まず、中小企業診断士のうち独立開業している人はどれくらいいるのでしょうか?
中小企業診断協会が、都道府県協会に所属する会員(中小企業診断士)を対象におこなったアンケート調査(令和3年5月発表)を参考にしてみましょう。
同調査で「中小企業診断士として独立している」と答えた方は47.8%、2〜10年以内に「独立したい」と回答した方は23.4%でした。
職業について問う別の質問では「プロコン経営(他資格兼業なし)※」と答えた方が28.5%で、「プロコン経営(他資格兼業あり)」の17.5%よりも多い結果となっています。
他の資格と組み合わせずに中小企業診断士の資格だけで独立するケースのほうが多いことがわかります。
※:「プロコン」とは「プロフェッショナルコンサルタント」の略。
【参考】中小企業診断協会「中小企業診断士活動状況アンケート調査」の結果(令和3年5月)
中小企業診断士の独立開業後の仕事内容にはさまざまなものがありますが、以下では5つの職種を紹介します。
1つずつ見ていきましょう。
公的業務とは、中小企業診断士が下記のような公的機関から委託されて行う業務です。
これらの公的機関では、民間企業から以下のような相談を受け付けています。
上記は一例であって、実際には企業ごとに多種多様な悩みがあります。経営者や事業担当の困り事を解決できる方法を一緒に考えるのが、中小企業診断士の役目です。
公的業務は、施設内で相談を受ける「窓口業務」と、依頼先に出向いてサポートを行う「専門家派遣」の2種類があります。専門家派遣の場合は、個別の相談のほかにセミナーや研修などの業務を行うこともあります。
独立から間もない中小企業診断士にとっては、安定的な収入の確保や実績作りの機会として活用しやすいといえます。
「民間業務」とは、中小企業診断士が中小企業と直接契約しておこなうコンサルティング業務のことです。
公的業務と区別するために民間業務と呼ばれ、他には「民民(みんみん)で契約する」と言われることもあります。
依頼内容は企業の業態によりますが、マーケティングや会計、事業計画の相談など、サポートの範囲は多岐にわたります。
公的業務とは異なり、案件ごとに企業と契約を結ぶ必要があります。そのため営業活動をしたり、クラウドソーシングサイトに登録したりして仕事を獲得しなくてはなりません。
本業でコンサルティングの経験がない人の場合は、中小企業診断士として独立した直後は提示できる実績が少ないため、仕事の獲得が難しいケースがあるでしょう。
企業や団体向けに研修・セミナーを請け負う仕事もあります。ビジネスの専門家として登壇し、依頼に沿った内容を話すことで報酬を得ることができます。
研修・セミナーのテーマはクライアントと相談して決めることが多いです。
研修やセミナーの講師になると知名度があがり、それをきっかけにコンサルティングの仕事につながる可能性もあります。
ただし、人に教えるためには中小企業診断士としての知識を常にアップデートしておくほか、受講者にわかりやすく伝えるスキルも必要です。
中小企業診断士の受験対策スクールで講師として活躍する人もいます。
資格スクール講師の仕事には下記のような内容があります。
これらの業務に就くには、中小企業診断士の資格保有以外に、基本的なパソコンスキルが必要です。
また動画講座を行うこともあるので、わかりやすく伝えるのが得意な人、人前でも緊張せずに話せる人に向いていると言えます。
オウンドメディアへのコラム寄稿や書籍出版など、経営の知識を生かした文章は多くの場所で求められています。
このような「執筆」に関わる内容も、中小企業診断士の業務のひとつです。
また自分でブログを立ち上げて、中小企業診断士ならではの経営ノウハウを発信すると、アクセス数が伸びれば広告収入を得ることができます。
副次的な効果として、中小企業からのコンサルティングに関する問い合わせや、イベント登壇・記事執筆などのオファーも期待できます。
では、独立した中小企業診断士の年収はどのくらいなのでしょうか。
記事冒頭で紹介した中小企業診断士へのアンケート調査の結果を、再び見てみましょう。
この調査の収入・報酬に関する質問は、独立開業している人だけを対象にしたものではありません。
「コンサルティング業務の合計日数が100日以上」の人を対象に集計したもので、独立開業している人以外も含まれるとみられますが、参考情報として見てみましょう。
