建築士として独立するメリット・デメリット
建築士として独立すれば裁量権は全て自分にあるため、収入や仕事量は自由に設定できます。
一方で、自由だからこそ収入や仕事量は会社員の頃のような安定は期待できません。
建築士として独立を具体的に考えていく前に、メリット・デメリットを把握しましょう。
メリット
建築士として独立する主なメリットは、以下の2つです。
- 働いた分年収が高くなる
- 仕事量を自分で決められる
それぞれのメリットを詳しく説明します。
▼働いた分年収が高くなる
建築士として独立すると、働いた分だけ年収が高くなる可能性があります。
なぜなら、会社員の頃と違って、仕事を請けられるだけ制限なく請けて、働いて得た売上が直接自分のもの、もしくは設立した事務所のものになるからです。
企業の場合はどれだけ受注数を増やし、仕事量を増やそうとしても収入の上限はある程度会社に決められてしまいます。
実績や年数を積むと昇給・昇格できますが、場合によっては仕事量と収入が釣り合わないと感じる方もいるでしょう。
一級建築士の平均年収は700万円前後、二級建築士は300万円~700万円程度とされていますが、独立すれば年収1,000万円以上も夢ではありません。
集客力をつけて安定的に受注できる体制を整え、顧客からの信頼を勝ち取ると、独立後も長期的に高収入が見込めます。
▼仕事量を自分で決められる
建築士として独立した後は、仕事量を自分で決められます。
自分の都合にあわせてスケジュールを調整できるので、自由度が高いのが特徴です。
例えば独身で時間に余裕がある場合は受注量を増やして仕事中心の生活にしたり、お子様がいる方は学校の行事がある日は仕事を休んだりして、調整するのも自由です。
時間や収入など、それぞれの価値観を大切にしながら働けます。
また、フリーランスとして独立した場合は、場所にとらわれない働き方も可能です。
外出先や自宅など、自分の好きなスタイルで仕事ができるのもメリットです。
企業のルールに縛られず、自由な働き方がしたい方は、独立に向いています。
デメリット
一方で、建築士として独立する場合のデメリットとして、以下の2つが挙げられます。
- 収入が不安定
- 毎年自分で確定申告をする必要がある
独立は、メリットばかりではありません。
デメリットも踏まえたうえで、独立するかどうかを判断することが大切です。
▼収入が不安定
独立すると、正社員の頃と比べて収入が不安定になりやすくなります。
仕事量や受注金額次第で収入が決まるため、仕事を受注できなければ収入は入ってきません。
反対に、顧客から信頼され、建築士として人気が出れば、収入は青天井ともいえます。
建築士として独立を成功させるには、計画的な準備と戦略が重要です。
建築士としての知識だけでなく、経営者視点でのアイデアが求められます。
加えて、従業員を雇ったり、アウトソーシングを利用したりする場合は、給与の支払いや外注費のような支出が生じます。
会社を管理する力も求められるため、独立を成功させるにはお金の知識やマネジメント能力などの建築士以外の知識も必要です。
▼毎年自分で確定申告をする必要がある
独立すると、毎年自分で確定申告しなければいけません。
税金に関する知識があまりない場合は、慣れるまで手間と時間がかかるでしょう。
自分で確定申告する時間がなかったり、めんどくさかったりする場合は、税理士に依頼するのも方法のひとつです。
税理士に依頼すると確定申告の手続きを代行してもらえて、非常に楽になりますが、依頼するには費用がかかります。
ただし、独立初期で資金に余裕がない場合などは、自分でやり方を調べて手続きしなければいけません。
また、税理士に依頼すると確定申告書類の作成は依頼できますが、経費を使った際の領収書の管理は自分でしなければいけない点も、会社員と違って大変な部分です。
建築士として独立するまでの6つの流れ
実際に建築士として独立する際、独立までの流れは以下の6ステップです。
- 建築士の試験に合格する
- 経験と実績を積む
- 独立資金を貯める
- 建築士事務所の登録をする
- 管理建築士の講習を受講する
- 建築士として独立
次は、各手順について詳しく説明します。
建築士の試験に合格する
建築士として独立を目指す方は、まず最初に建築士資格を取得しましょう。
二級建築士の資格でも十分に独立を目指せますが、より幅広い仕事を受注するには一級建築士の資格が必要です。
一級建築士の合格率は例年10%程度と難易度は高めです。
しかし、基礎知識をインプットして問題演習や過去問を通してアウトプットを繰り返すことで、合格する力は着実に身につきます。
なお、建築士の試験には受験資格が設定されているため、誰でも受験できるわけではありません。
一級建築士の受験資格を得るには大学や短大などで指定科目を修めて卒業したり、二級建築士や建築設備士の資格を取得したりする必要があります。
建築士試験の受験資格に関して、詳しくは下記ページをご覧ください。
【合わせて読みたい】建築士試験の受験資格とは?
