|背景と今後の動向

会社法に基づく事業報告と、金融商品取引法に基づく有価証券報告書(有報)は、開示内容に重複が多いことが長年指摘されてきました。こうした課題を背景に、早ければ2028年にも有報への一本化を企業が選択できる制度の導入が見込まれています。

さらに、有報の一本化に伴い、有価証券報告書を株主総会開催日前に提出する流れも強まっています。

本記事では、「有報 一本化」「事業報告 違い」といった観点から、制度の整理と課題、今後の動向について解説します。

松本 敏郎
スタディング外務員講座 主任講師

大手予備校にて15年間、日商簿記検定、税理士簿記論などの講師として多くの受験生を指導。その後、研修講師として大手予備校の教材作成を行うとともに、大学や商工会議所などを中心に日商簿記検定や一種外務員の受験対策講座を開講している。資格試験の指導一筋で、これまで25年以上絶えることなく受験指導を行っている。

一種外務員、日商簿記検定1級、ビジネス会計準1級、ビジネス・マネジャー、メンタルヘルス・マネジメントⅠ種、銀行業務検定財務2級、銀行業務検定法務3級
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会社法に基づく会計情報開示の仕組み

会社法では、株式会社に対して事業年度ごとに、以下の書類(計算書類等)の作成が義務付けられています。

  • 貸借対照表
  • 損益計算書
  • 株主資本等変動計算書
  • 個別注記表
  • 事業報告
  • 附属明細書

これらは総称して「計算書類等」と呼ばれ、主に株主への情報提供を目的とした制度です。

計算書類等の主な開示方法

会社法では、次のような方法での開示が定められています。

  • 株主総会招集通知に添付し、総会の2週間前までに株主へ送付
  • 総会2週間前から、本店で5年間・支店で3年間の備え置き
  • 株主総会後、計算書類確定後に決算公告を実施

このように、会社法は株主保護を重視した開示制度となっています。

金融商品取引法:有価証券報告書(有報)

金融商品取引法では、上場企業に対して、決算期終了後3か月以内に有価証券報告書(有報)の提出が義務付けられています。

有報の特徴は以下の通りです。

  • 提出先は内閣総理大臣
  • 財務局や取引所で公開
  • EDINETを通じてインターネット上で誰でも閲覧可能

有報は、財務情報に加えて事業リスクや経営方針なども含む、投資家向けの重要な開示書類として位置付けられています。

日本の上場企業における制度開示の全体像

日本の上場企業は、以下の3つの制度に基づいて情報開示を行っています。

  • 会社法に基づく事業報告・計算書類
  • 金融商品取引法に基づく有価証券報告書(有報)
  • 取引所ルールに基づく決算短信

それぞれ開示目的や提出先が異なるため、企業は複数の開示対応を行う必要があります。

開示スケジュールの特徴

  • 決算短信:決算日後45日以内
  • 事業報告:株主総会の約3週間前までに電子提供
  • 有報:株主総会直前または同日提出が一般的

このように、日本の制度は複数の開示が並立し、タイミングも分かれている点が特徴です。

諸外国との違い|開示の一本化が進む理由

諸外国では、日本のように複数の書類を分けて作成するのではなく、開示内容を1つの報告書に統合するケースが一般的です。

具体的には、

  • 財務情報と非財務情報を一体で開示
  • 株主総会の1か月以上前に開示
  • 複数の法律があっても統合された開示書類として作成

といった特徴があります。

このような一体化された開示は、投資家にとって理解しやすく、企業にとっても効率的な仕組みとなっています。

開示書類の重複がもたらす企業負担

日本の現行制度では、有報と事業報告の内容が重複していることが大きな課題となっています。

重複による主な問題点

  • 同一内容を複数書類で作成する必要がある
  • 開示作業の負担・コストが増加
  • スケジュール調整が複雑化

特に、有報には事業報告の内容も多く含まれているため、実質的に二重開示となっている点が問題視されています。

ESG開示の拡大と負担の増大

近年は、ESG(環境・社会・ガバナンス)への関心の高まりを背景に、サステナビリティ情報の開示強化が進んでいます。

これにより、

  • 有報の記載内容の増加
  • 非財務情報の整理負担の拡大
  • 開示品質に対する要求の高度化

といった要因から、企業の開示負担はさらに大きくなっています。

有報一本化に向けた今後の対応

現在、有報と事業報告の一本化については、法制審議会の会社法に関する部会で議論が進められています。

今後の方向性としては、

  • 有報に必要な情報を追加
  • 事業報告の作成を不要とする仕組み
  • 企業が一本化を選択可能とする制度

などが想定されており、早ければ2028年にも制度化される見通しです。

有報の株主総会前提出の重要性

一本化の流れとあわせて、有報の提出時期についても見直しが進んでいます。

2026年夏頃に改訂予定のコーポレートガバナンス・コードでは、

  • 有価証券報告書を株主総会開催日前に提出すること
  • さらに望ましい時期として「株主総会の3週間以上前」

といった指針が示されています。

これは、株主が議決権行使の前に十分な情報を得られる環境を整備することを目的としています。

まとめ|有報一本化は企業開示の効率化と透明性向上をもたらす

有価証券報告書と事業報告の一本化は、日本の開示制度の課題を解消する重要な改革です。

本記事のポイント

  • 会社法と金融商品取引法により開示制度が分かれている
  • 有報と事業報告は内容が重複している
  • ESG開示の拡大により企業負担が増加している
  • 2028年を目途に「有報 一本化」の制度化が検討されている
  • 将来的には有報の株主総会前提出が主流となる可能性が高い

今後、有報一本化が進めば、

  • 企業にとっては開示業務の効率化と負担軽減
  • 投資家にとっては情報取得の早期化と判断の高度化

といったメリットが期待されます。

「有報 一本化」「有価証券報告書 提出時期」といったテーマは、今後の制度改正の中核となる論点であり、引き続き注目していくことが重要です。

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