まずトレンドとして注目したいのは、IT系資格と中小企業診断士のダブルライセンスです。
IT技術の進歩やDX(デジタルトランスフォーメーション)を背景に、IT人材のニーズが急速に高まっています。
ITの専門知識を備えて経営のアドバイスができる人材は貴重であり、将来性のある分野で活躍できるため仕事の安定ややりがいにつながりやすいでしょう。
高度なIT系資格は、大きく分けてマネジメント系とエンジニア系があります。
中小企業診断士とのダブルライセンスに的しているのはマネジメント系で、具体的にはITストラテジストや情報処理安全確保支援士といった資格が有力です。
▼ITストラテジスト
ITストラテジストは、ITを活用して企業の経営課題を解決に導く人材で、最も中心的な役割は、企業の経営戦略の実現に必要なIT戦略の策定です。
経営陣や現場にヒアリングを行うなどして企業の課題を洗い出し、業務効率化やコスト削減につながる施策を検討します。
▼情報処理安全確保支援士
情報処理安全確保支援士は、企業におけるサイバーセキュリティ対策を主導する役割を担う人材です。
情報化が進むとともにサイバー攻撃のリスクが増大している現代では、あらゆる業界で活躍が期待されています。
これらの高度なIT系資格を取得するには、より入門的な資格からステップアップしていくとスムーズです。
ITパスポート
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情報セキュリティマネジメント/基本情報技術者
↓
応用情報技術者
↓
ITストラテジスト/情報処理安全確保支援士
これまでITに関する知識や業務経験がない人も、ITパスポートや情報セキュリティマネジメントの資格取得からスタートしていけば、「IT系中小企業診断士」という強みを作っていくことができます。
社労士(社会保険労務士)は、その名のとおり社会保険と労務のスペシャリストであり、企業の人事労務管理をサポートする専門職です。
国家資格の1つで、労働社会保険の手続きの代行など社労士にしかできない独占業務があります。
近年は働き方改革を背景に、労務管理のコンサルティング業務のニーズも高まっています。
就職・転職や組織内のキャリアアップを目指す人だけでなく、独立開業を目指す人にも人気の資格です。
中小企業診断士と社労士の共通点は、主な顧客が中小企業であることです。
ダブルライセンスを取得すれば、中小企業診断士として経営コンサルティングを行うと同時に社会保険や労務管理のサポートも提供できます。
業務の幅を広げたり、「労務管理に詳しい中小企業診断士」といった強みを持てたりすることで、顧客に提供できる価値が高まることがメリットです。
社労士の働き方は大きく分けて2つあり、社労士事務所に雇用されて働く「勤務社労士」と、独立開業している「開業社労士」です。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」をもとに推計すると、勤務社労士の平均年収は約460万円です。
一方、開業社労士は人によってバラつきが大きいのですが、多くの企業と顧問契約を結ぶなど安定した事務所経営ができれば年収1,000万円を超えるケースもあります。
社労士試験の合格率は6〜7%程度です。
また、社労士試験合格のために必要な勉強時間の目安は500〜1,000時間程度と言われていて、1年で合格を目指すのであれば1日2〜3時間ほどの勉強時間を確保する必要があります。
中小企業診断士と比較すると、どちらも働きながら取得できる国家資格としては最難関レベルで、取得の難易度はほぼ同じレベルと言えるでしょう。
ただし、社労士試験には科目合格制度がないため、もし不合格になったら次も全科目を受験し直す必要があります。
社労士試験では、労働や社会保険に関する法律の知識が問われます。
中小企業診断士の試験と直接的に共通している科目はありません。
社労士試験は、公務員などで所定の要件を満たす実務経験がある人には、一部科目を免除する制度を設けています。
中小企業診断士資格の保有者に関する免除制度は特にありません。
税理士は税金に関するスペシャリストで、税務代理、税務書類作成、税務相談を独占業務とする国家資格です。
また、税に関することだけでなく会計業務、会計参与、経営コンサルティングも税理士の守備範囲であり、中小企業の経営者にとって最も身近な相談相手の1人と言えます。
中小企業診断士と税理士は、いずれも中小企業が顧客となるケースが多いです。
そして、経営コンサルティングを依頼する余裕がない中小企業は、経営のさまざまな課題について顧問税理士にアドバイスを求めることが多いです。
ダブルライセンスを取得すれば、経営にも会計・税務にも詳しい人材として、経営者のニーズをワンストップで満たすサービスを提供できます。
