ITストラテジスト試験は、経済産業省が管轄、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が実施する国家試験です。ITを活用した事業戦略の策定から提案、推進までを担う高度IT人材を選抜する試験となります。例年4月の第3日曜日に実施されており、システムアーキテクト試験やネットワークスペシャリスト試験などと同日開催です。
ITストラテジスト試験は、12ある情報処理技術者試験のなかでも特に高度な知見とスキルが要求される、「高度情報処理技術者試験」に分類されています。合格率は例年14〜15%前後で推移しており、しっかりとした対策が必要な難関資格といえるでしょう。
ITストラテジスト試験に合格するには、「午前Ⅰ試験」「午前Ⅱ試験」「午後Ⅰ試験」「午後Ⅱ試験」の4つの科目を1日で受験し、合格点を獲得する必要があります。知識だけでなく、肉体的・精神的なタフさも求められる試験です。
【出典】「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 推移表(平成21年度春期以降)」(IPA 情報処理推進機構)
https://www.ipa.go.jp/shiken/reports/hjuojm000000ll0f-att/suii_hyo.pdf
試験当日、最初に実施されるのが午前Ⅰ試験です。試験内容に関しては、以下の表をご確認ください。
試験時間 |
出題形式 |
出題数/解答数 |
問題別配点 |
合計点/基準点 |
採点方式 |
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午前Ⅰ |
9:30~10:20 |
四肢択一 |
30問/30問 |
各3もしくは4点/1問 |
100点/60点 |
多段階選別方式 |
午前Ⅰ試験最大の特徴は、同日に開催されている「応用情報技術者試験」の午前問題がそのまま流用されている点です。応用情報技術者試験の午前問題は80問あり、そのうち30問が午前Ⅰ試験で出題されます。こちらはITストラテジスト試験だけでなく、高度情報技術者試験共通の特徴です。
また、午前Ⅰ試験には免除制度も用意されています。具体的には、次のいずれかの条件を満たした場合、午前Ⅰ試験をパスして午前Ⅱ試験から受験可能です。午前Ⅰ試験の免除者は、午前Ⅱ試験の開始に合わせて試験会場に入室できるため、当日の朝にゆとりが生まれるというメリットもあります。
午前Ⅰ試験の免除条件 |
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午前Ⅰ試験の対策は、過去問演習が基本です。ただし、午前Ⅰ試験の過去問を使用するのではなく、応用情報技術者試験の午前試験の過去問で対策を行いましょう。
先に説明した通り、午前Ⅰ試験の問題は、応用情報技術者試験の午前試験の一部が流用されています。応用情報技術者試験の過去問を使用することで、選ばれなかった50問も含めて対策できるため、この方法がおすすめです。
午前Ⅰ試験では、過去問と同じ問題や同様の知識を使った問題も一定数出題されます。過去問演習を徹底的に行うことでこれらの問題に必ず対応できるようにしておき、合格点の60点を目指しましょう。
ITストラテジスト午前Ⅰ試験について |
次に実施されるのが午前Ⅱ試験です。午前Ⅱ試験の概要は、以下の表の通りです。
試験時間 | 出題形式 | 出題数/解答数 | 問題別配点 | 合計点/基準点 | 採点方法 | |
午前Ⅱ | 10:50~11:30 | 四肢択一 | 25問/25問 | 各4点 | 100点/60点 | 多段階選抜方式 |
午前Ⅱ試験は、ITストラテジスト試験オリジナルの問題が出題されます。問われる知識や技能は、午前Ⅰ試験と比べて高度なものになっており、本格的な試験のスタートといえます。
午前Ⅱ試験の特徴は、出題範囲がストラテジ系と情報セキュリティの2つである点です。午前Ⅰ試験の出題範囲がテクノロジ系・マネジメント系・ストラテジ系と広いのに対して、午前Ⅱ試験は上記2つに絞られています。より深い知識が求められるものの、出題範囲が狭い分、対策はしやすい傾向にあります。
また、午前Ⅱ試験の全25問のうち、7〜8割がストラテジ系の問題である点も特徴です。ストラテジ系の問題にすべて正解できれば、合格点の獲得に大きく近づきます。午前Ⅱ試験の勉強を行う際は、ストラテジ系を中心に取り組みましょう。
午前Ⅱ試験の対策は、午前Ⅰ試験と同様、過去問演習が基本です。ITストラテジスト試験の過去問を使用し、繰り返し演習を行いましょう。50分の試験時間に合わせた本番形式で、演習することが大切です。
