弁理士にまつわる2つの「よくある後悔」とは
知的財産のプロフェッショナルである「弁理士」という職業に対し、憧れを抱く人は多いでしょう。
一方で、なかには「弁理士になったこと」や「弁理士として特許事務所に転職したこと」を後悔しているという現役弁理士の方もいます。
弁理士になったことを後悔
1つ目は、弁理士になったこと自体を後悔するケースです。
弁理士は難関国家資格の1つとして広く認識されています。
弁理士試験合格のために必要な勉強時間の目安は3,000時間ともいわれており、平均受験回数は3〜4回にものぼります。
年に1度の試験であるため、複数年かけて合格を狙うのが一般的であり、このあたりからも難易度の高さがうかがえるでしょう。
参考記事:弁理士資格の試験難易度・合格率は?他資格との比較や合格者の特徴も解説!
そのように多大な労力をかけて資格を取得したにもかかわらず、いざ弁理士として働いてみると想像と異なる部分が生じ、後悔するケースがあるのです。
具体的には、以下のようなギャップにストレスを感じる人が多いでしょう。
- 思ったより稼げない
- 地味な業務が多い
- 業務の負担が大きい
せっかく努力して弁理士になれたにもかかわらず、思い描いていた弁理士像と現実が異なり、「弁理士にならなければよかった」と後悔してしまうのです。
特許事務所への転職を後悔
2つ目は、特許事務所への転職を後悔するケースです。
弁理士としての働き方には、大きく分けて以下の3種類があります。
- 特許事務所に就職・転職
- 企業内弁理士として勤務
- 独立開業
この3種類のなかで「特許事務所への就職・転職」はかなり一般的なキャリアといえます。
特に、弁理士は社会人になってから取得する方が多く、一般企業から特許事務所への転職はよくあるパターンです。
しかし、実は「特許事務所に転職して後悔した」という声は少なくありません。
より専門性を磨くため特許事務所に転職したものの、想像していた業務や待遇と異なり、転職を後悔するのです。
特に弁理士としてのキャリアを積み始めたばかりのころは、業務量のわりに収入が伸びづらいといった側面もあります。
「これなら転職しないほうがよかったのでは」と転職を後悔するのも仕方ないといえるでしょう。
弁理士になったことを後悔するケース
ここから、弁理士になったこと自体を後悔するケースについて、さらに詳しく解説していきます。
なぜ後悔してしまうのかを理解することで、キャリアの失敗を防ぐヒントになるはずです。
「弁理士はやめとけ」といわれる理由とは
社会的信用があり収入も高いイメージのある弁理士ですが、実はインターネット上などで「弁理士はやめとけ」という意見も散見されます。
主な理由としては、以下の3つが考えられます。
- 下積み期間が必要だから
- ブラックな職場があるから
- 高収入が約束されているわけではないから
弁理士として活躍するためには、一定期間の下積みが必要になります。
3,000時間以上の勉強によってやっとの思いで弁理士試験に合格しても、すぐに一人前の弁理士として活躍できるわけではないのです。
最低でも2~3年の実務経験を通じ、プロとしての対応力を身につける必要があります。
また、ブラックな職場が存在するのも「弁理士はやめとけ」といわれてしまう原因の1つです。
残念ながら、弁理士の勤務先のなかには労働時間の管理があいまいで激務を強いられたり、土日出勤が当たり前であったりする事務所もあります。
そして、弁理士になったからといって高収入が約束されているわけではない点も、ネガティブなイメージの一因でしょう。
高収入を得るためには、ほかの弁理士との差別化を図り、常に自身の強みを磨いていくことが求められます。
クライアントにとって頼りがいのある弁理士にならなければ、高収入を得ることは難しいのです。
参考記事:弁理士はやめとけ?オワコンといわれる理由や業界の実情、キャリア成功のポイントを解説
弁理士のキャリアは自分次第
先述の通り、「弁理士はやめとけ」との意見も一部には存在します。
しかし、一方で弁理士は努力次第で多くの報酬を得られたり、やりがいを感じられたりする魅力的な職業であることは間違いありません。
弁理士の大きな魅力は平均収入の高さです。
すべての弁理士に高収入が約束されているわけではないと説明しましたが、それでも平均値としての収入はかなり高い傾向にあります。
具体的には、弁理士の平均年収は700~760万円程度といわれています。
日本人の平均年収は400万円台だとされているため、一般平均よりも高い収入が得られる確率は高いでしょう。
また、弁理士の魅力はその将来性です。
近年、特許を巡る競争は世界的に激しくなっており、知的財産の保護や管理に対する重要性が高まっています。
日本企業もグローバル化の流れのなかで知的財産部門の強化を図っており、弁理士に対するニーズは今後もますます高まることが予想されます。