税理士の働き方には、税理士事務所などに雇用されて働く「所属税理士(以前の名称は補助税理士)」と、独立開業の「開業税理士」、そして税理士法人において一般企業における役員に相当するポジションで働く「社員税理士」があります。
厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」をもとに推計すると、所属税理士の平均年収は約620万円です。
また、日本税理士会連合会の「第6回税理士実態調査報告書」によると、税理士の平均年収(総所得/給与収入)については下記のような調査結果が示されています。
開業税理士や社員税理士になると、所属税理士よりも高い収入を目指しやすいと言えます。
税理士試験は科目合格制となっていて、会計2科目+税法3科目の計5科目に合格すれば試験合格(官報合格)です。
科目別の合格率は10~20%程度で推移しており、難易度の高い試験といえます。
令和4年度の科目別合格率は、もっとも低いものは11.4%(消費税法)、もっとも高いものは23.0%(簿記論)でした。
税理士試験の合格に必要な勉強時間は、科目の組み合わせによって異なります。
まず、必須科目(会計2科目)と選択必須科目(税法1科目)だけで1,500時間がかかります。
さらに税法で2科目を勉強する必要があり、5科目合格を達成するには早い人で2年、一般的には3~5年が目安です。
一発合格(ストレート合格)の難易度は中小企業診断士よりもはるかに高いと言えます。
税理士の資格保有者や税理士試験合格者は、中小企業診断士1次試験の財務・会計で科目免除を受けることができます。
ただし、得意科目であれば免除せずに受験したほうが高得点を獲得できる可能性もあります。
一方、中小企業診断士資格は、税理士試験の免除制度の対象ではありません。
公認会計士は会計・監査のスペシャリストです。
会計に携わる資格にはいくつかありますが、その中でも最高峰に位置付けられ、独占業務(財務諸表監査)がある国家資格です。
中小企業診断士として経営コンサルティングを行うには、会計に関する知識も欠かせません。
公認会計士とのダブルライセンスで、会計に強く、専門的な知識を有していることを顧客に強くアピールすることができます。
一方、公認会計士や税理士の中には、経営コンサルティングにおいて壁にぶつかる人もいます。
数字を見て「コスト削減が必要だ」といった判断はできるものの、どのような施策を実施すればいいのか具体的なアドバイスができないというものです。
この壁を乗り越えるために、中小企業診断士の資格を取得するケースも多いようです。
公認会計士になったばかりの人は、監査法人に勤務するケースが多いです。
雇用される公認会計士の年収については、厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」から推計できます(同調査では公認会計士と税理士が1つの職種としてまとめられています)。
令和3年(2021年)のデータによると、雇用されて働く公認会計士の平均年収は約620万円となっています。
公認会計士の合格率は10%程度です。
合格率の数字だけを見ると中小企業診断士(合格率4〜5%)のほうが難しそうな印象を受けるかもしれませんが、公認会計士は、医師や弁護士と並んで難易度が高い三大国家資格として知られています。
合格に必要な勉強時間は3,000〜4,000時間と言われ、中小企業診断士(1,000時間程度)と比べて大きな差があります。
公認会計士の資格保有者や公認会計士試験合格者などは、中小企業診断士試験の財務・会計で科目免除を受けることができます。
また、公認会計士試験または旧公認会計士試験第2次試験において経済学を受験して合格した人は、中小企業診断士試験の経済学・経済政策の科目免除対象者です。
2つの科目が免除されれば勉強時間においてかなり有利になると言えます。
ただし、得意科目であれば免除せずに受験したほうが高得点を獲得できる可能性もあります。
一方、中小企業診断士資格は、公認会計士試験の免除制度の対象ではありません。
行政書士は、官公署に提出するさまざまな書類を代行して作成できる国家資格で、「身近な街の法律家」と呼ばれることもあります。
独占業務があり、具体的には官公署に提出する書類および事実証明・権利義務に関する書類の作成代理です。
飲食店営業許可申請書などの許認可申請に関する書類や、内容証明などの権利義務または事実証明に関する書類の作成代行を担います。
行政書士と中小企業診断士は、いずれも中小企業を顧客とします。
たとえば行政書士として創業時に必要な書類作成・提出をサポートした企業に、経営が軌道に乗るように中小企業診断士として経営コンサルティングを行うなど、企業側のさまざまなニーズを満たすサービスをワンストップで提供できます。
