登録販売者とは?
登録販売者とは、2009年に施行された改正薬事法により新たに登場した、医薬品販売に関する資格です。
それまでは、医薬品販売に関する資格は「薬剤師」と「薬種商」に分かれていたなか、薬種商が廃止され登録販売者が新設されました。
登録販売者の仕事は、医薬品の販売に関する業務全般です。
お客様や患者への薬の案内、副作用の説明、アドバイスなど、単なる事務作業ではなく、相手とコミュニケーションを取りながら仕事をこなす必要があります。
私たちが薬を選ぶうえで欠かせない存在となっており、今後も需要が拡大していくと見られます。
登録販売者がもたらしたもの
登録販売者のニーズが高まっているのは、「お客様や患者への医薬品販売をサポートできるから」という理由だけではありません。
そのほかにも、登録販売者は以下のような役目を果たしています。
薬剤師の負担軽減
登録販売者が登場する前は、薬剤師が医薬品の「調剤業務」と「販売業務」の両方をこなしていました。
その負担は大きく、業界内では薬剤師不足が常に叫ばれていたのです。
登録販売者が新設されてからは、2つの業務のうち販売業務を登録販売者に任せることができ、薬剤師の負担が大きく軽減されています。
そのため、現在薬剤師のいるドラッグストアや薬局でも登録販売者を積極的に雇用しており、今後も需要は拡大していくと考えられます。
資格試験の合格者数を見ても、2022年における薬剤師の合格者数が9,607人なのに対し、登録販売者は24,707人と2倍以上です。
後述する「セルフメディケーション」の推進などにより、店頭で医薬品を扱えるプロ人材の需要が増すなか、登録販売者が重要な役割を担うことがわかるでしょう。
医薬品販売店舗の増加
登録販売者制度が創設される前は、医薬品を販売できる場所は薬局・薬店・ドラッグストアに限られていました。
日常的に服用する薬や副作用の小さな薬についても、遠くまで買いに行かなければならず、郊外などお店の少ない地域では不便だったという方も多いでしょう。
しかし、登録販売者が誕生した際の法律改正により、常駐の登録販売者がいる場合はドラッグストアや薬局以外の店舗でも医薬品を販売できるようになりました。
これにより、お客様はより便利に医薬品を購入できるようになったのです。
登録販売者の就職先はドラッグストアや薬局だけでなく、スーパーやコンビニ、家電量販店などにも広がっています。
今後さらに別の業界が参入する可能性も十分考えられるでしょう。
関連記事:登録販売者の就職先はドラッグストア以外にもある?多様な働き方を紹介
ただし、登録販売者はすべての医薬品を販売できるわけではありません。
一般用医薬品のうち、第2類医薬品と第3類医薬品のみ販売できます。
副作用について特別な注意が必要とされる第1類医薬品については、薬剤師のみ扱うことができます。
関連記事:登録販売者資格とは?仕事内容や取得のメリット、難易度を解説
「2分の1ルール」廃止で登録販売者はいらなくなる?
「登録販売者の仕事がなくなる」という意見は、2分の1ルール廃止に伴って一時的に登場したものだと考えられます。
ここでは、2分の1ルールの概要や廃止の背景、登録販売者の仕事におよぼす影響について解説します。
そもそも「2分の1ルール」とは?
まず前提として、薬の販売は登録販売者(または薬剤師)が店舗にいる時間だけ行えるものです。
お店に薬の商品があっても、登録販売者(または薬剤師)がいないと売ることはできません。
「2分の1ルール」とは、医薬品を販売する店舗に課せられていたルールです。
医薬品を扱う場合は、営業時間の半分以上の時間において、薬剤師または登録販売者を配置する必要があると定められていたのです。
簡潔に言えば、薬を売るなら営業時間の2分の1以上薬を売れる状態(=登録販売者か薬剤師が店舗にいる状態)にしておいてね、というルールです。
正式名称は「薬局並びに店舗販売業及び配置販売業の業務を行う体制を定める省令」で、厚生労働省が1964年に示しました。
「2分の1ルール」が2021年8月1日に廃止に
しかし、同省令が2021年8月1日に改正され、「2分の1ルール」は廃止となりました。
これにより「薬を売るなら営業時間の2分の1以上薬を売れる状態(=登録販売者か薬剤師が店舗にいる状態)にしておく必要がある」という制限が無くなりました。
【補足】
撤廃の背景には、大手コンビニエンスストア企業が規制緩和を求めてきたことがあります。
コンビニはご存じの通り24時間営業のところが多く、医薬品を販売する店舗を作ろうとすると、12時間以上薬剤師か登録販売者を置かねばなりません。
長時間薬剤師や登録販売者を店舗に配置しようとすると、人材不足に陥ったり人件費がかさんだりしてしまうため、医薬品販売のネックになっていたのです。
登録販売者が必要なことは変わらない!
