建築士と設計士、建築家の資格の違い
建築士と設計士は、どちらも建物の建築や設計の仕事に携わる人のことを指します。しかし、建築士は国家資格を保有している必要があり、設計士は資格を必要としない点に違いがあります。
建築家も設計士と同様に、法律的に定められた名称ではありません。ただし、広辞苑では「建築の設計や監理を職業とする人」と記されているため、資格の有無に関わらず、建築の仕事をしている方であれば「建築家」と名乗れると解釈して良いでしょう。
建築士は国家資格である
建築士とは、建築物の設計・工事監理を行うための国家資格を有する専門家を指します。建築士は通常、個人や企業から依頼を受けて、建築物の設計や工事監理を行います。建築物の設計と工事監理は、建築士の独占業務です。
建築士には一級建築士と二級建築士、木造建築士の3種類があります。それぞれの建築士の業務範囲は、建築物の大きさや規模によって異なります。二級建築士は主に家屋や住宅の設計・工事監理を行い、木造建築士とは木造住宅などの一般的な木造建築物の設計、工事監理を行います。一級建築士はあらゆる建物の設計・工事監理が可能です。
▼一級建築士
一級建築士は設計する建物に制限がなく、どんな建物も設計できる資格です。二級建築士や木造建築士と違い、取り扱える建物の面積や高さに制限がないため、学校や病院、劇場、公共ホール、百貨店など、あらゆる建築物の設計・工事監理が対象です。一級建築士には意匠や構造、設備の高度な知識が求められます。
▼二級建築士
二級建築士も一定規模の建物であれば、一級建築士と同じように設計や工事監理が行えます。ただし、一級建築士と違い、下記建物の取り扱いは許可されていません。
- 特定用途の延べ面積500平方メートルを超える建築物
- 全高13m、もしくは軒高9mを超える木造建築物
- 鉄筋コンクリート造や鉄骨造などで延べ面積300平方メートル、全高13m、もしくは軒高9mを超える建築物
- 延べ面積1000平方メートルを超え、かつ階数が2階以上の建築物
▼木造建築士
木造建築士とは木造住宅などの一般的な木造建築物の設計、工事監理ができる国家資格です。木造であれば、階数2階建て以下、延べ床面積300平方メートル以下の建物を取り扱いできます。
鉄筋コンクリートや鉄骨造、石造、無筋コンクリート造、コンクリートブロック造、レンガ造なども取り扱えないわけではありません。ただし、建築士資格がない場合と同じように30平方メートル以下の小さな建物に限定されます。
二級建築士より扱える建築物の範囲が限られていますが、木造住宅や一般的な木造建築物の設計・工事監理に関しては、より深い知識を求められる資格です。例えば、古い木造住宅や神社仏閣など、一級建築士や二級建築士でも扱いが難しい木造建築の専門的な知識が必要とされる場合が多くあります。
設計士という資格はない
建築士には一級建築士や二級建築士の国家資格がありますが、設計士という名称の資格はありません。一般的には企業に所属して、設計に関する業務を行っている人のことを指します。
特に建築士のサポートを行う立場の人や、100平方メートル以下の木造建築物など建築士資格が不要な建物の設計や工事監理をする人を設計士と呼んでいます。そもそも設計とは、建築士法によると「建築物の建築工事の実施のために必要な図面(現寸図その他これに類するものを除く。)及び仕様書を作成すること」と定められていることから、設計士という広い概念の中に、建築士が存在すると考えても良いでしょう。
建築家は建築に携わる仕事の総称
建築家は主に建築士と同様の意味で使われますが、より広い意味で使われるケースもあります。建築に携わる仕事の総称と考えて良いでしょう。
また、建築士のように法律などで定められた名称ではないので、基本的には誰が名乗っても問題はないとされています。例えば、設計士の方が建築家と名乗っても、間違いではありません。
どちらかというと、工事監理よりも設計やデザインを担当している人のイメージが強いため、よりプロフェッショナルな設計士と考えるケースも少なくありません。
建築士と設計士の仕事内容の違い
建築士と設計士のそれぞれの仕事内容を解説します。なお、設計士は広義では設計に携わるすべての人を指しますが、一般的には小規模の木造建築物の設計や建築士の補助業務に携わる人のことをいいます。
建築士の仕事内容
建築士の仕事内容は「設計」と「工事監理」の2つに分けられます。建築物の図面を書くことから、設計した図面の通りに建物が建てられているのかを確認することを任される仕事といって良いでしょう。以下にそれぞれの仕事内容の特徴を解説します。
▼設計図の作成
設計図の作成は顧客にヒアリングをして、どのような建物を建てるか考えることから始めます。予算や法的な規制、顧客の要望の範囲内で、納得してもらえる建物を考える必要があります。