行政書士の平均年収は500〜600万円と言われていますが、統計調査をされたことがないため正確な金額はわかりません。
独立開業する、副業で業務を行う、法律事務所などで雇用されて働くなどさまざまな働き方があり、それによっても年収は異なります。
行政書士試験の合格率は10%前後です。
決して簡単な試験であるとは言えませんが、社労士など他の法律系国家資格と比較するとややハードルが低いと言えます。
行政書士試験の合格を足がかりに、より難易度の高い資格にも挑戦してみる、という人も多いです。
また、合格するために必要な勉強時間は500〜1,000時間程度と言われていて、中小企業診断士(1,000時間程度)よりやや少ないか同程度です。
行政書士試験では下記のような知識が問われます。
中小企業診断士の試験科目は経済学や財務、会計などが中心です。そのため、ほぼ重複するものはありません。
また、それぞれの科目免除の要件にもなっていません。
簿記とは、会社のお金の動きを決められた一定のルールに従って記帳することです。
簿記検定は複数あり、もっとも知名度が高いのは日商簿記検定試験(日商簿記)で、初級・3級・2級・1級に分かれています。
簿記により会社の経営状況を把握できるため、経理職はもちろんのこと、営業職などにおいても必須のビジネススキルであるととらえている企業も多いです。
前述のとおり、簿記によって会社の経営状況を把握できるため、経営コンサルティングを行う中小企業診断士とは非常に相性がいい資格です。
中小企業診断士試験を受ける前に簿記2級を取得しておけば、「財務・会計」の勉強をスムーズに進めることができます。
簿記2級の合格率は15~30%程度となっています。
また、簿記2級合格までに必要な勉強時間は、講座を利用する場合で100~200時間程度、独学の場合はそれよりも少し長い150~250時間程度とされています。
決して簡単な資格ではありませんが、合格率、勉強時間の両面で比較すると、中小企業診断士よりも取得のハードルは大幅に低いと言えます。
簿記2級では「商業簿記」と「工業簿記」が出題されます。
商業簿記が「外部から仕入れた商品を販売する企業」を対象とするのに対し、工業簿記では「企業内部で製造した製品を販売する企業」を対象としています。
原価計算などが含まれるため、より専門性が高い内容です。
中小企業診断士試験では、簿記資格保有者に関する免除制度は特にありませんが、前述のとおり簿記の知識が受験に直接役立ちます。
弁理士は、特許、実用新案、意匠、商標などの「知的財産」のスペシャリストとして、主に特許出願の書類作成・申請代理などを行う国家資格です。
特許庁に対して知的財産の権利の申請を行うことは、弁理士の独占業務と定められています。
申請に先立つ先行調査や申請が拒絶された後のアフターフォローも請け負います。
中小企業診断士と弁理士は、いずれも顧客が中小企業です。
2つの資格を取得すれば、弁理士として特許出願をサポートするだけでなく、取得できた特許権を事業の成長や企業経営にどのように生かすのかを中小企業診断士としてコンサルティングできます。
技術の進歩やグローバル化の流れにおいて、知的財産の活用はますます重要性を増しています。
知的財産に詳しいコンサルティングができることは、同業者との差別化や将来性の強みとなります。
弁理士の年収は、平均すると700〜760万円と言われています。
弁理士資格を持って大手企業に就職したり、独立開業して多くの仕事を獲得できれば年収1,000万円以上を目指すことも十分に可能です。
一方、働き方によっては年収300万円前後というケースもあります。
弁理士試験の合格率は6〜10%程度となっています。
合格率の数字だけを見ると中小企業診断士(合格率4〜5%)のほうが難しそうな印象を受けるかもしれませんが、弁理士は「理系の弁護士」と呼ばれるほど難易度が高いです。
合格に必要な勉強時間は3,000時間程度と言われ、中小企業診断士(1,000時間程度)と比べて大きな差があります。
弁理士試験の出題科目は、特許・実用新案法、意匠法、商標法などとなっていて、中小企業診断士試験と直接的に重複するものはありません。
また、それぞれの科目免除の要件にもなっていません。
今回は中小企業診断士のダブルライセンスについて解説していました。ポイントをおさらいします。
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監修 市岡 久典
中小企業診断士 |
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