簿記とは、日々のお金の動きや取引内容を一定のルールに従って記帳することです。
企業活動をすべて簿記によって記録することで、経営や財務の状況が明らかになります。
簿記の仕訳によって記録した内容は、最終的に貸借対照表と損益計算書にまとめられ、決算資料として開示されることになります。
日々の簿記の仕訳が誤っていれば、企業の経営や財務の状況が間違って報告されてしまうのです。
簿記といえば経理担当者の仕事というイメージを持つかもしれませんが、近年ではビジネスパーソンの必須スキルに位置づけられることも少なくありません。
特に管理職などにステップアップしたい方にとっては、自社や競合他社の状況を財務諸表から読み解く力は欠かせないでしょう。
ちなみに、簿記と聞いて資格試験をイメージする方は多いはずです。
実は簿記の資格には、日商簿記・全商簿記・全経簿記といった複数の種類があります。
大学生や社会人がキャリアのために取得するなら、日本商工会議所が主催する「日商簿記」を受験するのがおすすめです。
関連記事:日商簿記・全商簿記・全経簿記の違いとは?各資格の概要や難易度、合格率を紹介!
ここでは、簿記の種類を見ていきましょう。
最初に押さえておきたいのが、単式簿記と複式簿記です。
単式簿記では、シンプルにお金の流れを記録します。
家計簿やお小遣い帳のように、簡単な明細とお金の出入りだけを記録すればよいため、大きな労力はかかりません。
一方複式簿記では、1つの取引を2つの側面から捉えるのが特徴です。
例えば、商品を仕入れて現金を支払った場合は「商品の仕入」と「現金の支払い」という2つの側面から取引を記録します。
少し複雑に聞こえますが、取引を2つの側面から捉えることで、財産の状況など単式簿記ではカバーできない側面を把握できるようになります。
「簿記」といえば複式簿記のことを指すのが一般的です。
関連記事:簿記にはどんな種類がある?記帳方法や分野、検定試験の違いを解説!
次に押さえておきたいのが、商業簿記と工業簿記です。どちらも複式簿記にあたります。
商業簿記は、商品を仕入れて販売する企業の活動を記録するのに使われます。
一方、工業簿記は自社で製品を製造し、販売する企業の活動を記録するのが特徴です。
自社で製造する際には、原材料費や人件費をもとにした原価計算などが必要になるため、同じ簿記でも扱う内容は大きく異なります。
日商簿記では、3級は商業簿記のみ、2級と1級は商業簿記・工業簿記の両方が出題範囲となっています。
関連記事:日商簿記各級(初級・3級・2級・1級)の違いは?試験の概要や日程、合格率を紹介!
続いて、簿記の基本的な仕組みと流れを以下3つのポイントで見ていきましょう。
簿記は日々の取引を仕訳帳に記録するところから始まりますが、最終的な目標は決算書の作成です。
企業の活動を適切に記録し、貸借対照表や損益計算書といった財務諸表に正確な数値を載せることがゴールとなります。
貸借対照表は資産・負債・純資産という3つのグループから成り、資産は負債と純資産の合計額と一致します。
損益計算書は収益・費用という2つのグループから成り、その差額として算出されるのが当期純利益です。
日々の取引の仕訳に使用する勘定科目は、資産・負債・純資産・収益・費用という5つのグループのいずれかに分類されます。
それらの取引記録が最終的に貸借対照表・損益計算書に集約され、決算資料となります。
関連記事:簿記の貸借対照表とは|損益計算書との違いや書き方、問題の解き方を解説
仕訳とは、日々の取引の記録のことです。
例えば、現金1,000円を支払って商品を仕入れた場合、仕訳は以下の通りとなります。
借方 | 貸方 | ||
仕入 | 1,000 | 現金 | 1,000 |
このとき使用する「仕入」や「現金」といった名称が勘定科目です。
適切な勘定科目を使って取引を記録することで、第三者でも内容が理解できる仕訳帳となります。
なお、簿記で使う帳簿の左側を借方、右側を貸方と呼びます。
慣れるまでは左右を間違えてしまうことも多いため、ひらがなを用いて「かりかた」の「り」は左に払うから左側、「かしかた」の「し」は右に払うから右側といった覚え方が有名です。
日々の仕訳から決算書ができあがるまでの仕組みや流れも押さえておきましょう。
大まかなステップは以下の通りです。
もっとも重要なのが、日々の取引を正確に仕訳帳に記録することです。
仕訳が正しければ、あとは集計するだけで決算資料は完成に近づきます。
