そもそも、ITストラテジストはさまざまな意味を持つ言葉です。まずは特定の職種を表すパターン。ITストラテジストは、システム開発の超上流工程においてIT戦略の立案などを担当する、エンジニア系上級職のひとつです。現代では、さまざまな業界・業種でIT化やDXが推進されており、最新の技術や知見に長けたITストラテジストは重要な役割を担います。
次は、ITストラテジストという名称の国家試験を指すパターン。ITストラテジストは、IT系の国家試験のなかでも最上位の資格とされており、情報処理技術者試験のなかでも難易度の高い「高度情報技術者試験」に位置づけられています。試験は例年4月第3週の日曜日に実施されており、受験資格はなく、誰でも受験が可能です。
情報処理技術者試験には、ITストラテジスト試験以外に以下のような種類があります。
レベル |
試験名 |
レベル1 |
ITパスポート試験 |
レベル2 |
基本情報技術者試験 情報セキュリティマネジメント試験 |
レベル3 |
応用情報技術者試験 |
レベル4 |
ITストラテジスト試験 エンベデッドシステムスペシャリスト試験 システムアーキテクト試験 ネットワークスペシャリスト試験 データベーススペシャリスト試験 プロジェクトマネージャ試験 ITサービスマネージャ試験 システム監査技術者試験 |
なお、ITストラテジストは、必ずしも資格を保有していなければいけない職種ではありません。資格を持っていない方でも、実績や経験によってはITストラテジストとして活躍できます。ただし、自分が持つ能力をわかりやすく証明するためには、資格の取得が近道といえるでしょう。
ITストラテジストの仕事内容は多岐にわたります。ここでは、ITストラテジストに期待される主な役割を5つご紹介します。
まずは、企業が直面している課題の調査・分析を行います。現場の責任者や経営層にヒアリングを行い、経営課題を抽出する工程です。この際、すでに表面化している課題だけでなく、今後の露見が予想される、企業に内在している課題についても抽出・分析を行うことが求められます。
次のプロセスでは、企業課題の解決に役立つIT戦略を立案し、経営層にプレゼンテーションを行います。システム開発や新たなITソリューションの導入などを検討し、企業が抱える課題を最短で解決できるルートをデザインします。また、単にシステムを導入するだけでなく、導入方法やタイミング、現行システムとの整合性などを確認し、システム全体を俯瞰して戦略を立案することが大切です。
策定したIT戦略が承認されたら、実現に必要なシステム開発計画を作成し、現場へ共有します。戦略全般の計画からアーキテクチャ(基盤構成)の検討まで行うのが一般的です。全体の設計が完了した後は、個別のシステム化計画の作成も進めます。
戦略立案や計画の策定が完了したら、プロジェクトを立ち上げて実行へ移します。この際、ITストラテジストが行うのは、プロジェクト全体のモニタリングです。リスク管理や分析、トラブルへの対処などを行い、プロジェクトが円滑に進むようサポートに努めます。
プロジェクトに関して現場で指揮を執るのは、主にプロジェクトマネージャの仕事です。ITストラテジストと連携を取りながら、進捗の管理や意思決定を行います。なお、現場によってはITストラテジストがプロジェクトマネージャを兼任するケースも。その場合、PMO(Project Management Office)コンサルタントという人材を配置し、マネージャのサポートを任せることがあります。
また、プロジェクトの完了後はITストラテジストが評価を行い、経営層へフィードバックします。
一連の業務フローとは関係ありませんが、ITに関連する最新情報を常にキャッチアップし、分析することもITストラテジストの重要な仕事です。ITストラテジストが策定する戦略は、企業課題の解決にフィットしたものでなければなりません。そのため、日頃からハードウェアやソフトウェア、プログラミング、知的財産などに関する最新情報に触れ、知識をアップデートしていくことが求められます。
ITストラテジストに必要なスキルは、主にテクニカルスキルとヒューマンスキルの2種類に大別されます。それぞれについて詳しく確認しましょう。
IT系の職種に求められるテクニカルスキルといえば、プログラミングスキルを連想する方が多いでしょう。しかし、ITストラテジストの場合、現場で開発業務に携わる機会はほとんどないため、高度なプログラミングスキルを持っている必要はありません。実際、エンジニア経験のない方がITストラテジストとして活躍するケースも多くあります。
一方、ITストラテジストに求められるテクニカルスキルは、ITに関する深い知見やそれを活用して経営課題をどのように改善していくかなどの実践的な能力です。そのほかには、企業におけるITの活用状況や課題を調査し、IT戦略を立案するスキルも要求されます。
ITストラテジストに必要なヒューマンスキルには、提案力や実行力、コミュニケーションスキル、マネジメントスキルなどが含まれます。