建物のイメージが固まった後は、図面作成です。図面は意匠設計、構造設計、設備設計の3種類に分けられます。
意匠設計とは、主に間取りやデザイン、外観の設計などを指します。見た目だけを考えるのではなく、予算を満たしているか、建築基準法を満たしているかなどを検討して設計を進めます。
構造設計は建物の建築基準法に適応するよう、柱、基礎、梁などの構造部分の配置や形状を決定していきます。地震や積雪などに耐えうる安全な建物としながらも、経済性にも配慮して設計します。
設備設計は電気、ガス、給排水などの建物を利用する人が快適に過ごすための設備に関することを計画します。快適性だけではなく、省エネ性なども考慮する必要があります。
▼工事監理
工事監理は建築士の独占業務で、建築主(顧客)の代理人として図面通りに進んでいるかのチェックや報告などが中心です。建物の欠陥の発生を防ぐ重要な役割があります。
具体的には、工事監理者は鉄筋の配筋検査やコンクリート打設時などの重要な工事に立ち会って、施工会社からのヒアリングや材料品質証明書、検査結果報告書などの書類確認、写真確認などを行います。
万が一図面通りに施工されていない場合は、工事施工者に指摘・改善を指示し、施工者が従わないときは建築主にその旨を報告しなければいけません。工事監理が終了したときは、その結果を建築主に伝える必要があります。
設計士の仕事内容
設計士の主な仕事は、「小規模の木造建築物の設計」「建築士の補助業務」の2つが挙げられます。以下にそれぞれの仕事内容を解説します。
▼小規模の木造建築物の設計
一定規模以上の建築物を新築する場合は、建築士の資格がないと設計・工事監理をしてはならないと建築士法に定められています。一方で、木造建築物で延べ面積が100平方メートル以下の小規模な建物などであれば、建築士の資格がなくても取り扱い可能です。
建築士の資格がない設計士でも、一部条件の建物であれば設計・工事監理を行えます。しかし、建物を設計する以上、建築基準法を始めとした建物に関わるさまざまな法律や条例を遵守しなければならず、専門知識は必要です。そのため、一定の実務経験や知識のある設計士が建築を担当するケースが多くなっています。
▼建築士の補助業務
設計士が可能な仕事の範囲は限定的であるため、大規模な建築物の設計・工事監理に携わる場合は、プロジェクトを統括する建築士の補助を行います。補助業務とはいえ、経験や知識の豊富な設計士であれば活躍できる範囲は広いでしょう。
特に近年では建物の機能性だけでなく、内装や外観のデザイン性を重視する建物が注目されるケースがあります。デザイン性の高い建物の設計では、設計士としての技術を活かせる可能性があるでしょう。
また、大規模な建築物の補助や雑務を経験することで、キャリアアップや建築士の資格取得に活かせます。
建築士と設計士の年収の違い
建築士と設計士の年収を比較すると、やはり国家資格を所有する建築士のほうが年収が高い傾向があります。それぞれの平均年収を具体的に見ていきましょう。
建築士の年収
建築士の年収は、一級建築士と二級建築士、木造建築士によって差があります。また、企業規模や年齢、勤務年数によっても変わりますが、おおよその平均値をまとめると以下の通りです。
種類 | 平均年収 |
一級建築士 | 700万円前後 |
二級建築士 | 300万~500万円前後 |
木造建築士 | 350万円前後 |
二級建築士と木造建築士には正確なデータが存在しないため、求人サイトの掲載を元に推計した数値になります。
一級建築士は厚生労働省の賃金構造基本統計調査では、平均年収は703万円と発表されています。なお、男女で比較した場合は、男性が718万円、女性が608万円です。
また、企業規模の大きい会社ほど、平均年収が高い傾向にあります。例えば一級建築士の場合は、1,000人以上の従業員のいる大企業では年収900万円が平均値で、日本人の平均年収を大きく上回っており、一級建築士の中でも高年収であることがわかります。
一方で、100~999人の中小企業の一級建築士は年収747万円が平均値で、10~99人の小規模な企業では577万円と徐々に下がっています。資格の有無も重要ですが、所属する企業によって待遇が大きく変わることを表しているといえるでしょう。
設計士の年収
設計士の年収は正確なデータが存在しませんが、求人サイトに掲載の年収例を見ると350万~450万円程度となっています。もちろん、会社の規模や仕事内容によって大きく変わりますが、資格が不要である関係上、建築士よりは待遇が劣ると考えたほうが良いでしょう。
前述した通り、設計士は建築士の補助などをする仕事なので、経験を積み建築士の資格取得をすることで、さらに年収アップを狙えます。そのため、将来的に建築士として働きたい方は、まずは設計士として会社へ就職することを検討しても良いでしょう。
建築士と設計士になるには?
