情報処理技術者試験(以下、IPA試験)には、応用情報技術者試験のほか、さまざまな試験区分が用意されています。応用情報技術者を取得すればその上位に位置するスペシャリスト系試験の一部が免除となり、ダブルライセンス、トリプルライセンスへのステップとなります。今回は、応用情報技術者と合わせて取得しておきたい資格やそのメリットについてご説明します。
複数ライセンスのメリット
応用情報技術者試験は、多くのIT企業の間で高く評価される国家試験です。合格を勝ち取った挑戦者は、高度な専門知識と技能を身に付けたプロフェッショナルと認められます。
そもそも、IPA試験の試験区分はどれも企業の信頼と評価が高く、就職や転職、キャリア形成に有利に働きます。応用情報技術者試験の上位試験である高度試験ならびに国家資格の情報処理安全確保支援士を同時取得することで、信頼と評価はより高まるはずです。
IT知識を全般的に網羅しかつ応用化スキルを身に付けたのが応用情報技術者なら、上位試験合格はひとつの分野を徹底的に極めたスペシャリストに与えられる称号です。情報処理安全確保支援士は情報セキュリティ分野の専門家と認知され、プロジェクトマネージャ試験に合格した者はITサービスの品質管理・進捗管理のプロと認められます。これらの資格を取得した先には、チームを統括する管理者やマネージャーといった責任あるポストの道が開かれています。
応用情報技術者試験を突破すると、上位試験にカテゴライズされた国家試験および国家資格はすべて試験の一部免除が適用されます。今後のキャリアアップを視野にIT知識をさらに究めたい方ほど、複数ライセンスの取得がおすすめです。
情報処理技術者試験の免除制度
IPA試験には「高度試験」というカテゴリーがあります。ここに分類される試験が、いわゆる応用情報技術者試験の上位試験として位置づけられるのです。
高度試験に分類される試験の種類は次の通りです。
- ITストラテジスト試験
- システムアーキテクト試験
- プロジェクトマネージャ試験
- ネットワークスペシャリスト試験
- データベーススペシャリスト試験
- エンベデッドシステムスペシャリスト試験
- ITサービスマネージャ試験
- システム監査技術者試験
これらに加えて国家資格の「情報処理安全確保支援士試験」も、応用情報技術者試験の上位試験に位置づけられます。以下では便宜上、高度試験および情報処理安全確保支援士試験をまとめてスペシャリスト系試験と呼ぶことにします。
IPA試験には、ある要件をクリアすることでスペシャリスト系試験の午前試験の一部が免除される制度があります。該当者は次のような条件を持つ受験者です。
- 応用情報技術者試験に合格
- いずれかの高度試験または支援士試験に合格
- いずれかの高度試験または支援士試験の午前I試験で基準点以上の成績を得る
応用情報技術者試験に合格した者は、すべてのスペシャリスト系試験で午前I試験を受けずに次の試験へ進めるアドバンテージが得られます。
なお、免除適用が受けられるのは合格後2年まで。免除には申請手続きが必須です。詳細についてはIPA公式サイトでの確認をおすすめします。
IPA(情報処理推進機構)HPはこちら(外部ページに飛びます)
応用情報技術者試験の合格で午前I試験免除となる試験
ここでは、応用情報技術者試験の合格で午前I試験免除となる試験の概要について見ていきます。これらの試験の合格者はすべて、確立した専門分野を持つ高度IT系スペシャリストとみなされます。
IT技術を活用した、事業の基本戦略プランを提案する人材の輩出を目的とする試験です。ストラテジストのレベル4に分類。このスキルを持つ人材に要求されるのは、事業環境分析やIT動向分析に基づく事業戦略プランの策定、情報システム戦略実現のためのモニタリングとコントロールなど。試験で身に付けた知識と技能をさまざまな技術開発や業務改革のために振り向ける技術者像を対象としてます。
IoTシステム開発のための要件定義や、それを実現するためのアーキテクチャの設計を可能とする人材が対象です。システムアーキテクト、テクニカルスペシャリストのレベル4に分類。要求されるのは、システムアーキテクトの業務と役割を円滑に遂行するための知識と業務能力です。情報システムや組込みシステム・IoTシステム方面のプロフェッショナルとしての活躍が期待されます。
システム開発プロジェクトの全体計画の作成、および必要資源と人員の確保、予算・スケジュールに基づきプロジェクトを実行・管理する人材が対象です。プロジェクトマネージャレベル4に分類。システム開発プロジェクトの実行・管理を円滑に遂行するための知識と技能が要求されます。技術者としての知見はもちろん、全体をマネジメントする現場監督的な役割と指導力も重視されます。
