働きながら弁理士試験に合格できる理由
働きながら弁理士試験に合格することは可能と言えます。
実際、2022年に開催された弁理士試験の合格者の85%程度が社会人です。
働きながら弁理士試験に合格できる理由について、3つの観点から解説します。
- 合格者の8割以上が働きながら取得している
- 学歴や経歴など受験資格に制約がない
- 免除制度がある
合格者の8割以上が働きながら取得している
弁理士試験の大きな特徴として合格者の8割以上が社会人、つまり働きながら学習し、合格していることが挙げられます。
令和4年度の実績で社会人以外の属性は無職(受験に専念する試験浪人など)が6.2%、学生が3.1%、その他が4.1%であり、大多数は社会人なのです。
社会人の中で最も多い職業は会社員で45.6%。
次いで特許事務所勤務で33.2%です。
会社員は受験者全体でも50%を占めており、そもそもの母数が多いことがわかります。
特許事務所勤務者はキャリアアップとして弁理士を目指す場合が多いのか、受験者全体の2割程度ですが、合格者の約1/3を占めており、合格率も相対的に高いことがわかります。
その他、公務員が4.7%、法律事務所勤務が2.1%と少数ながら一定の割合を占めています。
学歴や経歴など受験資格に制約がない
弁理士試験は誰でも受験が可能です。
試験において前提となる知識があらかじめついていたり、特定科目の免除を受けたりといった形で優遇される場合はありますが、受験資格自体に、特定の資格・学歴・勤務経験などは必要とされません。
一方で、海外で弁理士試験を受験するにあたっては理系大学卒の学歴が求められる国があります。
初心者から目指すのは簡単な試験ではありませんが、弁理士になりたい想いと、必要な学習を続けられる根気があれば誰にでも門戸の開かれている試験だと言えます。
免除制度がある
弁理士試験には2つの免除制度があります。
1つは段階的(短答式試験→論述式試験→口述式試験)な試験合格によって、その後2年間は一度合格した試験は免除される制度。
例えば、一度短答式試験に合格すれば、2年間は短答式試験は免除されるため、論文式試験対策に集中できるのです。
2つ目は取得資格による選択科目の免除。
以下に挙げる資格保有者の場合、弁理士試験における「選択科目」が免除され、受験において有利に扱われます。
- 行政書士
- 司法書士
- 司法試験合格者
- 薬剤師
- 技術士
- 一級建築士
- 電気主任技術者(第1種・第2種)
- 電気通信主任技術者
- 情報処理技術者
なお、特定の学歴、もしくは職歴を持つ場合も段階的な試験免除や選択科目の免除といった優遇を受けることができます。
働きながら弁理士試験に合格するコツ
働きながら弁理士試験に合格することは可能ですが、難関資格である弁理士試験を効率的に攻略するにはコツが必要です。
重要なポイントを3つ解説します。
- どこで学ぶのかを決める
- 合格までの計画を立てる
- 試験別の対策は必須
どこで学ぶのかを決める
最初の選択として「どこでどのように学ぶのか」を決めることが重要です。
弁理士試験に合格するために必要な学習時間は約3000時間と言われており、そのくらいの学習を継続できる方法を選択することが望ましいと言えるでしょう。
加えて、目安と言われる「3000時間」は学習の効率や進め方、1回の学習での理解度によって長くも短くもなります。
主な選択肢は「独学」「オンライン講座」「予備校」の3種類。
それぞれの方法を選ぶにあたっても独学ならばどの教材で学習するか、オンライン講座や予備校ならどの講座、予備校を選択するかの意思決定が求められます。
それぞれの方法の概要およびメリット・デメリットを解説します。
独学
独学は自分でテキストや問題集などの教材を選び、自分のペースで進める学習方法です。
最大のメリットは費用が教材費程度であるため、学習費用を大きく抑えられること。
自分のペースで進められることも自己管理が得意な人にとってはメリットです。
一方で学習で躓いた際質問できる相手がいないことや、一人でスケジュール管理、モチベーション管理をしなければならない点がデメリットとして挙げられます。
