技術士とは
技術士の資格について、まずは以下のポイントで解説します。
- 技術士の資格概要
- 技術部門とは
- 技術士の仕事内容
- 技術士と技術士補の違い
技術士の資格概要
技術士とは文部科学省所管の国家資格で、科学技術に関する高度な知識と応用能力を備えた技術者を認定する資格です。
根拠法令である「技術士法」の第1章第2条第1項において、技術士は次のように定義されています。
(定義) 第二条 この法律において「技術士」とは、第三十二条第一項の登録を受け、技術士の名称を用いて、 科学技術(人文科学のみに係るものを除く。以下同じ。)に関する高等の専門的応用能力を必要とする事項についての 計画、研究、設計、分析、試験、評価又はこれらに関する指導の業務(他の法律においてその業務を行うことが制限されている業務を除く。) を行う者をいう。
この技術士法にもとづく技術士制度は、専門知識と高い技術者倫理を兼ね備えた優秀な技術者の育成を目的としており、資格を取得した方だけが「技術士」の名称での業務が可能です。
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技術部門とは
技術部門とは技術士の専門分野のことで、技術士試験は文部科学省令で定める以下21の技術部門ごとに実施されます。
- 機械部門
- 船舶・海洋部門
- 航空・宇宙部門
- 電気電子部門
- 化学部門
- 繊維部門
- 金属部門
- 資源工学部門
- 建設部門
- 上下水道部門
- 衛生工学部門
- 農業部門
- 森林部門
- 水産部門
- 経営工学部門
- 情報工学部門
- 応用理学部門
- 生物工学部門
- 環境部門
- 原子力・放射線部門
- 総合技術監理部門
技術士試験には一次試験・二次試験があり、選択する技術部門ごとに試験内容が異なります。
選択する技術部門について問われるのは一次試験の専門科目(総合技術監理部門は除く)、および二次試験の必須科目と専門科目です。
なお、技術士には技術部門の名称表示義務があり、資格を取得して技術士を名乗る場合は登録した部門を明示する必要があります。
技術士の仕事内容
技術士の仕事内容は、専門の技術分野における研究開発や課題解決、分析、技術指導などさまざまです。
多くの技術士は一般企業や国、地方自治体、個人事務所に勤務しており、一例として次のような業務を行っています。
- 公共事業の事前調査・計画・設計監理
- 地方公共団体の業務監査のための技術調査・評価
- 裁判所、損保機関等の技術調査・鑑定
- 地方自治体が推進する中小企業向け技術相談等への協力
- 中小企業を中心とする企業に対する技術指導、技術調査・研究、技術評価等
- 大企業の先端技術に関する相談
- 開発途上国への技術指導
- 銀行の融資対象等の技術調査・評価
技術士は専門分野に応じてさまざまな場所で活躍しており、技術と知識を用いて社会に貢献し、公益の確保につながる職務を担っています。
技術士と技術士補の違い
「技術士補」とは、「技術士」の前段階の資格であり、技術士試験の一次試験に合格し(または指定された教育課程を修了し)、登録を受けることで得られるものです。
一方で「技術士」を名乗るには、技術士試験の一次試験と二次試験の両方に合格したうえで登録手続きを完了する必要があります。
実際に、技術士法の第1章第2条第2項によると、技術士補は次のように定義されています。
(定義) 第二条 2 この法律において「技術士補」とは、技術士となるのに必要な技能を修習するため、第三十二条第二項の登録を受け、 技術士補の名称を用いて、前項に規定する業務について技術士を補助する者をいう。
定義にある「第三十二条第二項の登録」とは、「技術士一次試験への合格」または「指定された教育課程の修了による登録」のことです。
技術士になるには、さらに二次試験への合格が必要とされています。
技術士の試験制度
ここからは、技術士の試験制度について以下3つのポイントを解説します。
- 技術士になるまでの流れ
- 一次試験の受験資格・内容
- 二次試験の受験資格・内容
技術士になるまでの流れ
技術士になるまでの流れは、次のとおりです。
- 一次試験合格、または指定された教育課程を修了
- 実務経験
- 二次試験・筆記試験合格
- 二次試験・口頭試験合格
- 技術士登録
技術士になるには、まず一次試験に合格するか指定された教育課程を修了しなければなりません。
指定された教育課程とは、文部科学大臣が一次試験合格と同等であると指定した科学技術に関する大学やその他教育機関における課程のことです。
一次試験に合格したら必要な実務経験を積み、二次試験を受験します。
二次試験には筆記試験と口頭試験があり、口頭試験は筆記試験の合格者のみが受験可能です。
二次試験合格後には、公益社団法人日本技術士会に登録申請し、無事に登録されれば技術士を名乗って業務ができます。
一次試験の受験資格・内容
技術士の一次試験には受験資格が設けられていないため、年齢や学歴、国籍、実務経験に関係なく誰でも受験可能です。
試験内容は大学のエンジニアリング課程(工学や農学、理学など)修了程度で、筆記形式(択一式)で行われます。
科目は「基礎科目」「適性科目」「専門科目」の3科目で、それぞれ次のような内容です。
▼基礎科目
- 設計・計画(設計理論、システム設計、品質管理等)
- 情報・論理(アルゴリズム、情報ネットワーク等)
- 解析(力学、電磁気学等)
- 材料・化学・バイオ(材料特性、バイオテクノロジー等)
- 環境・エネルギー・技術(環境、エネルギー、技術史等)
▼適性科目
