設計製図試験とは、建築士試験の学科試験合格後に受けるもので、図面作成や計画の要点の記述が主な出題内容です。設計製図試験に合格してはじめて、建築士の資格を得られます。
例年10月の第2日曜日に行われています。同じ年度に学科試験に合格した方と、前年等(学科試験合格年から5年間で3回の受験チャンスが与えられます)に学科試験に合格した方が受験できます。
試験中は、問題用紙に記載された内容を読み込み、それに見合った建物を設計し、図面を手書きで書き起こし、計画の要点という文章での記述問題にも答えます。試験時間は、6時間30分です。長時間に感じられますが、実際はかなりタイトなスケジュールとなっており、タイムマネジメントが重要な試験です。
下記に実際にここ10年の1級建築士の学科試験と設計製図試験の合格率を記載しましたのでご確認下さい。
合格率だけでみると、学科試験よりも、設計製図試験の方が、易しい試験であるように感じられますが、設計製図試験は学科試験を突破できた方のみが受験できる試験であり、その上で半数も合格できないと考えるとその厳しさ、難しさをご理解いただけるかと思います。
年度 |
学科試験の合格率 |
学科試験の合格者数 |
設計製図試験の合格率 |
設計製図試験の合格者数 |
平成24年 |
18.2% |
5,361名 |
41.7% |
4,276名 |
平成25年 |
19.0% |
5,103名 |
40.8% |
4,014名 |
平成26年 |
18.3% |
4,653名 |
40.4% |
3,793名 |
平成27年 |
18.6% |
4,806名 |
40.5% |
3,774名 |
平成28年 |
16.1% |
4,213名 |
42.4% |
3,673名 |
平成29年 |
18.4% |
4,946名 |
37.7% |
3,365名 |
平成30年 |
18.3% |
4,724名 |
41.4% |
3,827名 |
令和元年 |
22.8% |
5,729名 |
35.2% |
3,571名 |
令和2年 | 20.7% | 6,295名 | 35.2% | 3,796名 |
令和 3年 | 15.2% | 4,832名 | 35.9% | 3,765名 |
設計製図試験最大の特徴は、事前に課題発表がある点です。1級建築士試験では例年7月下旬ごろ、試験実施機関のホームページで課題が発表されます。テーマだけでなく製図を行うにあたっての留意事項やその年どのような図面が要求されるか、注意点なども発表されるので、しっかりと理解したうえで試験に臨む必要があるでしょう。
また下記に近年の課題内容、要求された図面をまとめました。
年度 | 課題 | 地下1階 平面図 | 1階 平面図 |
2階 平面図 |
3階 平面図 |
基準階 平面図 | 梁伏図 | 断面図 |
令和3年 | 集合住宅 | ー | ○ | ○ | ー | ○ | ー | ○ |
令和2年 | 高齢者介護施設 | ー | ○ | ○ | ○ | ー | ー | ○ |
令和元年 | 美術館の分館 | ー | ○ | ○ | ○ | ー | ー | ○ |
平成30年 | 健康づくりのためのスポーツ施設 | ー | ○ | ○ | ○ | ー | ー | ○ |
平成29年 | 小規模なリゾートホテル | ○ | ○ | ○ | ー | ー | ー | ○ |
平成28年 | 子ども・子育て支援センター | ー | ○ | ○ | ○ | ー | ー | ○ |
平成27年 | 市街地に建つデイサービス付高齢者向け集合住宅 | ー | ○ | ○ | ー | ○ | ー | ○ |
平成26年 | 温浴施設のある「道の駅」 | ー | ○ | ○ | ー | ー | ○ | ○ |
平成25年 | 大学のセミナーハウス | ー | ○ | ○ | ー | ー | ○ | ○ |
試験問題は試験本番に配られる課題文と呼ばれる問題用紙に記載されています。何をどのように設計するのか、何に注意して設計するのか、というような様々な条件が書かれています。
令和2年の設計製図試験を例に課題文にはどのようなことが掛かれているのか詳しく見ていきたいと思います。
「どのような建物としてほしいのか」が書かれている部分です。
上記のような内容が読み取れます。課題の頭に据える部分ですので、出題者が重要視している内容が含まれることもありますし、解法のヒントが隠されていることもあります。慣れてくるとつい、読み飛ばしがちになってしまう部分ですが、しっかりと確認の上、読み進めるようにして下さい。
どういった場所に建築物を立てるのかという情報が書かれています。
その他にも、地盤が弱かったり、敷地に段差があったり等、特殊な条件がある場合はここに記載されます。
何階建ての、どれぐらいの面積の、どんな構造の、どんな設備の建物を建てるのかという情報が書かれています。
どのような場所に建築物を立てるのか具体的に図で示されています。
何mの道路に面しているのか、隣にはどんな建物が建っているのか、敷地の面積はどれぐらいなのか等が読み取れます。令和2年に関してはこの位置に1/800の大きさで示されましたが、課題文右側を使用し、もっと広範囲の敷地図が示されることもあります。広範囲の敷地図が示される場合は、近隣に立つ建物と今回設計する建物との関係性を意識させる傾向にあります。人の流れを意識して検討を進めることが大切です。
令和2年は敷地の一部に地盤の弱い部分が含まれていたため、地盤が分かる断面図が示されました。地盤略断面図は毎年必ず記載される部分ではありません。その年の課題に応じた様々なものが記載される可能性がありますので、見たことのない、内容が突然現れても驚かないようにしましょう。
どのような部屋を計画するかが記載されています。