コンサルティング業務の年間売上(または収入) | 構成比 |
300万円以内 | 14.3% |
301~400万円 | 8.8% |
401~500万円 | 10.0% |
501~800万円 | 21.4% |
801~1,000万円 | 11.4% |
1,001~1,500万円 | 15.4% |
1,501~2,000万円 | 6.7% |
2,001~2,500万円 | 4.3% |
2,501~3,000万円 | 2.8% |
3,001万円以上 | 4.8% |
年間売上または収入として回答者がもっとも多かったのは501~800万円(21.4%)、次に1,001~1,500万円(15.4%)でした。
年間売上が1,001万円以上と答えた方は34.0%となり、3人に1人の割合です。
次に、コンサル料に関する調査結果を紹介します。
同調査では「現在のコンサルティング報酬(平均)」について、次の2パターンに分けて集計しています。
業務内容 | 「公的業務がかなり高い」と回答した方 | 「民間業務がかなり高い」と回答した方 |
診断業務 | 3万7,700円/日 | 9万8,300円/日 |
経営支援業務 | 3万7,500円/日 | 11万2,500円/日 |
研究調査業務 | 5万3,600円/日 | 8万9,700円/日 |
講演・教育訓練業務 | 4万8,100円/日 | 11万9,000円/日 |
執筆業務 | 7,800円/400文字 | 6,400円/400文字 |
その他 | 2万9,500円/日 | 6万1,000円/日 |
執筆業務を除き、「民間業務がかなり高い」と回答した人は「公的業務がかなり高い」と回答した人よりも、コンサルティング料がかなり高額であることがわかります。
ネットで「中小企業診断士」と検索すると「なくなる」「食えない」というキーワードが一緒に出てくることがあります。
中小企業診断士について、弁護士や公認会計士のような「独占業務(その資格の保有者にしかできない業務)」がないことを理由に「せっかく資格を取っても食えない」とする意見があるようです。
しかし、独立して成功している診断士は数多くいますし、独占業務がある士業であっても同業者や類似の業務を扱う事業者との競争に負けて「食えない」事態に陥ることは十分あり得ます。
つまり、「食える」「食えない」を決めるのは独占業務の有無ではなく、自分自身が資格をうまく活用できるかどうかなのです。
ではどうすれば独立開業で成功できるのか、次の項目で見ていきましょう。
中小企業診断士が独立開業を成功させる5つのポイントは以下のとおりです。
(1)実務経験を積んでから独立する
(2)差別化できる「強み」を作る
(3)人的ネットワークを構築する
(4)安定収入となる顧問契約の獲得を目指す
(5)独立開業直後を乗り切る資金を用意しておく
1つずつ見ていきましょう。
独立後、自分の会社をスムーズに軌道に乗せたいなら、コンサルティング業務の実務経験をなるべく多く積んでから独立するのがいいでしょう。
コンサル経験がなく資格取得の直後に独立してしまうと、クライアントに適切な支援ができず顧客の期待に応えられなかったり、集客で苦戦したりする可能性があります。
職種によってアドバイスの内容も変わるので、さまざまな企業で経営コンサルティングの実務経験を積んでから独立できれば理想的です。
本業でコンサルティング業務を経験できない方は、副業やプロボノ(ボランティア活動)で経験を積んでいけます。
経営コンサルティングサービスを提供する企業・個人事業主などは数多くいます。
独立開業後に「選ばれる中小企業診断士」になるために、差別化できる「強み」を作っておきましょう。
中小企業診断士資格に、自分の得意分野や他の資格を組み合わせると、活躍の幅を広げ、差別化に繋がるでしょう。
たとえば、営業支援が強みの方は、中小企業診断士の資格を組み合わせて、営業支援やマーケティングのコンサルタントとして活躍できます。
また、人事労務の専門知識を有する社労士や、会計や税務に詳しい公認会計士や税理士の資格を取得して、ダブルライセンスで差別化するという方法もあります。
独立開業後の案件獲得については、人的ネットワークの構築も重要です。