「2分の1ルール」の撤廃によって規制が緩和され、医薬品を扱う店舗は今後増えていくと考えられます。
ドラッグストアだけでなく、コンビニやスーパー、その他の小売業も医薬品販売に乗り出してくるでしょう。
しかし、医薬品販売の大前提である「登録販売者(または薬剤師)でなければ、薬は売れない」という事実は変わりません。
そのため、医薬品を扱う店舗が増えれば、それに伴って登録販売者の需要もさらに増えていくでしょう。
登録販売者が必要とされる状況は今後も続くと考えられます。
仕事をしていないと登録販売者の資格がなくなる?
登録販売者の資格には有効期限がないため、医薬品販売の資格がなくなることはありません。
試験合格後すぐに仕事を始めなかったからといって、資格は失効しないのです。
ただし、試験に合格していても、以下いずれかの要件を満たさなければ正規の登録販売者とはならず、「研修中」との扱いになります。
単独での医薬品販売ができないため、求人応募の際にネックになる可能性があります。
- 直近5年以内に2年以上かつ通算1,920時間以上の実務経験
- 直近5年以内に1年以上かつ通算1,920時間以上の実務経験に加え、指定の追加的研修を修了(令和5年4月1日より適用)
また一度条件を満たしても、長期にわたって仕事から離れていた場合、要件を満たせなくなる可能性があります。
仕事をしていなくても資格自体が失効することはありませんが、正規の登録販売者としてステップアップしていきたい場合は常に要件を満たすように気を付けましょう。
関連記事:登録販売者に必要な実務経験とは?期間や時間などの条件、証明書について解説
登録販売者の現状と将来性
登録販売者は登場から10年以上が経過し、医薬品業界になくてはならない存在となっています。
そこで、過去数年間の登録販売者試験の受験者数や合格者数から、現状について考えてみましょう。
実施年度 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率
(全国平均) |
2022年 | 55,606人 | 24,707人 | 44.4% |
2021年 | 61,070人 | 30,082人 | 49.3% |
2020年 | 52,959人 | 21,953人 | 41.5% |
2019年 | 65,288人 | 28,328人 | 43.4% |
2018年 | 65,500人 | 27,022人 | 41.3% |
2017年 | 61,126人 | 26,606人 | 43.5% |
2016年 | 53,369人 | 23,330人 | 43.7% |
2015年 | 49,864人 | 22,901人 | 45.9% |
2014年 | 31,362人 | 13,627人 | 43.5% |
2013年 | 28,527人 | 13,381人 | 46.9% |
参考:厚生労働省「これまでの登録販売者試験実施状況等について」
2018年と2019年はほぼ横ばいになっているものの、それまでは毎年受験者数が増加していたことがわかります。
それにともない合格者数も増えており、2019年には3万人弱の合格者が出ています。
2020年の受験者数は減少していますが、新型コロナウイルス感染症の影響もあるため、登録販売者自体の人気やニーズが減ったと一概にはいえません。
登録販売者の活躍の場はドラッグストアや薬局、ホームセンター、コンビニ、スーパー、家電量販店などさまざまな業種に広がっています。
2分の1ルールが廃止されたことで、より広がりは加速すると考えられます。
医薬品の販売コーナーを併設する店舗も増えているため、登録販売者の将来性は十分あると考えられるでしょう。
以下では、登録販売者の将来性について、そのほかの視点から考察します。
セルフメディケーションの推進
少子高齢化により、医療費をはじめとした社会保障費が増大しており、国の財政を圧迫しています。
そこで、現在国が推進しているのが「セルフメディケーション」です。
セルフメディケーションとは、自分の健康について自分で責任をもち、軽い体調不良であれば一般用医薬品を利用して自分で手当てすることを指します。
風邪をひいたときはドラッグストアで風邪薬を買ったり、少しケガをしたら絆創膏を貼ったりと、普段から多くの方が心がけていることに国全体で取り組もうという施策です。