経験と実績を積む
建築士として免許登録するには、必要に応じて実務経験が求められます。
さらに、独立して建築士事務所を設立するには、管理建築士の配置が義務付けられています。
したがって、四年生大学を卒業して一級建築士の受験資格を得た場合でも、一級建築士の免許登録に2年以上の実務経験と、管理建築士の受講要件である建築士として3年以上の設計業務経験の合わせて5年以上の実務経験が必要です。
以上から建築士として独立するには、実務経験を積む必要があります。
- ゼネコン
- ハウスメーカー
- 工務店
- 設計事務所 など
上記のように建築士の実務経験を積める場所はさまざまです。
ときには転職なども活用して、独立前に経験と実績を積み上げていきましょう。
独立資金を貯める
独立開業するには、建築士に必要なスキルを身につけると同時に、独立資金を貯める必要があります。
独立資金の具体的な内容は下記のとおりです。
- 住宅家賃
- 生活費
- 税金関係
- 事務所の開業費用
とくに独立初期は、安定して高収入を得られるとは限りません。
受注したとしても、顧客からの支払いはプロジェクトがある程度進んでからというケースが多く、開業後は収入がない時期が続く可能性があります。
以上から、少なくとも向こう半年は収入がなかったとしても、生活できる程度の貯蓄があると安心です。
家計の見直しをしたり、自宅を事務所にしたりすると、独立後にかかる費用を抑えられます。
建築士事務所の登録をする
建築士として独立する場合、建築士事務所を登録する必要があります。以下の業務に関して、建築事務所の登録がなければ従事できないためです。
- 建築物の設計
- 建築物の工事監理
- 建築工事契約に関する業務
- 建築工事の指導監督
- 建築物に関する調査・鑑定
- 建築に関する法令または条例に基づく手続きの代理業務
また、建築士事務所を登録する際の流れは、こちらのとおりです。
- 管理建築士の講習を受ける
- 申請書の作成・添付資料の準備
- 申請窓口に提出
- 手数料を支払う
- 建築士事務所協会の審査通過後に登録証が交付
建築士事務所の登録を行う際はいくつか必要条件がありますが、その中のひとつが管理建築士が1人以上常駐していることです。
管理建築士は、建築士事務所の建物の設計や工事監理などの技術的な事項を統括する建築士を指します。
管理建築士の講習を受講する
管理建築士の資格を得るには、以下の条件を満たしたうえで講習を受講しましょう。
- 一級・二級・木造建築士の資格を取得している
- 建築士として3年以上設計や工事監理などの業務に従事している
講習は「公益財団法人 建築技術教育普及センター」が行っており、対面方式とオンライン方式の中から自分に適したスタイルを選択できます。
合計5時間の講義と1時間の修了考査を受けて合格すれば、管理建築士になれます。
建築士として独立
管理建築士の講習を修了したら、建築士として独立が可能です。
先ほどご紹介した建築事務所の登録の流れどおりに申請を進めてください。
建築士事務所を開業するには、事務所の設置が必須です。
固定区画を維持できて、必要書類を提出できる場合はシェアオフィスでも認められています。
一方で、バーチャルオフィスは建築士事務所として認められていません。
また、建築士事務所の登録申請に必要な書類は、法人と個人で異なります。
各都道府県の建築士事務所協会ホームページを確認のうえ、必要な書類を用意しましょう。
失敗しないための建築士の独立に必要な開業準備
建築士の独立で失敗しないために必要な開業準備は、次の5つです。
- コンセプト・経営方針を決める
- 人脈をつくる
- 集客方法を構築する
- 経理や経営の勉強をする
- 他の資格も取得する
開業後、収入や受注量などで失敗しないように必要な開業準備を確認していきましょう。
コンセプト・経営方針を決める
独立で失敗しないためには、コンセプト・経営方針の決定が必要不可欠です。
コンセプトを決めると、お客様に選んでもらう機会を増やしたり他の企業と差別化できたりします。
例えば、会社名で建築士事務所のイメージが伝われば、興味を持ったユーザーに依頼を検討してもらいやすいでしょう。
コンセプトや経営方針を固めて、どのような人にどのような価値を提供しているのかを、わかりやすく伝えることが大切です。
人脈をつくる