また、初心者が自分で効率の良い学習方法を見つけることは難しく、必要な勉強時間は多くなる傾向にあります。
弁理士は資格試験の中でも難易度が高いものになるため、知識が乏しい状態での独学はあまりおすすめはできません。
オンライン講座
オンライン講座はプロの講師が作成した講義動画、教材を用いてオンラインで学習できる方法です。
受験指導のプロが作成した教材で体系的に効率よく学習を進められる点が最大のメリットと言えるでしょう。
費用は予備校よりも安いだけでなく、教材が厳選されているため、独学でたくさん教材を買うよりも抑えられる可能性もあります。
場所を選ばないため予備校に通学しなくて良い点もメリットです。
一方で、講師への質問は可能ですがリアルタイムで回答を得ることが難しい点、受験仲間を対面で作りにくい点などがデメリットとして挙げられます。
予備校
資格試験の受験指導を専門とする予備校に通うことも、手段として挙げられます。
試験のためのポイントを押さえた学習ができる点、講師にその場で質問できる点や、同じ予備校に通う仲間ができやすい点がメリットです。
一方で、3つの学習方法の中で費用は最も高額な傾向にあります。
また、仕事が忙しい中で時間をかけて予備校に通うこと自体が大きな負担となるケースがあることもデメリットと言えるでしょう。
合格までの計画を立てる
合格までの学習計画を立てることも非常に重要です。
働きながら弁理士を目指す場合、約3000時間と言われる学習時間を確保するには数年間を要するのが一般的です。
実際、多くの合格者は3〜4回程度の受験で合格しており、学習開始から3~4年程度での合格を目指すのが無理なく目指せるペースと言えるでしょう(ただし、全ての受験者が学習を開始した年に受験するわけではないため、学習を始めてから合格までの平均年数はもう少し長いと考えられます)。
どの程度の学習期間が必要であるかは、働きながらどのくらい学習時間を確保できるかによって異なります。
仕事の日、休みの日それぞれどのくらい学習時間を確保できるか計算し、3000時間を目安にどの程度の期間が必要になるか逆算しましょう。
そして、算出した学習期間に見合った計画を立てましょう。
短期集中で合格を目指す場合と、ある程度の長期戦を見越す場合では最適な取り組み方が異なります。
3000時間が目安と言っても、当然ながら漫然と3000時間教材と向き合っていれば必ず合格できるといったものではないため、学習期間に見合った効果的な計画を立てながら着実に合格に近づいていくことが重要なのです。
2年で合格を目指す場合
働きながら弁理士試験の学習を進める場合、短期合格を目指せる現実的なラインは「2年間」です。
過去5年間の合格者の平均受験回数は3〜4回であり、平均的な受験者のスケジュールに比べて学習時間を確保し、かつ効率的に学習を進められた場合には2年での合格も目指せると言えるでしょう。
仮に平日に3時間、土日に8時間学習時間を確保できた場合、週30時間強が学習に当てられ2年で3000時間の学習ができます。
また、免除制度を有効活用する戦略も有効と言えるでしょう。
短答式試験に合格すると以後2年間は短答式試験が免除され、口述式試験、論文式試験から受験することが可能です。
そのため、最初の1年は短答式試験に合格することを目標として徹底的な基礎固めと短答式試験対策の反復練習を行い、短答式試験に合格できれば次の1年で口述式試験、論文式試験の対策に集中することができます。
短答式試験に合格するための基礎固めは口述式試験、論文式試験の合格にも欠かせないため、学習のステップとしても効率的です。
1年で合格を目指す場合
働きながら1年で合格を目指すのは非常にハードルが高いです。
しかし、実際に初回受験で合格している受験者は少ないながらも一定数存在するため、非現実的なわけではありません。
1年で合格を目指す場合、単に学習時間を確保するだけでなく、綿密な学習計画を立てることも必須です。
具体的には、まずは短答式試験の合格に絞って集中的に学習しましょう。