ITストラテジストは、企業課題に応じたIT戦略を立案した後、経営陣や現場の責任者に向けてプレゼンテーションを行う必要があります。その際、提案内容を理解してもらい、承認を得るための提案力が必要です。
経営陣のなかには、最新のIT技術に関する知識が不足している方もいます。そのため、プレゼンテーションを行う相手のリテラシーに合わせて専門用語を使い分け、わかりやすく説明する能力も必要とされるでしょう。
ITストラテジストには、自らが提案した戦略を実行し、やり切る能力が求められます。ITストラテジストは外部から派遣されるケースも多いため、プロセスも重視されるものの、確実な成果がもっとも重要です。成果を積み重ねることでITストラテジストとしての市場価値を高められます。
ITストラテジストが職務を実行する場面では、経営陣やプロジェクトマネージャ、エンジニアなどさまざまな職種とコミュニケーションを取る必要があります。そのため、プロジェクトを成功に導くためには、相手と正確に意思疎通を図り、連携する能力が問われます。必要に応じて自ら積極的にコミュニケーションを取り、意見を求める場合はしっかりと耳を傾けられる人材ほどITストラテジストの適性があります。
ITストラテジストがプロジェクトの責任者やマネージャを兼任する場合は、特に高いマネジメントスキルも要求されます。スケジュール管理やリスク管理、システム導入後の保守や運用も含めてマネジメント力を発揮しなければなりません。
ITストラテジストの平均年収は、実務経験や実績によっても変動する可能性があるものの、600万〜700万円前後となっています。一般的なビジネスパーソンの平均給与が443万円(2021年)であることを考えると、高水準といえるでしょう。
【出典】「令和3年分 民間給与実態統計調査 調査結果報告」(国税庁)
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2021/pdf/002.pdf
ITストラテジストの年収が高くなりやすい理由としては、まず求められる能力水準が高いことが挙げられます。ITストラテジストは、単に最新のIT技術に関して「知っている」だけでは足りず、それを活用して事業を立ち上げ、どれだけの成果を出せるかが重要です。当然、必要となるITへの知見もより深いものになるため、その分給与面などの待遇もアップします。
また、試験の合格者の平均年齢が40歳前後と高い点も影響しています。ITストラテジスト試験の合格者は、組織である程度キャリアを積んでいる方が多いため、年収も高くなりやすいのです。直近5年間の試験について、合格者の平均年齢は以下の通りです。
年度 |
合格者の平均年齢(歳) |
平成29年度秋期 |
39.0 |
平成30年度秋期 |
39.7 |
令和元年度秋期 |
39.0 |
令和3年度春期 |
40.3 |
令和4年度春期 |
39.3 |
令和5年度春期 |
40.3 |
令和6年度春期 |
40.1 |
(注)令和2年度春期試験は、新型コロナウイルス感染症の影響で中止になりました。
なお、ITストラテジスト試験には、受験資格はありません。何歳でも受験可能であり、過去の試験では18歳の方が合格しています。
【出典】「令和3年分 民間給与実態統計調査 調査結果報告」(国税庁)
https://www.nta.go.jp/publication/statistics/kokuzeicho/minkan2021/pdf/002.pdf
【出典】「情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 統計資料」(IPA)
https://www.jitec.ipa.go.jp/1_07toukei/_index_toukei.html
ITストラテジストは市場での評価が高く、ニーズもあることから、さまざまなキャリアパスを描くことが可能です。しかし、資格が創設されてから日が浅く、まだロールモデルが明確になっていないのも現状です。以下では、代表的なキャリアパスをいくつかご紹介します。
ITストラテジストのなかには、IT系のコンサルティングファームへ転職し、コンサルタントとして働くケースもあります。ITストラテジストはすでに実務経験を積んでいる方が多く、即戦力として有利な条件で転職できるでしょう。プロジェクトマネージャの資格も保有していると、より就職先の選択肢が広がります。
特定の企業に所属するのではなく、ITコンサルタントとして独立開業する方もいます。ITストラテジストは会社経営に関する知見も豊富なため、自身のスキルを生かして事業を行っていきます。フリーランスの正確な収入は算出できませんが、会社員時代より多くの報酬をもらっている方も多いでしょう。
IT企業に勤める場合は、資格を生かしてシステム開発部の責任者やCIO(最高情報責任者)などのキャリアを歩むパターンもあります。経営者視点での提案もできる人材として企業から重宝されるでしょう。