ネットワーク技術の専門家として、最適な情報システム基盤の構築や運用、および情報システム全般の企画・要件定義・運用・保守への技術サポートを行える人材が対象です。テクニカルスペシャリストのレベル4に分類。目的に適合したネットワークシステムを構築・維持するための知識とスキルが求められます。ネットワーク管理者として主導的に現場業務に励むことはもちろん、技術者を指導・育成する役割も担います。
データベースに関する専門技術を用いて最適な情報システム基盤を構築できる人材が対象です。テクニカルスペシャリストのレベル4に分類。高品質なデータベースの企画や要件定義、開発・保守のための知識と技能が要求されます。具体的には、情報システム全体のデータ管理、データベースシステムに対する要求の分析、データベース関連の技術支援などの業務を任されます。
IoT知識や組込みシステムの開発技術を用いて最適な組込みシステム開発基盤の構築・設計・製造を手がけられる人材が対象です。テクニカルスペシャリストのレベル4に分類。最適な組込みシステム開発を実現するために、ハードウェア・ソフトウェアそれぞれに応じた要求を理解しながら、機能性や品質、セキュリティなどを担保します。そのための知識として、ハードウェアとソフトウェアの適切な組み合わせや特定の技術・製品分野に関する深い理解が求められます。
ITサービスの要求事項を満たした計画の立案や設計を通して、企業のサービス開発と維持に貢献する人材が対象です。サービスマネージャのレベル4に分類。サービスマネジメントシステムの計画や運用、管理を行う知識とスキルが求められます。サービス運用のチームリーダーとして、安全性と信頼性の高いサービスを提供することがITサービスマネージャの役割といえます。
情報システムや組込みシステムへの総合評価を独立した立場から行える人材が対象です。サービスマネージャのレベル4に分類。情報システムにとって脅威となるリスクを排除するための施策提案、改善のための知識とスキルが求められます。システム監査技術者の独立的かつ専門的な立場からの適正評価により、全体的な情報システムの安定化と維持が可能となります。
サイバーセキュリティのスペシャリスト輩出を目的とする試験です。企業の情報システムが脅威にさらされていないか、調査・分析・評価を行い、その結果に基づき改善策を提案します。レベル対応はテクニカルスペシャリストのレベル4に分類。情報セキュリティマネジメントや情報セキュリティインシデント、情報システムのセキュリティ確保など、さまざまなサイバーセキュリティ業務を円滑に遂行するための専門知識と技量が要求されます。
狙う試験のスケジュール・出題形式を把握しよう
スペシャリスト系試験は基本的にどれも「午前試験」と「午後試験」に分けて実施されます。微妙に異なるのが、試験スケジュールと出題形式です。1年に2度実施される試験もあれば、1回の実施にとどまる試験もあります。また、午後試験が記述式で行われる試験と、論文式で行われる試験の2タイプがあります。このあたりの違いは戦略的な試験対策や学習計画に影響を与える部分ですので、以下の情報を参考にしてください。
スペシャリスト系試験・スケジュールの違い
IPA試験の実施時期は、「春期・秋期」「春期のみ」「秋期のみ」のいずれかです。応用情報技術者試験は春期と秋期の年間2回実施される形式でしたが、高度試験はすべて年1回の実施となります。
《春期試験のみ》
- ITストラテジスト試験
- システムアークテクト試験
- ネットワークスペシャリスト試験
- ITサービスマネージャ試験
《秋期試験のみ》
- プロジェクトマネージャ試験
- データベーススペシャリスト試験
- エンベデッドシステムスペシャリスト試験
- システム監査技術者試験
《春期・秋期いずれも実施》
- 情報処理安全確保支援士試験
■春期から秋期の実施日までの期間は約6か月
春期・秋期の試験実施日はそれぞれ4月中旬・10月中旬です。仮に応用情報技術者試験の合格が春だった場合、秋期に受けるスペシャリスト系試験までは最長6か月あることになります。秋期に合格した場合も同様に6か月。ちなみに、応用情報技術者試験に合格した方でもスペシャリスト系試験の準備期間は最低2~3か月程度必要とされます。同じIT分野ということで応用情報技術者試験と内容が重複する部分も多々あることを考えると、連続挑戦しやすい試験が優位かもしれません。