ただし、貸借対照表・損益計算書を作成するには、期末特有の決算整理仕訳という作業も必要です。
例えば、経年劣化による資産の価値減少を減価償却費として計上したり、取引先から債権が回収できないリスクに備えて貸倒引当金を設定したりといった調整を期末に行ないます。
それらを精算表という資料上にすべてまとめ、集計することで貸借対照表・損益計算書が完成します。
簿記のスキルを専門的に活かせる仕事としては、企業の経理部門や会計事務所、税理士事務所などが挙げられます。
いずれも簿記で身につく経理・会計のスキルを使う場面が多いため、学んだ知識を活かしながら実務経験を積むことが可能です。
ただし上記のような専門職でなくても、前述の通り簿記のスキルはビジネス全般に活かせます。
例えば、営業担当者なら自社や競合他社、取引先の経営状況を決算資料から見極め、より的確な判断やよりよい提案ができるようになるでしょう。
就職・転職市場においても、ビジネスパーソンの必須スキルである簿記を身につけていることは、プラスに働きます。
関連記事:簿記の資格が役に立つ仕事とは?3級・2級・1級それぞれの仕事内容を解説
簿記の資格は企業の人事部や採用担当者から高く評価される傾向にあるため、資格を取得することで就職や転職などのキャリアアップに役立ちます。
特に日商簿記検定試験は、年間約50万人が受験する日本最大級の資格試験です。
受験者数の多さからも、簿記スキルに対する社会的なニーズの高さがうかがえます。
ここでは、簿記資格を取得する具体的なメリットとして、以下の3点を紹介します。
企業活動は、利益を生み出すことによって成立しています。
そのため、お金の動きを把握する力を必須のビジネススキルと捉え、簿記資格を重視する企業は少なくありません。
簿記・会計の知識をアピールすることで、満足のいく就職・転職につながる可能性は高いでしょう。
キャリアアップには、企業の現状を正確に読み解く力と経営管理能力が欠かせません。
簿記を学習することで、経理業務に必要な知識をはじめ、財務諸表を読み解く力、企業の財務状況を理解する力、さらには経営管理・経営分析をする力が身につけられます。
そのため、企業の経理・会計担当者はもちろん、営業担当者や管理部門担当者からのニーズも高まっています。
簿記の資格はさまざまな形でキャリアアップにつながる可能性が高いでしょう。
また、企業によっては、簿記資格の取得により手当が支給される場合もあります。
関連記事:簿記資格取得のメリットとは?資格の取り方や難易度、独学が可能なのかも解説
簿記の知識は、税理士や公認会計士といったさらに難易度の高い資格を目指すうえでの基礎となります。
難関資格へのステップアップにつながる点も、簿記資格取得のメリットです。
また会計資格だけでなく、中小企業診断士試験においても簿記の知識は必要とされます。
簿記の基礎知識を身につけることで、診断士を受験する際にアドバンテージが得られます。
簿記の資格検定試験を受ければ、簿記の能力を客観的に測ることが可能です。
簿記の代表的な資格は日商簿記・全商簿記・全経簿記の3種類ですが、大学生や社会人がキャリアアップのために受験するなら「日商簿記」がおすすめです。
以下、各試験の主催団体や受験者層、級などを見ていきましょう。
日本商工会議所が主催する「日商簿記」は、企業の採用担当者にも広く認知されており、大学生や社会人などがキャリアアップを目的として受験しています。
日商簿記には「原価計算初級・初級・3級・2級・1級」という5つの試験がありますが、履歴書に書けるのは3級からとされています。
日商簿記3級は、簿記初心者の方でもしっかり学習すれば十分合格できるため、3級から挑戦するのがおすすめです。
また、日商簿記1級を取得することで税理士の受験資格が得られます。
全国商業高等学校協会が主催する「全商簿記」は、商業高校に通う高校生が主な受験者層となっています。
商業高校の卒業後に経理職としての就職を狙う場合や、推薦入試を受ける場合などに取得します。
一般の方も受験可能ではありますが、世間的な認知度はあまり高くないため、キャリアには生かしにくいでしょう。
全商簿記には「3級・2級・1級」という3つの試験があります。
全国経理教育協会が主催する「全経簿記」は、経理や会計の専門学校に通う学生が主な受験者層となっています。
一般の方も受験可能ではありますが、全商簿記同様に認知度があまり高くないため、キャリアには活かしにくいでしょう。
