社債管理者設置義務の緩和とは|制度の概要と最新動向をわかりやすく解説

社債発行には原則として「社債管理者の設置」が義務付けられています。しかし、近年「産業競争力強化法の改正案により、社債管理者の設置義務を免除する特例を導入する方針」というニュースが報じられ、制度のあり方が再注目されています。

本記事では、社債管理者の設置義務の概要、資金調達の現状、そして改正案による規制緩和について詳しく解説します。

松本 敏郎
スタディング外務員講座 主任講師

大手予備校にて15年間、日商簿記検定、税理士簿記論などの講師として多くの受験生を指導。その後、研修講師として大手予備校の教材作成を行うとともに、大学や商工会議所などを中心に日商簿記検定や一種外務員の受験対策講座を開講している。資格試験の指導一筋で、これまで25年以上絶えることなく受験指導を行っている。

一種外務員、日商簿記検定1級、ビジネス会計準1級、ビジネス・マネジャー、メンタルヘルス・マネジメントⅠ種、銀行業務検定財務2級、銀行業務検定法務3級
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社債管理者の設置義務とは|役割と例外規定

社債は一般投資家から広く資金を募る「借入れ」の一種で、投資家である社債権者を適切に保護する必要があります。しかし、社債権者は専門知識に乏しい場合も多く、発行企業が個々の社債権者と直接やり取りをするのは現実的ではありません。

そのため、発行企業は銀行や信託銀行に委託し、社債権者の利益を守る役割を担う「社債管理者」を設置する必要があります。

●社債管理者の主な役割

  • 社債の弁済・償還に必要な手続きの実施
  • 社債権者集会の運営・調整
  • 発行会社による不公正な行為に対する取消請求
  • 社債権者の権利保護のための裁判上・裁判外の行為

こうした業務を担うため、社債管理者の設置費用は年間で数千万円規模になることもあり、中小企業やスタートアップにとっては負担が大きいと言われてきました。

●設置義務が免除されるケース

以下の条件に該当する場合、例外的に社債管理者の設置は不要です。

  • 1億円以上の最低額面金額の社債(主な投資家が機関投資家のため保護必要性が低い)
  • 総額を最低額面金額で割った数が50未満の社債
    (発行企業と投資家が直接やり取りしやすいため)

●新制度「社債管理補助者」の創設

社債管理者の設置がない場合、デフォルト発生時に社債権者が自力で手続きを行う負担が問題視されてきました。
そこで2021年施行の改正会社法により、権限を限定しコストを抑えた「社債管理補助者」制度が導入され、社債権者保護と企業負担のバランスを取る仕組みが整えられました。

日本企業の資金調達と社債発行の現状

日本企業では、資金調達の中心は依然として銀行借入です。経済産業省の発表では、企業(金融業除く)の有利子負債のうち8割以上が銀行からの借入で、社債による調達は約1割にとどまっています。一方、米国企業では社債発行が約6割を占めるなど、調達構造が大きく異なります。

●日本の社債市場の特徴

  • 90%以上がA格以上
  • BBB以下は約2%

米国では**BBB以下が55%**とされ、日本ではリスクのある社債が非常に少ない状況です。

これにより、信用力の低い企業は市場で資金調達しにくい構造が続いています。

社債管理者設置義務の緩和とスタートアップ支援

スタートアップ企業が事業を拡大するためには、中長期の投資が必要不可欠です。しかし、スタートアップは保有資産が少ないため、銀行からの借入では十分な資金を確保できないケースが多く見られます。また、増資に頼ると株式が希薄化し、既存株主に不利益が生じる可能性もあります。

こうした事情から、社債発行はスタートアップにとって魅力的な資金調達手段とされています。しかし、スタートアップは信用力が十分でないことが多く、格付けが低くなりがちです。その場合には社債管理者の設置が必要となり、その費用が大きな負担となっていました。

そこで、改正案は以下の内容を条件とすることで、社債管理者を設置せずに社債を発行できる制度を導入しようとしています。

社債管理者の設置が不要となる条件

  • 購入者が機関投資家などのプロ投資家であること
  • 社債管理補助者を設置すること
  • 財務制限条項(コベナンツ)を設定し、発行体に一定の義務や制約を課すこと

この仕組みにより、スタートアップは従来よりも低コストで社債を発行しやすくなり、新たな資金調達の道が開かれることが期待されています。

まとめ:社債管理者設置義務の緩和は企業と投資家の双方に追い風

今回の見直しは、社債市場の活性化とスタートアップ支援という2つの狙いを持つ重要な改革です。

  • 社債管理者は社債権者保護のため重要だが、費用負担が大きい
  • 日本の社債市場は信用力の高い銘柄が中心で、調達の幅が狭い
  • 改正案により、条件付きで管理者なしの社債発行が可能に
  • スタートアップの資金調達手段が広がり、市場拡大も期待できる

社債管理者設置義務の緩和は、企業の資金調達の多様化を進め、日本の産業競争力向上にも寄与すると考えられます。スタートアップや成長企業にとっては、より柔軟で戦略的な資金調達の選択肢が増えることになるでしょう。

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