暗号資産の規制強化と税制改正|金融商品取引法の最新動向

暗号資産は決済手段として広がる一方、投資対象としても注目されています。現在は資金決済法で規制されていますが、金融商品取引法の対象に含める動きが進んでいます。本記事では、暗号資産の現行規制、投資リスク、法改正の方向性、税制の課題について解説します。

松本 敏郎
スタディング外務員講座 主任講師

大手予備校にて15年間、日商簿記検定、税理士簿記論などの講師として多くの受験生を指導。その後、研修講師として大手予備校の教材作成を行うとともに、大学や商工会議所などを中心に日商簿記検定や一種外務員の受験対策講座を開講している。資格試験の指導一筋で、これまで25年以上絶えることなく受験指導を行っている。

一種外務員、日商簿記検定1級、ビジネス会計準1級、ビジネス・マネジャー、メンタルヘルス・マネジメントⅠ種、銀行業務検定財務2級、銀行業務検定法務3級
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暗号資産の現状と規制強化の動き

ビットコインやイーサリアムといった暗号資産は、決済手段や送金手段として使用されるほか、値動きが激しいことから、投機(投資)の対象にもなっています。暗号資産は現在、電子マネーなどの決済サービスを適切に管理し、利用者の保護を目的とした法律である資金決済法で規制されていますが、投資対象としての人気の高まりを受け、有価証券などとともに金融商品取引法(以下、「金商法」)の規制対象に位置づける動きが本格化しています。

現在の暗号資産に対する規制について

日本では、資金決済法に基づき、暗号資産の定義が次のように定められています。

  • 不特定の者に対して、代金の支払い等に使用でき、かつ、法定通貨(日本円や米国ドル等)と相互に交換できるもの。
  • 電子的に記録され、移転できるもの。
  • 法定通貨または法定通貨建ての資産(プリペイドカード等)ではないもの。

こうした条件を満たすものが暗号資産とされます。

取引に関しては、金融庁・財務局に登録された暗号資産交換業者のみが行えます。暗号資産は、一般的に「交換所」や「取引所」と呼ばれる事業者(暗号資産交換業者)を通じて入手・換金することができます。

なお、資金決済法では発行者に対する開示義務はありません。しかし、日本暗号資産等取引業協会(JVCEA)の自主規制規則により、新たな暗号資産の取扱いを開始しようとする暗号資産交換業者には、一定の情報提供(暗号資産に係る概要説明書)が求められます。インサイダー取引に関する規制は現状ありません。

暗号資産投資に関して指摘される問題点

国内の暗号資産交換業者における口座開設数は、2025年1月末時点で延べ1,200万口座を突破し、利用者預託金残高は5兆円以上に達しています。投資対象としての人気の高まりとともに、以下のような問題点も指摘されています。

ホワイトペーパーの不透明性
暗号資産発行時のホワイトペーパー(説明資料)等の記載内容が不明確であり、記載内容と実際の内容が異なることが多い。

無登録業者による勧誘
交換業の登録を受けずに暗号資産投資への勧誘を行う者が現れている。

詐欺的セミナーやオンラインサロン
投資セミナーやオンラインサロンの中には、利用者から金銭を詐取するなど違法な行為が疑われるものもある。

暗号資産を金融商品取引法の対象とする動き

暗号資産を金商法の対象とすることで、発行体や交換業者といった事業者には金商法に基づく規制が課されるようになります。開示義務やインサイダー規制への対応など、従来よりも厳しい規制が適用される可能性があります。

金商法上の有価証券は、法的に保護された権利を表すこと(権利性)と、事業等の遂行により生じた収益の配当等を伴うこと(収益分配性)を満たすものです。一方、暗号資産にはそれらの性質はありません。そのため、暗号資産(現物)を金商法で規制する場合は、有価証券とは別の独自の枠組みで扱われることになると考えられます。

暗号資産の金融商品取引法規制については、2026年通常国会で関連法(税制・金商法改正)の提出と成立を目指す流れになっています。成立後は約1年間の準備期間を経て、2027年に施行される予定です。こうしたスケジュールは、暗号資産市場における法整備の重要な転換点となり、投資家や事業者に大きな影響を与えると考えられます。

暗号資産に対する税務上の取扱い

暗号資産の売却等によって得た利益は、現行制度では雑所得として扱われ、課税の対象となります。雑所得は総合課税の仕組みで計算され、給与所得など他の所得と合算される点が特徴です。総合課税では累進課税が適用されるため、所得が増えるほど税率が上がり、住民税等を合わせると税率は最大で約55%に達する場合があります。

一方で、式やFX取引は申告分離課税の対象で、他の所得と切り離して一律20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の税率が適用されます。さらに、これらの金融商品では損失を翌年以降最大3年間繰り越し、他の利益と相殺することも可能です。

暗号資産についても、今後は株式やFXと同様の税制を導入する方向で議論が進んでいます。もし税制改正が実現すれば、税負担の軽減や損益通算の仕組みが整い、日本国内の暗号資産市場はさらに拡大する可能性があります。

まとめ:暗号資産規制と税制改正の動向に注目

暗号資産は、決済手段としての利用に加え、投資対象として急速に拡大しています。現行では資金決済法による規制が中心ですが、金融商品取引法の対象に含める議論が本格化しており、開示義務やインサイダー規制など、より厳格なルールが導入される可能性があります。こうした法改正は、投資家保護や市場の健全化に大きな影響を与えるでしょう。

また、税務面では暗号資産の利益が雑所得として総合課税され、最大約55%の税率が適用される現状があります。しかし、株式やFXと同様の申告分離課税の導入が検討されており、税制改正が実現すれば、税負担の軽減や損益通算の仕組みが整い、市場拡大につながる可能性があります。

2026年の通常国会で関連法案の提出が予定されており、施行は2027年を見込んでいます。暗号資産市場にとって重要な転換点となるため、規制強化と税制改正の動向を継続的に注視することが不可欠です。

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