建築士と設計士になるための方法をそれぞれ解説します。これから建設業界への就職・転職を考えている方はぜひ参考にしてください。
建築士になる方法
建築士として働くためには、必ず建築士の資格を取得する必要があります。ただし、建築士の資格を取得する方法は、一級建築士や二級建築士、木造建築士で条件が異なり、受験資格も存在します。
建築士の試験は学科と製図の2種類があり、両方に合格する必要があります。それぞれ年1回のみ行われ、学科のみ合格した場合は、5年間の免除期間が与えられて、4回のうち2回(学科試験合格年度の設計製図試験を欠席する場合は3回)は学科試験が免除されますが、期間を超過すると再び学科を受け直さなければなりません。
また、試験に合格した人が必ず建築士の免許が取得できるとは限りません。特に一級建築士の場合は、大学などで指定科目を修了していれば受験資格は得られますが、免許を取得するには実務経験が必要です。
建築士になるための方法や試験の受験資格は、以下の記事で詳しく解説しています。
【合わせて読みたい】建築士試験の受験資格とは?
【合わせて読みたい】建築と無縁の社会人でも、建築士になれる!
【合わせて読みたい】一級建築士になるには?受験資格や実務経験は必要?
設計士になる方法
設計士には資格がないため、設計士を募集している会社に就職して業務に就くことで、設計士と名乗れるようになります。主な就職先としてはゼネコンやハウスメーカー、設計事務所などが考えられます。
また、設計士として経験を積んだ後に建築士になるキャリアもあります。設計士の実務経験を積めば、建築系の学歴がなくても二級建築士の受験資格が得られるほか、専門知識が身につくので試験の合格率も上がるでしょう。
建築士と設計士に求められるスキル
建築士と設計士に求められるスキルを紹介します。基本的に顧客の要望に沿った建物を建てる仕事なので、知識だけではなく顧客を大切にする意識をもつ必要があります。特に以下の3点は重要なスキルなので、ぜひ覚えておきましょう。
創造性
建築士は、さまざまなデザインの建物の建築に関わる仕事なので「創造性」が欠かせません。建物の外観はもちろんのこと、土台となる基礎や空間デザイン、使用する素材、色、導入する設備などを総合的に考える必要があります。
立地条件や敷地の形、建物の利用者などはそれぞれ異なるので、顧客の希望に合わせつつ、実現可能な建物を提案します。実際に建築する際はさまざまな人が関わりますが、基本的に建築士自身がアイデアや感性をもとに設計することから始まるため、クリエイティブな要素や美的センスが必要といえるでしょう。
コミュニケーション能力
建築士は現場の職人と違い、顧客や現場監督、協力業者などさまざまな人と関わりあって仕事をします。特に大規模な建物を建築する際は非常に多くの会社や人々が関係するため、建築工事の中心である建築士には高いコミュニケーション能力が求められます。
関わる人々とのコミュニケーションを疎かにすると、現場への指示が上手く伝わらず工事が遅延したり、現場の人間関係が悪化してチームワークが崩れたりする可能性が考えられます。工事関係者をまとめるのは建築士ひとりの仕事ではありませんが、多数の人が関わることからコミュニケーション能力は建築士にとって必須といえます。
お客様の希望をくみ取って実現する力
建築士は顧客が満足できる建築物を提供する仕事です。そのため、建築士の自己満足ではなく、顧客の立場を考えて設計する能力が求められます。
近年では顧客のニーズも多様化しています。例えば、住宅建築の場では「吹き抜けや広いスペースの部屋がほしい」「デザイン性重視の建物にしたい」「良い材料を使いたいが予算は安くしたい」など、さまざまな要望が考えられます。
いかに希望に近い建物が設計できるかが大切であり、技術面だけでなく、相手の立場に立って物事を考える力が重要といえるでしょう。
まとめ
建築士や設計士、建築家の仕事や年収などの違いについてご紹介しました。
- 建築士になるには国家資格が必要
- 設計士は資格不要であり、建築家は建築に関わる仕事の総称である
- 建築士の仕事は主に設計図作成や工事監理
- 設計士の仕事は小規模の建物の設計や建築士の補助業務が多い
- 年収は建築士のほうが高く、設計士から建築士へキャリアアップするケースもある
建築士と設計士はいずれも建物の建築に関わる仕事ですが、資格や実務経験の有無によって対応できる仕事内容が異なります。建築業界で第一線として活躍したい場合は、建築士の資格を取得しておいた方が良いでしょう。
なお、建築士はしっかりと勉強すれば、合格を目指せる資格です。スキマ時間を活用して学習を進めたい方は、スタディングの建築士講座をぜひチェックしてみてください。