相場操縦とは、本来、需給関係によって成立する有価証券等の市場価格を人為的に操作して価格形成を行うことをいい、金融商品取引法においては、厳しく禁止されています。相場操縦は、市場の公正な価格形成を人為的に歪曲する意思のみで成立するとされており、それによって投資者の利益を害したり、また、利益を獲得することなどは必要とされていません。相場操縦を行った場合には、懲役10年以下若しくは罰金1,000万円以下、法人罰金7億円以下に処せられ、特に利益獲得目的の場合には、個人罰金も3,000万円以下とされています。
先日、大手証券会社が相場操縦の疑いで逮捕されるという報道がありました。背景となったのは「ブロックオファー」と呼ばれる取引です。「ブロックオファー」とは、大株主らが保有株を手放す際に、いったん証券会社が株式を買い取り、時間外の取引を通じて投資家に転売するという取引です。具体的には、大株主が保有株式の売却を証券会社に伝え、市場が閉じた後、売却の意向を受けた証券会社が、個別に投資家に連絡し株の購入の勧誘を行います。そして、その翌日の市場が閉じた後、当該株式の終値を基準価格として株が取引されるというものです。
売り手である大株主にとっては、市場で売却して株価が下がるよりも、割り引かれた価格で証券会社にまとめて買い取ってもらうことで、安定した資金調達を行うことができるというメリットがあります。買い手である投資家にとってのメリットは、売買執行日の終値から一定率で割り引いた価格で当該株式を購入できること、また、「ブロックオファー」では、通常、委託手数料が発生しないということを挙げることができます。
例えば、終値が800円であれば、証券会社は、そこから割り引いた価格で引き取ります。仮に終値の10%を割り引いた価格を買い取り価格とすれば720円で買い取ることになります。その引き取った株式を投資家に売却します。仮に終値の5%を割り引いた価格を売却価格とすれば760円で売却されることになるため、証券会社は1株当たり40円(760円-720円)の利益を獲得することができます。
「ブロックオファー」では、投資家が市場外で割り引いた価格によって、株式を購入することができますが、通常、その噂が漏れ、基準価格を決定する終値の価格は下がる傾向にあります。終値が下がり過ぎると、大株主が取引をやめる可能性が高まります。また、基準価格が低くなれば、仮に取引が成立しても、証券会社の獲得利益は減ることになります。
例えば、上記の例で、終値が下落して700円になれば、証券会社は630円(700円-70円)で当該株式を買い取り、665円(700円-35円)で投資家に売却されるため、証券会社は1株当たり35円(665円-630円)の利益を獲得することになります。終値が800円の場合と比べて証券会社の獲得利益が減少することが分かります。
今回のケースでは、売買価格の基準となる取引当日の終値が前日の終値に比べて大幅に下落することを回避するために、株価の維持を企て、株価を安定させる目的をもって、買い支えた行為が金融商品取引法違反とされたということです
今回の日銀の指し値オペの発動は、金利緩和政策の継続化の意思の表れと考えられますが、海外の金利上昇により日本と海外の長期金利の差が広がれば、円安・ドル高の傾向がさらに進む可能性があります。円安は輸入価格の上昇に繋がるため、日本の物価上昇が更に高まるようになれば、消費者にとって大きな負担となります。しかし、長期金利の上昇は設備投資や住宅投資に影響を与えるため、日銀も容認することが難しい状況です。主要国で長期金利を政策目標としているのは、日銀だけということですが、今後も日銀の手腕を見ていきたいと思います。
日本証券業協会の「モデル倫理コード」には、社会的使命の自覚と資本市場の健全性及び信頼性の維持、向上という見出しで、次のように記されています。
「資本市場に関する公正性及び健全性について正しく理解し、資本市場の健全な発展を妨げる行為をしない。また、資本市場の健全性維持を通して、果たすべき社会的使命を自覚して行動する。適正な情報開示を損なったり、公正な価格形成を歪めることにつながる行為に関与する等、協会員に対する信頼を失墜させ、あるいは資本市場の健全性を損ないかねない不適正な行為をしない。」
今回逮捕されたある容疑者は、「違法性の認識はなかった。」と容疑を否認しているようです。確かに今回の取引では、法的にグレーな部分があるのかもしれません。しかし、大切なことは、上記の「モデル倫理コード」に記されている「資本市場の健全性維持を通して、果たすべき社会的使命を自覚して行動していたか」ということではないでしょうか。
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