為替レートは、各国の通貨間の交換比率のことをいいます。その表示については、外貨通貨建て表示と自国(邦貨)通貨建て表示の2つがあります。例えば、1ドルが100円であった場合、外貨通貨建て表示であれば、1円=0.01ドルと表示され、自国(邦貨)通貨建て表示であれば、1ドル=100円と表示されます。本来の円の価値を示すならば、1円=0.01ドルと表示されるべきかと思いますが、小数点での表示は少し見にくいこともあり、通常は、自国(邦貨)通貨建て表示で、1ドル=100円と表示されます。しかし、自国(邦貨)通貨建て表示されることにより、円高と円安というものが少しわかりづらくなります。
自国(邦貨)通貨建て表示で1ドル=100円から1ドル=200円になった場合、円のドルに対する価値が半減したことになり、円安の状態になっています。しかし、自国(邦貨)通貨建て表示では、円が100円から200円になっているため、円の価値が上昇している印象(円高)を受けてしまいます。それに対して、外貨通貨建て表示では、1円=0.01ドル、1円=0.005ドルと表示されます。このような表示の場合、円のドルに対する価値が半減していることが分かりますので、円安になっている状態が理解しやすくなります。しかし、通常は、自国(邦貨)通貨建て表示されるため、円安及び円高には注意が必要です。
為替レートも基本的には需給関係によって変動します。ドルが売られて円が買われると円高ドル安となり、反対に円が売られてドルが買われると円安ドル高となります。
(1)アセット・アプローチ(短期における為替レートの決定)
余剰資金が多くある場合、投機的な資金の移動が活発化します。その移動要因としては、内外の金利差、将来の為替レートの予想、対外純資産残高などを挙げることができます。例えば、米国の金利が上昇した場合、日本と米国の金利差が拡大します。その場合、円での資金運用よりドルでの資金運用の方が有利となるため、円が売られ、ドルが買われるために円安ドル高となります。
(2)購買力平価説(長期における為替レートの決定)
マクドナルドのハンバーガーは米国でも日本でもほとんど同じものであり、価値に違いはありません。例えば、ハンバーガー1個の値段が日本で100円、米国で1ドルであり、現在の為替レートが1ドル=100円の場合であったとします。日本の物価上昇率が2%、米国の物価上昇率が20%であった場合、物価の上昇率を比べると、102%÷120%=0.85と計算されます。旧為替レートは100円であるため、新為替レートは、100円×0.85=85円と計算されます。つまり、米国のハンバーガーが物価上昇により1.2ドル(1ドル×1.2)、日本のハンバーガーが102円(100円×1.02)になったとしても、ハンバーガーそのものに違いはありませんので、為替レートによって調整されることになります。つまり、1ドル=100円が1ドル=85円に変わることによって、価値が同じになるのです(1.2ドル×85円=102円)。
(1)円安のメリット
自動車などの輸出型企業にとっては有利になります。1ドル=130円の時と、1ドル100円の時では受け取る外貨は同じでも、円ベースでは1ドル=130円の時の方が受け取る金額が大きくなります。また、海外からの観光客が増える可能性が高まることも挙げることができます。
(2)円安のデメリット
電力・ガスなどの輸入型企業にとっては不利になります。1ドル=130円の時と、1ドル100円の時では支払う外貨は同じでも、円ベースでは1ドル=130円の時の方が支払う金額が大きくなります。そのため、電力やガスなどの価格が上昇することになります。コロナ禍における供給の制約やロシアのウクライナ侵攻などの影響で物価上昇力圧力が一層高まることも懸念されています。
かつて日本の経済は、輸出型企業がけん引していたこともあり、円安になると日経平均株価が高くなるという傾向がみられました。しかし、自動車メーカーなどの輸出型企業は生産拠点を海外に移している企業が多く、円安によるメリットはあまり享受できず、また、円安による海外からの観光客の増加についてもコロナ禍が収束していない今、あまり期待できないとも言われています。このような状況の中、鈴木財務相は、「今の円安は良い円安とは言えない」と話し、日銀の黒田総裁も「かなり急速な為替の変動で、企業の事業計画の策定に困難をきたす恐れがある」と語っています。
円安に歯止めをかける手段としては、外国為替市場で、大量の外貨を売って円を買う「円買い介入」というものがありますが、円買い介入は1998年以来実施していないそうです。今後、この円安が日本経済にどのように影響するのかについても注視していきたいと思います。
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