【目次】
・女性建築士の割合は?
・女性建築士の需要はある?
・建築士と結婚や妊娠、子育ては両立できる?
・女性の一級建築士・二級建築士の年収
・女性が建築士として働くメリット・デメリット
・女性建築士の仕事中の服装は?
・有名な女性の建築士をご紹介
・まとめ
令和3年度の建築士試験の合格者のデータによると一級建築士は29.6%、令和4年度のデータによると二級建築士は38.4%と、ともに全体の30%前後です。
合格者の3人に1人が女性であることがわかります。
建築士の合格者に女性が少ないのは、需要がないからではありません。建築士全体に占める女性の割合は年々高まっており、むしろ強く求められているといえるでしょう。
かつては、建設業界といえば男性中心の業界でしたが、現在は業界としても男女で働きやすさに差がつかないように取り組んでいます。女性を積極的に管理職に登用する企業も増えています。
国土交通省の「建設業における女性活躍推進に関する取り組み実態調査」では、「(女性が活躍できる会社になるように)採用や登用で自主的な数値目標を設定しているか」の問いに対し、次の結果になりました。
現時点では建設業界の女性の割合は小さいものの、今後どんどん増加していくことが見込まれます。建設業界の主要な職種である女性建築士も需要が高まっていくことでしょう。
現在、ライフステージに合わせて柔軟な働き方を選択できるように官民一体となって働きかけており、産休や育休、時短勤務など仕事と家庭を両立する制度の導入が広まっています。建設業界も例外ではありません。
「建設業における女性活躍推進に関する取り組み実態調査」によると、女性の活躍推進の取り組みを行っている建設会社の割合は以下のとおりでした。
女性活躍推進の取り組みを行っている建設会社は半数以上で、今後行う予定を合わせると約90%になります。
また、「取り組みを行っている」と答えた企業では、他の業界と同様にほとんどの会社で出産や子育てに関わる制度を設けています。
ひと昔前までは男性社会のイメージが強かった建設業界ですが、現在は男女ともライフステージに合わせた働き方ができる環境になっているといえるでしょう。
建築士のなかでも一級建築士はとくに、一般的な会社員の平均年収よりも高い傾向があります。 それでは、その中でも女性の年収の実態がどうなっているのかを見てみます。
厚生労働省「賃金構造基本統計調査」によると、女性の一級建築士の平均年収は608万円です。男性の一級建築士の平均年収が718万円なので、年収は100万円ほど低くなっています。
ただし、全職種の給与所得者の女性の平均年収296万円と比較すると、300万円以上も高い金額です。全職種の男性の平均年収540万円と比較しても大きく上回っていることから、資格を取得すると男女問わず活躍できるといえます。
二級建築士の年収は公的なデータはありませんが、男女の区分けがない平均年収は500万円前後といわれます。仮に、女性の二級建築士の平均年収がこれより100万円少なくても400万円であり、全職種の女性会社員などの平均年収(296万円)を大きく上回ります。
女性建築士を検討中または目指す方は、実際に建築士になったときのメリットとデメリットを知っておくのが賢明です。「本当に建築士の仕事が合うのか」を判断する際のヒントにしてください。
一概に男性建築士だからここが有利、女性建築士だからここが有利という特徴はありません。男女の差というよりは顧客や設計内容と建築士の相性によるところが大きいでしょう。とはいえ、顧客が女性の場合や女性向けの施設に関わる場合など、女性視点を求められることは少なくありません。最近では、一級建築士・二級建築士などスタッフ全員が女性という建築設計会社も誕生しています。
よくあげられるメリットとしては以下のようなものがあります。
それぞれ具体的に見ていきましょう。
▼女性ならではの視点や経験を仕事に活かせる
建築士の仕事のうち、打ち合わせや設計企画などの業務は女性建築士の視点が活かされやすい場面です。
例えば、家づくりでリビングやキッチン、洗面所などの設計を考えるとき、メインユーザーが女性であれば、設計時にも女性の視点が求められます。男性建築士だけで考えるより、女性建築士が入るほうが良いアイデアを提案できることも多いでしょう。
住宅だけでなく、女性向けの店舗など女性視点が必要な場面はあります。また、これは女性に限った話ではありませんが、家事や育児の経験がある建築士はそれが役立つときもあるでしょう。
▼他業種と比較すると年収の男女差が少ない
先ほどもお伝えしたとおり、女性建築士の年収は、全職種の女性会社員などの平均年収よりも高い傾向があります。
さらに、他業種と比較すると年収の男女差が少ないことも女性建築士の大きなメリットです。一級建築士の男女別の年収は、男性が718万円、女性が608万円です。
※厚生労働省「賃金構造基本統計調査(2019年)」による、きまって支給する現金給与額×12か月分+年間賞与その他特別給与額で算出した額
約100万円の差はあるものの、これは全職種共通の男女差と比べると半分以下です。民間給与実態統計調査結果によると、全職種共通の平均年収は、男性が540万円、女性が296万円です。 男女の年収の差は約240万円もあり、建築士は年収の男女差が少ない仕事といえます。
また、一級建築士の年収に男女差があるのは、そもそも女性建築士の人数が少なく、平均年収を引き上げられるほど経験豊富な一級建築士の数がまだ少ないことも考えられます。そのため、実績や実力次第では、男性建築士の年収を超えることも不可能ではありません。