全経簿記には「基礎簿記会計・3級・2級・1級・上級」という5つの級があり、上級を取得することで税理士の受験資格が得られます。
簿記のスキルを証明するには、資格を取得するのが理想です。
就職・転職などキャリアアップにつなげやすい「日商簿記」の3級・2級・1級について、その難易度や必要な勉強時間の目安を紹介します。
日商簿記3級のレベルは、基本的な商業簿記を修得し、小規模企業の経理業務において適切な処理ができる程度とされています。
これから簿記を学ぶという方は、まずは日商簿記3級を目指すとよいでしょう。
日商簿記3級試験の概要は、以下の通りです。
受験資格 | 誰でも受験可能 |
出題科目 | 商業簿記 |
試験時間 | 60分 |
検定料 | 3,300円(税込)※ |
合格基準 | 70%以上 |
合格率の目安 | 40~50%前後 |
試験日程・受験方式 | 年3回(6月・11月・2月)の統一試験、またはネット試験 |
※ネット試験にインターネットで申し込む場合は別途事務手数料(税込)が発生する場合があります
日商簿記3級の合格に必要な勉強時間は、講座などを利用して効率的に勉強するという前提で50~100時間程度とされています。
日商簿記3級は、筆記による従来の統一試験に加え、パソコンを使って行なわれるネット試験が2020年12月より導入されています。
テストセンターに空きがあればいつでも受験可能なため、早めに資格を取得したい方におすすめです。
関連記事:簿記3級とは|試験の概要や合格率の推移、勉強方法をまとめて解説
日商簿記2級のレベルは、高度な商業簿記・工業簿記を修得し、財務諸表から経営状況などを読み取れる程度とされています。
商業簿記に加えて工業簿記が出題範囲となっているため、自社製品の製造を想定した原価計算などのスキルが問われます。
日商簿記2級試験の概要は、以下の通りです。
受験資格 | 誰でも受験可能 |
出題科目 | 商業簿記・工業簿記 |
試験時間 | 90分 |
検定料 | 5,500円(税込)※ |
合格基準 | 70%以上 |
合格率の目安 | 15~30%前後 |
試験日程・受験方式 | 年3回(2月・6月・11月)の統一試験、またはネット試験 |
※ネット試験にインターネットで申し込む場合は別途事務手数料550円(税込)が発生
日商簿記2級の合格に必要な勉強時間は、「3級レベルの知識を備えている」「講座などを利用して効率的に勉強する」という前提で100~200時間程度とされています。
合格率は15~30%前後と3級よりも下がりますが、しっかり対策をすれば十分合格できるレベルです。
日商簿記2級にも、3級同様ネット試験が導入されています。
年3回の統一試験を待つ必要がないため、ネット試験を受けることで資格取得を早められるでしょう。
関連記事:簿記2級とは|試験の概要や合格率の推移、勉強方法をまとめて解説
日商簿記1級のレベルは、きわめて高度な商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算を修得し、会計基準や関連法規を踏まえて経営管理・経営分析ができる程度とされています。
会計学や原価計算が独立した科目として出題されることからも、専門性の高さがうかがえます。
日商簿記1級試験の概要は、以下の通りです。
受験資格 | 誰でも受験可能 |
出題科目 | 商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算 |
試験時間 | 商業簿記・会計学:90分、工業簿記・原価計算:90分 |
検定料 | 8,800円(税込) |
合格基準 | 70%以上、かつ1科目ごとの得点が40%以上 |
合格率の目安 | 10%前後 |
試験日程・受験方式 | 年2回(6月・11月)の統一試験 |
日商簿記1級の合格に必要な勉強時間は、「2級レベルの知識を備えている」「講座などを利用して効率的に勉強する」という前提で400~600時間程度とされています。
合格率も10%前後ときわめて低く、独学での合格は困難な試験です。
日商簿記1級は統一試験のみの実施となっているため、年2回のチャンスを逃さないよう計画的に学習を進める必要があります。
関連記事:日商簿記1級の難易度や必要な勉強時間は?取得するメリットや科目別攻略法も紹介
ここでは、受験者数の多い日商簿記3級・2級・1級に絞って資格試験の日程を紹介します。