短答式試験は5月の中旬に実施されるため、それまでの期間はとにかく基礎固めと過去問をはじめとする短答式試験の問題演習に集中するのがおすすめです。
中でも出題比率の高い「特許法・実用新案」「意匠法」「商標法」については特に重点的に時間を割いて学習しましょう。
短答式試験の対策で十分な実力が養われていれば、7月上旬の論文式試験、10月中旬の口述式試験それぞれの個別の対策を短答式試験を終えてからスタートしても間に合わせることは不可能ではありません。
最短で合格を目指すからこそ、まずは基礎固め、短答式試験対策を徹底することが重要です。
試験別の対策は必須
弁理士試験で出題される短答式、論文式、口述式の試験はそれぞれ出題範囲は同じですが出題パターンが異なるため、試験別の対策が必須です。
弁理士試験合格の目安とされる3000時間は、3つの試験に以下のように割り当てられます。
- 短答式試験:2400時間
- 論文式試験:500時間
- 口述式試験:100時間
この配分からも短答式試験の対策がいかに重要とされているかがわかります。
何年で合格する戦略を立てるにせよ、まずは短答式試験の合格を目指しましょう。
短答式試験
短答式試験は1問1答形式の短文の出題に対して回答します。
出題数は60題で、出題範囲は工業所有権に関する法令として、特許・実用新案や意匠、商標に関する法令、工業所有権に関する条約、著作権法および不正競争防止法。
6〜7割が特許・実用新案法、意匠法、商標法からの出題です。
短答式試験で問われるのは、法律や条約の正しい理解および、個別具体的な事例での適切な判断能力。
そのため、まずは法律や条約の条文や判例を理解することが重要です。
また、短答式試験では過去問と似た問題が繰り返し出題される比率も高いため、アウトプットの練習としては過去問演習が有効と言えるでしょう。
短答式試験の合格率は10〜20%と、最初の試験で大きなふるい落としが行われます。
まずは、最初の関門として短答式試験合格を目指すことが重要です。
論文式試験
論文式試験は出題される問題に対して論文形式で回答する試験です。
必須科目と選択科目から出題され、選択科目では工業所有権に関する法令として、特許・実用新案や意匠、商標に関する法令の問題、選択科目では技術や法律に関する問題が出題されます。
論文式試験の解答にはパターンがあり、特に必須科目は15パターンに分類されると言われています。
そのため、パターンに応じた解答方法を身に着けることが合格への近道と言えるでしょう。
論文式試験の合格率は25%程度、短答合格者からさらに絞られる狭き門です。
短答式試験後の約1ヶ月で、合格の目安となる500時間の学習を行うことは現実的ではありません。
最短合格を目指す場合、対策は過去問の出題傾向把握と、解答の全パターン網羅に絞るのがおすすめです。
口述式試験
口述式試験は面接形式で出題される試験です。
出題範囲は特許・実用新案や意匠、商標に関する法令の問題。
面接官から問われた問題を耳で聞いて理解し、口頭で回答を行います。
口述試験は9割以上が合格する試験であり、短答式、論文式の試験を勝ち抜いた受験生であれば知識レベルでは十分に合格可能な水準と言えるでしょう。
試験対策としては出題された問いに対して口頭でスラスラと回答できるよう、条文を声に出して読む練習を行うのが効果的です。
ほとんどの受験者が合格する試験で、必要な学習時間の目安も論文式試験後から始めても間に合う水準と言えます。
ただし、ここまでの難関試験を勝ち抜いた受験者でも1割弱程度は落ちる試験であることを念頭に、油断せずに最後まで学習を続けましょう。
働きながら弁理士試験の合格を目指すメリット
働きながら弁理士試験合格を目指すメリットは、経済的に余裕をもって学習を進められる点や、近い業界で仕事をしている場合は実務経験を積みながら学習との相乗効果を期待できることが挙げられます。
ここではメリットについて詳しく解説します。
経済的に困りにくい
働きながら試験勉強を進める場合、経済的に困る可能性を下げられるでしょう。