しかし、医薬品には無数の種類があり、時にはAとBのどちらを選ぶべきか迷ってしまうことも少なくありません。
登録販売者が店頭にいれば、いつでも薬の効能や副作用についてアドバイスを受けることができ、セルフメディケーションの推進が期待できます。
お客様一人一人のセルフメディケーションを助けるという立場から、社会貢献をすることができます。
地域包括ケアシステムの確立
「地域包括ケアシステム」とは、高齢者が要支援・要介護の状態になっても、住み慣れた場所で自分らしい暮らしを続けられるよう、住まいや医療、介護を包括的に提供する仕組みのことです。
高齢化の進行によって医療や介護の需要が今後さらに高まることを見越し、現在厚生労働省を中心に取り組みが進められています。
地域包括ケアシステムを確立していくには、医薬品に関して高い専門性と知識をもっている登録販売者の存在が欠かせません。
登録販売者は、今後も地域包括ケアシステムを支える存在として、需要が高まり続けると考えられます。
薬剤師よりも低い雇用コスト
資格の取得難易度などを考慮し、薬剤師は登録販売者より給与・待遇面で優遇される傾向にあります。
しかし、薬剤師と登録販売者では重なる業務も多く、とくに小売業の現場ではコストをかけてまで薬剤師を雇用するメリットがないケースも少なくありません。
薬剤師と比べてコストを抑えられ、一般用医薬品の多くを販売できる登録販売者の需要は、今後も拡大していくでしょう。
インターネットを通じた新たな販売経路の登場
コンビニやホームセンターなど医薬品を取り扱う店舗の幅が広がっていることに加え、インターネットを通じた新たな販売経路も登場しています。
Amazonや楽天などのショッピングモールサイトで医薬品を購入した経験がある方は少なくないでしょう。
また、近年では「遠隔販売」という新たな取り組みが注目されています。
一般社団法人日本フランチャイズチェーン協会が提案している「遠隔販売」は、医薬品に関する説明・相談対応をインターネット上で行うことで、店舗に医薬品のプロがいなくても販売が可能な仕組みを作るものです。
インターネットショッピングの浸透によって便利になったものの、到着には数日かかることが少なくありません。
遠隔販売が浸透すれば、インターネット上で薬剤師や登録販売者に相談したあと、近隣の店舗ですぐに医薬品を購入できるとされています。
このような仕組みが導入されれば、登録販売者の活躍機会はさらに増えるでしょう。
登録販売者の資格を取っておくべき方とは?
登録販売者は現在学生の方だけでなく、別の業界に就職している方が取得するケースも珍しくありません。
ここでは、登録販売者の資格を取っておくべき方をご紹介します。
小売業界に勤めている方
現在小売業界に勤めている方は、登録販売者の資格に挑戦する価値があります。
前述の法律改正によって、常駐の登録販売者がいればどのお店でも医薬品を販売できるようになりました。
そこで、登録販売者を取得し店舗責任者となることで、店舗としての取扱商品の幅を広げられます。
資格を取得すると資格手当などを受け取れるケースもあるため、給与や待遇面の向上も期待できます。
体や健康に関する専門資格をもっている方
体や健康に関する専門資格をもっている方であれば、登録販売者の資格を取得することでより幅広いニーズに応えられます。
たとえば、柔道整復師やあん摩マッサージ指圧師と合わせて登録販売者の資格をもっていると、施術だけでなく個人の身体の状態に応じた漢方薬や湿布薬の販売・アドバイスなどが行えるようになります。
施術を受ける人にとっても、治療を受けるだけでなく薬に関する助言をもらえるため、より大きなメリットを感じるはずです。
介護業界に勤めている方
登録販売者は介護業界でも需要が高まっています。
介護が必要な高齢者は、生活支援を受けるだけでなく薬やサプリメントを摂取しているケースがほとんどです。
登録販売者の資格をもっていれば、副作用のチェックや飲み合わせの確認などを迅速に行うことができ、現場で重宝されます。
介護業界に興味がある場合は、合わせて登録販売者試験に挑戦してみてはいかがでしょうか。
美容業界に勤めている方
エステティシャンや化粧品売り場に勤めている方など、美容業界に関係の深い方にも登録販売者はおすすめです。
医薬品に関する知識は、施術や商品の販売に役立つでしょう。
登録販売者の資格と合わせて取っておくと役立つ資格は?