技術士等の義務の規定の遵守に関する適性
▼専門科目
総合技術監理部門を除いた20の技術部門の中から1つを選択
なお、指定された科学技術に関する大学やその他教育機関の課程を修了している方は、試験合格同等者とみなされて一次試験が免除されます。
二次試験の受験資格・内容
二次試験の受験資格を得るには、一次試験に合格または指定された教育課程を修了するとともに、必要な実務経験を積む必要があります。
一次試験に合格または指定された教育課程を修了した方は「修習技術者」となり、以下3つの経路のいずれかに沿って実務経験を積みます。
- 技術士補に登録し、指導技術士の下で4年を超える実務経験を積む
- 職務上の監督者の下で4年を超える実務経験を積む(修習技術者となった後の経験)
- 7年を超える実務経験を積む(修習技術者となる前の経験から算入可)
1〜3のいずれの場合でも、大学院における修士課程や専門職学位課程の修了者、および博士課程に在学した期間(理科系などに限る)がある方は、実務経験の期間を最大2年まで短くできます。
また、1と2の実務経験の年数は合算することも可能です。
なお、二次試験で「総合技術監理部門」を受験する場合、1~2の経路では7年の実務経験、3の経路では10年の実務経験が必要です。
必要な実務経験を積んだら、いよいよ二次試験に臨みます。
二次試験では技術士に必要な技術部門の専門知識や応用能力を有するかどうかが問われ、次の「筆記試験」「口頭試験」の2つを突破しなければなりません。
▼筆記試験
21の技術部門の中から選択する1技術部門の「必須科目」と、各技術部門に設定された科目の中から選択する「選択科目」についての試験です。
どちらも記述式ですが、「総合技術監理部門」のみ一部が択一式で出題されます。
関連記事:技術士の2次試験対策(記述試験対策)
▼口頭試験
筆記試験の合格者に対してのみ実施されるのが口頭試験です。
筆記試験における記述式問題の答案や業務経歴を踏まえて実施され、技術士としての適格性が判定されます。
関連記事:口頭試験対策の3つのポイント
技術士試験の難易度・合格率
ここからは、技術士試験の難易度・合格率について解説します。
- 技術士試験の難易度
- 技術士試験の合格率
技術士試験の難易度
技術士試験の難易度は高く、合格までに700〜1,300時間程度の勉強時間が必要とされています。
一次試験の出題範囲は広範囲におよび、基礎から応用まで幅広い知識を身につける必要があります。
学習にかかる時間に個人差はありますが、200〜500時間程度の時間をかけてしっかりと知識をインプットする必要があるでしょう。
二次試験は記述形式(総合技術管理部門の必須科目の一部を除く)であるため、一次試験よりも難易度が上がります。
知識をインプットするだけでなく、問題の主旨を理解する力や、文章で的確に解答する力を身につけなくてはいけません。
必要な勉強時間は500〜1,000時間程度で、勉強時間をしっかり確保して対策する必要があります。
関連記事:技術士第二次試験の難易度と合格率は?
技術士試験の合格率
技術士試験の近年の合格率は一次試験が30〜50%前後、二次試験は12%弱で推移しています。
各試験の受験者数と合格者数、合格率は以下の通りです。
▼一次試験合格率
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2023年(令和5) | 16,631 | 6,601 | 39.7% |
2022年(令和4) | 17,225 | 7,264 | 42.2% |
2021年(令和3) | 16,977 | 5,313 | 31.3% |
2020年(令和2) | 14,594 | 6,380 | 43.7% |
2019年(令和1) | 13,266 | 6,819 | 51.4% |
参考:技術士第一次試験 統計情報|公益社団法人 日本技術士会
▼二次試験合格率(総合技術監理部門を含む)
年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
2023年(令和5) | 22,877 | 2,690 | 11.8% |
2022年(令和4) | 22,489 | 2,632 | 11.7% |
2021年(令和3) | 22,903 | 2,659 | 11.6% |
2020年(令和2) | 20,365 | 2,423 | 11.9% |
2019年(令和1) | 24,326 | 2,819 | 11.6% |
参考:技術士第二次試験 統計情報|公益社団法人 日本技術士会
一次試験の合格率を見ると、近年ではおよそ2〜3人に1人は合格していることがわかります。
一方、二次試験の合格率を見ると例年10人に1人程度しか受からない数字となっており、一次試験よりも難しい試験であることがうかがえます。
まとめ
本記事では技術士の試験制度や難易度、合格率などをまとめて解説しました。
ポイントはをおさらいすると、以下の通りです。
- 技術士とは文部科学省所管の国家資格で21の技術部門がある
- 技術士の一次試験に受験資格の規定はないが、二次試験を受けるには実務経験が必要である
- 一次試験は択一式の筆記試験で「基礎科目」「適性科目」「専門科目」の3科目である
- 二次試験は記述式(総合技術監理部門のみ一部択一式)の筆記試験と口頭試験がある
- 技術士試験の近年の合格率は一次試験が30~50%前後、二次試験は12%弱で推移している
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