ここに記載のある部屋はすべて計画しなければなりません。部屋の名前以外にも、どのような使われ方をするのか、どれぐらいの面積で計画したらよいのか等も書かれています。どのような使われ方をするのかは、設計を進める上で、どの場所に部屋を配置するかのヒントがふくまれていますので、この部分も読み落としのないようしっかりと読み込みましょう。
要求室に書かれていること以外で計画してほしいものが書かれています。
主に屋外に設けてほしい施設が記載されることが多いです。こちらも必ず計画しなければいけない部分です。
計画するにあたって特に留意してほしいことが書かれています。
建築計画、構造計画、設備計画、環境負荷抑制に関すること、法令に関すること等幅広く記載されます。設計条件に書かれた内容より、より細かに意識してほしいことが掛かれているイメージです。
答案用紙Ⅰの図面部分にどのようなことを記載するかが示されています。
大きく分けて上記の2つの項目が掛かれています。どんな図面を描くかは、課題発表時に示された内容に則した内容となっています。各図面に何を描きこむかは、採点者に自分のプランが伝わるレベルのものを仕上げることを大前提として、「主要寸法」「室名等」「設備シャフト」「什器」…といったように細かく記されています。
また、この部分でもう一つ大切な部分は、断面図の切断する位置や方向が示されている場合がありますので、見落とさないようにしましょう。
答案用紙Ⅰの面積表部分にどのようなことを記載するかが示されています。
主に、床面積の合計を示されますが、建蔽率の記載を求められることもあります。
答案用紙Ⅱにどのようなことを記載するかが示されています。
答案用紙Ⅱは「計画の要点等」と呼ばれ、ここに書かれた設問に対して、文章の記述によって自分自身のプランの優位性のアピールをするものになります。近年では、7~10問程度出題され、建築計画、構造計画、設備計画、環境負荷低減等の切り口から様々な質問が問われています。図面を描く力だけではなく、プレゼンテーション力も求められる試験ということです。
建築物の外壁の開口部で延焼のおそれのある部分や、防火区画に用いる防火設備の位置を示すための凡例が示されています。
平成30年から追加された部分で、採点でも厳しく見られています。
注意事項や、事前に発表された内容等が記載されていますが、重要なことが書かれないとも限りませんので、必ず目を通すようにして下さい。
設計製図試験では、採点結果を以下の4つのグループに分け、ランクⅠのみを合格としています。
・ランクⅠ 「知識及び技能」を有するもの
・ランクⅡ 「知識及び技能」が不足しているもの
・ランクⅢ 「知識及び技能」が著しく不足しているもの
・ランクⅣ 設計条件・要求図書に対する重要な不適合に該当するもの
設計をし、図面を描くという正解がない試験ですので、明確にこれができていれば合格というものはありません。しかし、明確にこれをしては不合格というものはあります(ランクⅣ)。ランクⅣになる原因は、合格発表の際に示される、合格基準等が示されます。
1.「要求図面のうち1面以上欠けるもの」、「計画の要点等が完成されていないも の」又は「面積表が完成されていないもの」 これは、図面が完成していない状態のことを言っています。図面だけでなく、計画の要点等や面積表が一部欠けているだけでも、未完成で不合格となってしまいますので、うっかり記入漏れがないように気を付けて下さい。 2.〇階建てでないもの 3.図面相互の重大な不整合(上下階の不整合、階段の欠落等) 階段が上下階で繋がっていないものや、階段がないものがこれに該当すると言われています。上の階に上れないと建物として成立しませんので、当然不合格になってしまいます。 4.建築面積が 〇〇〇〇 ㎡を超えているもの これは、課題文で指定されている建蔽率により導かれる面積を、設計した建物の建築面積が超えてしまっている場合に該当します。建築基準法で建蔽率の上限は決まっており、これをオーバーすると、実際の設計でも建物を建てることはできません。当然不合格です。 5.床面積の合計が 〇〇〇〇 ㎡以上、〇〇〇〇 ㎡以下でないもの 課題文で指定された床面積の範囲を超えてしまった場合に該当します。この範囲は、法令により定められている数値ではありませんが、出題者がこの範囲で立てて下さいと出題をしていることを破ってしまうことになるため、厳しく採点されています。 6.次の要求室・施設等のいずれかが計画されていないもの 実際に合格基準が示されるときはこの項目の後に、要求室や施設の名前が羅列されます。課題文で要求された室のほとんどがここに挙げられています。一部、ゴミ庫やスタッフ室など、面積が小さく重要度の低い室に関してはここから省かれることもありますが、いずれにしても、要求された室を計画していない場合は厳しく採点されます。毎年かなり多くの室を計画することが求められるため、見落としがないように注意しましょう。 7.法令の重大な不適合等、その他設計条件を著しく逸脱しているもの 近年厳しく採点されている項目です。建築物を建てるためには建築基準法に則したものでなければなりません。どんなに素晴らしい計画をしても、実際に建てられない法令違反のものを設計してしまうと不合格となってしまいます。 |
択一式の学科試験とは異なり、設計製図試験は記述式のため、対策方法も新たに考えなければなりません。以下では、設計製図試験の攻略ポイントをご紹介します。
事前に課題発表が行われるため、設計製図試験はその建物用途に対してある程度の知識をあらかじめ有している前提で進められます。そのため課題発表後は出題された建物用途についてしっかりと研究を行う必要があります。『どのような室が必要なのか』や『近年どのような建物が求められているのか』等を調べておくと良いでしょう。
設計製図試験は学科試験と大きく異なる性質を持つため、長時間の試験に耐え得る集中力や短時間で図面を描き上げる能力、課題で問われているポイントを読み取る能力など、建築士としての力が幅広く必要です。短期合格するためには、それぞれを常に意識しながら勉強しなければならないでしょう。