メンタルヘルスとは、人間の精神面における“心の健康状態”を指します。「精神保健」や「精神衛生」ともいい、メンタルヘルスの悪化で業務に支障をきたりしたり、精神障害を発症したりする恐れがあります。
具体的な症状としては、注意力欠陥や意思決定力・判断力の鈍化、イライラや焦燥感といった気分変調が見られます。さらにメンタルヘルスが悪化すると、「うつ病・抑うつ障害」や「統合失調症」、「PTSD(心的外傷後ストレス障害)」などの精神障害を発症。最悪の場合、自社の従業員を過労死・自殺に追い込みかねません。
2000年以降、精神障害を発端した労災認定件数は右肩上がりで増加。厚生労働省が公開した「数字と絵でわかる職場のメンタルヘルス」によると、2000年の労災認定件数36件であったのに対し、2015年は472件に倍増しました*。無論、労災補償における請求件数も、同時に増加しています。
このような現状において厚生労働省は、2015年12月に労働安全衛生法を改正。50人以上の従業員を抱える事業所に対し、「ストレスチェック」の実施を義務付けました。これは年に一度、厚生労働省および専門医準拠のストレスチェック・マニュアルの結果に基づき、事業者が従業員に対し、適切な面接指導を行う制度です。
定期的に従業員の“心の健康状態”を検査することで、メンタル不調の早期察知や精神障害の発症予防、過労死・自殺を防ぐ狙いがあります。また、従業員のメンタルヘルス向上により、職場環境の改善や個々の生産性向上に繋がると期待されています。
ストレスチェックは、労働者目線に立つと、「配られた質問票を記入して提出して終わり」といった簡単なものです。ですが、実は誰でも実施できるというわけではありません。
ストレスチェック制度では、実施体制がきちんと決められています。
大きな流れとしては下記の通りです。
1、事業者がストレスチェックの実施・方針を決定する
2、ストレスチェック制度担当者が、実施計画の策定・管理を行う
3、実施者が、必要に応じて実施事務従事者に指示を出しながら、ストレスチェックの実施を行い、調査票の回収やデータ入力等を行う
もしくは、ストレスチェックの実施を外部機関に委託する場合もあります。
ストレスチェック制度を正しく運用し、間違っても労働者の不利益につながることのないように、実施者や事務を担当できる者には規定があります。
第52条の10法第66条の10第1項の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者(以下この節において「医師等」という。)とする。
① 医師
② 保健師
③ 検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師
2 検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない。 (労働安全衛生法 規則より抜粋)
厚生労働省の資料では、事業場で選任されている産業医が実施者として最も望ましいとしています。他には、産業医として選任されていなくても、日ごろから事業場の状況を把握している産業保健スタッフも望ましいとしています。
また、前述の規則では労働者の人事に関して直接の権限を持つ監督的地位にあるもの、つまり上司は、事務に就いてはならないとしています。事務は労働者の行ったストレスチェックの結果を知り得る場合があるためです。
例えば、メンタル不調の傾向が見られる社員をプロジェクトのチームから外したり、報酬を不当に減らしたりするようなことがあってはなりません。
ストレスチェックは法律で定められた厳密な制度なのだということを理解して、実施する必要があります。
面接指導とは、労働者と医師による面接のことを言います。
これも法律で定められている制度で、面接指導の対象の要件を満たした労働者に対して、面接指導を行わなければならない、としています。その要件は、「高ストレス者として選定された者」かつ「面接指導を受ける必要があると実施者が認めた者」で、「労働者からの申出」があることです。
つまり、ストレスチェックの結果で規定以上のストレスを認められた労働者が、面接を自ら望んだ場合に、行わなければならないものです。
面接指導では、医師がストレスチェックの結果をもとに、ストレスの要因を聞き取り対応を検討します。ポイントは、職場内で対応ができるような、職場や職務に対するストレスの原因がないかを探るということです。
面接指導を行った医師は、最終的に事業者に意見を伝えます。労働者の負担を減らすための措置に対するアドバイスや、組織のメンタルヘルスケア体制の見直しの必要性などを伝え、事業者や人事労務管理に関わる社員と連携した対応を行います。
ストレスチェックは、職場で行われるメンタルヘルスケアの3つの段階のうち、未然防止を目的としている「一次予防」にあたります。
メンタルヘルスケアの3つの段階
段階 |
内容 |
1次予防 【未然防止・健康増進】 |
メンタルの不調を予防する段階。従業員によるセルフケアや、企業側による労働環境の改善なども含まれる。 ストレスマネジメント研修やストレスチェック制度を導入している企業もある。 |
2次予防 【早期発見】 |
メンタルの不調が見られる従業員を、早期発見し、適切に対処する段階。 相談窓口の設置や産業医との面談などの施策が代表的。外部サービスと連携を行うケースも多い。 また、職場内で気軽に相談できる雰囲気作りも大切。 |
3次予防 【職場復帰支援・再発予防】 |
メンタルの不調が原因で休職した従業員の職場復帰を支援し、再発を予防する段階。 時短出勤の支援や精神面でのフォローが基本。専門医や産業医の協力が不可欠 |
メンタルの不調を抱えた従業員は、遅刻や欠勤が多くなったり、基本的な作業でもミスが増えたりします。今まで通りのペースで業務を処理するのが難しくなり、休職や離職につながるケースも少なくありません。
ストレスチェックを実施することで、そういったケースに陥っている、または陥りそうな従業員を探すことができます。メンタル不調になってしまうと、従業員本人から自発的に上司や周囲の同僚に相談するようなことは困難です。定期的にストレスチェックを行うことで、メンタルの不調や精神疾患の恐れを早めに発見し、産業医につなげたり、職場環境の改善などを行うことができます。
ストレスチェック制度は労働者にとってもメリットがあります。
ストレスチェック制度の結果は、労働者本人に通知されますので、自分の心身のストレス状況を把握するヒントを得られます。セルフケアの方法を知っている方であれば、重大なメンタル不調に陥る前に、それを予防するケアを行うこともできるでしょう。
結果が会社や上司に知られてしまうのではないか、と不安に思う方もいると思いますが、事業者への結果の通知には、本人の同意がなければできません。また、第三者に結果を漏らすことも法律で禁じられているので、プライバシーは守られます。
もしストレスチェックで高ストレスという結果が出た場合は、労働者から申し出をすることで産業医等との面接指導も受けることができます。
労働者本人のストレスの元になるものを改善し、働きやすい環境を作るためのチャンスになりますので、ストレスチェック制度は労働者にとってメリットの多い制度と言えるでしょう。
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