さらに、自分らしい働き方を実現しやすいのも弁理士の魅力の1つです。
特許事務所への勤務だけでなく、企業内弁理士や独立開業といったさまざまなキャリアが選べるため、自分に合った働き方を実現しやすい職業だといえるでしょう。
弁理士として充実したキャリアを歩めるかどうかは、自身の努力や選択次第だといえます。
弁理士は自己研鑽を続けられる人におすすめな職業
自己研鑽によって市場価値を高められる人にとっては、弁理士は将来性もやりがいもある職業です。
常に新たな技術やアイデアに関する情報収集をしておくことで、クライアントの信頼を獲得し、新たなビジネスチャンスをつかめるでしょう。
また、医療やITといったあらゆる分野でグローバル化が進行している現在、自社の知的財産を海外企業から守るためには特許の「国際出願」が必要です。
そのため、英語対応ができる弁理士に対するニーズは高まっており、英語力を磨くことで弁理士としての価値も向上します。
そのほか、仕事の幅を広げるためにダブルライセンスを目指すのもおすすめです。
ダブルライセンスとは、弁理士資格だけでなくその他の資格もあわせて所持し、業務の幅を広げることを指します。
例えば、以下の資格を持つ弁理士は、その他の弁理士と比較して多様な業務に対応できるでしょう。
- 弁護士
- 行政書士
- 税理士
- 公認会計士
- 中小企業診断士
本来であれば、ほかの資格保持者と協力して対応する必要がある案件でも、ダブルライセンス保持者であれば単独で対応可能になります。
もちろん、いずれも難易度の高い資格です。
しかしクライアントにとっては、まとめて依頼することで手間やコストを削減できるため、「ぜひこの弁理士に依頼したい」と感じるでしょう。
自己研鑽を続けられる弁理士なら、顧客の獲得に困ることがなく、収入も着実に伸ばせるはずです。
特許事務所への転職を後悔するケース
次に、特許事務所への転職を後悔するケースについて詳しく解説していきます。
結論からいえば、弁理士の業務に対するイメージのズレをなくすことが、キャリアを後悔しないためのポイントだといえます。
業務量が多くついていけない・しんどい
特許事務所への転職を後悔する理由としてよく挙げられるのが、業務量の多さについていけなくなり、しんどさを感じるケースです。
特許事務所での弁理士の業務には、一般的にノルマがあります。
そしてそれぞれのタスクには期限が設定されており、常に締め切りを意識しながら業務を進める必要があるのです。
業務が多すぎてさばききれず、長時間労働を強いられる場合もあるでしょう。
特に実務経験が少ない状態で厳しいノルマを課されるような職場であれば、過酷だと感じてしまうのも無理はありません。
ノルマや締め切りのプレッシャーを感じ続けた結果、特許事務所への転職を後悔してしまうのです。
思ったより地味な業務が多い
想像よりも地味な業務が多いのも、特許事務所への転職を後悔する理由として挙げられます。
弁理士といえば、専門職の1つとして華々しいイメージを持つ方が多いかもしれません。
しかし、実際には論文や文献での情報収集、書類作成、行政への手続きといった地味な業務が大半を占めます。
1人でこなす仕事が圧倒的に多く、華やかさを感じる場面は意外に少ないのです。
そのようなギャップから、特許事務所への転職に後悔を感じてしまう人もいます。
人手不足な職場だった
転職先の特許事務所が人手不足であった場合、個人にかかる負担が大きくなり、耐えきれなくなってしまう場合があります。
特に、所員数が数名~数十名といった中小規模の特許事務所では人手不足は珍しくありません。
なかには、残念ながら労働環境がブラックな特許事務所も存在します。
想像以上に厳しい労働環境に耐えきれず、辞めてしまう場合もあるでしょう。
高い専門知識を要求される
特許事務所に勤務する弁理士は、幅広いジャンルの技術や法律について、常に知識をアップデートしておくことが求められます。
特に、知的財産に関する法律は毎年のように改正されます。
そのため、常に法律改正の動向を確認したり、新たな法律に合わせた対応方法を検討したりする必要があるのです。
しかし、日々の多忙な業務のなかで、インプットに時間を割くのは簡単ではありません。
特に、特許事務所はさまざまなクライアントを抱えているため、カバーすべき領域が非常に広くなります。
想像以上に高い専門知識を要求されることで、特許事務所での勤務が「きつい」と感じることもあるでしょう。
下請け感が強い
特許事務所の弁理士は、下請けとしての手続き的な業務も多くこなす必要があるため、やりがいを感じにくいといった側面があります。
弁理士が扱うのは知的財産ですが、その知的財産を開発し、生み出したのはクライアントです。
人によっては「企業内弁理士として、自社の知的財産を扱う仕事のほうがやりがいがありそう」だと感じることもあるでしょう。
実践的な経験を積ませてもらえない
弁理士としてキャリアアップを図るためには、実務経験の積み重ねが大切です。
