メンタルヘルスとは何か
メンタルヘルスは、直訳すると「心の健康状態」を意味する言葉です。メンタルヘルスの好不調を考える際は、単に「病気かどうか」だけで判断するのではなく、身体的・心理的に良好な状態かを考えることが大切です。
厚生労働省の調査によると、2010年度から3年連続で、精神障害の労災認定件数が過去最高を更新しています。これを受けて、2015年12月に労働安全衛生法が改正され、職場で年に1回のストレスチェックが義務付けられるなど、メンタルヘルスケアの重要性が高まっています。
メンタルの不調によって生じる代表的な精神疾患
心の健康が損なわれた状態で放置していると、重篤な精神疾患を引き起こす可能性があります。代表的な疾患が以下の5つです。
- うつ病
- パニック障害、不安障害
- 適応障害
- 各種依存症
- 睡眠障害
上記のような精神疾患は、継続的な医療を提供すべき5大疾病のひとつとして、厚生労働省に認定されています。その他には、「がん」や「脳卒中」「急性心筋梗塞」「糖尿病」があります。
厚生労働省の令和4年「労働安全衛生調査」によると、ビジネスパーソンの82%が仕事や職場でストレス・不安を感じているようです。心の不調や精神疾患については、気持ちの問題として片付けてしまうケースもありますが、がんや脳卒中などの病気と同様に、社会全体で対策していくべき課題といえるでしょう。
メンタルヘルスの不調を表すサイン
メンタルヘルスの不調は、いつでも誰にでも起こり得る問題です。しかし、どんな症状が心の不調の入口なのかわからず、無理に仕事を続けた結果、精神疾患などを発症する方も少なくありません。
メンタルの不調にできるだけ早く気づき、重篤な症状を引き起こさないためには、身体や心のサインを理解しておくことが大切です。日常生活や仕事における不調のサインには、以下のようなものがあります。
- 遅刻や欠勤が増える
- 簡単な作業でのミスが増える
- 不眠や食欲不振の症状がある
- お酒の量が増える
- イライラしていることが増えた
- 突然口数が減った
- 身だしなみが乱れている
- 落ち着きがなくなる
- 落ち込みやすくなる
心の不調には、上記以外にもさまざまなサインがあり、一概にはいえません。精神的な症状だけでなく、身体的な不調を訴える方もいます。自分では不調に気づいていない可能性もあるため、周囲の方の協力が欠かせません。自分自身はもちろん、周囲に上記のような症状が見られる方がいる場合は、すぐに対策を講じましょう。
メンタル不調時の症状は、大きく4つに分類できます。こちらでは、それぞれの特徴についてご紹介します。
感情や気分の障害
「落ち込みやすくなる」「寂しさや虚しさを感じる」などの症状は、「抑うつ気分」と呼ばれ、メンタル不調のもっとも代表的な症状です。似た症状に、新しい環境に慣れないことで生じる「5月病」がありますが、5月病は時間の経過で改善されます。
しかし、うつ病をはじめとしたメンタル不調は、時間が経っても解消されることはありません。「楽しい」や「うれしい」などの感情を抱くことができず、漠然とした不安を感じることもあります。
意欲障害
やる気の喪失や気力の減退などの症状は、「意欲障害」と呼ばれます。精力的にこなしていた仕事や、プライベートの趣味に興味を持てなくなった場合は、意欲障害を引き起こしている可能性があります。
思考障害
「アイデアが思い浮かばない」「集中が続かない」「決断できない」などの症状は、思考障害と呼ばれ、メンタル不調の症状のひとつです。心の不調を引き起こすと、簡単な作業でもミスが増えるのは、思考障害が原因とされています。
思考障害には2つのパターンがあり、思考が鈍くなる「思考抑制」と、マイナス思考になる「悲観的思考」です。なかでも、悲観的思考に支配されると、すべての物事を自責的に考えてしまい、会社を辞めるなどの具体的な行動に移す方もいます。
身体症状
メンタル不調は心理的な症状だけでなく、身体症状を引き起こすこともあります。具体的には、「不眠や食欲不振」「常に身体が気だるい」などの症状です。身体的な症状は気づきやすいため、精神科や心療内科ではなく、内科を受診する方もいます。
内科の処置や処方された薬で症状が改善しない場合は、メンタルの不調を疑いましょう。
メンタルヘルスケアの知識をつけるのにおすすめの資格試験
メンタルヘルスケアについてなんとなくイメージはわかったものの、より詳しい知識をつけて日常生活に活かしたい、という方には、メンタルヘルス・マネジメント®検定試験の取得をおすすめします。
ここでは、メンタルヘルス・マネジメント®検定試験の特徴や取得するメリット、コースの種類や合格基準についてお話します。
メンタルヘルス・マネジメント®検定試験とは?
