
近年、日本企業の間で「株式の非公開化(上場廃止)」が増加しています。たとえば、大正製薬ホールディングスは2024年4月9日にMBO(経営陣による買収)を実施して東証スタンダード市場を上場廃止に。ベネッセホールディングスも2024年5月17日にMBOによって上場廃止となりました。
このような動きが相次ぐ背景には、上場維持にかかる負担の増大や、経営の自由度を確保したいという企業側の狙いがあります。本記事では、株式の非公開化の基本からMBOの仕組み、そして東証の規範改正まで分かりやすく解説します。

松本 敏郎
スタディング外務員講座 主任講師
大手予備校にて15年間、日商簿記検定、税理士簿記論などの講師として多くの受験生を指導。その後、研修講師として大手予備校の教材作成を行うとともに、大学や商工会議所などを中心に日商簿記検定や一種外務員の受験対策講座を開講している。資格試験の指導一筋で、これまで25年以上絶えることなく受験指導を行っている。
一種外務員、日商簿記検定1級、ビジネス会計準1級、ビジネス・マネジャー、メンタルヘルス・マネジメントⅠ種、銀行業務検定財務2級、銀行業務検定法務3級
>>講師メッセージ
株式上場のメリット
企業が株式を上場する最大のメリットは、資金調達力の向上と社会的信頼の獲得です。
● 資金調達力の拡大
非上場企業の場合、事業拡大に必要な資金は主に銀行などからの借入(間接金融)に依存します。しかし、借入枠には限りがあり、利息負担も生じます。
一方、上場企業であれば、市場を通じて株式を発行し、時価で大規模な資金調達(直接金融)が可能になります。
● 社会的信用・認知度の向上
上場には取引所の厳密な審査をクリアする必要があり、その事実自体が企業の財務健全性や透明性を示します。
このため、取引先からの信頼が高まり、金融機関からの評価向上、優秀な人材の確保にもプラスに働きます。
株式上場のデメリット
一方で、株式を上場し続けることにはコスト面・ガバナンス面の負担が発生します。
● 維持コスト・事務負担の増加
近年は、
- 開示規制の強化
- サステナビリティ情報開示の義務化
- 決算の早期化
などにより、上場企業の開示業務は年々複雑化しています。
加えて、監査法人によるチェック工程も増え、監査費用の上昇といったコスト負担も顕著です。
● 株主対応の負担
上場により株主が多数存在することはメリットでもありますが、近年はアクティビスト(もの言う株主)による経営介入が増えています。
経営陣の意向に反した社長交代や事業売却を要求されるケースもあり、これに対応するためのコストや時間も企業負担となっています。
MBO(経営陣による買収)と株式の非公開化
上場企業は、上場維持の実益と負担を比較し、デメリットが大きいと判断すれば上場廃止を選択します。
株式の非公開化とは、上場企業が証券市場から自社株式を引き上げ、非上場の企業へ戻ることです。
この非公開化の方法には以下の2種類があります。
- 経営陣が主体となる買収(MBO)
- 第三者による買収
● MBOとは
MBOは、企業の経営陣が銀行などから資金を借り入れ、その資金で既存株主から株式を取得して非公開化する手法です。
その際に用いられる主な手段が**TOB(公開買付け)**で、不特定多数の株主に対して市場外で株式を買い取る旨を公告し、指定価格で買い付けます。
● MBOの課題
MBOにはメリットもありますが、以下のようなリスクや課題も存在します。
- 経営陣は「安く買いたい」、株主は「高く売りたい」との利害対立
- 買取価格が高騰する可能性
- 売却に応じない株主(少数株主)が残るリスク
- 借入による負債増加と利息負担で財務悪化の可能性
経営陣が主体となって買収を進めるため、手続きの透明性や価格の妥当性が重要なポイントとなります。
東証「企業行動規範」の改正とMBO規制強化
MBOでは「上場時は高値で売り、株価が低迷したら安値で買い戻して市場から撤退する」といった、経営者による恣意的な行動が懸念されるケースがあります。
この問題に対処するため、東京証券取引所は2025年7月7日に「企業行動規範」を改正し、MBOを実施する企業に対し、手続きや価格設定の妥当性を厳格に開示する義務を課す方針を示しました。
「企業行動規範」とは、投資者保護及び市場の健全性確保の観点から、上場企業に求められる適切な行動を定めた基準です。
日経平均株価が上昇し株式市場が活況な中、こうした制度改正は投資家保護と市場の信頼性維持を目的としています。
まとめ:株式非公開化の増加は「上場の重さ」と「経営自由度」のせめぎ合い
近年の株式非公開化の増加には、以下のような背景があります。
- 開示規制強化や監査コスト増による上場維持の負担増
- アクティビスト対応など株主関係の複雑化
- MBOによる経営自由度確保のニーズ
- 東証によるMBO規制強化で透明性の確保が重要に
上場は資金調達力や信用向上といった大きなメリットを持つ一方で、負担も大きくなっています。
そのため、企業は「上場を続けるべきか」「非公開化で経営の大胆な改革を進めるべきか」を真剣に検討する時代になっています。
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