登録販売者はさまざまな業界から需要のある資格ですが、取得難易度はそれほど高くないため、それだけでは差別化にならない可能性もあります。
そのような場合に備え、登録販売者の資格と合わせて取ると就職や転職に役立つ資格をご紹介します。
医療事務
数ある資格のなかでも人気があり、おすすめなのが「医療事務」です。
登録販売者は一般用医薬品に関する専門知識を取得できるものの、病院でしか処方されない医薬品について学ぶ機会はありません。
医療事務の資格に挑戦することで、登録販売者では扱えない医薬品の知識を得ることができ、取得すれば病院への就職も可能になります。
通信教育で勉強でき、登録販売者で培った知識を活かすことができるのも魅力です。
ビューティーアドバイザー
化粧品売り場のあるドラッグストアやショッピングモールへの就職を希望しているのであれば、ビューティーアドバイザーの資格もおすすめです。
ビューティアドバイザーとは、お客様の肌質や肌の色に合わせた化粧品の提案を行い、時には実際にメイクもする仕事です。
登録販売者の資格をもっていると、化粧品の提案時に医学的な見地からアドバイスができ、説得力がアップします。
登録販売者を取るのは実務経験を積んでから?
登録販売者試験には、受験資格が存在しません。年齢や学歴などの要件がなく、いつでも自由に挑戦できます。
そのため、資格を取得するタイミングはドラッグストアなどに就職する前でも後でも問題ありません。
自分がもっとも勉強意欲があるときに挑戦するのがよいでしょう。
しかし、就職や転職を考えて登録販売者試験に挑戦するのであれば、勤める前に取得しておくのがおすすめです。
ドラッグストアのなかには、店舗責任者として登録販売者を雇用しようと考えているところが多く、その場合は資格をもった方しか応募できません。
事前に登録販売者の資格を取っておくと、選べる就職先の幅が広がります。
ただし、店舗責任者として勤めるためには、前述の通り以下いずれかの要件を満たす必要があります。
- 直近5年以内に2年以上かつ通算1,920時間以上の実務経験
- 直近5年以内に1年以上かつ通算1,920時間以上の実務経験に加え、指定の追加的研修を修了(令和5年4月1日より適用)
経験が十分でない場合は、まずは登録販売者研修生として業務にあたることになるため、事前に求人内容を確認しておきましょう。
また、登録販売者として働くには勤務地の都道府県へ販売従事登録申請を行う必要があります。
試験の合格後に就職する場合は、勤務先が決まってからしか申請できない点に注意しましょう。
関連記事:登録販売者の販売従事登録とは|必要な手続きや期限、登録料について解説
まとめ
本記事では、登録販売者の仕事がなくなるという意見について、現状や将来性を踏まえて解説しました。
ポイントをまとめると、以下の通りです。
- 登録販売者は薬剤師の負担軽減や医薬品販売店舗の増加に貢献している
- 2分の1ルール廃止により仕事がなくなるとの意見もあった
- しかし、実際には規制緩和によって店舗が増え、活躍機会も増えると考えられる
- さらに政策による後押しなどもあり、十分な将来性がある資格といえる
- 小売・介護・美容の業界では、登録販売者の資格を取得することで仕事の幅が広がる
- 医療事務やビューティーアドバイザーなどと合わせて取得するのも効果的
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