出題形式の違い
スペシャリスト系試験はすべて午前I・午前Ⅱ・午後I・午後Ⅱの4回にわたっての実施です。午前I~午後Iまでは同じ形式ですが、午後Ⅱ試験のみが記述式か論述式かに分かれます。
《午前I試験》
応用情報技術者試験の合格者はすべて免除となります。
《午前II試験》
すべての試験が四肢選択式で実施されます。
《午後I試験》
すべての試験が記述式で実施されます。
《午後II試験》
記述式もしくは論述式に分かれます。
記述式 | 論述式 |
|
|
IPAが発表している試験要綱では、論述試験の評価方法を次のように示しています。
設問で要求した項目の充足度,論述の具体性,内容の妥当性,論理の一貫性,見識に基づく主張,洞察力・行動力,独創性・先見性,表現力・文章作成能力などを評価の視点として,論述の内容を評価する。また,問題冊子で示す “解答にあたっての指示”に従わない場合は,論述の内容にかかわらず,その程度によって評価を下げることがある。
IPA(情報処理推進機構)試験要綱より
評価ランクはA・B・C・Dの4ランクに分かれ、A評価のみが合格となります。
Aランクといっても、点数でいえば60点で合格です。そのため、必要以上に難しく考えることはありません。
■論文は難しい?対策とポイント
論述式では2時間で2000文字程度の小論文を書くことになります。論文に慣れていない方や、そもそも論文を書いた経験がない方は、論述式と聞いただけで腰が引けるかもしれません。しかし、大きな心配は無用です。出題テーマも形式もおおむね決まっていますので、過去問を何問か解いて要領をつかむだけで十分な対策となります。
過去問にあたっていくと、テーマがある程度固定化されているのがわかります。例えばプロジェクトマネージャ試験であれば進捗管理や品質管理などが定番です。ポイントは、このテーマに該当するご自身のプロジェクト体験を書くこと。具体的な数字や問題解決のための対策、リスクマネジメントの方法などを付け加えることで、リアルで説得力のある論文が完成します。
研究者の論文ではないので、斬新さやユニークな視点などは不要。論点が整理されていること、展開が論理的なこと、という具合に、ただ基本を押さえた文章でよいのです。これにプラスして午前試験で出題された基本知識を織り交ぜながら書くと、全体を通して理解力がると判定され、高評価につながります。
ズバリ、一緒に取得するのがおすすめの資格はこれ!
ここでは、応用情報技術者試験との関連性や合格のしやすさ、対策の取りやすさから見て。同時取得・同時チャレンジのおすすめ度を判定。以下、4つの資格は連続での取得をおすすめします。
情報処理安全確保支援士は、基本・応用情報技術者試験同様、IPAがもっとも重視する試験のひとつです。応用情報技術者試験では広範なセキュリティ分野の問題が出されたはず。つまり本試験でもその知識が活用できるのです。
情報セキュリティは、システム開発や企画、運用・保守などすべてのフェーズで重視される分野。国も、同分野におけるスペシャリストの養成と輩出は急務の課題ととらえています。IT企業の間でも情報セキュリティ分野の専門家に対するニーズは年々増す傾向にあり、資格の取得でキャリア形成に大きな弾みとなります。
ネットワークスペシャリスト試験も、応用情報技術者試験との関連が高く、合格者にとっては攻めやすい試験です。ネットワーク分野を重点的に学習する戦略を徹底すれば合格が見えてきます。
貪欲にトリプルライセンスを狙うなら、「応用情報技術者試験→情報処理安全確保支援士→ネットワークスペシャリスト試験」の順番で攻略する方法がおすすめです。情報セキュリティ部門を制覇すれば学習効率は各段に向上します。この分野は全ITエンジニアに必須の専門知識といわれるので、取得しておいて損はありません。
データベーススペシャリスト試験は、スペシャリスト系試験の中でも比較的対策が取りやすい試験です。応用情報技術者試験でみっちり専門分野を学んだ方からすれば、時短学習での合格も難しくありません。専門分野の幅が広がり、キャリアアップを後押しするツールになりえます。
これはデータベーススペシャリスト試験に合格したうえでの話となります。というのも、同試験で得た知識はシステムアーキテクト試験に生かされるからです。午前I試験も免除となるので、トリプルライセンスを狙う方にはおすすめ。ただし、論文試験があるため、対策の時間はそれなりにかかる点を留意してください。
応用情報技術者試験合格後の学習スタイルはどれがよい?