メンタルヘルス・マネジメント®検定試験とは、職場におけるメンタルヘルス対策の基礎知識や対処法を学ぶ検定試験です。同試験には「I種(マスターコース)」「II種(ラインケアコース)」「III種(セルフケアコース)」といった3つのコースがあり、それぞれ学べる内容や対象が異なります。
I種…メンタルヘルスケア計画などを学びたい経営幹部向け
Ⅱ種…安全配慮義務の観点からラインケアを学びたい管理監督者(管理職)向け
Ⅲ種…セルフケアの基礎知識を学びたい一般社員向け
本試験は、職場のメンタルヘルス対策における「一次予防」に重きを置いています。職場でメンタルヘルス対策を行うことを目的とした管理職の場合、II種以上のコースで部下のメンタル不調の未然防止、健康増進を学ぶのがおすすめです。なお、メンタル不調の早期発見・対処にフォーカスした「二次予防」、医療機関による治療や職場復帰、再発防止策を図る「三次予防」も対応領域に含まれます。
日々の生活にメンタルヘルスケアを取り入れたいという方には、「Ⅲ種」がおすすめです。
メンタルヘルス・マネジメント®検定試験Ⅲ種(セルフケアコース)の出題内容は以下のように発表されています。
①メンタルヘルスケアの意義
②ストレスおよびメンタルヘルスに関する基礎知識
③セルフケアの重要性
④ストレスへの気づき方
⑤ストレスへの対処、軽減の方法
⑥社内外資源の活用引用:大阪商工会議所ホームページ https://www.mental-health.ne.jp/about/
基本的には、セルフケアの基礎を包括した内容です。配点は100点満点で、合格基準は70点以上となります。試験は原則、毎年3月と11月の年2回実施されます。下記に直近の試験の受験者数、合格者数、合格率をまとめます。いずれの試験回も合格率は高く、7~8割の方が合格しています。初めてメンタルヘルスに関する勉強をする、という方でも挑戦しやすい試験となっています。
メンタルヘルス・マネジメント®検定試験Ⅲ種の受験者数、実受験者数、合格者数、実受験者数に対する合格率は次の通りです。
回 | 実施日 | 実受験者(人) | 合格者数(人) | 合格率(%) |
---|---|---|---|---|
第27回 | 2019/11/3 | 5,248 | 3,501 | 66.7% |
第29回 | 2020/11/1 | 5,046 | 4,361 | 86.4% |
第30回 | 2021/3/21 | 5,051 | 4,135 | 81.9% |
第31回 | 2021/11/7 | 5,371 | 3,824 | 71.2% |
第32回 | 2022/3/20 | 4,819 | 3,121 | 64.4% |
第33回 | 2022/11/6 | 5,458 | 3,787 | 69.4% |
第34回 | 2023/3/19 | 5,035 | 3,995 | 79.3% |
第35回 | 2023/11/5 | 4,888 | 3,515 | 71.9% |
第36回 | 2024/3/17 | 4,648 | 3,353 | 72.1% |
第37回 | 2024/11/3 | 5,060 | 3,758 | 74.3% |
平均 | 4,200 | 3,227 | 76.8% |
メンタルヘルス・マネジメント®検定試験を取得するメリット
管理職の場合、部下のメンタルヘルス対策を深く理解できるメリットがあります。2000年以降、一般企業における従業員のメンタルヘルス対策が推進されるようになりました。一方で先述した通り、メンタルヘルス対策そのものを適切に理解している管理職は、少ない現状にあります。
メンタルヘルス・マネジメント®検定試験は、「知っているようで意外と知らないメンタルヘルス」に触れる、良いきっかけとなるでしょう。そして近年は、管理職にメンタルヘルス・マネジメントスキルを求める企業が増えています。キャリアアップを目指す上でも、メンタルヘルス対策の知識は有効に働きます。
仕事のどんな場面で役立つか
上記のようなメンタルヘルスケアに関する資格の取得は、仕事でも大いに役立ちます。メンタルヘルスについての専門知識を深めることで、自分自身はもちろん、同僚のメンタルの異変にも気づきやすくなります。早い段階で声をかけることができれば、長期療養などの事態へ発展するのを防ぐことができるでしょう。
また、有資格者として役職がつく可能性もあります。特定の産業保健スタッフについては、事業場の規模が一定以上の場合、設置が義務付けられています。そのため、有資格者は従業員数の多い企業で需要があるのです。現在より規模の大きい企業に転職する際にも役立つでしょう。
日常生活への活かし方
ストレス社会と呼ばれる現代では、日常生活でもメンタルヘルスケアが欠かせません。メンタルヘルスケアに関する資格を取得していれば、周囲の方の心のケアも行えるでしょう。
例えば、転職したばかりで仕事に不安を抱いている友人がいるとします。もしあなたが転職して成功を収めた経験があれば、友人に対してアドバイスをアレコレしたくなると思います。しかし、そういった不安を抱えた友人に必要なのが傾聴であるとわかっていれば、友人の話や悩みをじっくり聞いて、友人の不安を和らげることに貢献できるかもしれません。
例えば、職場や近所で何かあなたにとってショックな出来事があったとします。職場で厳しく叱責されてしまった、近所の人にあいさつをしたが無視されてしまった、等、ケースは様々あると思います。そこでストレスコーピングの知識を持っていて、ストレスをため込まず発散したりできたら、自分のこころを守ることができます。