弁理士に英語力が求められる背景とは
弁理士の一般的な仕事内容としては、特許や商標、意匠の出願登録、知的財産の訴訟対応などがあります。
国内での出願の場合には当然日本語を使用しますが、国際的に通用する知的財産権を取得したい場合は英語での対応が求められます。
高まる国際出願のニーズ
近年、特許出願のなかでも国際出願の件数が増加傾向にあります。
特許を巡る競争は世界的に激化しており、グローバル展開を狙う日本企業は海外を見据えて特許権を押さえておかなければなりません。
日本国内での特許しか持っていなければ、進出先の現地企業に模倣品を発売されたとしても、権利を主張できず、場合によっては相手側に知的財産権を取得されてしまう可能性すらあります。
2012年時点での特許庁に対する国際出願件数は約4万3千件でしたが、2019年には約5万2千件にまで増えています。
その後、新型コロナウイルス感染症の影響もあり若干減少はしたものの、総じていえば国際出願の需要は大きく増加傾向にあるといえるでしょう。
企業のグローバル化が進むなかで知的財産を取り巻く競争は激化しており、国際出願のニーズは今後も高まる可能性が高いです。
国際出願に対応するためには、弁理士業務においても英語で書かれた書類の翻訳をしたり、海外申請用に英語で書類を作成したりする必要が出てきます。
弁理士は英語ができないとまずい?【国内出願は減少傾向】
弁理士試験で英語力を問われることはないため、資格を取るうえでは英語力は必要ありません。
しかし、実際に弁理士として働く場合には英語力があったほうが有利なのは間違いないでしょう。
英語ができれば、国内出願だけでなく国際出願にも対応でき、仕事の幅が広がるからです。
先述の通り国際出願の件数は増加傾向にありますが、一方で国内出願の件数は若干の減少傾向にあります。
2012年には34万3千件ほどでしたが、2021年には約28万9千件と徐々に減少してきているのです。
とはいえ、英語力がなければ弁理士としてのキャリアが危ういというわけではありません。
得意な技術分野に関する知見を深めたり、ダブルライセンスによって仕事の幅を広げたりすることで、キャリアアップの可能性は高まります。
例えば、弁理士資格のみの場合、知的財産に関する紛争の解決には弁護士と協力する必要があります。
しかし、弁護士資格を併せ持つことによって、知的財産の出願から紛争解決までを単独で行えるようになるのです。
もちろん難関資格2つに合格するのは簡単ではありませんが、ダブルライセンスを実現できれば対応可能な仕事の幅が大きく広がります。
英語に限らず、自己研鑽を続けて弁理士としての価値を高めていくことが大切です。
英語力が問われる弁理士業務の内容
英語力が求められる弁理士業務には、大きく分けて「内外業務」と「外内業務」があります。
どちらの業務を行なう場合も、英語を正確に読み書きできることが重要です。
内外業務と外内業務
内外業務とは、日本国内で取得した知的財産権を海外各国でも取得するための仕事です。
クライアントとしては日本企業が多いでしょう。
外国に申請する出願書類を作成するためには、国内出願の内容を英訳する必要があります。
国内の特許・商標・意匠登録をベースとして、文章の意図や定義のズレに注意しながら英語版の資料を作成していきます。
一方、外内業務とは海外で取得した特許を日本で取得するための仕事になります。
クライアントとしては海外企業が多いでしょう。
外内業務では、英語で書かれた書類を的確に理解し、日本語に翻訳するための読解力が求められます。
海外で取得された知的財産権の関連書類を読み込み、適切な日本語に訳したうえで特許庁への提出書類を作成する必要があります。
英会話よりも正確な「読み書き」が重要
弁理士の国際業務においては、もちろん英会話が必要な場面もありますが、もっとも重要なのは文献や手続き書類、レターの内容を正確に理解し、伝える「読み書きの能力」です。
内外業務・外内業務どちらの場合も、元となる特許・意匠・商標出願書類を適切に理解し、翻訳する仕事になるからです。
出願内容の理解はもちろんのこと、専門的な内容を別の言語へと正確に訳す必要があるため、簡単な業務ではありません。
しかし読み書きがメインであるため、発音やコミュニケーションが苦手な日本人にとっては英語スキルのなかでも伸ばしやすいものだといえるでしょう。
弁理士業界で長く活躍したいのであれば、ニーズの高まる「英語対応が可能な弁理士」になるべく、キャリアの早い段階で学習に取り組んでおくことをおすすめします。
弁理士に求められる英語力とは
弁理士業務における英語の必要性は高まっていますが、具体的にどの程度の英語力を身につければよいのでしょうか。
また、現時点で英語の勉強をほとんどしたことがない場合、キャリアのどのタイミングで英語学習を始めるべきか気になるという方もいるでしょう。
以下、弁理士業務に必要な英語力の目安や学習のタイミングについて解説します。
TOEICの目安スコアは700点以上|ただし実務英語が重要
英語の資格といえばTOEICがもっとも有名です。
弁理士として英語での業務対応を視野に入れるなら、TOEIC700点以上は最低でも取っておきたいラインになります。
TOEIC700点を達成するには、ビジネスに必要な語彙をある程度身につけたうえで、リスニング・リーディングどちらもバランスよく得点する必要があります。
上場企業においても、国際部門で業務をする際の目安としてTOEIC700点以上を設定する企業は多いです。
TOEICの資格を持っていれば、転職や就職などの際に大きなアピールとなるため、よいスコアを取っておいて損はありません。
しかし、大切なのは弁理士業務に登場する実務の英語に慣れていることです。
TOEICで出題される一般的なビジネス英語とは異なるため、弁理士としての英語力を磨くには専門用語や特有の表現に慣れておくことが大切です。
英語力は資格取得後に身に付ければOK
「弁理士には英語力が必要」と聞くと、義務教育以外で英語に触れた経験がない方は焦ってしまうかもしれません。
しかし、英語の勉強は弁理士の資格取得後に実務経験を積みながら進めれば十分です。
弁理士は合格率6~10%前後の難関資格であるため、まずは資格取得に全力を尽くすことを最優先にしましょう。
資格の取得後に特許事務所などに就職・転職し、実務経験を積みながらキャリアの方向性を定めても遅くはありません。
参考記事:弁理士資格の試験難易度・合格率は?他資格との比較や合格者の特徴も解説!
いろいろな経験を積むなかで、「英語力を鍛えてグローバルに活躍したい」と感じたなら、本格的に英語学習をスタートさせましょう。
英語力を鍛えることで活躍の場が広がるほか、転職の際にも有利に働くはずです。
まとめ
本記事では、弁理士に英語力が求められる背景や、具体的な英語を使った業務、さらに必要な英語力の目安を紹介しました。
最後に、本記事のポイントをまとめます。
- 知的財産を巡る競争は世界的に激化しており、国際出願件数も増加傾向
- 一方で国内出願件数は若干の減少傾向
- 「英語対応が可能な弁理士」に対するニーズは今後もますます高まることが予想される
- 弁理士業務における英語力としては、英会話よりも「読み書き」の正確さが重要
- TOEICのスコア目安は700点以上。ただし知財関連の実務英語への慣れのほうが大切
- 英語力を磨くのは弁理士資格を取得し、実務経験を積みながらでも遅くはない
弁理士資格の取得後、英語力に磨きをかければ多くのクライアントから重宝される弁理士になれるでしょう。
ただし、まだ弁理士資格を持っていないという方は、まずは難関国家試験の1つといわれる弁理士試験の合格に全力を注ぎましょう。
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