応用情報技術者試験に合格した方なら、その後に受けるスペシャリスト系試験の学習は独学でも自信があるかもしれません。独学がよいか、それとも通学・通信講座の受講、あるいはオンライン講座がよいかは、個人の力量や状況、時間的な問題を考慮のうえ決める必要があります。
それぞれの学習スタイルのメリット・デメリットや課題についてご説明しますので、どれを選ぶべきか迷いのある方は参考にしてください。
独学
■メリット
もっともコストのかからない方法です。専用テキストと問題集、過去問対策用の問題集をそろえるくらいなので、5000円程度の予算で足ります。通学・通信講座に比べれば大幅なコストカットが可能です。
また、自分のペースで学習できるところも魅力。用意されたカリキュラムに合わせるのが苦手な方にとっては相性が良いといえます。
独学で合格を勝ち取った場合、本人にとっては大きな自信となるでしょう。自分の中で積み上げた学習ノウハウは貴重な財産となって次の試験でも生かされます。
■デメリット
専用テキストと問題集を自分でセレクトしなければなりません。自分に不向きのテキストを選んだばかりに勉強がはかどらないような事態には注意したいところです。
学習計画の立て方や進め方、対策の取り方もすべて自分でしなければならず、アドバイスが欲しくなっても助言する人はいません。自分の勉強方法が間違っていれば修正されずそのまま進むことになります。客観的な視点からアドバイスをもらえない点もデメリットといえます。
大手スクールの予備校や通信講座を利用する方法です。大手の場合は通学・通信どちらにも対応しているところが多く、選びやすいのが特徴。応用情報技術者試験の学習で利用した場合は、次の試験勉強も引き続き利用するとよいかもしれません。割引が適用される可能性があります。ただし、利用して合わなかったと感じている方は、他の方法への切り替えを検討してみてください。
■メリット
学習カリキュラムが充実しており、膨大かつ定量的なデータに基づく試験対策と学習計画を提案してくれます。教材も過去の出題傾向を徹底的に分析したデータをもとに作成されているため、重要ポイントに絞った効率化学習が可能です。また、通学講座であれば専門講師に直接アドバイスを受けられます。合格のコツや必勝法、スケジュールの組み方、合格者情報など、受験生にとって必要な情報を得やすい環境も大きな利点です。
■デメリット
3つの方法の中でもっとも費用がかかります。応用情報技術者試験でも払って、次、そのまた次の試験でも通学・通信を利用、となれば大きなコスト負担を感じるかもしれません。通学講座を利用する場合は交通費もかかります。金銭的なデメリットが一番大きいのがこのスタイルの悩みどころです。スクール通いの場合、自分のペースで学習できない問題もあります。自分のスケジュールを既定のカリキュラムに合わせる必要があるため、仕事の関係で通うのが難しいケースも。学校のペースについていけないとモチベーションにも影響するため注意が必要です。
オンライン講座は教材も講義もネット完結できる現代的な学習スタイルです。スマホ、タブレット、パソコンなどのデバイスとインターネット環境さえあればいつでもどこでも学習が可能。e-ラーニングのシステムを取り入れた、自宅学習向きの手法といえます。
■メリット
学習カリキュラムのレベルや充実度は通学・通信講座と比べても見劣りしません。これまでの試験対策で蓄積してきたデータをもとにカリキュラムが組まれており、出題傾向の分析も緻密に行われています。受講生は短期間の学習で効率的に知識を吸収できるのです。
スマホひとつで用語を覚えたり問題を解いたりできるので、通勤途中の電車・バス車内でも手軽に学習できます。このようにスキマ時間を最大限活用できるところもオンライン講座ならではのメリットです。
受講費用はかかるものの、通学講座の利用と比べればお得です。コストパフォーマンス重視であればオンライン講座の受講を検討してみてください。
■デメリット
スマホやタブレットがないと通勤中のスキマ時間を使った学習は難しくなります。また、インターネットの利用プランによっては、通信コストが大きな負担になることも。自宅メインで学習を進めるなら通信コストがかかりすぎないようなプラン変更をおすすめします。
スマホの操作に慣れていないと不利といったデメリットもありますが、応用情報技術者試験の合格者に関していえば当てはまらないでしょう。むしろIT分野のスペシャリストなので、オンライン講座との相性は抜群ともいえます。デメリットよりメリットのほうが高いと思われる場合は利用をおすすめします。
***
応用情報技術者に加え、スペシャリスト系資格も備えれば大きなアピールポイントとなり、将来のキャリアアップも見込めます。知識の定着がしっかりした合格直後こそ、学習効率が上がるため、勉強をはじめるホットなタイミングともいえるでしょう。午前試験の一部が免除されるなどアドバンテージも大きく、複数ライセンスの取得を目指す方は狙い目です。どれを選ぶかは、応用情報技術者試験との関連性や試験スケジュール、対策の取りやすさ、ご自身の業務との関連度などを総合して決めるとよいでしょう。どれも高度IT人材と呼ぶに値するライセンスなので、将来プラスになることは確実です。