もともと筆記による統一試験のみの実施でしたが、新型コロナ感染症の影響によって試験が中止となったことなどから、2020年12月より3級・2級にはネット試験が導入されました。
ネット試験とは、テストセンターに設置されたパソコンを使ってインターネット上で受ける試験です。
テストセンターにさえ空きがあればいつでも受験可能なため、年3回の試験日程を待つ必要がなく、十分な対策ができたタイミングで受けることが可能です。
また、受験後すぐに合否がわかる点も大きなメリットだといえます。
関連記事:日商簿記検定(3級・2級・1級)の概要と筆記試験・ネット試験の違い
以下、日商簿記の統一試験・ネット試験それぞれの日程について、さらに詳しく紹介します。
日商簿記3級・2級の統一試験は年に3回、1級は年に2回実施されます。
対象級 | 試験日 | 受験申込開始時期 | 合格発表 |
1~3級 | 6月第2日曜日 | 4月下旬頃~ | 6月下旬~7月下旬 |
1~3級 | 11月第3日曜日 | 10月初旬頃~ | 12月上旬~1月下旬 |
2~3級 | 2月第4日曜日 | 1月初旬頃~ | 3月上旬~3月下旬 |
申し込みの期間や方法、合格発表のタイミングは商工会議所によって異なるため、受験予定の商工会議所に確認しましょう。
関連記事:日商簿記1級・2級・3級の申し込み方法や期間は?統一試験・ネット試験の2パターンで解説
一方、ネット試験(CBT試験)の日程は以下の通りです。
対象級 | 試験日・受験申込時期 | 合格発表 | |
2~3級 | テストセンターの空き状況にあわせて随時実施 | 試験終了後、即時判定 |
※商工会議所が定める認定会場(テストセンター)で試験が実施されます。
※各会場のスケジュールは、CBTS受験者専用サイトから確認できます。
※日商簿記1級のネット試験は実施されていません。
ネット試験(CBT試験)には年4回の施行休止期間が設けられており、2024年度は以下の通りとなっています。
上記期間は受験ができないため注意しましょう。
関連記事:日商簿記のネット試験(CBT方式)とは?統一試験との違いや合格率、対策方法を解説
簿記の資格を取得するには、以下3つのいずれかの方法をとるのが一般的です。
日商簿記でいえば、日々の学習時間を確保しながら計画的に学習を進められる方なら、3級・2級は独学で合格できる可能性があります。
ただし、仕訳や勘定科目など簿記特有の用語や仕組みを覚える必要があるため、簡単ではありません。
3級試験の合格率が40~50%前後となっていることからも、約半数の受験者は不合格になっていることがわかります。
また、1級試験は出題内容がきわめて高度かつ幅広いため、独学での合格は困難だといえるでしょう。
関連記事:日商簿記1級・2級・3級は独学で合格可能?それぞれの目安勉強時間や勉強法も解説
以下、3つの勉強方法についてそれぞれメリット・デメリットを解説します。
市販書籍で独学する場合は、書店などで販売されているテキストを使って学習を進めます。
講座やスクールを利用する場合と比べて費用が安い点や、自分のペースで進められる点はメリットだといえるでしょう。
一方で、テキスト選びが難しい点や、内容をうまく理解できない場合に自力で解決しなければならない点はデメリットです。
通信講座やオンライン講座を利用すれば、通学制のスクールよりも費用を抑えながら、本格的な学習が可能です。
効率よく学べるようカリキュラムが組まれているため、学習の進め方に迷うこともないでしょう。
オンラインで受講できる講座なら、スマートフォンを使ってスキマ時間に学習することも可能です。
市販書籍と比べれば費用は高くなりますが、効率的に合格を目指したい方にはおすすめです。
通学制のスクールは、授業のスケジュールが決まっているため学習ペースを維持しやすい点や、わからない点を質問できる点がメリットです。
個人での学習に不安を感じている方は、受講を検討してみてもよいでしょう。
ただし受講費用が高い点や、通学に手間・時間がかかる点はデメリットだといえます。
無理なく受講を続けられそうか、慎重に検討したうえで選択しましょう。
本記事では、簿記とは何かについてさまざまな観点で紹介しました。
ポイントをまとめると以下の通りです。
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