前出の中小企業診断士へのアンケート調査で「コンサルティング業務の依頼を受けたきっかけ」を尋ねた質問を見てみると、回答で上位を占めたのは、このような項目でした。
この結果から、仕事の獲得には人的ネットワークが大きくかかわっていることがわかります。
日頃から関係機関や他の診断士との接点を積極的に持つようにしておくといいでしょう。
独立開業後に売上に苦戦しないためには、安定収入となる「顧問契約」の獲得が不可欠です。
前出の中小企業診断士へのアンケート調査から、顧問契約をしている中小企業診断士のうち、民間業務の割合がかなり高い人のデータを見てみましょう。
顧問先の数 | 平均8.4社 |
顧問料の月額平均 | 平均16万円程度 |
仮に平均値と同等の案件を獲得できた場合、ひと月あたりの顧問料は8.4社×16万円=134.4万円となり、
この金額が安定的に入ってくるなら年収全体へのインパクトは小さくないと考えられます。
もちろん、独立当初から上記のようなスタイルを築くことはできませんが、顧問契約の重要性は意識しておきたいところです。
独立開業直後を乗り切る資金を用意しておくことも、大切な準備のひとつです。
中小企業診断士の仕事は「アドバイス」や「サポート」といった目に見えないものなので、クライアントの成果もすぐに実感しにくい場合があります。
そのため、結果が出る前に打ち切りになってしまったり、次の案件に繋がりにくかったりするケースもあるでしょう。
中小企業診断士はコツコツと実績を積み重ねていくことで、厚い信頼を得られるようになってきます。
事業が軌道に乗るまでにはある程度の時間がかかることを想定し、予備資金を用意しておきましょう。
先ほど、おすすめのダブルライセンスとして「社労士」「公認会計士」「税理士」を紹介しましたが、これらは非常に難易度の高い資格です。
中小企業診断士の受験勉強と並行して取得を目指すことは現実的とは言えません。
しかし、独立後の強み作りに役立ち、かつ中小企業診断士の受験と並行して取得しやすい資格もあります。
各資格について解説します。
日商簿記検定は、中小企業診断士の科目「財務・会計」と非常に関係が深い資格です。
簿記はビジネスの基礎になるものなので、ぜひ取得しておきましょう。
日商簿記検定の3級、2級を取得していれば、中小企業診断士の科目「財務・会計」が理解しやすくなります。
ビジネス実務法務検定は、中小企業診断士の科目「経営法務」と関係が深い資格です。
行政書士や司法書士に比べて取得のハードルが低いので、チャレンジしやすいです。
ビジネス実務法務検定は営業・マーケティング・人事など、さまざまな部署の人におすすめできます。
販売士は中小企業診断士の科目「運営管理」のなかで、店舗・販売管理と関係が深い資格です。
販売士は、販売やマーケティングに強い中小企業診断士を目指す人におすすめできる資格です。
中小企業診断士の科目「経営情報システム」に関連する資格には「情報処理技術者」があります。
この資格を取得していると、中小企業診断士の資格試験の際に「経営情報システム」の科目が免除になります。
最後に、中小企業診断士のよくある質問に回答していきます。
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自分でビジネスを行う際には、経営や経理、営業など多角的な知識が必要です。
どのような職種の仕事をする場合でも、基礎的なビジネスの知識がなければ成功することは難しいでしょう。
中小企業診断士の資格は起業・独立に役立つ内容が含まれているので、いずれ何かのビジネスをはじめたいと考えている方におすすめできる資格です。
今回は、中小企業診断士の独立開業について紹介してきました。
中小企業診断士として独立すると、顧客の悩みを解決できるやりがい、知識や見聞が広がる喜び、他の診断士や経営者との新しい出会いなどが待っています。地域産業の活性化に携わるなど、自分が興味のあるテーマに力を注ぐことも叶うでしょう。
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監修 市岡 久典
中小企業診断士 |
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