また、午前Ⅱ試験では過去問と類似した問題だけでなく、新規問題も出題されています。具体的には、最新の経営戦略やマーケティング、UXなどに関する問題が近年増えています。ITエンジニア向けの専門書や別の高度情報処理技術者試験の参考書などにも目を通し、最新事例の情報も収集しましょう。
そのほかには、午前Ⅰ・午前Ⅱ試験共通の対策として、選択肢を「削る」練習も重要です。どれだけ入念に対策した場合でも、本番ではわからない問題や答えに迷ってしまう問題が出題される可能性があります。
そのようなケースに備えて、試験勉強の段階から確実に正解ではない選択肢を削る練習をすると良いでしょう。4つの選択肢のうち、1つでも2つでも削ることができれば、未知の問題の正解率を大きく引き上げられます。
ITストラテジスト午前Ⅱ試験について |
お昼休みを挟んで最初に行われるのが午後Ⅰ試験です。試験の概要は、以下の表をご確認ください。
試験時間 | 出題形式 | 出題数/解答数 | 問題別配点 | 合計点/基準点 | 採点方法 | |
午後Ⅰ | 12:30~14:00 | 記述式 | 3問/2問 | 各50点 | 100点/60点 | 多段階選抜方式 |
午後Ⅰ試験では、記述式の問題が出題されます。問題文には架空の企業に関する説明と、それを踏まえた設問が用意されており、受験者は指定された文字数で解答する形です。指定文字数は10〜50文字程度と少なく、問われている内容に対して簡潔にまとめて解答する能力が求められます。
午後Ⅰ試験の対策は、インプットとアウトプットの繰り返しが基本です。インプットではスキマ時間を活用して参考書の読み込みやオンライン講座を受講し、過去問や問題集を使ってアウトプットに取り組みます。何度も繰り返すことで、試験問題の傾向や自分なりの解答手順をつかみましょう。
午後Ⅰ試験では、「問題文にヒントや解答がある」という先入観を持って取り組むことが大切です。実際、午後Ⅰ試験の問題文には設問の答えにつながる要素が散りばめられており、解答例も問題文の用語をそのまま使用したものが多くあります。最初から問題文のヒントを活用するつもりで読み進めれば、運営側の意図を汲み取りやすくなります。
また、午後Ⅰ試験の問題演習を行う際は、不正解となった理由を分析することも重要です。結果や点数に一喜一憂するのではなく、「なぜ間違えたのか」を明確にし、似た問題が出題された場合に正解できるよう対策しましょう。午後Ⅰ試験の不正解のパターンには、主に以下の3種類があります。
問題文のヒントに気付けなかった場合や、選ぶヒントを間違えた場合は、午後Ⅰ試験に対する経験値が足りない傾向にあります。原因を究明したうえで引き続き問題演習に取り組み、問題文から適切なヒントを読み取る力を養いましょう。
一方、ヒントの有無に関わらず適切な解答を導けなかった場合は、前提となる知識が不足している可能性があります。闇雲に勉強しても成果につながらないおそれがあるため、一度インプットに立ち返るなど知識の習得に努めるのが効果的です。
ITストラテジスト午後Ⅰ試験について |
ITストラテジスト試験の最後に行われるのが午後Ⅱ試験です。午後Ⅱ試験の詳細は、以下の表をご確認ください。
試験時間 | 出題形式 | 出題数/解答数 | 問題別配点 | 合計点/基準点 | |
午後Ⅱ | 14:30~16:30 | 論述式 | 2問/1問 | なし | A〜Dランクで評価される |
午後Ⅱ試験では、論述式の問題が出題されます。特定のテーマに関する短い文章と設問を読み、指定された文字数で解答する形式です。午後Ⅰ試験との違いは、記述する文字数にあります。午後Ⅱ試験では、3つの設問で計2,000〜3,000文字の論述が要求され、知識だけでなく文章の構成力なども必要です。
午後Ⅱ試験の対策では、事前のネタ作りが合否の鍵を握ります。午後Ⅱ試験では120分で3,000字前後の論文を完成させる必要があり、当日にテーマを確認して一からアイデアを検討し、解答に反映させるのは現実的ではありません。
そのため、頻出のテーマについては「この内容をこの順番で書く」というストーリーを用意しておくと、説得力のある文章を書きやすくなります。過去問や問題集を確認し、よく見かけるテーマや実務で触れる機会の多いテーマを抜き出してネタ作りを行いましょう。
また、論文を作成する際は、誰にとっても読みやすい文章で書くことも大切です。誤字・脱字に注意するのはもちろん、できる限りわかりやすい表現を使用しましょう。ITストラテジスト試験は、公募で決まった試験委員によって採点されます。論文の採点に慣れている方が採点してくれるとは限らないため、読みやすい文章を心がけましょう。
ITストラテジスト午後Ⅱ試験について |