女性が建築士の仕事をするメリットがいくつかある一方で、デメリットもあります。とくに「男性とのコミュニケーションの問題」や「タフさを求められる」といった面でデメリットに感じる方が多いようです。
▼多くの男性をまとめないといけない
建築士は工事監理で現場に出向くこともあります。建設業界・住宅業界で働く女性は増えてきましたが、現場では力仕事が多いこともあり、まだ現場単位でみれば男性中心の場合もあります。そのため、男性スタッフの気持ちを理解し、コミュニケーションを取ることに苦労する場面があるかもしれません。
とはいえ、建設業界で働く女性は近年着実に増えており、そのような状況も今後確実に減っていくでしょう。
女性技術者 | 女性技能者 | |
平成26年 | 1.1 万人 | 8.7 万人 |
平成30年 | 1.8 万人 | 10.4 万人 |
増加率 | 1.64倍 | 1.19倍 |
※国土交通省「女性の定着促進に向けた建設産業行動計画(令和2年/2020年)」
それでも、男性を統率することに抵抗がある方は、女性建築士の先輩がいる会社を選ぶことをおすすめします。先輩のアドバイスやサポートを受けながら、うまく仕事を進められるようになっていくでしょう。
▼タフな体力と精神力が求められる
建築士は、急な変化に対応しなければならないお仕事です。たとえば、次のような状況で柔軟な対応が求められます。
こういった急な変化への対応には、タフな体力と精神力が求められます。ときには残業が発生することもあるでしょう。
とはいえ、女性建築士として経験を積んでいけば、変更やトラブルが発生する場面を予想しやすくなり、あらかじめ手を打てるようになります。また、チーム単位で互いにサポートしながら業務を進める会社も増えていることから、過度に不安に感じる必要はありません。
女性建築士の仕事中の服装は、勤務する会社によって変わってきます。
社会人としてのTPOさえ守れば、自由な服装が認められているケースが多いです。その日の業務が内勤や個人のお客様との打ち合わせなら、スカートの着用も可能です。ただ、施工現場に足を運ぶ日などは、パンツスタイルや雨やホコリに強いアウターを着る必要が出てくるでしょう。
設計事務所のなかでも、大手企業や役所がクライアントの場合は、打合せ時はスーツなどカッチリした服装が必要な場合もあります。
会社の作業服やジャンパーなどを着用することするケースが多いです。 抵抗のある女性もいるかもしれませんが、最近ではおしゃれなデザインの作業服を採用する建設会社も増えています。
建築士としてのキャリアを積み重ねて、 大型の公共物や有名な賞の対象になる建築物を手がける建築家になることも夢ではありません。ここでは国内を代表する4人の女性建築家をご紹介します。
妹島和世さん(1956年生まれ)は、「ルーヴル美術館ランス別館」や「金沢21世紀美術館」など、有名なアートスポットを手がけてきたことで知られる建築界の重鎮。国から紫綬褒章を受章したこともある女性建築家です。
西沢立衛さんとの建築家ユニット「SANAA(サナア)」では、ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞、プリツカー賞など世界的に影響力のある賞を獲得。最近の作品には、大阪芸術大学アートサイエンス学科の新校舎があり、その舞台裏はドキュメンタリー映画『建築と時間と妹島和世』にもなりました。
長谷川逸子さん(1941年生まれ)は、全国各地の市民ホール、コンサートホール、図書館、病院など、私たちの身近にある建築物を数多く手がけてきた女性建築家です。これらの建築物を通して、「日本芸術院賞」「公共建築賞」などを受賞してきました。
有名な建築家は、国内外の大学で講師や教授に就くことも多いですが、長谷川さんもそのひとり。ハーバード大学をはじめ、法政大学大学院や関東学院大学院などの客員教授などを歴任しています。
中川エリカさん(1983年生まれ)は、国内で注目される若手建築家です。設計事務所に勤務していた時代に担当した「ヨコハマアパートメント」で建築家の登竜門である「JIA新人賞」を獲得。その後、独立してから手がけた「桃山ハウス」で「吉岡賞」を受賞するなど評価を高めてきました。
中川さんの作品は、『中川エリカ 建築スタディ集 2007-2020』にまとめられています。そこで過ごす人の思いや暮らしに寄り添った設計は、まさに女性建築家ならではの世界観といえます。
乾久美子さん(1969年生まれ)は、「コモンズ(共有財)としての建築物」の考えを大切にしながら、丁寧に設計をしている女性建築家です。これまで手がけてきたジャンルは幅広く、駅・学校・福祉施設・住宅・公共の広場などを生み出してきました。
東京を拠点にしている乾さんですが、東日本大震災で被害を受けたエリアの建築物に多く参加されています。一例では、「津波物故者納骨堂」「岩手県釜石市の小学校・中学校」「陸前高田のみんなの家(共同設計)」などです。
女性建築士の割合や需要、年収などについてお話ししてきました。
女性建築士の魅力を一言でいうと「高年収を得やすく、一生続けやすい仕事」です。資格や実績を活かして、性別に関係なく活躍できる仕事です。
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