独立前に人脈を作っていると、独立後の大きな助けとなります。
そのため、会社員として現場経験を積む際は、情報交換したり助け合ったりできる交友関係を築くことを意識しましょう。
例えば、現場経験を積んでいる設計事務所と良い関係を築いた状態で独立すれば、独立後に仕事をもらえる可能性があります。
一方で、自身の仕事が立て込んでいる際は案件を紹介すれば、お互いにメリットのある関係を続けられます。
独立後にわからないことがあれば、仲のいい同僚や先輩に相談できるのもメリットです。
人脈があれば、結果として、起こりうる失敗を先回りして解決できる可能性があります。
集客方法を構築する
独立した後で起こりやすい失敗のひとつが、集客できず受注につながらないことです。
どれだけ魅力的なコンセプトの建築士事務所を設立しても、仕事を受注できなければ成功しません。
そのため、ホームページやSNSなどで集客方法を構築しておくことが大切です。
ホームページの閲覧数やSNSのフォロワーを増やしておくと、独立後の集客ルートを効率よく確立できます。
ただし、ホームページやSNS運用はすぐに効果が出るものではありません。
独立よりも前の段階で運用を始めて、なおかつ継続することが大切です。
経理や経営の勉強をする
独立時のデメリットで軽く触れましたが、独立すると帳簿管理や確定申告などの手続きを全て自分でしなければいけません。
そのため、建築士事務所を運営していくには、経理や経営などの建築士以外の知識の勉強が必要です。
必要に応じて税理士に依頼し、ご自身は建築士の仕事に集中できる環境を整えると良いでしょう。
他の資格も取得する
建築士として独立する際、建築士とあわせて他も持っていると他の建築士との差別化につながります。
建築士と相性の良い資格は、次のとおりです。
- 宅地建物取引士
- 建築施工管理技士
- 建築設備士
- インテリアプランナー
例えば、建築士と宅建士の資格を持っていると、建物だけでなく土地探しから一貫してお客様をサポートできます。
お客様からすると不動産会社とやりとりする手間が省けるため、あなたに依頼するメリットは大きくなります。
もし時間に余裕があれば、独立前から他の資格取得に向けて勉強を始めると良いでしょう。
建築士の独立でよくある失敗事例
建築士として独立した後に失敗しないように、事前によくある失敗事例を知ることが大切です。
- 仕事が獲得できない
- 一人で仕事に対応しきれず体調を崩す
- 利益を上げられない
よくある失敗例を踏まえて、独立後に後悔しないようにしっかりと計画を立てましょう。
仕事が獲得できない
建築士として独立した後は、まずは案件を受注しないと事業を軌道に乗せられず、想定していたような業績を残せません。
結果として収入が確保できず、建築士としての独立が失敗に終わります。
よくあるのが、最初は元いた会社から仕事を振ってもらって受注できていたものの、新規顧客を獲得できなくて売上が伸びないパターンです。
独立直後は、知名度・実績がないのでいかに新規の顧客を獲得できるかが重要なポイントとなります。
一人で仕事に対応しきれず体調を崩す
建築士として独立後、一人で仕事に対応しきれず体調を崩すケースもあります。
独立直後に従業員を雇う余裕がなく、全ての業務をひとりでこなそうとするためです。
また、今まで自分がしていなかった業務をひとりでこなした際に、思った以上に大変で働き過ぎてしまうケースもあります。
結果として仕事で良いパフォーマンスを発揮できず、大きな失敗につながるのです。
ひとりで仕事に対応しきれなくなったときは、従業員を雇ったり、外注したりして仕事量を調整する必要があります。
利益を上げられない
建築士として独立してまだ実績が少ない間は、なんとか受注につなげようと安い価格で提供してしまうケースがあります。
低価格で受注すると受注数は増やせるかもしれませんが、利益につながらず疲弊してしまうでしょう。
大手企業や知名度のある建築士事務所などが多くあるなか、利益を上げて勝ち残る方法のひとつは、コンセプトを明確にして競合と差別化することです。
受注する顧客を特定の業種に絞ったり、資格と掛け合わせて新たな価値を提供したりして試行錯誤すると、他社にはない価値を提供できるようになっていきます。
自分の得意分野をしっかりと伸ばし、競合と差別化することで失敗を避けましょう。
独立するならフリーランスと法人どっちがおすすめ?
