ITストラテジストは、エンジニア系上級職のひとつで、企業におけるIT戦略の立案やプロジェクトの実行を担う人材のことを指します。現代の企業経営では、どの業界でもITツールの活用やIT戦略の立案が求められます。そのため、最新技術に関する知見も豊富なITストラテジストは、あらゆる業界で重宝される存在といえるでしょう。
また、ITストラテジストは、同名の資格そのものを指すこともあります。1年に1回「ITストラテジスト試験」が実施されており、それに合格すると国家試験であるITストラテジスを取得可能です。以下では、ITストラテジスト試験について簡単に解説します。
ITストラテジスト試験は、ITストラテジストの資格を取得する際に受験する試験です。経済産業省が管轄、IPA(独立行政法人情報処理推進機構)が試験を実施しています。IT系国家試験のなかでも難関の試験とされており、合格率は例年14〜15%前後で推移しています。実務経験者でもしっかりと対策する必要があるため、独学で試験合格を目指す場合はオンライン講座などを活用するのがおすすめです。
ITストラテジストの仕事内容は、プロジェクトの進行状況に応じて主に以下の4つに分けられます。
最初のステップでは、企業から依頼を受けて現状の分析と事業戦略における課題の抽出を行います。具体的には、現場の従業員や経営層にヒアリングを行い、企業に内在している課題を洗い出す役割が求められます。
自身が働く会社で職務にあたる場合は、業務の全体も把握しており、スムーズに作業を進められるでしょう。しかし、フリーランスのITストラテジストなど外部の企業から依頼を受ける立場の場合、一から業務内容を把握する必要があります。そのため、ITストラテジストには、ITに関する知見だけでなく高いコミュニケーション能力や傾聴力なども求められます。
次は、抽出した課題を解決するために、ITを活用した事業戦略を立案します。「戦略家」を意味する「ストラテジスト(Strategist)」という単語からもわかる通り、ITストラテジストの中心的な業務です。
事業戦略の立案は、単に「ITツールを導入して問題を解決する」ことにとどまりません。どのような手順で、誰が、いつ導入するのか、現在のシステムとの整合性に問題はないかなど、多角的な視点でシステム全体をデザインします。
次のプロセスでは、立案した事業戦略の実現に必要な土台(アーキテクチャ)の検討や、戦略全体のシステム化計画の策定などを行います。計画作成後は現場やプロジェクトマネージャに共有し、実行プロセスへと進みます。
ただし、ITストラテジストは、基本的にシステム開発作業を担当することはありません。アーキテクチャの開発も含めて、開発業務はITアーキテクトと呼ばれる人材が行います。ITストラテジストの業務は、「システム開発をスタートさせること」です。
プロジェクトが立ち上がった後は、ITストラテジストは専門家の立場からモニタリング業務を行います。リスク分析などを行い、全体を統制するのが主な役割です。
また、現場の責任者として指揮を執るのは、プロジェクトマネージャの仕事です。スケジュールや工程管理を行い、プロジェクトを円滑に進められる環境を整備します。現場によっては、ITストラテジストがプロジェクトマネージャを兼任するケースもあります。
ITストラテジストは、そのほかのIT系の職種と比較しても市場価値の高い職種です。就職や転職情報を確認すると、開発エンジニアを含むIT系の職種のなかでも年収が高く設定されています。ITの重要性が増している現代では、ITストラテジストの市場価値は今後も高まっていくと予想できるでしょう。
以下では、ITストラテジストの市場価値が高い理由を解説します。
ITストラテジストは、自身では開発業務を行わないものの、事業戦略を立案する必要があるため、ITに関する幅広い知識が求められます。一般的なエンジニアとは異なり、企業が抱える課題に応じた最適解を提示して解決までのルートを描く能力が必要です。より俯瞰的に現場を確認する能力や知識が求められるため、市場価値が高くなっています。
ITストラテジストには、IT知識と同様経営に関する知識や視点も必要です。企業全体における課題解決が求められるため、経営者の視点で戦略を立てる必要があります。現場の従業員に経営者視点を持って仕事をできる人材は少なく、ITストラテジストは重宝される存在です。
ITストラテジストは、一般的なビジネススキル意外にコミュニケーションスキルやプレゼンスキルなど、幅広い能力が必要です。「何か特定のスキルさえあれば活躍できる」ものではないため、自然と市場価値が高まりやすくなります。必要なスキルの詳細は後述します。