しかし、特許事務所によっては出願などに関連する重要な業務をなかなか任せてもらえない場合もあります。
キャリアにつながる経験を積めないままでは、思い描いていた活躍はなかなかできないでしょう。
特許事務所への就職・転職前には、研修制度や職場環境などを確認し、キャリアアップを目指せる特許事務所かどうかチェックしておくことをおすすめします。
年収と業務量が見合わない
特許事務所での勤務に対し、年収と業務量が見合わないと感じる人もいます。
さきほどもご紹介したとおり、弁理士の平均年収は700~760万円程度といわれており、一般平均よりもかなり高いです。
しかし、資格を取得するためには3,000時間の勉強が必要といわれており、さらに資格取得後にも2~3年程度の下積みが必要になります。
大きな労力を費やした割には高収入を得るまでに想像以上に時間がかかり、また下積み期間の業務量も多いため、収入に見合わないと感じてしまうのです。
下積み期間があることを事前に想定し、将来を見据えてキャリアを積み上げることが大切だといえます。
参考記事:弁理士の平均年収と将来性、年収アップのコツを解説【大手なら1000万円も可能?】
弁理士として後悔しないキャリアを歩むために
最後に、弁理士になったことを後悔しないためのキャリアの歩み方を紹介します。
ポイントは、モチベーションを保つための環境や意識を整えることです。
常に自己研鑽を積む
弁理士として魅力的なキャリアを築くためには、常に自己研鑽を重ねる必要があります。
まず、最新の技術や知的財産に関する法律の情報を日常的に収集しておくことが大切です。
また、国際出願に対応できるよう英語力を身につけておくのも効果的でしょう。
英語が難しそうだと感じる方は、ダブルライセンスを目指して弁理士以外の資格を取得し、ほかの弁理士との差別化を図るのもおすすめです。
知的財産を巡る世界的な競争の激化などを踏まえ、「今後、どのような弁理士が求められるのか」を考えながら、自身に適した方法でキャリアアップを図りましょう。
弁理士としてのやりがいを再認識する
弁理士の仕事へのモチベーションを高めるためには、やりがいを再認識することも重要です。
弁理士の仕事に対して、ときにはクライアントの下請けのように感じたり、地味な印象を持ってしまったりするかもしれません。
しかし、世界的に特許を巡る競争が激化しているなかで、弁理士は新しく生まれた技術を守る誇り高い仕事です。
知的財産の取得はクライアントの利益を守り、新たな技術開発へとつながるものです。
弁理士の重要性を改めて認識することで、やりがいを感じながら日々の業務に取り組めるでしょう。
優良な特許事務所に就職する
弁理士として後悔しないキャリアを歩むためには、優良な特許事務所に就職する必要があります。
土日出勤や長時間労働が当たり前となっているブラックな特許事務所に就職してしまっては、実戦経験を積むどころではなくなり、心身ともに疲弊してしまいます。
特許事務所に就職・転職する際には、労働環境や教育制度が整っているかどうか必ずチェックするようにしましょう。
多数のクライアントを抱える事務所を選び、さまざまな経験を積むのもおすすめです。
最終的なキャリアを思い描く
弁理士として後悔のないキャリアを歩むためには、「最終的にどうなりたいか」を考えたうえで日々の行動に落とし込むことが大切です。
自分にとって理想のキャリアを思い描けていれば、心が折れてしまいがちな下積み期間もやりがいを持って過ごせます。
多くのクライアントに求められる弁理士であれば、年収1,000万円以上は十分に達成できます。
また、弁理士としての強みを磨いていけば、将来的には独立開業することも可能です。
弁理士として独立・成功し、年収2,000万円や3,000万円といった高収入を得ている人もいます。
自分にとっての理想のキャリアプランを描き、目標に向けて一歩一歩進んでいけば、弁理士キャリアを後悔することはないでしょう。
まとめ
本記事では、弁理士によくある後悔とその原因、後悔しないためのキャリアの歩み方を紹介しました。
ポイントをまとめると以下の通りです。
- 弁理士によくある後悔は「弁理士になったこと」「特許事務所に転職したこと」の2つ
- 「弁理士はやめとけ」といわれることもあるが、実はやりがいや将来性にあふれた職業
- 大事なのは、弁理士資格の取得に満足せず常に自己研鑽を積むこと
- 将来的に独立開業して成功すれば、年収2,000~3,000万円を得ることも不可能ではない
- 弁理士として後悔しないキャリアを歩むためには、適切な環境を選び、高い目標や意識を持つことが大切
弁理士は、新しく生まれた技術を守る誇り高い仕事です。弁理士資格の取得に興味を持った方は、ぜひ一歩を踏み出してみましょう。
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