建築士として独立する場合、フリーランス(個人事業主)と法人での独立開業の2つ方法があります。
独立を成功させるために、それぞれのメリット・デメリットを把握した上で独立することが大切です。
ここでは、フリーランスの建築士・法人の建築士事務所として独立する場合の詳細について詳しく解説します。
フリーランスの建築士として独立する場合
フリーランスの建築士で独立する場合のメリット・デメリットが以下のとおりです。
メリット |
デメリット |
|
|
フリーランスとして独立する場合、自分で仕事の量を決められるのがメリットです。
働いた分だけ収入アップを狙えるため、家庭や年収など優先したいことを選んで仕事ができます。
また、独立までの手続きが法人化するよりも簡単です。
ただし、フリーランスは、法人よりも信頼されにくい傾向があります。
そのため、取引先を獲得したり融資を受けたりする際は、法人よりも不利になるケースもあるでしょう。
加えて、資産管理が難しいのもデメリットです。
事業で使用する口座などを個人名義で管理する場合、事務所の継承などをする際に資産の分割が複雑になりやすいため、注意しなければいけません。
法人の建築士事務所として独立する場合
法人の建築士事務所として独立する場合のメリット・デメリットが以下のとおりです。
メリット |
デメリット |
|
|
法人化する場合、個人事業主よりも銀行からの融資を受けやすくなります。
法人登録までにさまざまな規定を満たす必要があり、規定を満たすことで高い信頼を獲得できるからです。
また、信頼度の高さから新規顧客や優秀な人材の獲得のしやすさにもつながります。
個人よりも業績を伸ばしやすいのが、法人の建築士事務所として独立するメリットです。
一方で、法人は、フリーランスよりも厳しいルールが設けられています。
具体的には、社会保険加入が義務付けられていたり、税金の申請が複雑になったりする点です。
さらに株式会社や合同会社を設立する際の費用や、設立手続きを士業に依頼する費用など、さまざまなコストがかかります。
はじめはフリーランスの建築士として活動して、ある程度売上が上がったタイミングで法人化するのも方法のひとつです。
高学歴でなくても建築士で独立できる?
建築士の独立は、高学歴でなくても問題ありません。
建築士の仕事は、学歴以上に保有資格や実績、スキルが重要です。
これまで解説したとおり、建築士として独立するためには建築士試験に合格し、経験と実績を積む必要があります。
そのうえで独立資金を貯めて建築士事務所の登録をして、管理建築士講習を修了すれば独立可能です。
また、独立後に失敗するリスクを減らすには、人脈を作ったり集客方法を構築したりしなければなりません。
建築士として独立する場合は、学歴以上に大切なことがたくさんあります。
建築士として独立を目指す方は、学歴でなく建築士に必要な資格の取得や経験を重視して行動しましょう。
まとめ
今回ご紹介した建築士の独立について、本記事のポイントは次の5つ。
- 独立すると働いた分だけ年収が高くなり、仕事量も調節できる
- 独立直後は収入が不安定になりやすい
- 独立には建築士免許と実務経験が必須
- 独立する際は建築士事務所登録や管理建築士講習の修了が要件である
- 学歴に関係なく建築士の独立は可能
建築士として独立を目指している方は、資格取得後に実務経験を積んで実績とスキルを磨き、着実に準備を進めていきましょう。
これから建築士の資格取得を目指す方には、通信講座の受講がおすすめです。
「スタディング 建築士講座」では、受講者が無理なく勉強を継続するためのサポート体制を用意しています。動画講義や問題集は無料でお試しいただけますので、ぜひご覧ください。