ITストラテジストの市場価値には、資格試験の難易度も影響しています。ITストラテジストは、資格が必須の職種ではありません。しかし、一定の技能を有していることを証明するため、国家試験であるITストラテジスト試験を受験する方が多い傾向にあります。
ITストラテジスト試験は、前述の通り情報処理技術者試験のなかでも難関の試験とされています。そのため、試験合格者の市場価値は高まりやすいのが特徴です。ITストラテジストの資格は、「実務経験5年分のスキルに相当する」ともいわれます。
なお、情報処理技術者試験には4段階のレベルが設定されており、ITストラテジストと同難易度であるレベル4に該当する試験は「高度情報処理技術者試験」と呼ばれます。詳細は以下の表をご確認ください。
レベル |
試験名 |
レベル1 |
ITパスポート試験 |
レベル2 |
基本情報技術者試験 情報セキュリティマネジメント試験 |
レベル3 |
応用情報技術者試験 |
レベル4 |
ITストラテジスト試験 エンベデッドシステムスペシャリスト試験 システムアーキテクト試験 ネットワークスペシャリスト試験 データベーススペシャリスト試験 プロジェクトマネージャ試験 ITサービスマネージャ試験 システム監査技術者試験 |
現代のビジネスシーンでは、IT業界に限らず、ほとんどの業界・業種でAIやIoTなどを含むIT技術の活用が欠かせません。特に近年は、DX戦略を進めて業務の効率化やIT化を図る企業が多く、同分野に精通するITストラテジストの需要は今後も高まり続けると考えられます。ITストラテジストは、類似したIT系資格のなかでも経営者に近い視点も持ち合わせており、現場だけでなく経営者層からも人気の高い人材です。
また、ITストラテジストは、需要に対して供給が不足していることから、将来性も高い職種といえます。ITストラテジスト試験が作られたのは2009年(平成21年)であり、毎年の合格者数も数百名であることから、市場にいる資格保有者の数はまだ足りていません。今から勉強を始めて資格合格を目指せば、就職や転職活動で有利な条件を勝ち取ることは十分可能です。
業務内容が多岐にわたるITストラテジストは、求められるスキルも幅広いのが特徴です。最後にITストラテジストに求められるスキルについて、代表的なものをご紹介します。
ITストラテジストの中心的な役割は、企業課題に応じたIT戦略の策定であるため、計画の立案力が重要視されます。経営者やマネージャへのヒアリングを通して企業が抱える課題の本質を理解し、根本的な解決が望める戦略を策定するのが理想です。もちろん、計画の立案には要件定義に関する知識や近年のITトレンドに対する理解など、高度なテクニカルスキルも要求されます。
ITストラテジストは、プロジェクト全体をモニタリングする立場として、エンジニア職からマネージャ、経営者までさまざまな立場の方と交流することがあります。その際に相手の意図を正確に把握し、こちらの情報を的確に伝えるためには、コミュニケーション能力も重要です。相手のリテラシーに応じた専門用語の使い分けなども求められます。
また、ITストラテジストのコミュニケーション能力には、経営層などに自身が策定したIT戦略をプレゼンテーションする能力も含まれます。
ITストラテジストは、企業のIT戦略における責任者として、プロジェクトを成功させるために強いリーダーシップを発揮しなければならない場面もあります。例えば、チームのメンバー間で意見が分かれている場合や、問題に直面して行きづまってしまった場合には、ITストラテジストが方向性を示す必要があるでしょう。
ITストラテジストがプロジェクトマネージャを兼務する場合などは、特にマネジメント能力が問われます。工程管理やリスク分析などを正確行い、最短ルートで成果をあげることが求められるでしょう。実務では、プロジェクトマネージャの資格も保有していると、より高い評価を得やすくなります。
今回は、ITストラテジスト試験の科目や勉強時間の目安、おすすめの勉強法についてお伝えしました。ITストラテジストは、試験のレベルや合格率を考慮しても、難易度の高い資格といえます。
そのため、多忙な社会人や未経験者の方が合格を目指すには、適切な勉強法で取り組む必要があります。勉強の進め方にお悩みの場合は、スタディングのオンライン講座をご検討ください。あなたオリジナルの復習問題集などを活用し、ライバルに差をつけることができます。