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スタートアップ企業とIPOについて

1.公開価格の決定方法の問題点

 公開価格の決定方法は、通常、ブック・ビルディング方式が採用されます。ブック・ビルディング方式とは、主幹事証券会社が、専門的な知識や経験を持つ機関投資家等の意見を参考に決定した仮の発行条件を投資家に提示し、その後、一定期間における投資家の需要を調査した上で公開価格を決定する方法です。

 しかし、公開された株式に売れ残りが生じた場合には、引き受けた証券会社がその責任を負うことになるため、通常は、その引受けリスクを考慮して割安な価格で公開価格が決定されることが多く、また、公開価格を決定する過程の不透明性が指摘されることもあります。

2.有望なスタートアップ企業があまり生まれていない現状

 日本では有望なスタートアップ企業が現状、あまり生まれていません。スタートアップ企業とは、イノベーションを起こして短期間のうちに圧倒的な成長率で事業を展開する企業のことをいいます(Google、Amazon、facebookなど)。

 日本においては、企業価値が10億ドル(約1,150億円)を超える大型の未公開企業(ユニコーン)は、昨年9月時点でわずか6社しかありません。それは、100社を超える米国や中国より圧倒的に少ない数となっています。

 昨年6月に政府が閣議決定した「成長戦略実行計画」では、IPOの価格決定がユニコーンの育成を妨げていると指摘しています。日本の場合、公開価格が低く設定される傾向にあるため、新規上場企業が十分な資金を調達できず、そのことが企業の成長の妨げになると考えられるのです。

3.投資家にとってのIPO投資

 既に説明したとおり日本の場合には、公開価格が低く設定されるため、上場後は値が上がりやすくなります。投資家にとっては、上場前の公開価格でIPO株式を購入することができれば、上場後すぐに売却することで利益を上げることができます。このような投資方法をIPO投資と呼びます。

 例えば、昨年の11月にマザーズ市場に上場した「株式会社サイエンスアーツ」は、公開価格が1,710円であったのに対し、初値は4,545円となっています。騰落率は、なんと166%です。このように、投資家にとっては公開価格が低く設定されているIPO株に投資をすることは非常にメリットが高く、IPO株を購入することで利益を獲得する確率が非常に高まりますので、その多くは、抽選によって投資家に分配されることになります。

 また、IPO株を扱う証券会社も新規顧客を得るための1つの商品になり得るため、投資家に割り当てるための抽選のプロセスの不透明性についても指摘されることがあります

4.今後の対応

 日本証券業協会は、公開価格などの根拠について、手続きを行う主幹事証券会社が企業側に「納得感のある」形で説明することをルール化すること、また、需要動向に応じた柔軟な公開価格の設定や上場までの期間短縮なども盛り込んだ改善案を取りまとめ、各証券会社や東京証券取引所に対応を求めることとなりました。

 4月4日から、現在の東証1部、2部、JASDAQ、マザーズの4つの市場区分が「プライム市場」、「スタンダード市場」、「グロース市場」の3つの新しい市場区分へと再編されます。今までは、上場基準が比較的緩い「マザーズ市場」がスタートアップ企業の成長を支えてきましたが、今後は、「グロース市場」がその役割を担うこととなります。

 魅力的なスタートアップ企業の成長を促進させるためにも、海外からの投資マネーが必要となります。そのためにも、海外の投資家から信頼されるように上場企業の質をより一層高める必要があるのではないでしょうか。そのためには、上場するための審査基準をもう一段厳しくすることも必要なのではないかと思います。今後、東京証券取引所が意識改革を図り、どのように市場を活性化させていくのかについても注目していきたいと思います。