勉強のためにかかる費用や、合格を目指すための学習期間の生活費などが普段の仕事からの収入でまかなえるためです。
仮に貯金をした後で仕事を辞めて勉強に集中した場合、試験に合格できないことが後々経済的に困ることに結びつき、過度のプレッシャーを受けてしまうかもしれません。
経済的にも精神的にも余裕をもって試験に臨むためには、仕事を続けることを考慮してもいいでしょう。
実務経験を積める
知財関係の仕事をしていたり、特許事務所に事務員として勤めていたりする場合、業務が試験勉強に役立つことや、逆に勉強をしていることで仕事においてアドバンテージが取れることもあり得ます。
業務上覚えた知識がそのまま試験に出るといっただけでなく、試験勉強が実務に直接役に立ち、実務で実践することで合格のための知識が深く定着するような好循環が期待できるのです。
関連する仕事をしている場合、試験に合格することで同じ職場での待遇が上がることも期待できます。
働きながら弁理士試験の合格を目指すデメリット
一方で、働きながら弁理士試験を目指すのは勉強時間の捻出に苦労する点や、勉強と仕事がどちらも中途半端になってしまう点がデメリットです。
ここではメリットについて詳しく解説します。
勉強時間の捻出が難しい
働きながら合格までの学習時間を捻出し続けるのは簡単ではありません。
理屈の上では例えば平日2時間、休日5時間といった時間を確保できれば3〜4年程度での合格が目指せます。
しかし、実際に学習を進めてみると残業や仕事のトラブルなどで平日に2時間の学習も、継続が困難なことが考えられます。
休日に5時間程度の学習時間の確保も難しいかもしれません。
忙しい中、継続的な学習時間を確保し続けるには工夫や継続力が必須なのです。
仕事も勉強も中途半端になってしまう恐れ
仕事と勉強の両立はどちらもが中途半端になり、時間面だけでなく精神面でも両立が難しい可能性が考えられます。
残業が続いたり、人間関係のストレスで悩んだりする中で勉強を進めても、思ったように成果が出ないこともあるでしょう。
勉強の疲れやストレスを持ち越して仕事に取り組む場合、業務効率が悪化し、残業が増えるなど悪循環に陥ってしまう可能性も考えられるのです。
疲れやストレスを抱えて持ち越さないよう、できる限り余裕を持った学習計画を立てることも重要と言えるでしょう。
弁理士試験に働きながら合格するために一番必要なこと
弁理士試験に働きながら合格するために最も重要なのは、スキマ時間を活用した学習を積み重ねることです。
弁理士試験合格は約3000時間を目安とする膨大な学習時間が必要と言われ、働きながら合格を目指す場合、一般的には最短2年、平均3〜4年程度の時間が必要です。
この間、仕事や他の予定と両立させながら、机に向かって腰を据えて3000時間勉強するのは相当な継続力、忍耐力とスケジュール調整を要します。
そこで活用したいのが「スキマ時間」。
例えば、早朝、通勤時間、お昼休み、移動中、トイレ休憩時などは、講義の動画や音声のインプット、アプリを活用した問題演習など、工夫次第で勉強時間に充てることができます。
ほんの数分であったとしても暗記や復習時間にすることで有効活用ができるでしょう。
スキマ時間の活用により無理なく努力が積み重ねられ、合格に近づくのです。
まとめ
働きながら弁理士試験に合格するための重要なポイントを解説しました。
最後に本記事のポイントをおさらいしていきましょう。
- 弁理士試験の合格者の8割以上が社会人
- 弁理士試験は誰でも受験が可能な試験
- 弁理士試験合格に必要と言われる時間は3000時間
- 勉強の方法は「独学」「オンライン講座」「予備校」がある
- 働きながら合格できる平均年数は3~4年程度
- 試験は「短答式試験」「論文式試験」「口述試験」の3つがあり、試験別の対策が必須
- 働きながら弁理士試験を合格するにはスキマ時間の活用が重要
弁理士試験は難関試験ですが戦略的に学習すれば社会人でも合格を目指せます。
弁理士試験最短合格を目指す社会人の方はオンラインで学べる「スタディング弁理士講座」をぜひお試しください。
スキマ時間を徹底活用できる教材で効率的に学習ができます。